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レース・イベント







●文:西村 章 ●写真:Pramac Racing/Aprilia/GASGAS/Ducati/Gresini Racing/Yamaha/Honda/MotoGP.com

 レースでは予想もしないことがたびたび発生する。そして、そんな予想外の出来事がレースをさらにドラマチックに演出する。だからこそ、人々はレースに魅了されるのだろう。そんなことを改めて感じさせる第2戦ポルトガルGPでしたが、みなさんご機嫌いかがおすごしでしょうか(いにしえのラジオ歌謡番組ふうに)。

 第2戦の舞台ポルティマオサーキットは、首都リスボンから南へ250キロ少々南下した場所にある。海岸地帯が風光明媚という話だが、観光をしたことがないのでわかりません。サーキットは、沿岸の街々から北部の山のほうへ車で30分ほど走った場所にある。丘陵地帯ということも関係しているのか、欧州のサーキットでも随一といっていいほど高低差がジェットコースターのように激しいのは、皆様もご存じのとおりであります。天候がやや不安定になりがちなのは、海からの距離がそれなりに近いからなのかどうか。そういえばかつてのポルトガルGPの舞台エストリルも、天候が不安定(しかも風がものすごく強い)なことで有名な場所でしたね。

 さて、今回の週末は、金曜早朝に雨が降ってMoto3クラス金曜午前のセッションが終盤にキャンセルとなったものの、その後の各クラス各走行はドライコンディションを維持し、つつがなく進行した。

 土曜もスケジュールどおりに推移し、午後に行われたMotoGPのスプリントではマーヴェリック・ヴィニャーレス(Aprilia Racing)が勝利。2位はドゥカティ2戦目のM・マルケス(Gresini Racing MotoGP)、3位はホルヘ・マルティン(Prima Pramac Racing)。ヴィニャーレスはアプリリア陣営に移籍後初めての表彰台頂点である。このスピードと勢いがあれば日曜もトップ争いは確実と思われたが、その決勝レースでは意外な展開で意外な結果になってしまう(詳しくは後述)。

#第2戦ポルトガルGP
※以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。

 で、日曜の決勝レースは全25ラップ。ここで優勝を飾ったのはホルヘ・マルティン。3番グリッドからのスタートで1コーナーでホールショットを取ると、あとは一度も誰にも前を譲らず、最後まで安定した速いペースでトップをキープして優勝。土曜のスプリントでは3位という結果にやや不満げな様子だったが、日曜の大一番でその鬱憤を存分に晴らし、思いのままの展開で勝利を手にした。

「リア用に装着したミディアムコンパウンドのタイヤのフィーリングがすごく良かったので、リードを築くことができた。1周目が今日の勝利のカギで、レース序盤にリアタイヤをうまくマネージして差を少し開くことができた。攻め始めてからも後ろとの差はずっと同じで、コンスタントに走ることができた。そこから徐々に引き離してゆき、(中盤以降に)0.7秒ほどの差を作ってからは安心できるようになった。最後までこの差を維持できていれば充分で、0.9秒でも3秒でも勝利に違いはないので、今日は0.7秒あれば充分だった」

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 2位はエネア・バスティアニーニ(Ducati Lenovo Team)。土曜午前のQ2でポールポジションを獲得しながらも、午後のスプリントは6位。日曜の決勝レースでしっかりと雪辱を果たしたが、

「ホルヘのほうが少しいい状態だったので、決勝中は(直前にいた)マーヴェリックを抜こうとがんばった。彼は最終セクションがとても速く、なかなか勝負を仕掛けられなかったけれども、自分はレース終盤に力を発揮できるので、最終ラップでマーヴェリックを狙った」

 と振り返った。彼が勝負を仕掛けようと狙っていた最終ラップの直前、24周目最終コーナー立ち上がりでは、ヴィニャーレスがイン側の右脚を出して後ろのバスティアニーニにサインを出した。その様子を映像でご覧になった方も多いだろう。バスティアニーニは直線で追い抜いて前に出て、ヴィニャーレスは3番手で最終ラップの1コーナーへ入っていったが、その立ち上がりで、ハイサイド気味に挙動を乱して転倒。

 レース終了直後には、アプリリアから「ギアボックスに問題があった模様。詳細は現在調査中」と関係者へ即座に告知された。

 ヴィニャーレス自身はレース後に、このときの様子を以下のように話している。

「上りの後のフィニッシュラインで6速に入れようとしたけれども、ニュートラルになってリミッターが効いてしまった。バスティアニーニにトラブルを報せるために脚を出して、もういちど6速に入れようとしたけれども入らなかった。(1コーナーで)2速に入れてスロットルを開けると、ハイサイドになった」

 6周目に5速から6速へ入らない事象が発生するようになり、トップスピードを稼げないようになったが、それでも1分38秒台で走ることができた、とも述べている。

「レース中ずっと、優勝を狙えるかもしれないと考えていた。ただ、問題はギアボックスの状態がどんどん悪くなっていったことで、ストレートがどんどん伸びなくなっていった。直線で0.2秒損する分を他でカバーしていった。この問題があっても38秒8台で走れていた。つまり、ギアボックスの問題がなければ38秒6で走れていたことになるので、これはすごいことだと思う」

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 参考までに、優勝したマルティンのベストラップタイムは1分38秒823(LAP20)。また、レース中のファステストラップは、2位のバスティアニーニが21周目に記録した1分38秒685である。これらの数字を念頭にヴィニャーレスの上記の言葉をもう一度読み直してみれば、たしかに以て瞑すべし、というレースだったことがわかる。

「アプリリアには、今週の内容は今後のレースに向けて本当に力強い材料になると力説したい。とりわけ僕にとって、これからのレースはきっと素晴らしいものになる。満足すべき週末だったし、充分に誇らしいものだといいたい」

 劇的な勝利を収めた土曜スプリントの結果が暗転したような決勝レースだったが、このように自らのチームへエールを贈る士気の高さは、今後もポジティブな要素として確実に機能するだろう。

 さて、このようにヴィニャーレスが最終ラップで転倒したことにより、4番手を走行していたペドロ・アコスタ(Red Bull GASGAS Tech3)が3番手に浮上し、最高峰クラス2戦目で表彰台を獲得するという快挙を達成した。

 7番グリッドスタートのアコスタは表彰台圏内に至る過程で、8回の世界タイトルを獲得してきたマルク・マルケスとバトルをしてオーバーテイクし、さらには2連覇中の世界チャンピオンペコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)をも抜き去って着々とポジションを上げていった。それだけでも充分にスゴいことなのに、最後は表彰台まで獲得してしまうのだから、恐るべき19歳。まさにアンファン・テリブルである。

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「ルーキーズカップやMoto3の時代から、トップファイブ(に入ること)だけに集中するのではなく、レース全体を考えながらタイヤを温存することを心がけていた。(2週間前の)カタールの決勝ではそこにかなり苦労をしたので、今回はペコのバイクの使い方をコピーするようにした。ペコは日曜のレースでタイヤの温存に最も長けた選手のひとりなので、彼の後ろを走行しているときにいろいろと学ぶことができてよかった」

 と述べた。ちなみに、今回のアコスタの表彰台は19歳304日で、史上3番目の最年少表彰台記録なのだとか。参考までに史上最年少表彰台記録はランディ・マモラ(19歳261日:1979年フィンランドGP2位)、2番目はエデュアルド・サラティノ(19歳274日:1962年アルゼンチンGP:3位)だそうです。

 今回の優勝者マルティンは、アコスタが達成した今回の快挙について、このように述べている。

「才能豊かな選手であることは皆がわかっていることなのだから、特に驚くようなことじゃない。ただ、自分自身が最高峰クラス2戦目で初表彰台に上がったときのことをちょっと思い出した。将来的に、最も手強いライダーのひとりになることは間違いないね」

 ここでマルティンが言及している自身の初表彰台とは、2021年のドーハGPのことだ。新型コロナウイルス感染症の影響により、カタールで2週連続開催したときの2戦目にあたる。つい3年前のことなので、ご記憶の方も多いだろう。このレースは徹底した衛生管理や厳密なバブルの構築、チームスタッフや我々取材陣を含む関係者の入場制限など、このときのパドックの様子をあれこれ語り出すとキリがないけれども、それはひとまず措くとして、この2レースで強い印象を残したのは、マルティン自身が語っているデビュー2戦目の3位表彰台、そしてさらに鮮烈だったのは、Moto3のレースだ。

 前回の当欄でも簡単に言及したが、開幕戦のカタールGPがアコスタの世界選手権デビューレースだった。そのデビュー戦では2位表彰台。そして翌週のドーハGPは世界選手権2戦目にして優勝を飾っているのだが、その内容がじつに劇的だった。

 じつはFP2でのスロー走行に対する罰則として決勝はピットレーンスタートとなったのだが、そこからグリッドについていた全ライダーを抜き去ってトップでチェッカーを受けるという、まるで少年マンガのようなことをやってのけたのだった(皆さん、思い出しました?)。

 マルク・マルケスもMoto2時代の最後のレース(2012年バレンシアGP)で、最後尾スタートから全員ちぎっては投げちぎっては投げ状態の全選手オーバーテイク、という暴挙のような快挙を達成しているが、アコスタの場合は世界選手権2戦目である。ごくわずかな人数しかいないプレスルームがまるですし詰めの大会場のようにどよめいたことを、いまでも鮮明に憶えている。そのときから超弩級の逸材としてパドック中の注目を一身に集めていただけに、マルティンが「最高峰2戦目で表彰台に上がったって、べつにいまさら驚かない」というのも当然だろう。

 何かにつけて比較されることの多いマルケスも、アコスタについて以下のように話している。

「開幕戦の前段階から、彼は今年のうちに表彰台に上がるだろうし勝ちもするだろうと言ってきた。その勢いでチャンピオン争いをするかどうかも、これからはちょっと見ものかも。彼は中小排気量でビッグネームのひとりだったし、将来の(MotoGPの)ビッグネームになっていくだろう。ホントにバイクにうまく乗っている」

 マルケスが持つ史上最年少優勝記録の更新まで、あと7戦(←宇宙戦艦ヤマト風に読むこと)。

 さて、アコスタにオーバーテイクされた8回の世界チャンピオン・マルケスと現在2連覇中の王者・バニャイアはというと、アコスタから少し引き離されたところでバトルをしている最中の23周目、5コーナーで接触してともに転倒。両者それぞれ言い分はあったようだが、結果はレーシングインシデントということで両者ともにお咎めなし。

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 この接触転倒から見えてくるのは、マルケスとバニャイアの言い分がどうだとかどっちが悪いだとかいうことよりも、マルケスはかつてのようなトップ争いに絡んでゆく速さとアグレッシブさを、ドゥカティ2戦目でかなり自家薬籠中のものとしつつある、ということであり、そして、今年のチャンピオン争いは、3連覇を狙うバニャイアにマルティンとおそらくマルケス、そしてどうかしたらアコスタまでもが絡んでくるかもしれない、ということだ。しかも、アコスタはKTMファクトリーではなくサテライト体制であることにも留意をされたい。アプリリア勢の戦闘力向上もさることながら、それ以上にチャンピオン争いをかき回す厄介な存在になってくる可能性は大、というべきでありましょう。

 一方、苦戦が続く日本メーカー勢はというと、ヤマハの2台が今回は揃って予選Q2へダイレクト進出し、少し期待を持たせたものの、決勝レースはファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP)が10位、チームメイトのアレックス・リンスは13位。今回のマルティンの優勝タイムは41分18秒138で昨年のタイム(41分25秒401:F・バニャイア)よりも7.263秒短縮しているのだが、クアルタラロは昨年(8位)も今年(10位)もヤマハ最上位でありながら、タイムを比較すると昨年が41分33秒944で今年は41分38秒268、と4.324秒遅くなっている。

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 で、ホンダ勢はというと、昨年の陣営最上位はアレックス・リンス(10位:41分36秒992)で、今年の最上位ジョアン・ミル(12位:41分47秒409)と、こちらも昨年よりレースタイムは遅くなっている。しかも10.417秒。1周あたり昨年より0.4秒遅い計算である。うーむ……。

 というわけで、今回はひとまず以上。次回はアメリカズGP、テキサス州オースティンであります。スティーヴィー・レイ・ヴォーンとライトニン・ホプキンスとゲイトマウス・ブラウンによろしく。ではでは。

(●文:西村 章 ●写真:Pramac Racing/Aprilia/GASGAS/Ducati/Gresini Racing/Yamaha/Honda/MotoGP.com)


#MotoGPでメシを喰う
【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」優秀賞受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」と「MotoGP 最速ライダーの肖像」、レーサーズ ノンフィクション第3巻となるインタビュー集「MotoGPでメシを喰う」、そして最新刊「スポーツウォッシング なぜ<勇気と感動>は利用されるのか」(集英社)は絶賛発売中!


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2024/03/25掲載