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レース・イベント

■文・写真:青山義明

今回で第29回目を数える“アジアクロスカントリーラリー(AXCR)”は、東南アジアを中心に開催されるFIA・FIM公認国際クロスカントリーラリーのひとつ。1996年に初開催し、以後毎年8月に開催されてきている。タイ王国、マレーシア、シンガポール共和国、中華人民共和国(雲南省)、ラオス人民民主共和国、ベトナム社会主義共和国、カンボジア王国、ミャンマー連邦共和国など、毎年コース設定が変わり、通過国も変わる。そのコースは、アジアならではの山岳地帯やジャングル、沼地、海岸、砂漠、プランテーション、サーキットなど特徴ある地域を設定。路面状況はもちろん、突然のスコールなど、特徴的な気候の中で開催されてきている。

 AXCR2024大会では、ピックアップトラックやSUVを中心に四輪部門46台、サイドカー部門2台、二輪部門19台がエントリー。今大会では、タイ王国南部の街スラタニを2024年8月12日(月)にスタートし、タイ国内を北上して、8月17日(土)に、首都バンコクの西に位置するカンチャナブリでゴールを迎える。その総走行距離は2000kmを超え、競技区間(SS)も940km設定されることとなった。

 昨年は表彰台を日本人チーム(Team OTOKONAKI)が独占。今回のAXCRでゼッケン1をつける砂川保史(KTM EXC 350-F)、ゼッケン2をつける松本典久(KTM 250EXC-TPI)、そして3号車の山田伸一(Husqvarna FE450)の3選手をはじめ、19台のエントリーのうち10名が日本人である(ほかにもサイドカーが2台エントリーしているがこちらもそのうちの一台は日本人ペアとなる)。昨年の上位3台を見てもわかる通り、通常、二輪部門への参戦については250から450あたりのエンデューロマシンというのが定番だ。

#AXCR-SUPERCUBり
四輪部門にスズキ・ジムニーで参戦するガレージモンチのメンバーが 後藤大輝選手のセレモニアルスタートを盛り上げる!

 しかし、今回はそこに3台ものスーパーカブが登場することとなった。ハードエンデューロにも参戦をしてきた後藤大輝選手は、四輪チームの手伝いとしてAXCRの現場に立ったこともあって、今回二輪の参戦を決めた。その後藤選手に誘われる形で今回参加した谷 通秋選手。ともにスーパーカブ90で参戦する。またこれまでCRF 250Lで参戦をしてきたが、今回あえてハンターカブを持ち込んだ熊田誠司選手の3名だ。
 いずれもスーパーカブでの挑戦については、本格エンデューロマシンで苦戦している横を2人乗りや3人乗りで通り過ぎていくシーンを見ていて「カブで走ってもそこそこ行けるのではないか?」と考えたという。
 絶対的なスピードはないが、この軽さと堅牢さは何物にも代えがたい魅力があるのも事実。時を同じくしてこの3台のエントリーと相成った。

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スーパーカブ90で参戦する谷 通秋選手(写真左)と後藤大輝選手(写真右)。
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ハンターカブを持ち込んだのは熊田誠司選手。

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ナビは必要ということで、オリジナルのメーター周りを残しつつ、ということでこのレイアウトとなった。
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基本的にはオリジナルのまま、ということでリアサスは変更があるものの、車両には他に大きく手を加えることはなかった。

 2024年のAXCR自体、当初はタイからマレーシアへ向かうルートが設定されていたが、それは諸般の事情でタイ国内だけで完結するラリーレイドに変更となっていた。さらに初日・2日目とSSの一部がキャンセルされるなど、走行距離自体は多少短くなった。しかし、今回のAXCRではコマ図の解読が厳しく、実際の道とコマ図の指し示す略図との距離が合わなかったりすることが頻発し、多くの参加者がロスト(道に迷う)し、困難を極めたといえる。
 またラリーレイドでは、スタート地点からSS区間の入口までのリエゾン区間、そしてSSの終了地点から宿泊地まで、それぞれにターゲットタイムが定められている。しかし、そのコマ図読みの難しさで、時間までにスタート地点にたどり着くことすらできないライダーも出ている。

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目立ってなんぼ? ということでスタートからしっかりパフォーマンスを行いつつ、しっかり上位でフィニッシュし、成績も残すこととなった後藤選手。

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決して派手ではないけれど、着実に歩を進めるように走ってい熊田選手。
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コースはさまざま。ダム湖の周囲を巡る観光道路も走る。ただし路面はダート。

 また4日目には、V字断面の縦クレバスが走る恐ろしいガレ場が登場した。このラリーは各SSともに、二輪がまず全車出走し、そして1時間空けて四輪がスタートする。しかし、このガレ場で二輪全車が四輪の上位勢に抜かれるという状況となった。二輪ライダーのほぼすべてがガレ場でスタックし、もがきながらもバイクを前に進めようとするものの、熱中症にも見舞われ後ろから四輪がやってきても自身のバイクをコースからどかす余力すらない状況になっていた。結果二輪19台中15台が不通過もしくはタイムオーバーでペナルティを受ける結果に。5日目にはその影響もあって新たに3台が出走できずという状況になってしまう。そして最終日は、初日・2日目同様のコマ図難読デーとなって、1名を除いて規定最大時間までにゴールができなかったという、非情にも過酷な大会となった。

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2日目の谷選手。スタート地点にたどり着いたのは全車がスタートし、運営スタッフも撤収した後だった。そこにスコールがやってきて、まさに泣きっ面にハチ状態……。
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乾いた赤い土のダート路面が大半だったが、ごつごつの硬い路面や河原のふかふかの砂まで路面のバリエーションもさまざまだ。

 そんななかでも、ゼッケン17をつける後藤大輝選手(Team Super Cub JAPAN Yotsuba motor)は初日になんと5番手のタイムを出すなど好調で、総合7位という素晴らしい成績でこのスーパーカブの挑戦を終えた。
「終わってみて思っているのは、カブの頑丈さってほんとうにすごいなという思いです。2日目の長いリエゾンでひたすらブン回して走っていましたが『ここでエンジン壊れちゃうんじゃないか?』とか、厳しいSSの3日目か4日目あたりで『フレームが折れるんじゃないか?』と心配もしましたが、それは全くの杞憂で6日間が終わりました。エンジンはフルでオーバーホールしてもらっていますが、フレームはなにも手を入れていないのでそこはホンダさんがすごいなーと思いました。メインフレームは若干曲がり始めてしまいましたけどね……(笑)」とコメントしてくれた。

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しっかりとスーパーカブの存在をアピールすることとなった今回の3台の挑戦。補強もなく、レッグシールドも装着したままのスーパーカブ90はタイヤも標準装着タイヤのままだ。

 ゼッケン8の熊田選手(Team JAPAN)も比較的順調に走行を重ね、総合11位フィニッシュ。熊田選手は「CRFで参戦した時と順位もタイムも同じくらいなんですよねぇ。結局バイクではなくライダーの腕だということがわかりました」と笑いながらコメントしてくれた。
 ゼッケン19の谷選手(GARAGE GAIN)は、初日に7時間のペナルティ。宿泊のホテルからスタート地点まで3時間もかかる移動距離が最も長かった2日目は、スタート地点にたどり着いたころにはすでにすべてが撤収終了したところで、移動はしたもののDNS(出走なし)という結果となってしまうなど、序盤からAXCRの洗礼を受けてしまって、と苦戦を強いられ総合14位であった。
 スーパーカブ3台は全員フィニッシャーメダルを受け取ることとなった。まずはこの3名に拍手を贈りたい!

#AXCR-SUPERCUBり
日本と同じような暑さ。殺人的な陽射しが降り注ぐ中でも、時折どこからともなく吹いてくる涼しい風が心地よかったりもする。
#AXCR-SUPERCUBり
「もう嫌」という言葉を何度吐いたことか、でもこの経験は中毒症状のように思い出され、またこの地に戻ってくることになる!?

 連日300km以上、日によっては500km以上と移動距離の長いラリーレイドでは、競技区間だけではなくリエゾンでも緊張感を解くわけにもいかず、SSではスタート直後から後方からの四輪競技車に道を譲らねばならず、自身の競技だけでなく周囲への配慮も必要で、厳しい1週間となったはずだ。現地の方々のようにゆっくり走りアジアの風景を楽しむ、というのとは大きく異なるだろう。
 それでも総合7位に入った後藤選手は、今後の参戦について「うーん、まだ未定ですねー。ただカブでの参戦はすごく楽しかったのでまたやりたいとは思いますね!」とコメントしてくれた。アジアの道がしっかりとフィットするスーパーカブの参戦。これからも引き継がれていくことに期待したい。
(文・写真:青山義明)

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中・大排気量モデルに交じり、スーパーカブの3台ともが「フィニッシャーメダル」を手にした。


2024/08/26掲載