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レース・イベント






初開催から30周年となるアジアクロスカントリーラリー(AXCR)は、FIM公認国際クロスカントリーラリーである。タイ王国を中心にこれまでマレーシア、シンガポール共和国、中華人民共和国(雲南省)、ラオス人民民主共和国、ベトナム社会主義共和国、カンボジア王国、ミャンマー連邦共和国など東南アジア8カ国で開催され、走破してきている。毎年コース設定が異なり通過国も変わるのだが、今大会はカンボジアとの関係悪化の影響を受け、タイのみでの開催、そしてタイとカンボジアの国境付近に設定されていたルートはキャンセルされ、8日間で予定されていた競技は2日間の休息日を設け6日間での開催となった。
■文・写真:青山義明

本格ラリーレイド、経験ゼロからスタート?

 今大会は8月9日(土)から16日(土)にかけて、タイのパタヤからカオヤイまで北上し再びパタヤへ戻るというルートが設定されている。そのパタヤに入ったタイミングで「アジアクロスカントリーラリー初参加の若者が2名もいるよ」という情報をエントラントからもらった。
 年齢はともに30歳。ふたりは大学時代からの友人で、インドやヒマラヤ周辺など海外バイクツーリングを楽しんできたという。世界一周をするような壮大なものではなく、期間はひと月ほど、予算20~30万円ほどで行って帰ってこられる、大学生のバイト代で賄える程度のバイク旅。それを楽しんだ二人が社会人になって、ちょうどコロナ禍直前あたりから気になっていたのが、このラリーレイドであった。

#AXCR-TWO
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チームエントリーも。そのチーム名は「TEAM SAKU」、2人が通った大学の所在地から名付けられた

「ツーリングだけじゃなく、競技も面白いんじゃないか?」から始まった思いつきだったが、その流れのまま、今回2人で夏休みを利用して参戦となった。
 ゼッケンNo.42をつけるホンダCRF250Mに乗る河合光公選手は、18歳で免許を取得し、ホンダCRFやスズキVストローム650などに乗ってきたが、社会人になってからはほとんどバイクに乗っていない。No.43をつけるカワサキ・スーパーシェルパに乗る北村一航選手は、大学時代はスズキ・グラストラッカー、社会人になってからはカワサキ250TRに乗ってきた。国内の林道は2回しか経験がなく、二人ともにラリーレイドの経験はナシ。コマ図を見て走ること自体も初めてで、車両に自作手巻きマップケースを装着し、キャットアイのトリップメーターを装着した普段使いのバイクで参戦する。周囲のラリーレイドのベテランたちの装備と比べると、ナビゲーション関連だけとっても貧弱な装備といえる。

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ゼッケンNo.42の河合光公(かわいみつなお)選手はホンダCRF250Mをチョイス。
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自作手巻きマップケースを装着。しかしマップは無茶苦茶長く途中で切って装着しなければならないことも。

 ここへ来るまでは「ノリで行けるのではないか」と思っていたということだが、全然そんなことはなかった。自転車用の距離計は一回一回止まってゼロリセットしていかねばならず、必然的にペースは遅くなる。それでも丁寧に走行を重ねていけば何とかなると思われたが「スタートして2kmでロストして、その後もロストしまくりで、サンド路面では抜けるだけで疲れ果てちゃうし……」。ラリーレイドのすべてが予想外で「正直ナメてました」とふたりは語る。

 記念大会ということもあって、今年のコース設定は例年以上に非常に厳しいもので、多くの参加者が設定コースを見失う(ロスト)目に遭っていたし、4輪車両はあまりにハードな路面コンディションで足周りを損傷する車両が続出した。SS(スペシャルステージ=競技区間)だけでなくRS(ロードセクション=移動区間)のタイムオーバーも多かった。ルートが記載されたコマ図は、毎日前日夜に配布され、事前に確認をしたうえで、マップホルダーにしっかり巻き付けていくわけだが、初日からトイレットペーパーのように太いロール状のマップが手渡され、太すぎてホルダーに入らず苦戦する様子も見られた。

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ゼッケンNo.43の北村一航(きたむらいっこう)選手はカワサキ・スーパーシェルパに乗る。
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トリップメーターはキャットアイのものを単体で装備。迷ってしまうと難しくなるだろう。

 それでも全日程8日間(内、休息日2日)もあれば、だんだんとコマ図にもコースにも慣れてくる。二人は連日タイムオーバーで10時間以上のペナルティが付いていたので累計タイムは61時間を超えていた(優勝した池町佳生選手のタイムは17時間47分28秒)が、それでもきっちり完走を果たした。またこの2名はチームとしての登録を行っており、2人が通った大学の所在地からつけられた「Team Sakyu」はチームアワード2位を獲得という結果までついてきた。

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No.42河合光公選手は61時間51分29秒、総合30位でフィニッシュ。

 30位でフィニッシュした河合選手は「ラリーも後半になってようやく楽しめるような状況になってきたところでゴール。もっと早く慣れていかねばならなかったですね。そういった面も含めすべてが準備不足でちょっと後悔しています。ただ、ここまで来ることができて自分をほめてあげたいと思います。すべてを一人でやる大変さを身に染みて感じました。ほかの選手の皆さんと一緒に1週間以上を過ごしたわけですが、レジェンドともいえる池町佳生さんとか気さくに話しかけてくれましたし、山田伸一さんは丁寧にいろんなことを教えてくれましたし、周囲のお兄さんたちはみな優しかったです」とコメント。

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No.43北村一航選手は61時間16分35秒、総合28位でフィニッシュ 。

 28位で完走した北村選手も「未経験の競技でしたが、自分の準備のしてなさを実感しました。コマ図の見方もわからなかったですし、マップについてもっと詳しく確認して準備をしていれば結果はもっと違ったのかなと思います。夏のタイをバイクで走りに行く、という軽いノリで右も左もわからない状態で来ましたが、初日はホテルを出発してSSのスタート地点に行くまでに大幅に遅れてしまったり、2日目にはSSに入ってから道に迷って水もガソリンもなくてSSをキャンセルしてホテルに直接行こうとしたのにそれもわからなくなったり、すごくサバイバルな体験もしました」とこの初めてのラリーレイドをしっかり堪能した様子。

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河合&北村両選手は、チームアワードで表彰式に登壇。初参戦ながらトロフィを持ち帰ることができた。

 KTMやハスクバーナといったいかにもなエンデューロマシンから彼らのような普段使いの足バイクまで実にさまざまな車両が参戦しているアジアクロスカントリーラリー。コマ図を読むナビゲーション能力とライディングスキルの両方が試されるイベント。彼らは競技というものに振れることでこれまでとは異なる視界が開けてきたはずだ。少しでもこの競技に興味を持ったあなた、来年、ぜひ参加してみてはいかが?
(文・写真:青山義明)

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セレモニアルフィニッシュでは「フィニッシャーメダル」も受け取った。二人ともにやり切った感、達成感に包まれていた。


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2025/09/12掲載