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●文:西村 章 ●写真:MotoGP.com/Yamaha/Honda/Pramac Racing/Gresini Racing/GASGAS/Aprilia/Ducati

 第3戦アメリカズGPは、アメリカ合衆国テキサス州オースティン。場所柄を意識してか、今回のMotoGPサウンドロゴはニイタカニイタカしたブルーグラスっぽいというかカントリーアンドウェスタンぽいアレンジにしたようだけれども、テキサスなのだからどうせならドロドロのブルースアレンジとか跳ねたブギっぽい雰囲気とかにすればもっとカッコよくなったんじゃないか、なあんて思ったりするわたくしは当地のLady Bird Lake沿いの公園に銅像が建つスティーヴィー・レイ・ヴォーンのファンでありまして、どうもそっちに考えがいってしまっていけません。すみません。

 さて、そのアメリカズGPの舞台COTA(Circuit of the Americas)といえば、かつてマルク・マルケスがホンダ時代に圧倒的な強さを見せた場所である。2013年の最高峰クラスデビューイヤー2戦目だった当地で勝利を飾り、史上最年少優勝記録を更新して世界中の度肝を抜いたのが11年前。それ以来、2018年までは毎年優勝。2019年は当時スズキライダーだったアレックス・リンスがバレンティーノ・ロッシとのバトルの果てに劇的な優勝を飾ったことも鮮烈な記憶を残したが、2020年のパンデミックによる休止を挟んで2021年はふたたびマルケスが優勝。2022年は当時ドゥカティサテライトのエネア・バスティアニーニが勝利して、昨年のレースではホンダライダーだったリンスが当地2勝目。

 と、このようにCOTAで行われた過去の数々のレースや、2024年の開幕戦カタールと第2戦の戦況を踏まえて、今回のアメリカズGPを振り返ると、今季の趨勢を実によく示す展開で、日曜の決勝レースも非常に得心のいく内容だった、と感じた方は多いのではないかと思うのですが、みなさんいかですか?

 まずはこの第3戦の週末の流れを最初から振り返ってみると、金曜の走行午前午後を終えて、土曜の予選Q2へ進出を決めたのは上位から順に、ホルヘ・マルティン(Prima Pramac Racing/Ducati)、マーヴェリック・ヴィニャーレス(Aprilia Racing)、マルク・マルケス(Gresini Racing MotoGP/Ducati)、フランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)、ペドロ・アコスタ(Red Bull GASGAS Tech3/KTM)、アレイシ・エスパルガロ(Aprilia Racing)等々、納得の顔ぶれ。

 一発の速さに安定感も加わってきたマルティン、前戦は表彰台を争いながら終盤にギアボックストラブルで涙を呑んだヴィニャーレス、そしてやはり抽んでた天才は新しいマシンと環境への順応も尋常ではないことをすでに証明してしまっているマルケス、3年連続タイトルのかかるバニャイア、というラインアップは土曜のQ2ダイレクト進出も当然だろうけれども、MotoGPルーキーイヤーでまだ3戦目ながら、上位陣を占めるのが当然のような雰囲気をすでに醸し出しているアコスタも、ホントにおそるべき19歳である。

 で、下位に目を転じると、17番手ファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP)、18番手アレックス・リンス(同)、19番手ヨハン・ザルコ(LCR Honda CASTROL)、20番手ジョアン・ミル(Repsol Honda Team)、21番手ルカ・マリーニ(Repsol Honda Team)、22番手中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)。ぶっちぎりの底辺独占である。これではライダーたちも辛かろう。今シーズンはコンセッションを適用されているホンダとヤマハ勢であるが、あまりにもくっきりと明暗が分かれたこのリザルト(とパフォーマンス)を見ていると、当事者である陣営技術者諸氏も悔しいであろうことは容易に想像できるとはいえ、あまりに酸鼻を極めすぎである。

#第3戦 アメリカズGP
※以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。

 とくにこの日の走行後囲み取材では、リンスが「バイクの切り返しが重すぎる」とコメントし、ミルは「開幕前のテストで期待したよりも苦労している。コースが変わっても問題が改善しない。問題の詳細は明かせないけれども進む方向が違っていて、その代償を払っている恰好」……等と述べているのを聞くと、出口の見えない無窮迷路をぐるぐる回っているような印象もおぼえる。他陣営が長足の進歩を続けている状況では、沼のような苦況からの脱出が容易ではないことは容易に察せられるし、魔法の杖のようなものがない以上、一朝一夕でドラマチックな改善がないことも理解はしているけれども、それにしても、ですよ。この現状は、ねえ。

 で、この金曜のパフォーマンスが象徴するように、ホンダとヤマハの選手たちは土曜と日曜も「そういうかんじ」で推移していった。

 さて、上位陣である。

 土曜午後のスプリントはヴィニャーレス優勝、2位はM・マルケス、3位にマルティン。この顔ぶれと順位は前戦ポルティマオと同じ。ちなみに4位はアコスタ、5位にエスパルガロ。

#89
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 こういう結果を経て日曜を迎えると、マルケスは得意のCOTAで移籍後初の復活優勝を遂げるのだろうかとか、ヴィニャーレスはバイクさえ大丈夫なら最後まで高い安定感を発揮して今度こそ勝つだろうかとか、マルティンはやっぱり来るんだろうなあとか、いやいやアコスタが11年前のマルケスみたいにものすごいことをやってしまうんじゃないのとか、様々な予想が多方向に膨らんでいくのは、ある種自然の摂理みたいもんである。

 じっさい、決勝レースが始まってアコスタがホールショットを奪いトップを快走したときは、自宅のテレビやPCの前で「おぉ~」と声を出した人はおそらく世界で3億7000万人くらいいたのではないか。

 その後も、ランキング首位のマルティンとバトルを繰り広げ、キングオブCOTAのマルケスと互角に張り合い、2連覇の世界チャンピオン・バニャイアと真っ向から勝負して、ポールシッターで土曜スプリントの勝者ヴィニャーレスを追走し、最後は2位でチェッカー。すでに表彰台の常連みたいなこの堂々としたたたずまいは、いったいなんなんでしょうね。マルケスが持つ史上最年少優勝記録更新期限(第10戦ドイツGP/7月7日)まで、〈学習と吸収〉が可能なレースはあと7戦。まさに月影千草先生もおののくほどの19歳である。

#31

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 話が前後してしまったけれども、優勝したのはヴィニャーレス。

 土曜Q2ではポールポジションを獲得、午後のスプリントで勝利。そして日曜の決勝でも優勝を収めたのだから、いわばパーフェクトゲームだ。

 だが、決勝レースではスタート直後1コーナーのごたごたで他車と接触して11番手まで順位を落としていた。以前のヴィニャーレスならこんな状況になると、しおしおのぱーになってどうにも冴えない結果になってしまうことも少なくなかった。だが、今回はひとりまたひとりと着実にオーバーテイクを続け、13周目には先頭の北島マヤ、じゃなかったアコスタを抜き去ってトップへ浮上。その後、アコスタとの差を1秒以上に広げてからは完璧にギャップをコントロールし、1.728秒の差を開いて優勝。じつにじつにすばらしい内容じゃないですか。

 ヴィニャーレスの優勝は2021年開幕戦カタールGP以来。その年の夏にヤマハと袂を分かち、アプリリアへ移った当初は大いに物議をかもしたけれども、あれから約2年半でアプリリアをエスパルガロとともに強豪の一角に押し上げ、自らも優勝を達成。さぞや感無量だろう。

 今回の優勝は、ある意味では精神的な強さで掴み取った勝利、とも言えるかもしれない。上述したとおり、以前の彼は、中断グループでもみくちゃにされて思い通りの走りをできなくなると、フラストレーションを溜めてとっちらかった走りになってしまうことも少なからず見受けられた。ところが今回は11番目まで順位を落としたところからタイヤのマネージをしながら着々と前のライダーたちを処理し、最後にはぐいっと後ろを引き離す余力も備えていた。この精神的な強さについて、ヴィニャーレスはレース後に以下のように振り返っている。

「現在の自信をたどっていけば、もとは去年にまで遡る。新しいクルーチーフとバイクについてしっかり理解をするまでにまるまる1年がかかったけれども、それだけの価値はあった。今年は開幕戦のカタール以降トップを争ってきたし、なすべきことをしっかりと行ってきた。新型バイクに変わったときは簡単ではないこともあるけれども、ポルティマオでは必要なことがわかった(註:ギアボックスの件等を指していると思われる)。今はとても気持ちよく乗ることができる。自分のスタイルで効率的に乗れるときは、落ち着きながら自信を持って走れる」

 ところで、ここで彼が新しいクルーチーフ、と言っているのは、2023年シーズンからその任についたホセ・マヌエル・カゾーのことだ。カゾーはヴィニャーレスがスズキに在籍していた時代のクルーチーフで、スズキの解散によりアプリリアに移って再びタッグを組むことになった。彼が心強い存在になっているのだろうことは、上記のコメントからも十分に読み取ることができる。

#12
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 3位はバスティアニーニ。前戦ポルティマオに続き、2戦連続の表彰台である。また、表彰台を期待させたマルク・マルケスは11周目に転倒し、残念ながらリタイア。この結果、3戦6レースを終えた現在のランキングはマルティン(80)、バスティアニーニ(59)、ヴィニャーレス(56)、アコスタ(54)、バニャイア(50)という状況。シーズンはまだ先がものすごく長いので、現在のランキングは「なるほどですね」程度のものであることは皆様ご了解のとおり。

#23
#23

 中小排気量クラスはというと、Moto2では小椋藍(MT Helmets MSI)が7位。Moto3では山中琉聖(MT Helmets MSI)が最後まで表彰圏を争ったものの、わずかにとどかず4位。いや惜しかった。初表彰台は次回以降にお預け。

 というわけで、次の第4戦はスペインGPヘレスサーキット。1年で最も盛り上がる開催地のひとつですね。ことにスペイン勢の活躍が目覚ましい今シーズンは、さらに熱狂的な興奮が待ち受けていることでありましょう。では、また。
 
(●文:西村 章 ●写真:MotoGP.com/Yamaha/Honda/Pramac Racing/Gresini Racing/GASGAS/Aprilia/Ducati)

#hyousyoudai


#MotoGPでメシを喰う
【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」優秀賞受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」と「MotoGP 最速ライダーの肖像」、レーサーズ ノンフィクション第3巻となるインタビュー集「MotoGPでメシを喰う」、そして最新刊「スポーツウォッシング なぜ<勇気と感動>は利用されるのか」(集英社)は絶賛発売中!


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2024/04/15掲載