発売されるや、一躍人気モデルとなった新世代空冷単気筒モデル、GB350シリーズ。スタンダード350、ちょっとスポーティな350Sに加えて、クラシックなイメージの350Cが誕生しました。今どき数少ない空冷エンジン、しかも単気筒エンジンは、長く付き合える、主張控えめなモデルなのです。
- ■試乗・文:中村浩史 ■撮影:森 浩輔
- ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン
- ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html
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おっちゃんも見まがう最新モデル
—お、兄ちゃんいいの乗ってんな。いつ頃のバイクだ? これ。
「2025年モデルだよ。最新型だぜ」
—え! ホントに?
この試乗の撮影中、本当にあった話だ。
撮影場所近くの駐車場でカメラマンを待って出発しようと停めておいたら、近くでクルマを停めて休憩していたドライバーのおじちゃんが、こう話しかけてきたのだ。GB350Cって、そんなバイク。
GB350は、国産車として久しぶりに登場した空冷単気筒エンジンを搭載したロードスポーツ。2021年にGB350と350Sを発売したところに、2024年9月に350Cを追加発売。素のGB350をベースにして、「S」がちょっとスポーティバージョン、追加された「C」は、見るからにクラシックの「C」なんだろう。
各バージョンの違いは車体の仕様で差をつけていて、3モデルともフロントホイールは19インチのまま、リアは350と350Cが18インチ、350Sはワイドタイヤを履いた17インチを採用している。その意味で、350Cはかなりスタイリングを、クラシック方面に専用設計している。
350と350Sは、リアタイヤサイズの違いもあって、バンクさせてコーナリングする時に、350Sの方が軽やかな動きをするけれど、ハッキリ言って大差はない。素の350と、ちょっとキビキビ走りたい350S。ペースを上げていくと違いは分かるけれど、これは街乗りで感じるほどではない。前後ショートフェンダーや踏み返しのないシフトペダル、ちょっとテールアップしたマフラーのスポーティなイメージかどうかで350/350Sのどちらかを選ぶ人が多いのだと思う。
そして、この350Cだ。ひと目見てわかるように、350Cには350にも350Sにもないクラシックさをまとっている。ちょうど、1960年代の英国車のような感じで、当時としては最新装備のアウターカバー付きのフロントフォークや前後の鉄製ディープフェンダーが、今となってはクラシックさを感じさせるんだろうと思う。
パッと見た時に、BSAのB40とかロイヤルエンフィールドのスーパーメテオなんてモデルを思い出したし、ノートン・アトラスなんかもこんな形だった。これって「オマージュ」とか「パクリ」じゃないよね、クラシックって言葉をイメージすると、こういう形になるんだと思う。駐車場にいたドライバーのおじちゃんが間違うのも無理はない。
そのGB350シリーズ、本当によくできた空冷単気筒エンジンだ。単気筒エンジンというと、いい方のフィーリングは「ドコドコドコドコと鼓動感が気持ちいい」だし、その反面「ガチャガチャガチャガチャとフリクションロスがある」イメージ。どうしたって4気筒のシルキーさはないし、それが好きな人、それが苦手な人もいる。
パワー特性も、ごく低回転でグッとトルクがある半面、高回転は苦し気で回らない──そんなイメージ。もちろん、ブン回る単気筒もあるけれど、空冷SOHC単気筒となると、やはり高回転を使うエンジンではないように思える。
だからGB350シリーズの空冷単気筒は、このいいところどり。エンジンの鼓動感もほどほどで、高回転だってよく回る。ドドドドド、って力感はなくとも、ストトトト、という小気味いいパルスを感じさせてくれるエンジンだ。空冷っぽさを残しつつ、単気筒っぽさもあって、振動がすごく抑え込まれた、鼓動を感じられるタイプだ。
たとえば空冷単気筒と言えば、ヤマハSR400があるけれど、SRのドコドコ感をGBで感じることがない代わりに、GBはフリクションロスが少なく、軽やかに高回転も回る空冷単気筒なのだ。SRの単気筒エンジンは、スタートが1970年代と「本当に古い」から単気筒っぽさがにじみ出ていたのに対して、GBはボア×ストロークやクランクウェイトを「きちんと計算して」単気筒っぽさを生み出している感じです。
ボア×ストロークで言えば、GBはSRよりもGB400よりもスモールボア×ロングストローク。けれどドコドコを感じすぎないのは、おそらくクランクウェイトを控えめにしているから。もっとドコドコ感を、ってファンの声と、高回転もそこそこ回したい、というファンの声をうまく融合させているのだ。
走り出すと、発進トルクがドンとくるタイプではなく、ここも控えめ。アイドリングすぐ上から大きすぎないトルクがあって、恐怖感のない、スムーズな走り出しが味わえます。回転を抑え気味にとんとんとシフトアップするもよし、各ギアを引っ張ってスピードを乗せるもよし、そんなパワーフィーリングです。ミッションは5速で、5速ギア比がオーバードライブ設定されているので、120km/hクルージングも、ちっとも苦しげじゃない。このあたりも、エンジン回転数、ギア比をきちんと計算して、いま日本の高速道路でOKな120km/hを快適に走れるよう設定しているんだと思います。
たとえば単気筒っぽさをもっと出したいならば、350ccもの排気量ならば、アクセル微開でドンとトルクが出てくる、低回転からぐんぐん前に出るバイクを作ることはたやすいだろう。けれど、それは昔からの単気筒エンジンマニアには喜ばれても、若いファンや新しいバイク乗りには「乗りにくい」と感じさせてしまうものだ。
だから、このGB350の設定は正しいのだと思う。もっとドコドコと単気筒らしいフィーリングを望むならチューニングすればいい。マフラーを交換するだけで、かなりフィーリングは激変しそうなエンジンだ。
その新バリエーションな350Cは、350をベースにクラシック風にアレンジしているのは前述のとおり。車両サイズがスタイリングパーツの違いで差があって、車両重量も、前後の鉄製フェンダーなどの違いもあって、350よりも7kg重い。
走りのイメージは、この7kgが影響しているとも思えるけれど、これも大差なしと考えていいと思う。ゆったりした乗り味で、ハンドリングはシャープすぎず、操舵にワンテンポ遅れてついてくるような動き。スタイリングから感じるイメージどおりの走りを味わうことができるのだ。それよりもまず、このスタイリングだから、キャンキャンとトバすバイクではないんです。
それにしてもよくできたエンジンだなぁ、というのがGBのメインの印象。SRやその後の国産単気筒エンジン、もっと古い単気筒だって知っているけれど、排出ガスや騒音対策があって、とにかく空冷や単気筒エンジンが生きづらい現代に、きちんと事情にマッチしたエンジンに仕上げてある。
エンジンのフィーリングは、85年に誕生した、同じくホンダのGB400や2001年デビューのCB400SSに近いかな。単気筒エンジンとはいえ、トルク型すぎず、高回転も回るエンジンで、主張が激しすぎない長く付き合えるモデル。4気筒とも2気筒とも違うキャラクターを、いま免許を取って乗り始めた若いファンもずっと味わえるっていうのは、スゴいいいことだと思うのです。
(試乗・文:中村浩史、撮影:森 浩輔)
■型式:ホンダ・2BL-NC59<8BL-NC64> ■エンジン種類:空冷4ストローク単気筒OHC ■総排気量:348cm3 ■ボア×ストローク:70.0×90.5mm ■圧縮比:9.5 ■最高出力:15kW(20PS)/5,500rpm ■最大トルク:29N・m(3.0kgf・m)/3,000rpm ■全長×全幅×全高:2,180[2,175]×790[780]<790>×1,105[1,100]<1,105>mm ■ホイールベース:1,440mm ■最低地上高:166[168]<165>mm ■シート高:800mm ■車両重量:179[178]<186>kg ■燃料タンク容量:15L ■変速機形式:常時噛合式5段リターン ■タイヤ(前・後):100/90-19M/C 57H・130/70-18M/C 63H [150/70R17M/C 69H]< 130/70-18M/C 63H > ■ブレーキ(前/後):油圧式ディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:マットパールグレアホワイト、マットジーンズブルーメタリック、マットパールモリオンブラック [プコブルー、パールディープマッドグレー、ガンメタルブラックメタリック]< プコブルー、ガンメタルブラックメタリック> ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):561,000円 [605,000円]<668,800円> ※[ ]はS、< >はC
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