ザ・トラディッショナル。パイプ構成のダブルクレードルフレームに直列4気筒エンジンを搭載し、オーリンズ製のまばゆいばかりの正立フォークと2本のリアショック、フロントのブレーキにはラジアルマウントされる対向4ピストンのブレンボキャリパーを装着する。その構成を見るまでもなくCB1300 SUPER BOL D‘ORはその名の通り、さらに金杯に相応しい存在だ。こんな贅沢なパッケージのバイクが何時までもその歴史を紡ぐのだろうか。ちょっと不安になるほど愛おしい存在。そのSPに乗った。
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:渕本智信 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、SPIDI・56design https://www.56-design.com/
PROJECT BIG-1──その文字の並びが語る長い歴史。1992年のCB1000 SUPER FOURに端を発した大排気量直列4気筒を搭載したネイキッドモデルの系譜は、30年以上を経過した今もCB1300SUPER FOUR、CB1300 SUPER BOL D‘ORへと受け継がれている。時の花形でもあったビッグネイキッドは、厳しさを増す環境規制を背景に一台、また一台と競争相手が消え、それでも孤軍奮闘を続けるのがホンダのCB1300シリーズだ。
その魅力は一言で言って重厚なる存在感だ。ゼファー、ZRX、XJR、GSX、バンディット……。そんな比肩するライバル不在の中、新たにZ900RSやKATANAといったレーサーレプリカ系のユニットをベースにしたアジリティと軽快性に富むニューウェーブが人気を集めて久しい。その時代の波に洗われた既存(過去の?)の存在は色あせるのみなのだろうか。
CB1300 SUPER BOL D‘OR SPに乗るのは1年ぶり、いやもう少し時間が経ったかもしれない。実は以前に乗ったモデルの個体差なのか、ちょっとらしからぬ動きをする場面があった。具体的に言うと、アクセルの開け口のところ、スロットル開度の微少領域でドンツキがあり、左折の小回りやUターンでちょっと手強さを感じる場面があった。
味付けとして、そう簡単に手なずけられると思うなよ、というBIG-1なバイクからのメッセージ? とも解釈したが、CB1300シリーズが培ってきた従順なまでの扱いやすさが好みだった自分は、ライディングモードとバイワイヤースロットル採用を機にマップを変えキャラ変したのか? と思った。ホンダの造り手も時代とともに変化して、それぞれのCB像を描いたに違いない、そう考えた。それが数回続き、キャラ変が確信に変わった。
もう完全にラブ&ヘイト、好みの世界の話なのでそれ以上でも以下でもないのだが、CB1000Rを含むレプリカ由来のエンジンを搭載したモデル達に対する大排気量長兄からのメッセージにも思えるそれは、それでもしばらく喉に刺さった魚の小骨のように僕の記憶にとどまった。
以前、数回味わったキャラ変な部分は、最新モデルではむしろキレイに調教され、迫力や満足度の高さはそのままにすっかり扱いやすい特性に進化していた。進化、と書くと以前のそれがいかにも荒削りなものに採られるかもしれないが、この際、進化と言わせて欲しい。まとまった感が凄くあったからだ。
詳細をお伝えしよう。CB1300 SUPER BOL D‘OR SP、スタイルはそのまま、このSPモデルでは塗装のフィニッシュも濃い深みを見せるクリアコートの厚みが印象的。また色使いにも歴代CBの様々なモデルが引用されている。僕には最終世代の角目のCB1100Rが採用した色使いに見える。それをノスタルジー一辺倒ではなくさらりと蘇らせているのが美しい。
そしてSPモデルの煌めきを支えるゴールド調のフロントフォーク、イエロースプリングとサブタンクを背負ったリアショックが決め手だ。ホイールのゴールドもやはりブーメランコムスターホイールを同様の色調で魅せたCB1100Rを思い出す。そのスポークは細身でクールそのもの。通常モデルと同じながら別枠感を醸し出しているのはさすがだ。
エンジンを始動すればマフラーから吐き出される音圧と4気筒等間隔爆発だけが持つトーンときたら……。現行モデルは文句なしに聞き惚れる音をもっている。どちらかと言えば荒々しく猛々しさも少しスパイスとして加味されたその音と、微少なアクセル開度からの一体感は音からイメージする迫力とマッチするのだが、畏怖の念を抱くほどグワっとは来ない。上手くチューニングされていた。
市街地の渋滞も左折も右折待ちの発進も思いのまま。綺麗に巨体と一つになれた。そして荒れた路面が少なくない街中でもオーリンズ製のサスを専用にチューニングした足周りの吸収力は抜群。特にフロントからのフィードバックは心地よく、ダンロップのロードスマート3との相性もしっかり採られているようで悪路が逆に気持ち良いくらいだ。リアからは多少の突き上げが入るが、それでもビシバシ来ることはなく、マイルドで角を丸めた入力にほっとする。
エンジンは低い回転から充実のトルクをだし、2500rpm以上は要らないとばかりにシフトアップと少しスロットルを開け増すだけでグワっと押し出し感を楽しめる。シフトとアクセル、そしてブレーキングなどをシンクロさせるだけでSPだけがもつ上質なライディング時間が紡がれる。
高速道路では100km/hにクルーズコントロールを合わせて定速で流すのも時に追い越し車線でダッシュを決めるのも楽しい。山間部にさしかかり長くリーンしながら左右に切り返すコーナー区間をゆくCB1300 SUPER BOL D‘OR SPは手応えのある操縦感とパワーを楽しめる。しっかりとまとまりのあるそのハンドリングは、動きの鋭さではなくライダーの気分を高揚させるのに充分なリターンを持っている。
ワインディングでは高速コーナーよりも動きにスポーティさが優先されたような身軽さが味わえる。基本、手応えのあるタイプだ。もちろん、前後のオーリンズを調整して車体の姿勢を少しスポーツよりに仕立ててゆけば世界が変わることも想像は出来るが、きっとその先には重さを意識させる境界線が迫る気がする。このバイクの重さは、手応えとして味わうためにある。素直な手応えで、ダルに感じないチューニングの良さを引き出せばよい。だからこそ270㎏超の重さが走っている限りビッグバイクを楽しむ要素として成立している。なんて奥深いバイクだろう。
2003年、3代目となる現行型(大きく言えば)はエンジンレスポンス、駆動系と人の感性をしっかりと、それでいて心地よく繋ぐ進化を与えた。2005年に登場したのがCB1300 SUPER BOL D‘ORだ。その時点から数えても20年。環境規制が強化された他、時に世界基準に準拠した結果、パワーの取り出し方にも幾分か変化があった。そのまとめ上げには多くのリソースが注がれ、現在のカタチを成している。どの時点でもその時々がベストであり、今のモデルは自己新更新とも言えるバイクだ。こんな熟成のされ方は、バイクの理想郷だろう。
重さを嗜む世界。どこまでも探求して欲しいとも思うし、ファイナルコールが聞こえるような気もする。間違いなく人が突き詰めた感性の最先端でもあるCB1300 SUPER BOL D‘OR。鉄フレーム、大きなエンジン、コンベンショナルだけど良質なシャーシ。それを彩るサスペンション。なにが付いているか、ではなく、どうまとめたか。このバイクはそこまで詰めた造り手の心意気を味わい、思いを買うバイクなのかもしれない。
(試乗・文:松井 勉、撮影:渕本智信)
■型式:ホンダ・8BL-SC54 ■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:1,284cm3 ■ボア×ストローク:78.0×67.2mm ■圧縮比:9.6■最高出力:83kw(113PS)/7,750rpm ■最大トルク:112N・m(11.4kgf・m)/6,250rpm ■全長×全幅×全高:2,200×825×1,215mm ■ホイールベース:1,520mm ■最低地上高: 140mm ■シート高: 790mm ■車両重量: 272kg ■燃料タンク容量:21L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C・180/55ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:パールサンビームホワイト、パールホークスブルー ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み): 2,046,000円
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