Facebookページ
Twitter
Youtube

試乗・解説

昨年、2022年の秋に2023年モデルとして発売されたカワサキKLX230SM。デュアルパーパスモデルをベースに、倒立フォークや前後17インチホイールを装着した走りをチェック。ライディングした印象と共にモタードモデルのメリットをきっちり検証する。
■試乗・文:濱矢文夫 ■撮影:富樫秀明 ■協力:カワサキモータースジャパン https://www.kawasaki-motors.com/■ウエア協力:アライヘルメットhttps://www.arai.co.jp/jpn/top.html 、KADOYA https://ekadoya.com/

国内モデルの新型モタードはひさしぶり

 カワサキKLX230SMは名前からもわかるように、市街地などオンロードから林道などオフロードも楽しめるデュアルパーパスモデルとしてデビューしたKLX230がベースになった。スーパーモタードを略して簡単に“モタード”と呼ぶことが多いこのカテゴリーをいまさら説明しなくてもみなさんはご存知だろうが、念のために解説すると、ダート走行を考慮したバイクにオンロードで主流の17インチ外径のホイールとタイヤを履いて作られたオンロードスポーツのことをいう。だから、KLX230ではオフロードで定番のフロント21インチ、リア18インチホイールを装着していたが、これではレシピ通り前後17インチのワイヤースポークホイールに変わった。

 乗ってみると「やっぱりモタードはおもしろいなぁ」としみじみと思わせる走りを体感できた。これは忖度などまったくなく素直な感想である。その理由の核となっているのは、カワサキは手を抜かずちゃんとモタード専用に作り込んできたところだ。少々乱暴だけど、様々なコストのことを考えて単純にホイール径を小さくしてサスペンションセッティングをちょいちょいっとオンロード用に変更するだけで終わることもできたはずだが、KLX230SMはそうしなかった。

Kawasaki_KLX230SM

専用にコストをかけて作り込んできた

 正立フォークだったKLX230に対し倒立フォークにしてきた。前後の荷重バランスが良く、フロントに必要な分だけの荷重がかかっていて、常にフロントタイヤのグリップを感じられる接地感の良さ。雨が降ったり、段差があったり、やや汚れていたりといろんな路面状況が出てくるストリートで、どの場面でも安心感を持てる。それでいてフットワークが気持ちいいほど軽く、クルクルと自由自在に向きを変えていく。バイクがとてもコンパクトに感じる操作感。トリッキーな動きがほとんどなく、軽快ながらも気遣いはいらず。舵が入るのがクイックすぎないところはデュアルパーパスモデルから派生した美点だろう。スパッと向きが変わるというよりリーンさせて曲げていくコントロールしやすさがありながら大回りとは無縁。深くリーンさせていくことをいとわない安定と走りの軽快さの釣り合いはGOOD!

 ペリメターフレームに単気筒エンジンを積んだシンプルな構造で136kgと、公道250ccクラスのバイクとして軽いところも見逃せないポイント。これもモタードの取り柄だ。正立フォークより剛性の高い倒立フォークにしたことで、オン、オフに使えるKLX230より舗装路で喰い付くタイヤを履いていても、やはりしっかりした印象。φ300mmとデュアルパーパスバージョンより大きなブレーキローターにツインピストンキャリパーを組み合わせたフロントブレーキで急制動していくときにフォークが奥までギューッと入り込みつつ減速Gを高めながらレバーを握りこんでいくのが気持ちよくキマる。ABSの介入が早すぎないからスポーツライドしたい意思を邪魔しない。これの前に存在したカワサキのモタード、DトラッカーXよりも個人的には好みで、御しやすく心がはずむスポーツ性だと思った。

Kawasaki_KLX230SM

特有のメリットはたくさんある

 ハンドルバーのグリップを握ると背筋が路面に対して垂直になるアップライトなライディングポジションは、疲れにくく顔が起きることで自然に遠くまで見通せ混雑した街中でも状況判断をしやすい。軽くてハンドルが大きめに切れるから、狭いところでもスイスイっと入って行けUターンもおちゃのこさいさい。デュアルパーパスモデルから譲り受けた転倒しても一般的なオンロードモデルより壊れるところが少ないところもある。デュアルパーパスモデルベースとなると多くの人が気になるのは足着き。シート高は845mmでシート座面の形状と車体の細さから、身長170cmで短足な筆者でも両足が無理なく地面に届いた。幅広いシチュエーションで活躍する使い勝手の良さがこの新型モタードバイクの利点だ。

 クセらしいところが見当たらない空冷4ストロークSOHC2バルブ単気筒エンジンは、フラットに近いトルクが低回転域からレブリミット手前まで続き、右手の動きに合わせたレスポンスもほどよい。14kW(19PS)/7600rpm、19N・m(1.9kgf・m)/6100rpmの数値から特筆したくなるほどの加速はない。しかし1速から5速は各ギアのつながりがよく、スペックから想像するより元気にキビキビと進む。オーバードライブの6速は高速道路や郊外のバイパスなどそこそこのペースで一定に進む燃費モード向け。都市部の加減速が多いシチュエーションでもギクシャクせずスムーズで、ナーバスなところは顔を出さない。

 唯一、高速道路は得意分野には入らないかな。エンジンはKLX230同様に120km/hで点火カットが入るし、そこまで速度を出すと向かってくる風に両手を広げ抱きつくように受けて押される。そこではエンジンの回転数を上げて頑張るより燃費も考えて、80〜100km/hくらいで流すのがちょうどいい。スピードを高めてのスタビリティは良好。フロント21インチホイールとデュアルパーパスタイヤを履いたKLX230より高速直進時に落ち着きがある。誤解されると困るのでつけくわえるが、得意ではないだけで不十分じゃない。それはとらえ方次第なところもあるので、「高速道路でロングライドも気にならんよ、ばっちこーい」という人がいても不思議じゃない。ただし基本的なポテンシャルは担保している。

Kawasaki_KLX230SM

オワコンとは言わせない

 令和5年の現在、モタードカテゴリーは盛り上がってはいると書いてしまうと嘘になってしまう。国産の排気量250ccクラスでは今やこれだけというさびしさ。というか、ベースとなるデュアルパーパスモデルじたいが減ってしまった。だけど、説明してきたように、モタードならではの走る楽しさやメリットが確実にある。少し扇情的な表現をしてきたけれど、そう書きたくなるほど好印象だったというわけだ。気分上々でついついアクセルを大きく開けて高回転を多用して走ってしまう。
 KLX230SMは明らかに主張してくる。まだモタードは終わっちゃいない。
(試乗・文:濱矢文夫、撮影:富樫秀明)

Kawasaki_KLX230SM
Kawasaki_KLX230SM
ライダーの身長は170cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

Kawasaki_KLX230SM
Kawasaki_KLX230SM
デュアルパーパスモデルのKLX230/Sにはなかったブラック塗装された空冷4ストロークSOHC2バルブ単気筒エンジンは、ボア×ストローク=67.0mm×66.0mmとほぼスクエア。ø32mmスロットルボディのフューエルインジェクションを採用。始動はセルモーターのみ。左側に出てからフレームを巻くようにして右側に伸びながら管長を確保したエキゾーストマフラーは低中回転域のトルクを考慮したもの。バランサー入りでスムーズ。変速は6段。角パイプと丸パイプを合わせたペリメターフレームに積まれる。

Kawasaki_KLX230SM
Kawasaki_KLX230SM
KLX230/Sの正立フォークからSHOWA製倒立フォークに変更。オンロード主体なので当然ながら正立フォークについていた蛇腹ラバーのフォークブーツはなく、かわりに樹脂ガードを装備している。インナーチューブ径はφ37mm。フロントのホイールトラベルは204mm。ゴールドアルマイトを施された17インチ径のワイヤースポークホイール。フロントのリム幅は3.00。シングルディスクのローター径はφ300mm。キャリパーはピンスライド式2ピストン。前と後ろの2チャンネルABSは標準。

Kawasaki_KLX230SM
Kawasaki_KLX230SM
リアホイールのリムサイズは17×MT3.50とそれほど太くない。リアサスペンションはシングルショックのボトムリンク式。ホイールトラベルはフロントより少ない168mm。ディスクローター外径は220mm。純正タイヤはIRC RX-01。ペグにはデュアルパーパスモデルのKLX230/Sにはなかったラバーが付いている。タンデムステップのフレームはボルト止め。リアフレームはメインフレームに溶接。

Kawasaki_KLX230SM
Kawasaki_KLX230SM
フレームに潜り込むようにレイアウトして低くおさえシートとの段差をなくした燃料タンクはKLX230/Sと同じレイアウト。7.4Lの容量も変わらない。シュラウド部分からシームレスでニーグリップエリアまでつながる外装でフィット感がいい。シート高は845mm。このキーロック付ケースがついたリアキャリアは標準ではない。カワサキのこだわりでもある独立したヘルメットホルダー付。

Kawasaki_KLX230SM
Kawasaki_KLX230SM
デュアルパーパスモデルのKLX230/Sのときは大きくて凸面になった特徴的なヘッドランプ形状だったが、SMではキリッとした薄くて戦闘的なフェイスに変わった。これで印象はガラリと大きく変わった。KLX230/Sはバルブ式だったが、SMはLED。ウインカーはクリアレンズのオレンジバルブ。テールランプはLEDではなくバルブ式。パイプのキャリアには荷掛けフックが4つ付いている。

Kawasaki_KLX230SM
Kawasaki_KLX230SM
モノクロ液晶で速度はデジタル表示のメーター。速度の右隣にあるカコミ部分はギアポジションインジケーターではなくバッテリー電圧の警告灯。燃料計、オド、デュアルトリップ、時計を表示。この車両はETCを装備しており、受信機がメーター右側に、ETCカードが認識されたかどうかのインジケーターランプがメーター左側にある。デュアルパーパスモデルの名残で、深いワダチなどで地面と接触してもチェーンが外れにくい取り囲むタイプのチェーンガードがある。

Kawasaki_KLX230SM
Kawasaki_KLX230SM
●KLX230SM 主要諸元
■エンジン種類:空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ ■総排気量:232cm3 ■ボア×ストローク:67.0×66.0mm ■圧縮比:9.4 ■最高出力:14kW(19ps)/7,600rpm ■最大トルク:19N・m(1.9kg-m)/6,100rpm ■全長×全幅×全高:2.050×835×1,120mm ■ホイールベース:1375mm ■シート高:845mm ■車両重量:136kg ■燃料タンク容量:7.4L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):110/70-17M/C 54P ・ 120/70-17M/C 58P ■ブレーキ(前・後):油圧式シングルディスク(ABS)・油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:エボニー ■メーカー希望小売価格(消費税8%込み):572,000円

[『KLX230 Sの試乗インプレッション記事』へ]

[『KLX230の試乗インプレッション記事』へ]

[新車詳報へ]

[カワサキのウエブサイトへ]

2023/02/22掲載