2024年3月下旬、フランス南部の街マルセイユで、ハスクバーナ・モーターサイクルズの新型車「Svartpilen801(スヴァルトピレン・ハチマルイチ)」の国際試乗会が開催された。シリーズ最大排気量かつ初の多気筒エンジンと、進化したシャシーによってそのパフォーマンスはいかに進化したのか。ここでは、その試乗会で感じたその詳細を紹介する。
ハスクバーナ・モーターサイクル(以下ハスクバーナMC)が「スヴァルトピレン801」を発表。8月から日本での販売が予定されている。スヴァルトピレン・シリーズは、ハスクバーナMCのネイキッド・カテゴリーに属するモデルで、スクランブラースタイルやフラットトラッカースタイル、要するにアップハンドルやブロックパターンのタイヤを装着してちょっとオフロード・テイストをトッピングして仕上げたモデルだ。そしてその兄弟モデルとしてヴィットピレン・シリーズもラインナップ。セパレートハンドルやロードスポーツタイヤを装着した、カフェレーサースタイルでデビュー。しかし2月に発表された新型ヴィットピレン401がアップハンドルを採用したことから、ヴィットピレン・シリーズはロードスタースタイルへと進化している。
今回試乗会に参加した「スヴァルトピレン801」は、そのネイキッド・カテゴリーの最新モデルであり、最大排気量のエンジンを搭載するモデルである。
前身モデルであるスヴァルトピレン701は、2017年EICMAミラノショーでコンセプトモデルがお披露目。翌2018年EICMAで市販モデルを発表し、2019年モデルとしてラインナップに加わった。ちなみにヴィットピレン701はスヴァルトピレンより早く、2015年EICMAでコンセプトモデルをお披露目。2017年EICMAで市販モデルを発表し、2018年モデルとしてラインナップに加わっている。それらはKTM 690デュークとプラットフォームを共有。排気量693ccの水冷4ストローク単気筒OHCエンジンと、トレリス構造のクロームモリブデン鋼パイプフレームを採用していた。ユニークだったのは、スヴァルトピレン701はフロント18インチ/リア17インチホイールに、サイドゼッケンカウルをアレンジしたシートカウルやヘッドライトカウルをデザインした、フラットトラッカースタイルであったことだ。のちに発売されたスヴァルトピレン401(250と125も)が前後17インチホイールにオフロードテイストのブロックパターンタイヤを装着したスクランブラースタイルであったのに…。
「スヴァルトピレン801」は、その旧701からすべてが変更されている。車体デザインは、目に見える機能パーツを減らしミニマルでクリーンなバイクを造り上げるというデザインコンセプトを受け継ぎつつ、フラットトラックスタイルからスクランブラースタイルへと変更。他のスヴァルトピレン・シリーズとスタイリングイメージを共有し、ファミリー感を強めている。
また、先にリリースされた新型401シリーズ同様に、車体はあえて大型化している。燃料タンク容量の増大やホイールベースの延長、シートスペースの拡大がその大きな要因だが、それらを大型化することで航続距離を伸ばし、走行安定性を高め、ライダーおよびパッセンジャーの快適性向上を図ったのだという。
「スヴァルトピレン801」の発表によってハスクバーナMCは、ロードスポーツ・カテゴリー参入におけるマーケティング的初期フェーズを終了し、パフォーマンスとデザインのバランスを再構築することで、より完成度の高いモデルを開発して行くという新しい局面を迎えたのだと感じた。それほど「スヴァルトピレン801」のパッケージは、完成度が高かったのだ。
その立役者と言えるのがエンジンだ。新型エンジンはハスクバーナMCと同じKTMグループ傘下の中国ブランド/CF MOTO製(エンジン組立は中国、車体組立はオーストリア)。排気量799ccの並列2気筒DOHC4バルブだ。これまで単気筒エンジンのメリットを活かした車体造りを推し進めてきたハスクバーナMCのネイキッド・カテゴリーにはじめて多気筒エンジンがラインナップされたことになる。とはいえ、このエンジンはとてもコンパクトだったが…
このエンジンは、ハスクバーナMCのアドベンチャーモデル/ノーデン901が搭載するエンジンと同じ、75度位相クランクを採用する不等間隔爆発エンジンだ。この位相クランクは、KTMの最高峰モデル群が採用するLC8エンジン/挟角75度のV型2気筒エンジンと同じで、良好なトラクションを生み出すことが最大のメリットとされている。
ハスクバーナMCではノーデン901に次いで、「スヴァルトピレン801」が並列2気筒エンジンを搭載した。しかしKTMはこれまでも、ハスクバーナMCと共有するこの並列2気筒エンジン搭載のプロダクトを多数発表していて、コンパクトでパワフル、それでいて扱いやすい特性の並列2気筒エンジンは好評だ。そして「スヴァルトピレン801」は、アップデートした次世代とも言える並列2気筒エンジンを搭載。排気量が異なる901エンジンとは単純に比較は出来ないが、それでもパワフルさも扱いやすさもワンランク上がったと感じた。
クランク前側と2本のカムの間にセットされた2つのバランサーを装着したエンジンは75度位相のクランクと合わせて、とてもスムーズ。シリンダー内の爆発を感じるというステレオタイプのツインエンジンのイメージとは少し違ったフィーリング。でもそれは違和感を感じるものではなく、ツインってこんなにスムーズだっけ? という、並列2気筒エンジンに対する自分の脳内イメージを書き換える必要がある、というレベル。その書き換えさえ終わってしまえば、あとはスムーズなエンジンの吹け上がりを楽しみながら走りに集中するだけだ。
「スヴァルトピレン801」にはレイン/スタンダード/スポーツの3つのライディングモードにくわえ、オプションのダイナミックパッケージを追加するとダイナミックモードが加わり、4つのライディングモードを選択可能になる。またφ43mmのWP製APEXフロントフォークは伸側/圧側ともに、フォークトップのダイヤルによって簡単に5段階で減衰力が調整可能。リアのWP製APEXショックユニットは伸側減衰力とプリロード調整が可能だ。
今回の試乗では、スタート直後は気温が低く、また最初のパートでは荒れた路面が多いことから、先導ライダーはフロントフォークの減衰力を、伸側圧側ともにスタンダードの3から2に下げ、ライディングモードもスタンダードを選択した方が良いかもしれない、気温が上がり路面状況も好転する午後からフロントフォークの減衰力を高め、他のライディングモードを試した方が良い、とアドバイスした。とはいえ最初は、どスタンダードを試すためにFダンピングおよびライディングモードはスタンダートで走り出す。しかし細かなギャップが多いコースではFフォークに少し突き上げ感を感じたため、減衰を伸側圧側ともに1クリック下げる。すると突き上げ感が減り、乗り心地も良くなった。ならばと減衰力最弱を試すが、さすがFフォークが動きすぎて走りのリズムが崩れてしまう。そこで再び2に戻して走る。エンジンはとにかく振動が少なくとても滑らかで、扱いやすく、速い。
午後になって気温も上がり、スポーツモードを試す。3000回転あたりからのビート感が強まり、力強さは一回り太くなり、レスポンスも良くなる。5000回転から、車体がフワッと軽くなるような加速感を感じるようになる。そうなると減衰2だとFフォークが動きすぎたので、減衰3に戻す。するとFフォークの動きに落ち着きが出て、またS字の切り返しなどでエンジンの反応対して車体が速く動くようになったので、車体が軽く感じるようになった。
それからダイナミックモードを試す。エンジンはさらにレスポンスがよくなり、よりダイレクト感が増してくる。そのエンジンも反応に合わせて、Fフォークの動きを抑制するために減衰を4に変更。それによって、アクセル操作や体重移動などに対して車体の反応がよりダイレクトになり、車体がより軽くなったように感じた。レスポンスが良くなったことから、エンジンのビート感も強まった感じ。車速の乗りも速くなる。
エンジンは、8500回転でシフトアップライトがイエローの警告灯に変わり、9000回転でレッドゾーンに入る。ただ8000回転を超えると頭打ち感があり、また振動も増えて気持ちが良くない。イージーシフト(クイックシフター)を駆使して7000~8000回転あたりを維持すると気持ちが良く、伸びやかな加速を楽しみながらスポーツライディングを堪能することができた。
ワインディングでスポーツするような、加減速を繰り返すような場面ではダイナミックモードが俄然楽しいが、一定の速度をキープしたり微妙な速度調整をしたりするツーリングや街乗りでは、レスポンスが過敏すぎない、スポーツモードかスタンダードモードが俄然良い。また、フロントからグイグイ向きを変えていくようなフィーリングではないが、ハンドリングはとても素直で、ゆっくり流しても頑張ってスポーツしても、どちらの操作にもしっかり応えてくれる。結構な車速で、そこから加速しながら切り返したりするような場面でも車体は素直に反応するし、サスの落ち着きも良い。
このバラエティ豊かなエンジンフィーリングと足周りの組み合わせは、幅広いキャリアのライダーが、ツーリングや街乗りからスポーツライディングまで幅広い使いかたをしても、高いレベルでの満足感を得られる。コレ、良いね!と、どんなライダーにも勧めたくなる。「スヴァルトピレン801」は、そんなバランスの良いバイクである。こう書くと、毒にも薬にもならない面白みに欠けたモデルに聞こえるかも知れないが、それだけは強く否定しておく。このバイクは楽しく、そして速いのである。
(試乗・文:河野正士、写真:ハスクバーナ・モーターサイクルズ)
■エンジン種類:水冷4ストロークDOHC4バルブ並列2気筒■総排気量:799㏄■ボア×ストローク:88.0×65.7 mm■圧縮比:12.5:1■最高出力:77kW(105PS)/9,250rpm ■最大トルク:87N・m/8,000rpm ■燃料供給方式:FI ■軸間距離:1,388mm(+/-15mm) ■シート高:820mm ■車両重量:約181kg(燃料除く)■燃料タンク容量:14L ■レイク角:65.5度 ■フォークオフセット量:32mm ■トレール:97.9mm ■フレーム:クロームモリブデン鋼チューブラーフレーム ■サスペンション(前・後):WP製APEX43mm倒立タイプ/伸側圧側減衰力調整/140mmトラベル・WP製APEX/伸側減衰力およびプリロード調整&150mmトラベル ■変速機形式:6段リターン ■ブレーキ形式(前・後):320mmダブルディスク×ラジアルマウント4ピストンキャリパー・240mmシングルディスク×ワンピストンキャリパー ■ホイールサイズ(前・後):3.50×17・5.50×17■タイヤブランド:ピレリ製MT60RS ■メーカー希望小売価格:1,389,000円(税込)
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