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試乗・解説

体にぴったりのスーツを着る ~新世代スポーツバイクの「ちょうどよさ」 SUZUKI GSX-8R
■取材・文:中村浩史 ■写真:SUZUKI ■協力:SUZUKIhttps://www1.suzuki.co.jp/motor/




スポーツバイクといえば高出力4気筒エンジンが当たり前だったけれど
スズキが「新世代スポーツバイク」と位置付けるGSX-8Rは
100psにも満たない並列ツインエンジン。
幅広いスキルのライダーの手に収まるパフォーマンスだというGSX-8R。
まずは開発コンセプトから、じっくり聞いてみた。

 

■220psよりも使いやすいはずの80ps

 スポーツバイクといえば、かつては大排気量、ハイパワーバイクのことを指す言葉だった。
 ビッグバイクの元祖、ホンダ・ナナハンは、1969年にデビューして、67ps/220kg。その最高速度は200km/hをマークしたけれど、スピードメーターの針が200km/hに到達するまでは、ずいぶんと時間がかかったものだった。
 やがてバイクの世界は、排気量が750→900→1000→1100cc……と、それ以上に大きくなり、900ccのカワサキZ1は82ps/230kg、1000ccの6気筒エンジンを積んだホンダCBXは105ps/247kg、スズキの1100カタナは111ps/232kgをマークするまでになった。
 それからエンジンが水冷になり、タイヤはラジアルへと進化し、フレームはアルミも当たり前に、カウルさえまとったビッグスポーツは、2022年型のGSX-R1000Rで、ついに197ps/203kgにまで昇華する。ワールドスーパーバイクのチャンピオンマシン、ドゥカティ・パニガーレV4Rに至っては、1000ccで220ps/193kgだ。こうなるともう、人間がコントロールできるバイクではなくなってしまう。誰もがきっと気づいていたことだ。

 
 だからスズキは、次世代のスポーツバイク用エンジンとして775cc並列ツインを開発した。油冷1400ccの並列4気筒まで作っていた時代に比べたら、排気量はほぼ半分だ。
「スポーツバイク向きのエンジンというのは、乗る人がコントロールできてはじめて、そう感じるものだと思います」というのは、GSX-8Rの開発スタッフ、開発コンセプトを束ねた加藤幸生チーフエンジニアだ。
「このエンジンは、開発スタート時からGSX-8Rと8S、Vストローム800と800DEの4モデルと共用することが決まっていたので、まずは素性の良さを選定することをじっくり検討しました。ボア×ストロークは84×70mmで、スズキにしては長めのストローク設定として、回転を上げてパワーを稼ぐのではなく、低回転/低速からの立ち上がりが気持ちいいキャラクターを目指しました。最大トルクの90%を5000rpmほどで発揮しているので、これはストリートもスポーツも、そしてアドベンチャーにもマッチする出力特性だと思います」(加藤さん)
 

 
 GSX-8Rに搭載されるのは、2軸1次バランサーを持つ、270°クランクの水冷並列2気筒エンジン。270°クランクが発生する振動をキャンセルするために、1次バランサーを2軸で搭載。鼓動を残しつつ振動のない、気持ちのいいパワーフィーリングを目指している。
「270°クランクを採用することで、Vツインエンジン的なテイストの鼓動を残して、振動を消しています。エンジンが発生する振動には3種類、一次振動/二次振動/偶力振動というものがあるんですが、270°クランクとすることで二次振動は理論上ゼロになって、一次振動を一軸バランサー、偶力振動を二軸目のバランサーで消しています。これをスズキではクロスバランサーと呼んでいます」(エンジン設計グループ 八木慎太郎さん)

 これにGSX-8Sにも使われたS.I.R.S.(=スズキ・インテリジェント・ライド・システム)を採用。このS.I.R.S.はスズキの電子制御システムの総称で、パワーモードをA/B/Cの3種類から選べるSDMS(=スズキ・ドライブ・モード・セレクター)、STCS(=スズキ・トラクション・コントロール・システム)をはじめ、電子制御スロットル、シフトUP&DOWNの双方向クイックシフトシステム、セルボタンをワンプッシュするだけでエンジン始動まで自動的にセルモーターが回り続けるスズキ・イージースタート・システム、ローギアでの発進時のクラッチミート時にエンジン回転がドロップしないように回転を少し上げてあげる(つまりエンストしにくい)ローRPMアシストが搭載されている。
 電気仕掛けで、バイク本来の気持ちよさがスポイルされてしまうんじゃないか、という声もあるが、それは電子制御のあるモデルをあまり経験したことがない人の意見だろう。電子制御が必要以上に介入してくることは皆無なのだから。
 

 

■兄弟車8Sよりもスポーティ

 さらにエンジンの選定には、車体づくりへのアドバンテージも考えられた。
「既存のSV650/Vストローム650に使用しているVツインエンジンは、車体幅をスリムにできる代わりに、エンジン前後長が長くなってしまいます。これが、並列エンジンは前後長を詰められる分、ホイールベースの中でスイングアームを長く取れます。さらにフレーム全幅もSV650よりスリムに仕上げたので、並列ツインの幅広さは感じないと思います」(八木さん)

 エンジンはほぼ共通の兄弟モデルGSX-8Sと大きく変わっているのが車体設計。ここで、ストリートバイクとスポーツバイクというキャラクターの差をつけている。
「メインフレームは8Sと共通ですが、足周りを専用設計としています。前後サスペンションはKYB製から日立ASTEMO(=ショーワ)製として、8Sよりもターゲットスピードが高い使用用途に合わせました。サスペンションをショーワとしたのは、SFF-BPフォーク(セパレート・ファンクション・フォーク-ビッグ・ピストン)を使いたかったから。これも、8Rの運動性に合わせた設定としたものです。特にフロントフォークは100通り以上のセッティングを経て決めたもので、幅広いライダーが使いやすい特性に仕上げています」(プラットフォーム設計グループ 岡村拓哉さん)
 

 
 そしてGSX-8Sではバーハンドルだったものをアルミ鍛造セパレートハンドルとして、ハンドルマウントだったヘッドライトユニットをカウルマウントとしてハンドリングを軽快にしている。カウル装着、フロントフォークの変更やセッティングの専用設定で、ライディングポジションがやや前がかりになったことで、フロント荷重が3~4kg増えているというが、3~4kgも変わっていれば、おそらく体感できる変化量だと思う。

 共通のプラットフォームを使用しながら、ストリートバイクとスポーツバイクに味付けされているGSX-8SとGSX-8Rの兄弟モデル。車名の「R」の位置でもわかるように、GSX-8Rは、決してGSX-R800ではない。このニュアンス、わかるだろうか──。
 

 
「GSX-8Rは、決して乗り手を選ぶスーパースポーツではありません。キビキビと動く8Sをやや高荷重設定として、日常のストリートランでもOKなスポーツバイクとしてあります。用途を狭めるのではなく、ワイドレンジなスポーツバイクを目指したモデルです。街乗りは8Sの方が快適かな、ツーリングは同等で、ワインディングを走るなら8Rの方が楽しいし、時々サーキットランをしたいならば8Rですね」(品質管理グループ 佐藤洋輔さん)

 スゴすぎないスポーツバイク──これがGSX-8Rだ。ゆったり目のスーツに肩パッドを入れていた1980年代、ピチピチのブランドものでちょっとチャラかった1990年代、着るものにこだわりがなかった2000年代、古着やスポカジに振っていた2010年代。
 そしてGSX-8Rは、そもそもの「スポーツバイク」という定義から見直して、体にフィットしたウェアこそがかっこいいんじゃないかな、という提案でもあるような気がする。

「35年以上の伝統を持つ、GSX-RシリーズのDNAを受け継ぐモデルです。この先、10年20年も愛される名機に育てていきたい」
(取材・文:中村浩史、写真:SUZUKI)
 

 

GSX-8Sの「タテ2眼」イメージを踏襲し、フルカウルデザインとしたGSX-8R。エンジン、フレームを8Sと共用しながら独自のイメージを形作っている。サイドカウルのスリットはスイングアームへ向かい、リアタイヤに力がかかるイメージとしたのだという。

 

新時代スポーツの軸となるGSX-8S/8Rは水冷パラレルツインを採用。270°クランクで2軸1次バランサーを採用し、270°クランク独特の鼓動を残しながら振動を低減。本文中にもあるS.I.R.S.を採用し、パワーモードを3種類から選べ、クイックシフターも採用。

 

クランクピン位相270°のパラレルツイン。爆発間隔はクランクピン0°の挟角90°Vツインと同じで、0°→270°→720°→990°と点火。対して180°クランクの並列ツインは0°→180°→720°→900°と点火し、駆動輪のトラクション性能に優れるとされている。

 

フルカウルスタイリングの8Rは8Sと基本骨格を共用。兄弟モデルのVストローム800/800DEとはシートレールが異なり、Vストロームが持つエンジンアンダーフレームも省略。リアサス下にショートマフラーエンドがあるのもGSX-8S/8Rのみ。
フォークは8Rがショーワ製SFF-BPで、8SはKYB製倒立フォークを採用。ブレーキはΦ310mmローターに4ピストンキャリパー、タイヤはダンロップ製ロードスポーツ2と、GSX-8Sと共通の足周りを使っている。8R独自のセッティングというのが楽しみ。

 

 

リアにショーワ製モノショックを使用する以外は、GSX-8Sと共通のリア周り。リアサスはプリロードが調整できるが、Vストローム800DEに装着されているリモート式プリロードアジャスターはなし。2次減速比は8Rと8Sが同じ、Vストロームよりも3丁ロング。
エアクリーナーボックスをシート下に配置し、シルエットをスリムに抑えつつ、フューエルタンク容量は14Lを確保。定地燃費はWMTCモードで23.4km/Lと発表されているから、1タンクの航続距離は300kmオーバー。ちなみに8Sの実測燃費は約24km/Lだった。

 

シート高はGSX-8Sと共通の810mmだが、両サイドをシェイプされていることで、数字以上に足着きは良かった。シート裏にドローコード用フラップやヘルメットホルダー用フックを装備。シートレールはデザイン上あえて露出しているようだ。右写真は別売りアクセサリーのシート&タンデムカバー。

 

バーハンドルの8Sに対し、8Rはアルミ鍛造セパハンを採用。グリップ位置は、8Sよりも6mm前方へ、60mm下げられている。メーターは5インチカラーTFT液晶で、ギアポジション表示つき、瞬間&平均燃費、S.I.R.S.モードが表示される。

 

ヘッドライドは縦2灯のLEDを採用。ウィンカーは8Sがバルブなのに対し、8RはLEDを採用。ロービームは上だけ点灯、ハイビームは上下両方が点灯する。右写真の銀ボディに装着されているのはアクセサリーのスモークスクリーンで27mm長いタイプ。

 

スズキの電子制御やメーター表示切替は分かりやすいと評判。左スイッチの上下ボタンでオドやトリップ、燃費などのメーター表示を切り替え、モードボタンと+/-スイッチでSDMSのパワーモードやトラクションコントロールをセットする。

SUZUKI GSX-8R 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク直列2気筒DOHC4バルブ ■ボア×ストローク:84.0×70.0mm ■圧縮比:12.8 ■総排気量:775㎤ ■最高出力:59kW(80PS)/8,500pm ■最大トルク:76N・m(7.7kgf・m)/6,800rpm ■変速機:6段リターン ■全長×全幅×全高:2,115mm×770mm×1,135mm ■軸間距離:1,465mm ■シート高:810mm ■車両重量:205kg ■燃料タンク容量:14L ■タイヤ(前・後):120/70ZR17 M/C 58W・180/55-17 M/C 73W ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:トリトンブルーメタリック、マットソードシルバーメタリック、マットブラックメタリック■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,144,000円


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2024/03/08掲載