EICMA2024で発表されたハスクバーナの新型車「Vitpilen 801」。先に発売された兄弟車Svartpilen 801とプラットフォームを含め多くのコンポーネンツを共有しながら、細部を「Vitpilen 801」専用にセッティングすることで独自の個性を生み出している。ここでは、その詳細を紹介しよう。
■試乗・文:河野正士 ■写真:Sebas Romero、Marco Campelli、ハスクバーナ・モビリティーズ ■協力:KTMジャパンhttps://www.husqvarna-motorcycles.com/ja-jp.html ■ウエア協力:クシタニ https://www.kushitani.co.jp/ 、アルパインスターズ https://www.alpinestars.com/
ハスクバーナが新たにラインナップするロードスターモデル「Vitpilen 801(ヴィットピレン・ハチマルイチ)」の国際試乗会は、いつもとは違うアプローチで開催された。いつもなら目的地空港から、宿泊はもちろん試乗会の発着や技術説明が行われるホテルに直行する。しかし今回事前にシェアされた最初の集合場所は、GoogleMapで確認するとただの自動車修理工場だった。
そして試乗会場となるフランス/コーターダジュールの街ニースに降り立つ直前に、試乗会を取り仕切るハスクバーナの担当者から「今回のミッションはVitpilen 801を堪能することのほかに、Vitpilen 801を使い試乗会場であるニースの街や自然の中でユニークな映像コンテンツを造ること。そのコンテンツは、最終日に皆で投票して最優秀賞を決めます。残り時間は、あと30時間。頑張って!」という謎のメッセージが入る。
??? を一杯抱えたまま自動車修理工場へ向かうと、待ち構えていたスタッフが「ここからホテルまでバイクで30分くらい。荷物は僕らがホテルに運ぶので、今すぐバイクに乗ってくれば。だってコンテンツ作りの時間、少ないでしょ? ホテルでの集合時間は16時だから、あと2時間しか無いよ 」と。
日本との時差マイナス8時間のフランス・マルセイユ。ここまで乗り継ぎ時間を含め約24時間かけてやってきた身としては少々きついオーダーだが、この趣向を凝らしたローンチ内容もVitpilen 801を知るためのひとつの鍵だと思い、もちろん!と答えて、大荷物の中からライディングギアを取りだし、真新しいVitpilen 801と地中海の海岸線に出た。
最初の印象は、先に日本でも発売が開始されたスクランブラーモデル「Svartpilen 801(スヴァルトピレン・ハチマルイチ)」」とずいぶん違うな、というものだった。Vitpilen 801はエンジンやフレーム、それにサスペンションといった車体の基本コンポーネントのほか、外装類など多くのコンポーネンツをSvartpilen 801と共有する。大きな違いはライディングポジションと前後タイヤ、という事前情報から、乗り味にさほど大きな違いは無いだろうと想像していたから、その違いに驚いた。
違いを感じたのは、車体の反応だ。アクセル操作に対するエンジンおよびサスペンションの反応。それにハンドル操作や体重移動に対する回頭性など、ずいぶんとクイックに感じたのだ。日本からの移動の疲れで自分のカラダが少しナーバスになっていたことを差し引いてもその違いは明らかで、走行モードを変えたり、各種電子制御のレスポンスを変えたりするとその反応は変化するが、クイックさは一貫していた。こりゃ、サスペンションのセッティングだけじゃなくて、各走行モードの出力マッピングも変更しているな、と思ったのだった。
しかし、その予想は外れていた。夜に行われたプレゼンテーションと、そのあとに開発者から直接聞いた話を総合すると、各走行モードの出力マッピングはSvartpilen 801から変更していない。変更したのは、リング状のLEDデイライトランニングライトとプロジェクターライトで構成されるヘッドライト周りの斬新なデザインと、幅広くそして低くなったハンドルバー、それにスポーツツーリングタイヤ/ミシュラン・ロード6タイヤの装着だ。そのライディングポジションの変更とスポーツ指向のロードタイヤの装着により、WP製APEXフロントフォークとリアショックユニットのセッティングを変更しているという。
マニアックなところでは、シートフォームも変更されている。シート形状やシート高に変更は無いが、より硬質なシートフォームに変更し、前傾が増したライディングポジションに対応したという。意外にも、ステップ周りはSvartpilen 801と同じだという。
もうひとつマニアックな変更は、トップブリッジとハンドルを繋げるハンドルライザーだ。Vitpilen 801はトップブリッジとアンダーブラケット、それにハンドルライザーもSvartpilen 801と共有しているが、ハンドルライザーを前後逆に取り付け、トップブリッジに対するハンドル装着位置をより車体前方に移動。形状を変更したバーハンドルと合わせて、より前傾が強いポジションを造り上げていた。Svartpilen 801の試乗会時にもハンドルライザーは前後入れ替えて装着することが可能というインフォメーションはあり、しかしそのときは体格の大きなライダーのため、またはオフロード走行を想定したスタンディング時のポジションに合わせてハンドル位置を遠くできるトリビアとしてだった。
とにかくVitpilen 801は、わずかな変更で、プラットフォームを共有する兄弟モデルと異なるキャラクターを、スタイルにおいても走りのパフォーマンスにおいても造り上げていたのである。ダイナミックロードスター。プレゼンテーションで開発陣が語ったコンセプトは、ズバリ的を射ていると思う。
75度位相クランクを採用する排気量799cc水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブエンジンは、高回転の伸びはもちろんだが、開発陣がもっとも重要だという3−4000回転付近の、扱いやすく力強いトルク特性がとても良い。ワインディングでは、あえてシフト操作をサボり、4速、ときには5速にミッションを固定して走ると、中低速コーナーではエンジン回転が2〜3000回転あたりまで落ちることがあるが、そこからアクセルを開けてもリアタイヤが路面を捉える感覚がしっかりと伝わり、安定感もある。もちろんコーナーリング速度にもよるが、一度ドロップしたエンジン回転域からラフにアクセルを開けてもギクシャク感は少なく、それでいて車体をグイグイ前に押し出すイメージだ。
ミシュラン・ロード6と、そのタイヤ特性にあわせてロード寄りにセッティングされた前後サスペンションがスポーティな走りを支えていることも強く実感する。ブレーキング時の安定感、そこからコーナーに向けて車体を倒しこんでいくときの軽快さ、そしてそれらの流れのなかでもタイヤやサスペンションからのインフォメーションも多く、それはどの速度域でも変わることがなかった。
いまやSUB1000ccのスポーツモデル(スーパースポーツではない)は、百花繚乱、各メーカーが個性豊かなモデルを投入する激戦区だ。そのなかにあってVitpilen 801は、スタイリングもパフォーマンスにおいてもクラスをリードすることができるだけの高いポテンシャルを持っているのは、間違いない。
(試乗・文:河野正士、写真:写真:Sebas Romero、Marco Campelli、ハスクバーナ・モビリティーズ)
■エンジン形式:水冷4ストロークDOHC4バルブ並列2気筒 ■総排気量:799㏄ ■ボア×ストローク:88.0×65.7mm ■圧縮比:12.5 ■最高出力:77kW(105hp)/9,250rpm ■最大トルク:87Nm/8,000rpm ■燃料供給方式:FI ■軸間距離:1,475mm(+/-15mm) ■シート高:820mm ■車両重量:約180kg(燃料除く) ■燃料タンク容量:14L ■レイク角:65.5度 ■フォークオフセット量:32mm ■トレール:97.9mm ■フレーム:クロームモリブデン鋼チューブラーフレーム ■サスペンション(前・後):WP製APEX43mm倒立タイプ/伸側圧側減衰力調整/140mmトラベル・WP製APEX/伸側減衰力およびプリロード調整&150mmトラベル ■変速機形式:6段リターン ■ブレーキ形式(前・後):300mmダブルディスク×ラジアルマウント4ピストンキャリパー・240mmシングルディスク×ワンピストンキャリパー ■ホイールサイズ(前・後):3.50×17・5.50×17 ■タイヤブランド ミシュラン製ロード6■メーカー希望小売価格:1,389,000円(税込)
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