V-STROM乗りにとってはホームカミングイベントともいえるV-STROMミーティング。昨年行われた同イベントには1000台を越すVスト乗りが浜松のスズキ本社へと足を運んだ。そこでは最新のVストシリーズの3台、1050DE、800DE、そしてここに紹介する250SXがアンベールされた。スポーツクロスオーバーを標榜するインド生産のこの一台、ジクサー系と同様の車体から造られたアドベンチャーツアラーとあって、注目をぐっと集めたのだ。前出2モデルに続き、2023年に投入される250SXがついに実走テストを許された。で、どうだったかをお伝えしたい。
群馬県の嬬恋村を舞台に開催されたV-STROM250SXのメディア試乗会。周辺には嬬恋パノラマラインやその先には標高2000メートルに位置する湯ノ丸スキー場を抜ける地蔵峠、反対に足を伸ばせば野反湖からの万沢林道や、志賀高原に抜ける草津温泉までの超快適ワインディングロードなど、バイクでツーリングするには素敵な場所が凝縮している。
いやいや、集合場所となったパルコール嬬恋スキーリゾートだって見下ろせばバラギ湖があり、ちょっとスキー場から下れば広大なキャベツ畑がまるで北海道のような風景を見せてくれる。その先に活火山の浅間山が噴煙をたなびかせ、他所から来た者を魅了する。バイクを走らせることを考えなくても、いるだけで人生のご褒美のような場所なのだ。
すでに昨秋、その姿を国内でもお披露目したし、春のモーターサイクルショーでもその発売時期が話題になったモデルだ。待ち望んでいた人も多かったはず。その理由はV-STROMシリーズでは初となる単気筒250であること。しかも搭載されるエンジンはスズキ自慢の油冷エンジン。ジクサーにも用いられるこのエンジンは、ヘッド周りに「の」の字を描くようにオイルラインを通すことでヘッド周りの熱を効率的に冷却する新しい手法を採用している。
大型のオイルクーラーを装備してその熱交換の任にあたると同時に、そのオイルクーラーには電動ファンも備えているため、最近の猛暑、市街地の渋滞でも効果を発揮するはずだ。
キャラの違いは明確に。
さて、V-STROMシリーズには直列2気筒エンジン搭載のV-STROM250がある。スズキの説明によると、250のキャライメージは、前後17インチのタイヤを活かした走りで、サイドケース、リアケースを取り付け遠距離、長期間ツーリングをイメージしたモデルで、2気筒がもたらす快適性、スムーズさなどを特徴としている。
対する250SXは、フロント19インチ、リア17インチのタイヤを履き、ツーリング先でワインディング、ダートを見つけても気軽に入り込める機動性を持ち、想いのままに遊ぶ、というイメージでまとめ上げられている。
そのコンセプトが名前のSX=スポーツクロスオーバーに表れているということだ。
両車のスペックでもそのへんは明確で、例えば最低地上高を見ても、250SXは205mm、250は160mm。その分、250SXはシート高があり835mm、250のそれは800mmとなっている。燃料タンク容量も両車のキャラを明確に見せていて、250が17リットル、250SXは12リットルとスリムなボディーラインを造るのにも貢献している。容量が少ない分は燃費の良さでカバーする。多くのフリクションロス低減技術を与えたエンジンはパフォーマンスが高いだけではない。
ボディサイズは、全長で30mm、全高で60mm、ホイールベースで15mm、250SXの方が250よりも大きく長い。車重に関しては250SXが164㎏、250が191㎏と27㎏の差がある。これは取り回しでも想像以上な差で、250SXの軽快さが予感される部分だ。最小回転半径が250SXのほうが20㎝ワイドな2.9mとなっている。
実車を見ると250SXは250にひけをとらないどころか、むしろ大柄に見えるのはこうした外観サイズなどの違いによるところも大きいのだ。
ポジションヨシ、足着き感ヨシ。
実際に跨がるとシート高が835mmながらハード目に仕立てられた足周りの影響なのかライダーが座っても沈み込みは多くない。トレールバイクのようなソフトさはなく、ダートを走ることを意識したバイクとしてはけっして長くない120mmのストロークを持つフロントサスペンションを活かすことも念頭にいれた設定なのだろうか。前後ともそうした傾向にあることから、身長183㎝、体重84㎏の私が乗ってもリアサスだけがズブっと沈むことがない。
ライディングポジションはアドベンチャーバイク的なワイドなハンドルバーではなく、ロードモデルから乗り換えても違和感を持つことはないだろう。ステップ、ハンドルグリップの位置、そしてシートの着座位置からなすライディングポジションはライダーがリラックスして長距離を走行できる予感がするほか、市街地ではいち早く前方の情報を収集できるはずだ。
シートフォームの厚み感もある。座面のトップは少々高く感じるが足をまっすぐに下方に伸ばせる印象で足着き感は良好に感じた。これは身長差による違いがあるので、お店で実際に跨がるのが早い。私が感じる足着き感の良さとは、つま先などにしっかりと地面が捉えられること。ローシート、ローダウンモデルに跨がり、身長の関係で膝が曲がる、あるいは前方に足を着き、つま先よりも踵に体重が乗るなどがあると、路面に落ちた粒の小さな石などでブーツのヒール部分が滑り、停止時にコケそうになることがある。「ベタ足ならなんでも良いだろ」的な大は小を兼ねる風な視点は実はお門違いなのだ。
その点、250SXの足着き感はスリムな車体、スリムなボディによって上々だったのだ。
スムーズなエンジンは大満足。
シャーシ特性はおっとり系?
まずこのエンジンが上質なスムーズさ、扱いやすさを持っていることに満足した。クラッチレバーへの応対はジェントルで軽くスロットルグリップと同期させて発進するのも簡単。きめ細やかなセッティングが嬉しくなる。モノの出来映えはこうした触感、ハダ感で決まる。だとすればこのエンジンの良さは9割ちかくがスタートさせただけで伝わり、心が和む。
1速がややロングなギア比に感じる。いや、それほど伸びが良い。増速率は250単気筒らしいものだが、2速、3速とシフトアップして回転を落としていっても右手に対する反応は常にライダーの意思に添ったもの。レッドゾーンまで回してもどこかで盛り上がるタイプではないが、トルクやパワーが直線的に伸びる印象は特性を実に掴みやすい。
3000rpmからでも、5000rpmからでも、それ以上の回転数でもパーシャルから開ければドンツキなくスムーズに加速をする。しかも2気筒エンジン搭載のVストの250よりも明らかに力強い。環境規制の強化から250にはキビシイご時世かと思ったが、技術の進化も全く侮れない。
ハンドリングはツーリングでのおおらかさを狙ったもの。軽快さをことさら主張せず、あえてのマッタリ系を狙ったという。250単気筒というワードからシュンと曲がる想像をするが、タイヤの内部構造に拘ってこの特性を造ったのだという。嬬恋パノラマラインは緩やかなS字カーブとアップダウンが丘陵地帯に続く道だ。この道を6速パーシャルスロットルで流すと、なるほどその特性がわかる。もっと大きなバイクで流しているような安定感。風景を楽しむには悪くない。
じゃ、もっと軽快に走りたい人には向かないのか? それは早合点だ。ちょっとマニアックな話になるが、このバイク、減速を残しながらカーブへとアプローチすると、パーシャルで見せた時に立ちが強くて曲がらない、とも思える特性がすっかり消えスポーティさが顔を出すから面白い。
例えば4000~5000rpmあたりでエンジンブレーキをかけながらアプローチする。するとフロントからスっと向きを変える動きに機敏さが顔を出す。パーシャルスロットルや、上りのS字カーブで、開けながら切り返す場面など、バイクが寝るだけで曲がってこない瞬間があり、それを頑固なハンドリングに感じることがあって最初は驚いた。それをフロントに荷重を追い増しすることでスッと曲がり出すのだ。さらにフロントブレーキを残しつつ旋回にアプローチする。フロントタイヤが荷重を受けしっかり仕事をし始めたかのように旋回性にメリハリが出て、気持ち良いターンインを味わえる。経験者なら引き出せる乗り方だが、こうしたロジックを使えば250SXのスポーティさを引き出すのは簡単だった。
個人的にはこうした小技を使った曲がり方もキライではないが、リーンしただけでフロントがレスポンスして舵角が当たるナチュラルさも好みだ。タイヤのチューニング次第、ということは、他のタイヤに交換すれば解決するのかも知れない。実は試乗中、Uターンをしても寝かしただけだとフロントが遠回りするような印象があったから、この辺はメーカーのさらなるチューニングに期待、という部分でもある。
その他、バイブレ製のブレーキ性能、タッチなどに不満はなかったことを報告しておく。
ダートも少々走ってみた。
前後のサスペンションストロークはロードバイクと同程度でしかない250SX。これはこの手のバイクがテリトリーとする舗装路を軸に考えれば当たり前の選択だろう。しかしスズキの開発陣は我々に「しっかりと」ダート路も試せ、と促してきた。
パルコール嬬恋というスキーリゾートにある広大な駐車場、その路面は砂と砂利を織り交ぜ、場所によっては柔らかい土の上に砂利が乗るような場所もある。そればかりか、斜度こそ初級者用(スキーの)だが、ゲレンデへと登る作業道を駆け上がり、草地のゲレンデを横切り、さらにガレ場の作業道を下る、というルートが設定された。聞けばそのどれもがスキー場管理のための「作業道」とのことだが、林道だと考えるとかなりの荒れガレ林道だ。
最初は恐る恐る走らせた。そのストローク量から想像して底突きするのは避けられないと考えたからだ。しかし、扱いやすいエンジン特性と相まってちょっとしたギャップでフロント荷重を抜きつつ走るも難しくない。意外とイケるのだ。伸びの良いエンジン、しかしフラットなトルク特性の恩恵でノーマルタイヤのままゲレンデ脇の道を駆け上がる。慣れてからは2速ワイドオープンで上って行っても暴れることなく、いや余すことなくトラクションを伝えてくれる。そのパッケージに口元がにやける印象だった。
下りではアクセルのオン、オフで速度とギャップ越えのマネージメントをした。多くはエンジンブレーキで下りるのだが、それでもフロントが無駄にストロークすることなく想像以上のペースで下ってこれた。日本向けに様々セットアップをしたと語るスズキの開発陣だけに、荒れた路面でもストロークの少なさをカバーするようハードな足周りとしたのはこうした場面では成功といえる。
ツーリングメインで、そもそも林道のスポーティな走り狙いの人でなければこのバイクは相当機能的だとも言える。今後、この250SXがどのように育っていくのかはユーザーの声次第だろう。ロードでもダートでもそういった意味では伸びしろしかない。すでに完成度を持ったパッケージだが、さらなる進化の方向性もあると感じた。
250と250SX
キャラ比較のためにVスト250も用意してくれたスズキ。250SXの試乗後に改めて250に乗ったが、重厚さ、低重心なバイクのキャラクターなど、まったく別物だった。250SXに乗った後だと250のエンジンがトルクバンドを引き出すために回転をあげる必要があり、車重の差もあって加速を引き出すなら引っ張る必要もあった。気が付くとそれが面白くてガンガン走っている自分がいるのだが、どちらにも面白さのゾーンの違いがあって楽しかった。唯一、ハンドリングに関しては250のナチュラルさが光る。それは先述した250SXのハンドリングを私の中の私はちょっと作為的に思ってしまったからだ。そうスキ、キライのなかでは真ん中よりもキライなほうに少し振れている感じ。むしろ、普通に走れてなんにも意識する部分がない、というあたりを狙ってみてはどうだろうか。重箱の隅を好みで語ってそれぐらいしかツッコミどころがなかった250SXだけに、V-STROMワールドのエントランスとして、またはお手軽版としての役割も機能するに違いない、そう感じたからだ。
(試乗・文:松井 勉、撮影:増井貴光)
■型式:8BK-EL11L ■エンジン種類:油冷4ストローク単気筒SOHC 4バルブ■総排気量:249cm3 ■ボア× ストローク:76.0× 54.9mm ■圧縮比:10.7 ■最高出力:19kW(25PS)/9,300rpm ■最大トルク:22N・m(2.2 kgf・m)/7,300 rpm ■全長×全幅× 全高:2,180×880×1,355mm ■軸距離:1,440mm ■シート高:835mm ■車両重量:164kg ■燃料タンク容量:12L ■変速機:6段リターン■タイヤ(前・後):100/90-19M/C57S・140/70-17M/C66S ■ブレーキ(前・後):油圧式シングルディスク[ABS]・油圧式シングルディスク[ABS] ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:チャンピオンイエローNo.2、パールブレイズオレンジ、グラススパークルブラック ■メーカー希望小売価格(消費税込み):569,800円
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