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試乗・解説

2023年11月に発表されたロイヤルエンフィールドの新型「HIMALAYAN 450/ヒマラヤ・ヨンゴーマル」。2024年春に日本各地で開催されたモーターサイクルショーにも展示され、大いに話題となった。その新世代アドベンチャーモデルの国内発売がスタートした。ここでは、その新型車を国内で走らせた印象をまとめてみた。

■試乗・文:河野正士 ■撮影:関野 温 ■協力:ロイヤルエンフィールドジャパン(総輸入発売元:ピーシーアイ株式会社)https://www.royalenfield.co.jp  ■ウエア協力:クシタニ https://www.kushitani.co.jp/

 ロイヤルエンフィールド(以下RE)初の水冷エンジンを搭載し、フレームや足周り、外装類を一新した新型「ヒマラヤ450」。意識的に電子制御デバイスの採用を控え、オーセンティックでクラシカルなデザインや車体構成を貫いてきたREのモデルラインナップの中から新型「ヒマラヤ450」を見ると、水冷エンジン然り、初のライド・バイ・ワイヤ・システムの採用然り、出力特性が異なる複数のライディングモードの搭載然り、NAVI画面を表示できるTFTフルカラー液晶ディスプレイの採用然り、アタマひとつ、いやアタマふたつくらいモダンなバイクに仕上げられている。

#RE_Himalayan4509
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 その発表直前にヒマラヤ山脈の玄関口の街として知られるインド・マナリで開催された国際試乗会に参加し、ヒマラヤの山々を走らせたときのインプレッションやそのモダンになった車体詳細は、すでに公開した試乗・解説記事としてお伝えしたとおりなので、そちらをご一読いただきたい。

 そもそも「ヒマラヤ」というモデルは、2018年に空冷411ccエンジンを搭載した初代が発表されたときから、標高5000mを超える山々が連なるヒマラヤ山脈を駆けるツーリングを、普段は街中で150ccくらいのスクーターを乗るライダーが、安全に、そして確実に走りきれるように、エンジンのパフォーマンスや車体サイズが決められた、じつにニッチなマーケットに、いやマーケットと言うよりごく一部のライダーに向けられた特異なプロダクトだった。インド北東部に横たわるヒマラヤ山脈を走るツーリングは、ツーリング好きのインド人ライダーにとってはバイク人生で一度は走っておきたい、日本で言うところの北海道ツーリングにも似た、ライダーの憧れの場所だ。

#RE_Himalayan4509
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 しかし、そのミクロの視点で開発されたバイクは、マクロな二輪マーケットで大いにウケた。奇しくもハイパワー化とテクノロジーの進化によって、その恩恵がごく一部の手練れライダーしか享受することができなくなり、それに反発するように小排気量化/レス・パワー&テクノロジーを求める声が、先進国を中心とした二輪マーケットで勢いを増したタイミングとリンクしていたのだ。そして旧モデルである「ヒマラヤ450」は、REが想像した以上に、インド以外の、多くのマーケットで受け入れられたのである。

 その最新モデルである新型「ヒマラヤ450」は、ヒマラヤの山々を走るというニッチで重要な使命を継承しつつ、二輪先進国を中心に大きなマーケットを持ちながら、デザインもパフォーマンスもガンダム化したアドベンチャー・カテゴリーのなかで「ヒマラヤ450」が高みに登るための新たなピッケルになるべく、パフォーマンスやディテールが選択されている。分かりやすく言えば、いままで欧州および日本メーカーがリリースしてきたアドベンチャーモデルに乗るライダーを取り込むために、各部を戦略的に開発および選択しているのだ。

#RE_Himalayan4509
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 しかし試乗の舞台となったインド・マナリは、標高2000mから3000mの高地。試乗前に行われた技術説明会では、標高3000m付近では出力が20〜30%ほど低下すると説明された。そんな場所でも新型「ヒマラヤ450」はよく走った。モード変更の仕方や、丸型4インチのTFTディスプレイにナビゲーション画面を表示する方法のレクチャーなどスタート前のバタバタで、前日に聞いた高地走行による出力低下をスッカリ忘れていた自分は、40PSってこんな感じだっけ? 登り勾配もキツいから1速低めのギアを選択して高回転をキープすれば、なかなか良いペースで走れるな…などと考えていたくらいだ。30分ほど走った最初の休憩で、すでに標高が3000mを超えていたことを同行したジャーナリストに聞き、そこで30%の出力ダウンを思い出し、それでもコレだけ走るのかと驚愕した。コレ、海抜ゼロとは言わないまでも、いつもの日本の道だったらかなりイイ感じなんじゃないか、と。

 そう思って、新型「ヒマラヤ450」を日本の道に連れ出した。高速道路を使って郊外まで走り、そこでワインディングやオフロードを走らせることができた。結論から言えば、あらゆるシチュエーションで走りを楽しむことが出来た。しかも、かなり楽しかった。排気量452ccの大型バイクに対する表現としては適切ではないかもしれないが、かつて250ccオフロードバイクで、ときには高速道路を使って遠征もしながら林道を走りまくり、ツーリングを楽しんだあのころが、強烈に甦った。そしてあのとき感じた高速道路での居心地の悪さやワインディングでのパワー不足と言った不満を、新型「ヒマラヤ450」はことごとく解消していたのである。どんな場所にも、どんな路面コンディションにも、躊躇無く出かけられる、入っていける。そんな風に感じたのだった。

#RE_Himalayan4509
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 そう思わせる一番の要因は、REがこだわったアクセシビリティの良さ。要するに、取っつきやすく、扱いやすい車体だ。燃料タンク上部までシートが伸びたオフロードバイクとは異なり、そこは大型アドベンチャーバイクらしく、新型「ヒマラヤ450」は燃料タンク後端にシートが配置されている。そのシートは、先端こそ細くシェイプされているが、座面は広く、車体の中心に着座することによって走行安定感が高い。そして高速道路などを使った長距離移動が快適で、そのメリットを造り出している。しかも単気筒とは言え排気量452ccのエンジンは余裕があり、最高速120km/h区間も余裕でこなす。速いエンジンのピックアップを必要としない高速道路での移動なら、4速までのスロットルレスポンスや出力を抑えたエンジンの出力モード/エコ・モードを使用すれば、移動時のストレスを低減し、燃費向上も図ることが出来る。

 また先端を細く絞ったシートと、その形状とリンクするように細く、そして低くした燃料タンク後端の形状によって、スタンディングポジションをとったときは、ヘルメットがヘッドライト付近に来るまで上体を前に傾けるようなライディングポジションを採ってもシートや燃料タンクはその動きをサポートする形状であり、より積極的にフロント荷重が掛けられるようになる。他のアドベンチャーモデル同様、オフロードバイクのようにタンクキャップ付近まで腰をずらすことはできないが、ライダーの移動範囲は広く取られていて重心移動もしやすい。

#RE_Himalayan4509
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 この座っても良し、立っても良しのライディングポジションがあるからこそ、かつて250オフロードバイクで走り回っていたときのように、どんな場所にも、どんな路面コンディションにも、躊躇無く出かけられる、入っていける、というわけだ。

 エンジンについても触れておかなければならない。出力が30%もダウンする標高3000mの地でもあれだけよく走ったんだから、日本の街中や高速道路なら、それはもうブリブリっと走るだろうと短絡的に想像していた。このブリブリという出力イメージは冗談ではなく、高性能単気筒エンジンと聞いて僕が想像したのは排気量450ccのモトクロッサーであり、そんな暴力的なパワーではないにしろ、ブリブリっとリアタイヤが路面を力強く蹴りつけるような、そんなモダンな単気筒スポーツエンジンのフィーリングを想像していた。しかし“シェルパ450(ヨンゴーマル)”と名付けられた、新型「ヒマラヤ450」に搭載された排気量452cc水冷単気筒4バルブDOHCエンジンを日本で走らせると、その想像には少し修正が必要だった。

#RE_Himalayan4509
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 シェルパ450エンジンは、標高3000mのインド・マナリで試乗したときよりも、確かに力強かった。3〜4000回転もエンジンを回せば、十分に速い。しかしビックボア・ショートストロークのモトクロッサー的な、鞭で弾くような爆発感とはまるで違う。そのときに、開発陣から聞いた「単純なボアストローク比では、ピストン直径に対してストローク量が短いショートストロークエンジンだが、他の450エンジンと比べるとストロークは長く、また低回転域から十分なトルクを生み出すクランクのイナーシャ(慣性重量)とそのストローク量をうまくバランスさせて、誰にでも扱いやすい出力特性を目指した」というコメントを思い出した。そう、シリンダー内で繰り広げられる爆発力だけでリアタイヤを駆動している感覚とは違い、その爆発力の角が柔らかく、低回転からでもアクセルを開ければエンジンの爆発によってリアタイヤが路面を掴んでいるような感覚がよく分かる。それはオンロードでもオフロードでも変わらない。特に林道では、タイヤが路面を掴む感覚が安心感となり、また高回転を使わずとも車体が前に出て行くことで、不整地でのアクシデントのリスクを減らし、ストレスも軽減出来る。標高が高いと低中回転域のパワー感とトルク感が希薄になるので、ついつい高回転を使いがちで、マナリでの試乗ではその感覚を掴めずにいたのだ。このフィーリングは旧ヒマラヤ450も持ち合わせていたものだ。

 もちろん高回転を回せば、モトクロッサーやエンデューロレーサーと同等とは言わなくても、排気量400ccオーバーのモダンなエンジンが持つパワー感やフィーリングを感じることができる。同じく車両販売が始まった北米や欧州、オーストラリアなどの手練れのオフロードライダーから高く評価されているのも頷ける。

#RE_Himalayan4509
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 2024年春に行われた大阪/東京/名古屋モーターサイクルショーでは、既存アドベンチャーモデルオーナーのほか、排気量600ccまわりのツーリングモデルオーナーからも熱い視線を集めていた新型「ヒマラヤ450」。日本のREディーラーには試乗車を用意している店舗も多い。ライトウェイト・アドベンチャーモデルとしてはもちろん、希有な大型シングル・ツーリングモデルとしても、そのポテンシャルを是非体験してみて欲しい。
(試乗・文:河野正士、撮影:撮影:関野 温)

#RE_Himalayan4509
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●Royal Enfield HIMALAYAN 450諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク単気筒4バルブ ■総排気量:452㏄ ■ボア×ストローク:84.0×81.5mm ■圧縮比:11.5 ■最高出力:29.44kW (40.02PS) /8,000rpm ■最大トルク:40Nm/5,500rpm ■燃料供給方式:FI ■全長×全幅×全高:2,245×852×1,316mm ■軸間距離:1,510mm ■最低地上高:230mm ■シート高:825、845mm ■装備重量:196㎏ ■燃料タンク容量:17.0L ■懸架方式(前・後):SHOWA製φ43mm倒立フォーク(ホイールトラベル200mm)・リンク式モノショック(ホイールトラベル200mm)■変速機形式:6段リターン ■ブレーキ(前・後):BYBRE製φ320mmシングルディスク/ダブルピストンブレーキキャリパー・φ270mmディスク/シングルピストンブレーキキャリパー ■タイヤサイズ(前・後):CEAT製90/90-21・140/80R17 ■メーカー希望小売価格(消費税込み):880,000円〜

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[『モトヒマラヤ・ツーリングレポート』へ]

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2024/09/08掲載