全日本ロードレース選手権が開幕した。もてぎ2&4レースとしてJSB1000クラスのみ1レースの開催だった。それでもST1000クラスのライダーが、車両はそのままでスポット参戦したこともあり30台がグリッドに並んだ。このレースはヤマハ、ホンダ、スズキ、ドゥカティ、BMWとワークスマシンが揃うこともあって注目された。
- ■文:佐藤洋美 ■写真:赤松 孝
昨年のチャンピオン岡本裕生は海外参戦のため、ゼッケン1が不在の戦いとなった。
ランキング2位の#2中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM YAMAHA/YZF-R1)は「チャンピオンを逃した翌年は強さを増していることを、これまでも証明して来た」と自身13回目となるタイトルを狙う。中須賀のマシンには自らが開発したウィングレットが装着されていた。
昨年から参戦を開始したドゥカティを駆る#3水野 涼(DUCATI Team KAGAYAMA DUCATI/Panigale V4R)は、昨シーズンは岡本と中須賀が全11戦中8勝と力を誇ったヤマハファクトリーを脅かし3勝を挙げている。今季のチャンピオン候補の一角をなす。
スペイン・スーパーバイク選手権で戦っていた#31浦本修充(AutoRace Ube Racing Team BMW/M1000RR)は、帰国してBMWワークスマシンを駆る。昨年のスーパーバイク世界選手権(WSBK)でタイトルを獲得したマシンであり、そのポテンシャルには大きな注目が集まっていた。
昨年海外から帰国しヤマハからホンダへ移籍した#4野左根航汰(Astemo Pro Honda SI Racing Honda/CBR1000RR-R)、#6名越哲平(SDG Team HARC-PRO.Honda Honda/CBR1000RR-R)。ダンロップタイヤの開発をメインに参戦する#10長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGI Honda/CBR1000RR-R)は市販マシンのCBR1000RR-Rを駆る。
今大会には#5高橋 巧(Honda HRC Test Team Honda/CBR1000RR-R FIREBLADE SP)がスポット参戦した。昨年の鈴鹿8時間耐久で勝利したワークスマシンを駆る。あくまでも鈴鹿8耐へのテストが目的ではあるが、このマシンがもてぎを走るのは初であり、ファンにとってはサプライズギフトのような参戦だった。今季の高橋は鈴鹿8耐がメインで、全日本のフル参戦はないだけに貴重なレースとなった。
同じく鈴鹿8耐へのテストとしてスズキCNチャレンジの#7津田拓也(Team SUZUKI CN CHALLENGE SUZUKI/GSX-R1000R)がスポットで参戦した。津田の動向が発表されたのは3月で、引退かと心配していたファンにとっては津田の参戦に安堵していた。
国内外の5メーカーのワークスマシンが出揃う特別な開幕戦となり、ファンと触れ合うことのできるピットウォークは大盛況だった。どのピットにも長蛇の列が出来、これまでは見る事のできないマシン、ライダーとの時間を楽しんでいた。2&4だったこともあるが、土日を合わせて26000人ものレースファンが訪れた。
今大会を前に行われた事前テストからワークスマシンの戦いは火花が散っていた。レースウィークに入り、ワークスマシンに挑もうとするライダーたちの熱気も加わり、ボルテージは上がり続けた。
中須賀がレース前に語った。
「昨年のドゥカティは2度目のコースでは勝っていた。ワンシーズンを戦い終えてデータが揃った今年は脅威だ。BMWのワークス仕様もポテンシャルの高さはWSBKで証明されている。HRCの8耐マシンも手強い。昨年も全日本のレベルが上がったと感じたが、今年は昨年以上だ」
金曜日には午前午後と2回のフリー走行が行われ、トップタイムは水野で1’47.716と、唯一の7秒台。2番手に高橋が1’48.005、3番手の野左根、4番手中須賀、5番手浦本、6番手長島、7番手名越までが48秒台となる。
予選日は気温が28℃と上がり、陽射しは強く夏を思わせる天候となる。予選は1回だけで水野が1’46.807と唯一の6秒台。中須賀の持つレコードタイムの1’46.447には及ばないが、そこに迫った。高橋が1’47.200で7秒台に入れる。3番手浦本、4番手中須賀、5番手長島、6番手野左根までが47秒台となる。
水野は確かな手応えを感じていた。
「事前テストからの流れを考えると45秒台に入れたかったが、路面のグリップが悪かったので、そこには届かなかった。だけど、46秒台に入れたのは自分だけなので自信になりました。今年は昨年のデータを生かすことが出来るので余裕をもって走ることが出来ている。一番ペースを持っているのは自分だと思う」
ドゥカティで初優勝を飾ったのはもてぎであり、全日本開催サーキットの中で「1番好きなコース」とも語っていて決勝が「楽しみだ」とPP会見では笑顔も見えた。
決勝への予想は「高橋選手との一騎打ちになる」と言った。
一方の高橋は「順調そうに見えているかもしれないが、納得できるところには、まだまだ来ていない」と語るが、HRCスタッフのサポートを受け存在感を示していた。
浦本は8年ぶりの全日本となるが違和感なく溶け込み、スペイン・スーパーバイク選手権で鍛えられた走りを披露した。
浦本が開幕戦にかける想いを語る。
「海外でも懸命に走って来ましたが、自分が海外帰りだって胸を張れる感じはないですね。全日本のレベルはものすごく高い。だって、みんな海外経験者ばかりじゃないですか。水野選手も高橋選手も長島選手だって、そうでしょう。だから自分が特別だという意識はない。気を引き締めて挑むだけです」
中須賀はウィングレット装着のマシンでセットアップに苦心しているように見えた。スタッフとのミーティングを繰り返し走行するが4番手とフロントローを逃す。
決勝日、気温は変らないが曇り空となり、体感としては少し下がったように感じた。四輪走行の影響もあり路面コンデションが変化する。午前中に行われたウォームアップ走行では、水野を先頭に数台が連なる場面もあり、決勝に向けての準備が進む。水野が1’48.151でトップタイムを記録した。全てのセッションでトップに立つ水野の好調ぶりが印象として残った。
決勝スタート直前、サイティングラップが行われ、各車コースイン。だが、水野が動けない。クラッチに問題があり、スタッフは必死に修復に取り掛かる。水野は歩いてグリッドに向い、音楽を聴きながらマシンが到着するのを待つ。間に合わなければ、ピットスタートとなるかもしれない。最悪の場合はスタートを切ることが出来なくなる。緊迫した空気の中でチームはギリギリまでメインカーの修復を進めるが、間に合わないと判断しTカー(スペア車)をグリッドへと運んだ。
水野は無事にスタートを切り、ホールショットを奪う。初期性能に強いダンロップの長島は2番手に浮上し、3コーナーで首位に立つ。長島は積極的にレースをリードするが、90度コーナーのブレーキングで水野が前に出た。2周目の1コーナーでは長島が再びトップを奪う。長島、水野に続き野左根がV字コーナーで3番手浮上するが、ヘアピンで転倒。コース復帰するが、そのままピットに戻りリタイアとなる。
3周目、水野が5コーナーで長島を捕らえトップに浮上。4周目には中須賀が2番手へと浮上する。その背後に浦本が迫る。水野は47秒台アベレージのハイペースで逃げ始めた。中須賀と浦本の背後に、高橋が追いつく。3台の2番手争いだが、次第に高橋が遅れ単独走行となる。レース序盤ではリードし5番手を走行していた長島がスロー走行でピットに戻りリタイアとなる。中須賀と浦本の2番手争いは、終盤に浦本が仕掛けるが中須賀が抑えた。
後続に圧倒的な差を築いた水野がポール・トゥ・ウインで開幕戦を制した。終盤にはタイムを上げた中須賀が2位。浦本が3位に入った。4位は高橋、5位は名越、6位に津田が入った。
レース後の野左根が言う。
「昨年から全日本に参戦していますが、転倒リタイアは初めてでした。タイトルを願う上でノーポイントは痛手ですが、巻き返したい」
表彰台を逃した高橋は無念さを漂わせていた。
「レースウィークと決勝日はマシンのフィーリングが違った。それも検討課題、テストと考えれば収穫の多い週末だった。ライダーとしてはレースをしきれなかった」
当初の予定では第2戦SUGOも参戦予定だったが、テスト日程の都合で参戦できなくなった。その代替えとして別ラウンドでの全日本参戦をファンは願うことになる。
3位に入った浦本がレースをふり返る。
「シェイクダウンが事前テストで、トルクがあるなと感じ乗りやすいなという印象でしたが、レースに関しては不安の方が大きかった。このバイクでの初レースなわけですから。タイムや順位というよりも、このバイクの理解を深めたい、確実に進みたいという気持ちでいました。だから、表彰台に登ることが出来てすごく嬉しいんですが、中須賀さんに仕掛けられずに終わってしまった悔しさもあり、嬉しいのと悔しいのと両方の気持ちがあります」
それでもチームはデビュー戦での表彰台に歓喜して浦本を迎えていた。
2位の中須賀は次に向かっている。
「今年の仕様での初走行ということで、ウィングレットのいい所を生かすことがなかなかできなくて試行錯誤しながらのウィークになったが、何とか先が見える形で決勝を迎えました。涼が速いのは分かっていたので、何としてもついて行くぞという強い気持ちはあったが、自分の持ちタイムが届いてなく、そこには及ばなかった。だが、今回のデータをしっかりと消化して、このパッケージでイケると思っているので、さらに戦える状態にして次戦を迎えたい」
開幕勝利を飾った水野は、終始気の抜けないレースだった、と言う。
「スタート前のトラブルはちょっとびっくりしましたが、バイクが治れば良いなと、そんなに焦らずに待っていました。走り出してフィーリングがあまりよくなくて、序盤はペースを上げることが出来なかった。だけど、次第にリズムを取り戻ることが出来ました。コンディションが悪く、普通にコントロールしていても、止まり切れない場面もあり、リスクがあったので最後まで気が抜けなかった」
水野はTカーで決勝を走っていることを、レースを終えてから知った。メインカーもTカーも同じ仕様にするため大きな違和感はないようだが、それでもアクシデントを超えての劇的勝利だった。
チェッカーの瞬間は何を思ったのか? と聞いてみた。
「去年の夏のもてぎ戦でドゥカティ初優勝した時のことを思い出していた」
昨年、ドゥカティに乗ることを決めてチームを移籍した水野が6戦目の戦いで、遂に優勝を飾り、自分の決断は間違っていなかったとことを示したレースだった。水野は開幕勝利を飾り、タイトル獲得への大きな一歩を記した。
次戦は5月24日〜25日に全日本ロードレース選手権第2戦スーパーバイクレースin SUGOが開催される。
(文・佐藤洋美、写真:赤松 孝)