SSP(サイドスタンドプロジェクト)は、1998年にGPマシンのテスト中の事故によって脊髄を損傷し、車いす生活を余儀なくされている元WGPライダー 青木拓磨を再びバイクに乗せようという企画「Takuma Ride Again」の際に発足したもので、そこから発展したプログラムがこの「パラモトライダー体験走行会」。これは拓磨と同じように、事故などで障がいを抱えてしまい、2輪車を諦めた人に再びバイクに乗ってもらって、バイクを一緒に楽しんで行けるように応援するもの。
国内のサーキットや休校日の自動車教習所などを会場として毎月のように開催しているこのパラモトライダー体験走行会。だが、まだ関東を中心とした開催が多く、これまでで鈴鹿と九州での開催がそれぞれ一回ずつあるだけであった。
ようやく鈴鹿での2回目の開催となった3月24日(木)、会場には、関西地方を中心に参加者と見学者、そしてボランティアスタッフら総勢70名ほどが朝から集結した。ちなみに、SSPではボランティアスタッフとしてこの体験走行会に参加する方へのボランティア証明書の発行や社員研修としてのボランティアの受け入れも行っている。この日の鈴鹿サーキットではシステム障害が発生しており、コースでの走行プログラムが中止という大変な一日であった。しかし、サーキット側の配慮もあって、システム復旧中にもかかわらず、この体験走行会は無事に行われた。
この日は、午前中からサーキット敷地内にある交通教育センターで、アウトリガーを装着したKTM デューク250などを使用して、初参加のパラモトライダーへのステップアップの走行練習が行われた。今回の参加者は脊椎損傷による半身不随、大腿切断、盲目と、その障がいはさまざま。
そして夕方には国際レーシングコースの東コースを使用し大型バイクを使用したサーキットでの走行も行われた。ここでは、武石伸也さん&田所 隼選手が先導。そして小林 大さんに青木拓磨も一緒に走行。さらにピットには芳賀健輔さんも見守っているというロードレースファンにはたまらない体験会となった。
また、今回初の試みとして「意見交換会」をいう機会も設けられた。青木治親が「今まで右も左もわからない中で、手探りで活動を進めてきました。しかし、この活動の細かな部分で、皆さんが本当に必要としていることかどうか、ということがわかっていません。それで参加した皆さんが思っていることを直接聞いてこれを次回以降に反映していきたいと思います」という趣旨で、小一時間ほど参加者に直接意見を聞く場も設けられた。申し込みの簡便さを求める声なども上がったが、中には、運営の費用面についての言及もあってこの活動を「有料化したほうがいい」というような意見も交わされるなど、突っ込んだところにまで内容が及んだ。
■中垣良則さん(61歳)
18歳の時からバイクに乗っており、鈴鹿のレーシングスクールに入った息子とともに親子で鈴鹿8耐参戦を目指していたのだが、7年前のバイク事故(Uターン中の車両との接触事故)でみぞおちから下の麻痺となってしまったという。知人を介して今回初参加となった。
「もう言葉になりません。この鈴鹿のコースは昔走っていたので経験はあるのですが、事故後はすべてを諦めてました。こんな体験のチャンスをもらえるなんて、生きててよかったと本当に思いました。障がいを抱えると家に籠ってしまいがちなんです。外に出るとこんな世界もあるってことを障がいを持つ方にもっと広めていきたいと思いました」
■阿部一雄さん(57歳)
今回2回目の参加となった阿部さんは2002年5月にTIサーキット英田(現:岡山国際サーキット)でのレース時に転倒しみぞおちから下の完全麻痺となっている。青木拓磨とのYou Tubeチャンネルでの共演を機にこのSSPの活動を知り、参加。昨年は天候が良くなかったことから、今年は天候に恵まれてドライ路面で走行ができる、ということで期待をもって参加。
「前回は初めてということもあったし、天候も悪かったし、しっかりと走行を楽しめなかったんですが、今回は路面もドライということもあって思う存分楽しむことができました」
■山田翔太さん(17歳)
極未熟児網膜症で生まれて以来モノを見たことがないという山田さんは家族で参加。これまでも父親の乗るバイクの後ろに乗っていたこともあり、バイクには近い。御両親も単車の良さを知っているだけに息子にもそれを経験してもらいたいと、今回の参加につながった。初めて自分でバイクを運転するということで、直接手を引く青木治親から直接バイクの各所の説明を受けながら、スタッフが押すバイクのブレーキの利き具合を試していきながら、実際にエンジンをかけてアクセルをあおったりして交通教育センター内でのデュークの走行を楽しんだ。
「視覚障害者にとって、風は一つの感覚だとわかりました。いつか僕らが乗れるようなバイクが出てきたら良いなと思います」
■まがり美和さん
右大腿切断で義足生活を余儀なくされているまがりさんは、今回が3回目の参加となる。現在は返してしまった免許を取り戻すということで、昨年10月にAT普通二輪免許を有効にし、次のMT免許を復活させるためバイクを製作中。ここ半年ほど手元にバイクがない状態で「不安しかなかったけれど」と。今回は乗れないのではないだろうか?と思いつつも、時間を超過してでもどうしても走りたかったという。というのも今回は自身の参加者としての参加は卒業というつもりで来場。自分を支えてくれたバイク仲間に恩返しをしたいということで、参加する側ではなく発進していく側に次のステージを持っていきたい。だからこそ「乗りたい」ではなく「乗れました」の側に行きたかった、という。
「何の心配もなくピットに戻ってくることができるって素晴らしい。でも、もう終わっちゃうのってくらい楽しい時間でした。努力すれば、そして助けてくれる仲間がいたら何でもできるって多くの人に伝えていきたい」
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