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試乗・解説






■試乗・文・撮影:毛野ブースカ ■協力:スズキ https://www1.suzuki.co.jp/motor/

 スズキのVストロームシリーズは「怪鳥」の異名を持つ、デビュー当時世界最大の779㏄の油冷4ストロークSOHC4バルブ単気筒エンジンを搭載した「DR-BIG」(DR750S/DR800S)のスタイルを受け継ぐアドベンチャーモデルとして人気を博している。2003年に発売されたVストローム650を皮切りに、2017年モデルから「DR-BIG」を意識した、「怪鳥」の由来でもあるクチバシ状のフロントカウルにデザインを一新。その後ラインアップを続々と増やし、長兄であるVストローム1050/1050DEを筆頭に、今回試乗した末っ子のVストローム250SXまで7人兄弟となっている。

 普通二輪免許で乗れるVストロームシリーズは、このVストローム250SXとVストローム250がある。名前だけを聞くと、Vストローム250SXはVストローム250のバリエーションかと多くの方が思われるだろうが、名前に「Vストローム」が付くだけで実際には全く別物だ。私は当Webで2019年にVストローム250を試乗しているので、今回は両車のスペック上の違いと、Vストローム250SXで一般道から山道、高速道路まで実走して感じたことについて書いていきたい。Vストローム250SXとVストローム250のどちらを購入しようか迷っている方に参考になれば幸いだ。

#V-STROM 250 SX
名車DR-BIGのDNAを受け継ぐクチバシ状のシャープなデザインのフロントカウルがVストロームシリーズの証。アドベンチャーモデルらしく防風性と視認性を両立したウインドスクリーンが標準装備されている。

 Vストローム250SXは2023年から発売開始され、前回試乗したジクサー150と同じ製造国がインドであり、現地法人のスズキモーターサイクルインディア社が製造して日本に輸入されているインド軍団のひとつだ。現地名は「V-STROM SX」で、現地価格は約21万ルピー(日本円で約38万円)となっている。ジクサー150より8万円ほど高い。インドの平均月収約3万2,000ルビー(約5.7万円)、平均年収38万4,000ルビー(約68万円)であることを考えると、ジクサー150同様、決して安い買い物ではない。同じインド軍団のネイキッドタイプのジクサー250をベースに、Vストロームらしい外装に加えてホイールベースを延長することでアドベンチャースタイルに仕立てられている。Vストロームというシリーズ名称に加えて「SX」という名称は「スポーツクロスオーバー」の略称だが、スズキのオフロードバイクの名車として知られているSX125R/200Rを彷彿とさせるものがあり、ベテランライダーにとっても馴染みやすい。

#V-STROM 250 SX
試乗車のボディカラーは「スズキイエロー」と呼ばれるワークスマシンを思わせるチャンピオンイエロー。このイエローはVストロームシリーズの中でもオフロード寄りのモデルに採用されており、ライダーの気分を高めてくれる。

 一方、2017年に登場したVストローム250は製造国が中国(常州豪爵鈴木摩托車有限公司)で、現地名はDL250-C、現地価格は約2万3000元(約47万円)となっている。製造国の違いはもとより、両車の最大の違いはエンジンだろう。Vストローム250SXは冷却方式にスズキ伝統の油冷方式を採用した単気筒SOHC4バルブ249㏄エンジン(最高出力19kW(26PS)/9,300rpm、最大トルク22N・m(2.2kgf・m)/7,300rpm)、Vストローム250は水冷直列2気筒SOHC2バルブ248㏄エンジン(最高出力18kW(24PS)/8,000rpm、最大トルク22N・m(2.2kgf・m)/6,500rpm)を採用している。両車が別物であることはエンジン形式の違いでわかるだろう。個人的に気になる違いが車両重量と燃料タンク容量。Vストローム250SXは164㎏/12リットル、Vストローム250は191㎏/17リットルとなっている。変速機形式はどちらも常時かみ合い式6段リターンとなっている。これらの違いが最終的には走行性能や扱いやすさに現れるわけだが、それは実走してから判断しよう。

 あらためてVストローム250SXの実車を見ると、クチバシ状のフロントカウルが特徴のDR-BIGやVストロームシリーズのデザインコンセプトは末っ子にもしっかり継承されている。見た目からもVストロームシリーズであることが伝わってくる。個人的にはかなり好きなデザインだ。今回の試乗したボディカラーはスズキを代表する色であるチャンピオンイエローNo.2。2024年11月21日にカラーチェンジが施され、チャンピオンイエローに加えてソノマレッドメタリック、グラススパークルブラックがラインアップされている。ホイールベースが延長されているせいか車体が長く、ボディサイズが大きく感じる。スペック上では全長2180mm、Vストローム250の2150mmより3cm長く、ジクサー250の2010mmより17cm長い。

#EICMA2024
250㏄には見えないボリューム感のあるボディの割にはエンジンはかなりコンパクト。ボディの中にすっぽりと収まっている。ジクサー150と同様、下回りはスッキリしており、インド軍団は総じてスリムな印象を受ける。
#EICMA2024
Vストロームシリーズを象徴するクチバシ状のフロントカウル。側面はプロテクターのようなシュラウドにエンジンが包み込まれているようなデザインを取り入れている。

 乗車する前に押し引きしてみた印象は「軽い!」。ジクサー150や、以前私が所有していたジェベル200やジェベル250XCよりも重いが、ボディサイズからすると軽量だ。街中や旅先での押し引きや、転倒した際に起こさなければならないシチュエーションでもそれほど苦にはならないはずだ。先にも述べた通り、Vストローム250SXが164㎏に対して、Vストローム250は191㎏と27㎏も差がある。以前Vストローム250に試乗した際、私の愛車であるホンダ400X(194㎏)と大差ないことから、250㏄としては正直「重い」印象を受けた。Vストローム250SXと比較すると、その印象がさらに強くなる。

 いよいよ走行しようとシートに跨ってみたところつま先立ちになってしまい、思わず「おっ!」と声を上げてしまった。Vストローム250もホンダ400Xでもそんなことはなかったので焦った。スペック表でシート高を確認すると835mmと、Vストローム250の800mmより3.5cmも高い。835mmというシート高はVストローム650 ABSと同じ。もちろんベース車両のジクサー250の800mmよりも高い。事前に把握していれば焦ることはなかったが、気になる方は実車に跨ってみることをお薦めする。オプションで着座位置が約25mm低くなる純正ローシートが用意されているので、そちらに交換してみるのもありだろう。Vストローム250同様、リアキャリアが標準装備されており、広くフラットなので荷物は積みやすそうだ。純正トップケースは用意されているもののVストローム250と異なり純正サイドケースが用意されていないので、積載量を増やしたい場合は工夫が必要だ。

#V-STROM 250 SX

 シート高のおかげでライディングポジションは高く、見晴らしは良好。アップライトなポジションはアドベンチャーモデルやクロスオーバーモデルらしく長距離走行が楽そうな印象だ。ジクサー150と同じセパレートタイプのシートはクッション性があって座り心地は良好だが、オフロードバイクに比べると座面は幅広。どっしり座って乗る感じで、長距離走行でもお尻が痛くなりにくそうな予感がした。オフロードバイクやクロスオーバーモデルに慣れた私だとハンドルの高さや幅はちょうどいい。フル液晶ディスプレイを用いたインストルメントパネルは視認性が高く、必要にして充分な情報量を提供してくれる。ハンドルグリップ付近の操作性は特に変わった印象はないが、個人的にはナックルカバーが標準装備されているのが嬉しい。

 エンジンは先ほど述べたとおり油冷方式の単気筒SOHC4バルブ249㏄エンジンを採用しており、車体の大きさと相まってかなりコンパクトにまとまっている。同じ油冷方式だったジェベル250XCよりもコンパクトな印象を受ける。エンジン前方左側にオイルクーラーと電動冷却ファンも装備されており渋滞時や長距離走行に対応。燃料消費率は定地燃費値で44.5㎞/L、WMTCモードで34.5㎞/Lとなっている(公称値)。Vストローム250はそれぞれ38.9㎞/L、32.1㎞/Lとなっており、2019年に実走した際の数値は約37㎞/Lだった。ジクサー150が驚きの好燃費を叩き出しただけに、インド軍団のVストローム250SXがどれだけの燃費になるのか非常に楽しみだ。

 試乗車を受け取って一般道を走り始めと、ジクサー150より少し音量が高めな乾いたエンジン音と排気音が耳に伝わってくる。車両重量の軽さと相まってスタートの出だしはよく、都内の一般道では3~4速で充分な印象。アイポイントが高いので気持ちよく乗れる。試乗車を受け取った日はなぜか渋滞している箇所が多く、5速まで引っ張れる区間がほとんどなかったが低速域でも扱いやすかった。サスペンションは当初は硬めかと思ったが、段差でポンポン跳ねるようなことはなく、うまくいなしている感じだった。

 第一印象としては好結果だったがVストローム250SX。Vストローム250SXの実力を確認すべくロングツーリングに出かけてみることにした。
(試乗・文・撮影:毛野ブースカ)

#EICMA2024
フロントカウルにジャストフィットの八角形のヘッドランプは3列に並んだ8個のLEDが採用されており、夜間や雨天時の視認性が高い。
#EICMA2024
フロント、リアともに軽量10本スポークのアルミ製キャストホイールを採用。セミブロック調パターンのフロントタイヤのサイズは100/90-19M/C 57S。120mmのストロークを持つ正立タイプのフロントフォーク、ABSを標準装備。

#EICMA2024
スリムなフロントカウルに必要最小限の装備にとどめられたハンドル/グリップ周り。スッキリした印象でスマホホルダーなどが追加しやすい。
#EICMA2024
インストルメントパネルは視認性に優れるフル液晶ディスプレイを採用。スピードメーター、タコメーターに加えてギアポジションインジケーター、時計、燃料計、平均燃費計、瞬間燃費計などが表示される。

#EICMA2024
インストルメントパネル左側にはUSBソケットを標準装備。ツーリングでスマホのナビ機能を使う機会が多いので、こうした装備はありがたい。
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個人的に嬉しいのはナックルカバーが標準装備されていること。快適性を高めるだけではなく転倒時のレバーの損傷を防いでくれる。

#EICMA2024
タンクは樹脂製のカバーで覆われており、タンクバッグなどを装着する際は工夫が必要。燃料タンクキャップは開閉式。
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このモデルを象徴する油冷方式を採用した単気筒SOHC4バルブ249㏄エンジン。同じ油冷・単気筒249㏄エンジンのジェベル250XCはDOHCなので、シリンダーヘッド周りが小さい。エンジン下部前方にはアンダーカウルが装備されている。

#EICMA2024
油冷エンジンらしくエンジン左側前方には電動冷却ファンを装備したオイルクーラーが標準装備されている。
#EICMA2024
ジクサー150と共通のフォルムを持つショート&コンパクトなブラックのデュアルテールエンドカバーを採用したマフラーは心地良い排気音を奏でる。

#EICMA2024
リアタイヤにも10本スポークのアルミ製キャストホイールを採用。サイズは140/70-17M/C66S。リアサスペンションは7段階のプリロード調整可能なスイングアーム式を採用。
#EICMA2024
セパレートタイプのシートは座面が広く安定感のある座り心地が得られる。シート前方は絞られているもののガッツリと跨る印象なので、それが原因でシート高が高めで、足着きに影響を与えていると思われる。タンデムシートが広いのは2名乗車が当たり前のインドのバイク文化が影響しているのだろう。

#EICMA2024
天面が大きくタンデムシートからフラットになっているリアキャリア。下面に荷掛けフックが4つ備わっているものの、リアに向かって絞り込まれた形状なので荷物を載せる時は工夫が必要。
#EICMA2024
今回宿泊を伴うツーリングだったので防水バッグをバイク用のストレッチコードで積載した。当初はツーリング用として販売されているシートバッグを積載するつもりだったが、固定用ストラップで固定できなかったので断念した。頻繁に荷物を載せるのなら純正トップケースがお薦めだ。

#EICMA2024
Vストローム250と同様、スリムなリア周りに合わせたリアコンビネーションランプにもLEDが採用されている。
#EICMA2024
身長168cm、体重78㎏の筆者が跨ってみたところ。シート高が835mmで、試乗車のサスペンションがやや硬めだったこともありつま先立ちとなる。想像よりもシートが高い印象を受けた。このモデルが気になる方は一度跨ってみることをお薦めする。

■V-STROM250 ABS 主要諸元
■型式:8BK-EL11L ■エンジン種類:油冷4ストローク単気筒SOHC 4バルブ■総排気量:249cm3 ■ボア× ストローク:76.0× 54.9mm ■圧縮比:10.7 ■最高出力:19kW(25PS)/9,300rpm ■最大トルク:22N・m(2.2 kgf・m)/7,300 rpm ■全長×全幅× 全高:2,180×880×1,355mm ■軸距離:1,440mm ■シート高:835mm ■車両重量:164kg ■燃料タンク容量:12L ■変速機:6段リターン■タイヤ(前・後):100/90-19M/C57S・140/70-17M/C66S ■ブレーキ(前・後):油圧式シングルディスク[ABS]・油圧式シングルディスク[ABS] ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:チャンピオンイエローNo.2、ソノマレッドメタリック、グラススパークルブラック ■メーカー希望小売価格(消費税込み):591,800円

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[『2023年 V-STROM250SX試乗インプレッション記事』へ]

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2024/12/13掲載