かつて「エストレヤ」という大ヒット車で軽二輪市場を席巻したカワサキが、再びこのクラスにスタンダードなクラシカルマシンを投入してくれた。その名はエストレヤよりもさらに遡り、「W」と「メグロ」の2大ブランドでのデビューとなった。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:富樫秀明 ■協力:カワサキモータースジャパン ■ウエア協力:アライヘルメット、KADOYA
今、クラシカルマシンの立ち位置
事前情報がたくさん出回っていたため、この2台がどんなモノなのかはあらかじめ知っていたはずなのに、実物を見て「なんてクラシカルなのだろう!」と改めて感じさせられた。エストレヤ世代の筆者からすれば、こういった普遍的なスタイルは時代に関わらずステキ! という印象があったが、今や軽二輪クラスはレブル旋風が起きていて、そっちのスタイルにすっかり慣れてしまっていたのだろう。W(230)やメグロ(S1)が予想の上を行くクラシカルさを持っていて、それが発する高級感や歴史とのリンクを強く感じさせられた。
むしろ、このクラシカルさは筆者世代にはクリーンヒットするだろうけれど、レブルで育った世代はちょっと構えてしまうんじゃないか?なんていうことも思ってしまったのだが、カワサキは「カワサキのテーマ、伝統と革新にそったコンセプトで、こういった普遍的な美しさや歴史を感じさせるスタイリングは、幅広い層に受け入れていただけると考えます」「特にWとメグロのブランドとしたことで、カワサキの歴史に興味のある方は楽しんでいただけるのではないでしょうか」とのこと。令和の「レトロクラシック」はどのように受け入れられていくのか、楽しみだ。
軽量・コンパクト。あらゆるライダーに
軽二輪クラスにおいては特に、軽量で扱いやすいこと、シート高が低いこと、ビギナーからベテランまで誰でも気兼ねなく付き合えること……などなど求められる要素はかなり多い。ついつい「シート高は……」「足着きは……」といった項目をチェックしてしまう人も少なくないと思うが、W/メグロは数値以上の付き合いやすさを感じた。
シート高は745mm。これより低いライバルは確かにいる。しかし水平基調の車体構成や自然な位置のハンドルなどのおかげでコンパクトさは相当なもので、むしろシート高は無理なく車体を取りまわしたり走らせたりするためのベストな位置にあるとも感じた。無理にシートを下げることなく全体のバランスを優先した結果、非常に扱いやすく、ハードルはこの上なく(この下なく?)低いと感じるほどだ。
こうなると初心者や小柄なライダーにピッタリだろうと早合点していたら「いやいや、あらゆるライダー層に向けたものであって、年齢は特に考えていません」とのこと。あえて言うならばWが比較的若いライダーに向けてカラーリングなどを設定していて、メグロの方がベテラン向けの面はあるそうだが、ハードの部分では本当に幅広い層を想定したそうだ。
その話で思い出した。毎週末朝、我が家の前を綺麗なブルーのエストレヤに乗ったおじい様がドタタタタと走っていき、そして夕方にはドタタタタと帰ってくるのだ。そのおじい様を近隣のライダーが集まる名物スポットで見かけることも多いため、彼にとっての習慣なのだろう。週末になったら愛車で出かけて、あそこで仲間と集って、ご飯食べて、また帰っていく。あぁステキ。新生W/メグロもあのように使われることがあるのだろうな。
細部に宿る、扱いやすさのエッセンス
W/メグロはKLXやシェルパとエンジンの基本部分を共有するのだが、こちらはカムプロファイルやクランクマスの変更により低回転域の扱いやすさを追求。加えてファイナルをロング(ハイギアード)に設定しているためオフ車らしい鋭い加速を見せるKLX系に対してより大らかな反応や加速感を持っている。
しかしそういったわかりやすい要素の他に、扱いやすさを実現している部分があると感じる。ハンドルの切れ角がとても大きく小回りが利くことや、クラッチの繋がり感がとてもわかりやすいこと、そしてリアブレーキの感触が非常にコントローラブルなおかげでUターンや微速での車体制御が容易なことなどがソレだ。クラッチについてはまさによりゆったりとコントローラブルな特性を追求して、KLXとは摩擦材を変えているという作り込みよう。軽量コンパクトというだけでなく、こういった部分においても親しみやすさを追求してくれているわけだ。
トコトコ走るエンジンと想定速度
走行性能だが、極上の扱いやすさの延長線上で走っているという印象。特性が作り込まれているとはいえKLX系と共通するエンジンのため実は高回転域も良く回っていくのはかつてのエストレヤと違った特性だが、それでも楽しいのは5000回転付近だ。ロングな減速比を味わいながら早めにシフトアップして、のんびりと加速することに楽しさがある。
速いかと言われれば決して速くはない。頑張って加速させようとすると振動ばかり多く思うように速度が乗らないような感覚もあるし、最高速もせいぜい110~120キロといったところ。このため高速道路を積極的に使うような場面は想像しにくいし、重積載や長距離タンデムも得意ではないだろう。しかし逆にストリートや田舎道をトコトコ走るにはこの上ない豊かさがある。また6速ミッションを採用しているのもキモだと思う。トップギアに入れ、極低回転でトットコ走る感覚は、まさに毎週末我が家の前を行き来するあのおじい様のような使い方にピッタリのハズだ。
なお、筆者が乗った時にはリアからの突き上げが強めに感じられたのだが、開発者の話ではコンフォートの追求も命題だったとのこと。サスペンションの設定や、ウレタンの中を空洞化して快適性を確保したシートなど、ギャップの吸収性も重視したそう。それが筆者にフィットしにくかったのは想定身長/体重から外れていたからではないかとのこと。身長は160~170cm、体重は60kgが想定されているそうで、そのサイズのライダーならばもともと良いバランスにある車体の、さらに芯に座ることができハンドリングや快適性を享受できるとのことだ。
まさに「幅広い層」に
頑張らない・頑張らせない。試乗距離が伸びるほどにそんなことを考え始めていた。W/メグロの走行性能的限界値は高くはない。しかしその限界値に達する手前の領域に深みがあり、そこをいかに楽しむかが大切なのだ。試乗して感じたのは、このモデルの「溶け込み感」。誰が乗ってもすぐに馴染むことができ、かつどこに乗っていってもそのシチュエーションにもすぐ馴染む。このモデルに関わる全ての人や環境に対して、逆撫でしてしまう要素がないのだ。
幅広いライダー層だけでなく、幅広い環境にもフィットする新生W/メグロ。日常にバイクという移動体をオシャレに取り入れたい人にお薦めしたい。
(試乗・文:ノア セレン、撮影:富樫秀明)
■エンジン種類:空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ ■総排気量:232cm3 ■ボア×ストローク:67.0×66.0mm ■圧縮比:9.0 ■最高出力:13kW(18ps)/7,000rpm ■最大トルク:18N・m(1.8kgf-m)/5,800rpm ■全長×全幅×全高:2.125×800×1,090mm ■ホイールベース:1,415mm ■シート高:745[740]mm ■車両重量:143kg ■燃料タンク容量:11L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):90/90-18M/C 51S ・ 110/90-17M/C 60S ■ブレーキ(前・後):油圧式シングルディスク・油圧式シングルディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:パールアイボリー×エボニー、メタリックオーシャンブルー×エボニー[エボニー×クロームメッキ] ■メーカー希望小売価格(消費税8%込み):643,500 [720,500]円 ※[ ]はMEGURO S1
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