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試乗・解説

何もかもが新しくなったヒマラヤ でもそこかしこに、初代から受け継ぐ ヒマラヤDNAが息づく Royal Enfield Himalayan
■試乗・文:河野正士 ■撮影:高島秀吉 ■協力:ロイヤルエンフィールド東京ショールーム ■ウエア協力:クシタニ https://www.kushitani.co.jp/




2023年11月にイタリア・ミラノで開催されたEICMA2023で、ロイヤルエンフィールドが新型「ヒマラヤ」を発表した。しかしその僅か1週間前、ヒマラヤ山脈の麓の街インド・マナリで、その国際試乗会も開催された。標高2000mのコテージをベースに3000m超えの高地で行われた、その試乗会で感じた新型「ヒマラヤ」の詳細を紹介する。

 ヒマラヤは、やはり良かった。それはヒマラヤという場所も、そこで国際試乗会が開催されたロイヤルエンフィールドの新型車「ヒマラヤ」も、である。

 ロイヤルエンフィールド(以下RE)が、自社初のアドベンチャーモデル「ヒマラヤ」をリリースしたのは2018年。年間2000万台のバイクが販売されるインドで、その8割近くは排気量150cc以下のスクーターやライトモーターサイクルと呼ばれる小排気量車。それらはインドの人々にとって、日々の重要な交通手段となっている。そんな彼らが、聖地巡礼のように、インド北東部に横たわる憧れのヒマラヤの山々を巡るツーリングに出かけるとき、レンタルバイクショップで借りた慣れないバイクでも、安全に、確実に、そして最高の旅を演出するために開発されたのが「ヒマラヤ」である。411ccという排気量も、空冷エンジンも、アドベンチャーモデルとしては華奢な足周りや車体も、でもスリムかつ軽量で足着き性の良い車体と扱いやすいエンジンの出力特性も、すべてはヒマラヤの山々を巡るために選択し、開発したものだ。
 

 
 昨年僕は、約1週間を掛けてヒマラヤの山々を巡る、REが主催するツアー「モトヒマラヤ」に参加し、標高5000m超えの峠を何度も超え、アスファルトから石が転がるオフロード、さらにはフェシと呼ばれる小麦粉のような粒の細かな砂地など、あらゆる路面コンディションを走り、ヒマラヤの過酷さを体感した。しかしそのときの相棒が「ヒマラヤ」だったことから、その旅は僕の人生で忘れられないものになった。ヒマラヤも、「ヒマラヤ」も、素晴らしかったのだ。

 その相棒だった「ヒマラヤ」が、新型になった。エンジンも、フレームも、サスペンションも、外装も、すべてが一新されていたが、新型「ヒマラヤ」はそのDNAをしっかりと受け継いだモデルだった。

「ヒマラヤ」のDNAとは何か。それはアクセシビリティ=とっつきやすさと、ピュアモーターサイクル=バイクらしさ、である。その両方については、「ヒマラヤ」誕生とモトヒマラヤでの経験ですでに説明したとおり。またアクセシビリティとピュアモーターサイクルは、REのすべてのモデルの根底に流れているコンセプトでもある。しかしアドベンチャーモデルは、そのキャラクター故に、それを選択するライダーを限定する、ある意味特殊なカテゴリーである。だからこそ「ヒマラヤ」には、そのふたつのDNAというかコンセプトを、他のモデル以上に意識し、より身近な存在とする努力を至る所に見ることができる。
 

 
 たとえば、全く新しくなったエンジンだ。RE初の水冷、RE初のDOHCを採用したそのエンジンは“SERPA450/シェルパ・ヨンゴーマル”と名付けられた。何故水冷か/DOHCかとエンジニアに尋ねたときに、彼らはまずパワーのためとは言わなかった。水冷化はエンジンの発熱をコントロールすることで耐久性を高め、標高や気温といったコンディションの変化にも対応し、安定したパフォーマンスが提供できるから。またDOHC化は、直動式などバルブ駆動の効率化を図ることによって、パフォーマンス向上はもちろんエミッション対策における効能の方が大きいと語った。

 シリンダーを前傾させることで、エンジンをライダーに近い位置に搭載するとともに、シリンダー前傾によって生まれたスペースを利用し、高い位置から直線的に吸気を行い、吸気効率を高めるダウンドラフト吸気を採用することで、マスの集中化とエンジンパフォーマンスの向上が図られている。またエアクリーナーボックスと燃料タンクのレイアウトに高い自由度を生み出し、低シート高を実現。セミドライサンプ化することでエンジン全高を抑えたとは言え、前モデルから最低地上高を10mm高めながらの低シート化は至難の業だっただろう。それでも前モデルからシート高は25mm高くなっているが、シート形状とともにフレームや外装のウエスト部分のダイエットが進み、足着き性はとても良い。

 また3000回転で最大トルクの90%を発揮すると同時に、良好なクランクイナーシャを作りだし、低回転域、とくにシフトダウンをサボってエンジン回転が低下した状態からの加速なども想定してエンジン特性を作ったという。

 クランク周りの慣性重量=イナーシャは重ければ良いというものではない。クランク周りの重さやボアストローク比などを総合的に鑑みて作り上げる。ボアストローク比だけを見ればショートストロークになっているが、この排気量のエンジンにしては依然ロングストロークを維持していて、それによってさらに良好なイナーシャを作り上げていると、開発者は力強く語った。それを証明するように、シェルパ450のエンジンキャラクターは、まさに「ヒマラヤ」だった。
 

 
 アイドリング時は、これまでの空冷エンジンはアチコチからメカノイズが聞こえてきたが、シェルパ450エンジンはじつにジェントル。そこからアクセルを開けば素早くエンジン回転を上げる。しかしそれは、同じ水冷450単気筒エンジンを搭載する、モトクロッサーやエンデューロレーサーのそれとは明らかに違う。開発者が言った、依然ロングストローク特有の出力特性を維持しているということをすぐに感じることができた。

 走り出せばもちろん、旧「ヒマラヤ」とも同排気量のモトクロッサーとも、そして同カテゴリーのライバルたちとも、その乗り味や開発者たちが狙った新型「ヒマラヤ」のキャラクターが別の場所を目指して開発されていることがすぐに分かる。

 いたずらにエンジン回転を上げなくても、それこそ4~5000回転も回っていれば、ワインディングをソコソコのペースで走ることができる。それも、出力が20%ほど低下する標高20000~3000m付近での試乗であっても、である。この事実を単純計算すると、海抜0m地点では、エンジン回転を1000回転ほど下げた3~4000回転あたりでも、十分に速く走れると言うことだ。もちろんレッドゾーンとなる8000回転付近までエンジンを回して加速すれば、そこまでしっかりと加速が続くが、低中回転を維持して走る方が新型「ヒマラヤ」には合っていた。
 

 
 そう思わせた大きな理由は、シャシーだろう。新設計したフレームは、エンジンをフレームの一部として活用するツインスパータイプ。先に述べたようにマスの集中化を進めながら、スイングアーム長を伸ばしたことなどで、車体はやや大柄となり、ホイールベースは45mm伸びている。それによって安定指向が強く、ワインディングなどでの切り返しはやや重い。ツーリングモデルとして考えると、この落ち着いたハンドリングはライダーの疲労軽減に一役買うだろう。

 また前後ともにSHOWA製サスペンションを採用。リアのみサスペンションストロークを20mm伸ばしたが、それに加えてリアはリンク式サスペンションに変更。前後サスペンションともに、路面の凹凸を細かく吸収する初期作動が良く、さらには大きなストローク量を活かし、加減速時に車体を積極的に前後移動させれば、ハンドリングはより軽やかになる。この新型エンジンと新しいサスペンションが生み出すコンビネーションが、新型「ヒマラヤ」を大きく飛躍させたと言っていいだろう。
 

 
 シート下のストッパー位置を変えるだけで、スタンダードのシート高825mmから845mmにシート高を変更できるが、オンロードを走るときは845mm、オフロードを走る時は825mmがイイ感じだった。ワインディングでは、シート高が僅かに高くなるだけハンドリングはより軽快になる。オフロード/とくに大きな石が転がるような場所やぬかるんだ場所では、シートに座って両足も駆使し、ライダーとバイクが一体化してクリアして行く場所では、より高い足着き性がライダーをサポートする。

 その高い足着き性を含めたシートアレンジを実現したのは、フレーム後部およびシートレール先端の細さだ。旧ヒマラヤでは直立したシリンダーの後にエアクリーナーボックスがあり、また直押しタイプのモノショックもシート下に配置されていた。それらを配置しながらオフロード性能を高めるグランドクリアランスを維持するには、シート高を高くするか、幅を広げるしかない。しかし新型「ヒマラヤ」は、シリンダーを前傾させダウンドラフト化を実現。燃料タンク中央内側にエアクリーナーボックスを配置し、燃料タンク両サイドにボリュームを持たせたことで、燃料タンク容量もグランドクリアランスも維持しながら、フレーム後部およびシートレール先端を細く仕上げ、足着き性を高めながら、ライダーと車体のフィット感も高めることに成功したのだ。またタンク後端&シート先端の形状を吟味することでスタンディングのライダーと車体のフィット感も向上。オフロード走行時の居住性や運動性能を高めている。ただ不思議だったのは、主要マーケットであるインドのライダーは、オフロードでもほとんどスタンディングしない。したがってスタンディングを強く意識したエルゴノミクス開発は矛盾しているのではないか、と開発者に尋ねた。するとその開発者は、インド人ライダーがスタンディングしないことは重々承知しているが、マーケットを広く世界に向けるとスタンディングの要望は大きい。したがって我々は、旧ヒマラヤ開発時以上に、ワールドワイドのライダーの嗜好や体型をプロダクトに反省する必要がある。スタンディング時のエルゴノミクスは、そのワールドワイドディテールのひとつだ、と返答した。
 

 
 新型「ヒマラヤ」が狙ったのは、車両展開する地域の拡大だけではない。それをうまく表現したのが、試乗会のプレスカンファレンスでREの親会社/アイシャー・モーターのCEOであるシッダールタ・ラルと、EICMAのアンベール時にREのCEOであるB・ゴビンダラヤン。ともに新型「ヒマラヤ」をブルース・リーと称した理由が分かるだろう。

 ブルース・リーは、引き締まったカラダで機敏に動き、対峙する筋骨隆々の大男たちをバッタバッタと倒す。そのことは、見た者を圧倒する大きなカラダや筋肉は、リーの前では無力であり、さほど意味が無い、と。もちろんこの“大男”とは大排気量アドベンチャーバイクであり、それを例えに出すと言うことは、自らがアドベンチャーカテゴリーの一角を成すと強く自覚していることであり、大排気量アドベンチャー所有者やそれを求める予備軍たちも、新型「ヒマラヤ」の購入層として見据えている、ということだ。さらには、ヒマラヤという特殊な場所での走行性能に特化した「ヒマラヤ」というバイクが、世界のフロードを見据えたバイクになったことの宣言でもある。
(試乗・文:河野正士 撮影:高島秀吉)
 

 
 新型「ヒマラヤ」の日本展開は、いまのところ未定だ。しかしその日がやって来れば、日本のライダーたちも、RE首脳陣が新型「ヒマラヤ」をブルース・リーと表した理由が分かるだろう。僕は首脳陣の意見に100%賛同する。新型「ヒマラヤ」は、ブルース・リーである。
 

ライダーの身長は170cm、体重65kg。

 

シェルパ450と名付けられたRE初の水冷DOHCエンジンは、ライド・バイ・ワイヤーとライディングモードも採用。カムは直押しタイプで、カムシャフト周りやピストンピン周りには、DLCコーティングが施されている。

 

フロントフォークは、φ43mmSHOWA製SFF。ストローク量そのものは旧モデルと同じながら、オン/オフ問わずパフォーマンスを高め、乗り心地も向上している。アップフェンダーとダウンフェンダの組み合わせも旧モデルから継承。
リアサスペンションもSHOWA製モノショックを採用。リンク式としている。ストローク量を20mm伸ばしてオフロード走行を中心としたパフォーマンスを向上。動きが良く、奥でもしっかりと踏ん張るサスは、オンロードでのパフォーマンスも高い。

 

燃料タンク両サイドのタンクガードには、新たにロゴをデザインするとともにフックを追加。すでにラインナップされるバッグ類を装着することができる。LEDとなったが、丸型ヘッドライトとミニスクリーンの組み合わせも、先代から継承。
ウインカー一体型のテールライトを採用。それによってリア周りをすっきりと見せることができ、また大きくて重い従来のテールライトを排除することでテール周りに必要以上の強度が不要となり、リア周りの軽量化も実現。

 

燃料タンクキャップのちょうど真下付近にエアクリーナーボックスを配置。ステアリングヘッド周りに吸気口を配置し、川渡りなどでエアクリーナーボックス内に水が進入し難くい。また吸気音をライダーに聞こえやすく、爽快感を与える。
先端がキュッと絞られたシート。サイドキーで簡単にシートを外すことができ、シート下ストッパー位置を変更するだけで、簡単にシート高を変更することができる。スタンダードは825mm/845mm。オプションで、ハイシートも用意されている。

 

フロントは21インチホイールに、専用開発したシアット製バイアスタイヤをセットする。試乗会時には認可が取れておらず試すことができなかったが、チューブレス・スポークホイールもラインナップ。オプションで購入可能なほかや、モデルによっては標準装備されるという。シングルタイプのブレーキはBYBRE製である。
リアタイヤには専用開発したシアット製ラジアルタイヤを装着。ロード寄りの性格だがオフロードでもしっかり機能する。フロント同様、リアにもチューブレス・スポークホイールが用意され、オプションで購入可能なほかや、モデルによっては標準装備される。

 

ハンドルマウントやステッププレートは、バランサー採用のエンジンの振動をさらに軽減するため、ラバーマウントされる。スタンディング時やオフロード走行時など、両マウントに負荷が掛かる状況下でも、しっかりとした操作感で、ラバーマウントであることを感じさせなかった。

 

ハンドルマウント下にはUSB-Cポートを標準装備。アクセサリーのタンクバッグなどを利用すれば、走行中にスマートフォンなどの電子機器を充電することができる。
新しい丸型4インチのTFTフルカラーディスプレイ。ナビゲーションシステム/トリッパを採用。エンジン回転計をベースにした表示では矢印を、ナビゲーション表示では写真のような大画面で地図を表示。スマホと連携して様々な機能を共有できる

 

REの開発陣たちは、新型「ヒマラヤ」を、オフロードバイクともアドベンチャーとも言わず、マウンテンスタンダードとも表現した。ヒマラヤという特殊な場所を安全に、確実に、そして楽しく走りきるためのパフォーマンスが追求されていることは、他のアドベンチャーモデルやオフロードモデルと、明確に異なる。
車体そのものは旧型よりも少し大柄になっているが、跨がったときの下半身のフィット感や足着き性の良さは旧型から継承。しかも新型は、スタンディングポジションも強く意識したエルゴノミクスが造り込まれている。
●Himalayan 諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク単気筒4バルブ ■総排気量:452㏄ ■ボア×ストローク:84.0×81.5㎜ ■圧縮比:11.5 ■最高出力:29.44kW (40.02PS) /8,000rpm ■最大トルク:40Nm/5,500rpm ■燃料供給方式:FI ■全長×全幅×全高:2,245×852×1,316㎜ ■軸間距離:1,510㎜ ■最低地上高:230㎜ ■シート高:825、845㎜ ■装備重量:196㎏ ■燃料タンク容量:17.0L ■懸架方式(前・後):SHOWA製φ43mm倒立フォーク(ホイールトラベル200mm)・リンク式モノショック(ホイールトラベル200mm)■変速機形式:6段リターン ■ブレーキ(前・後):BYBRE製φ320㎜シングルディスク/ダブルピストンブレーキキャリパー・φ270㎜ディスク/シングルピストンブレーキキャリパー ■タイヤサイズ(前・後):CEAT製90/90-21・140/80R17 ■メーカー希望小売価格(消費税込み):未定

 



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2023/12/12掲載