Facebookページ
Twitter
Youtube

試乗・解説

ミシュラン新作2種は ルックス向上と地道な進化
■試乗・文:ノア セレン ■写真:日本ミシュランタイヤ ■協力:日本ミシュランタイヤ https://www.michelin.co.jp/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、デグナーhttps://www.degner.co.jp/、KADOYA https://ekadoya.com/




ミシュランの定番人気タイヤ「パワー5」と、ワンステップ先のサーキット走行も見据えた「パワーGP」が同時にモデルチェンジ。「パワー6」と「パワーGP2」となった。アクティブなルックスに変わりいったいどんな進化を遂げているんだ!? と期待させるが、その内容は正常進化と言える、確かな底上げだった。

 

「カッコいいタイヤ」の大切さ

 ミシュランの新作タイヤ発表試乗会には定期的に参加しているが、その現場に「インダストリアルデザイナー」が参加し、スピーチもしたのは初めてのことだ。現場に来て下さったのは日本ミシュランタイヤ先行技術開発部の今泉 崇さん。トレッドパターンやサイドウォールデザインなどについて熱を込めて語ってくれたのだった。
 タイヤと言えば基本的には性能向上がメインの関心ごとになりそうなものだが、「カッコいいタイヤ」とすることのチャレンジについて、プレゼンテーション後に話を伺ことができた。
「最近のバイクはとてもシャープでカッコ良くなっていますよね。スーパースポーツ系はよりレーシーなルックスやウイングレットの装着など、少し前のものとはかなりその姿が変わってきています。またネイキッド系も特に海外メーカーの車両は切れ味鋭そうな、近未来的なデザインが増えてきました。そんなカッコいいバイクに装着したくなるような、カッコ良いタイヤを作るのも大切なことだと思うのです」
 

 
 なるほどその通りだろう。ミシュランと言えばロードシリーズの「サイプ」や、サイドウォールの「プレミアムタッチデザイン」、そしてハイエンドモデルではトレッド中央部のみに配される短いグルーブなど、様々な個性的なデザインを提案し、「ミシュランならでは」のルックスを追求してきたメーカー。そのミシュランが新作タイヤを車両デザインのトレンドに合わせてアップデートしていくのは当然のことで、そういった取り組みをアピールするための「インダストリアルデザイナーの参加」だったのだろう。
「前作までは左右対称のグルーブデザインでしたが、左右対称というのは安定をイメージさせるものです。対する今回の新作は左右非対称とし、アクティブさを演出しています」といったプロフェッショナルならではの知見を聞かせていただいたが、同時にもっとくだけた調子で、
「バイクがカッコ良いのはもちろんですが、タイヤも『カッコイイ!』と思ってもらえて、思わず写真を撮ったりSNSにアップしたり、と、そういった対象になれば嬉しいですね(笑)」と語ってくれたのも面白かった。
 なお今泉さんはミシュランのフランス本国に日本サイドからの要望や意見を伝えるだけでなく、実際にフランスにも行ってデザイン開発に関わっているそうだ。
 

 

ミシュランのラインナップを再確認。

 始めにミシュランのラインナップを整理しておきたい。一番ツーリング向けで雨にも強くライフも長いのが、先述した「ロード」シリーズだ。「サイプ」と呼ばれる細かなミゾを配するのが特徴で、最新モデルは「ロード6」。
 もう一つスポーティなのが今回「5」から「6」へと進化した「パワー」シリーズ。「ロード」よりはスポーティな位置づけだが、それでもサーキット走行は想定せずにあくまで軽快さやロングライフ、付き合いやすさといった公道性能を追求したものだ。
 さらにその上は、同じく「パワー」の名がつくが、こちらは「パワー」の後に数字が来るのではなく「GP」の文字がくる。同じ「パワー」ファミリーなのが若干わかりにくいのだが、今回「GP」から「GP2」へと進化したこのタイヤは公道とサーキットの割合を50:50に設定した、かなりスポーツ寄りのブランドだ。
 公道で使用可能なタイヤの頂点は「パワーカップ」だ。こちらはグルーブも最小限で、サーキット使用90%、公道使用10%という想定のため、もうほとんどサーキットタイヤと考えてよいだろう。
 今回モデルチェンジしたのは「パワー5」→「パワー6」、そして「パワーGP」→「パワーGP2」である。
 

トレッド面の基本的なデザインはパワー5から引き継ぐが、左右非対称にすることでアクティブな印象へと生まれ変わらせている。エッジ部のゴルフボールデザインも先代から引き継ぐポイント。今回新たにエッジ部に「POWER6」というロゴが加えられたのだが、全体的にカッコイイデザインの中でこのロゴだけがポップな字体なのも面白い。

 

進行方向に長いグルーブを配するのはミシュランに限らず最近のタイヤデザインのトレンドだ。GP2も長いグルーブを左右非対称に配置することで、エッジ部のスリック部分の面積を増やしつつ、ボイド比(ミゾとトレッド面の比率)は先代と同じ6.5%としてウェット性能も確保している。

 

パワー5のライフそのままに他の分野をグレードアップ

 パワー5改め6は、パターンの新設計及び左右非対称化、サイドウォール部へチェッカー柄を配するなどデザイン向上、2CT+技術をフロントタイヤへも搭載、というのが技術的な進化だが、さらに嬉しい変更は小排気量向けサイズラインナップの充実だ。ビッグバイクやミドルクラスの定番サイズは引き続きラインナップするが、フロント110、リア140/150という250ccクラスで一般的なサイズが加わったのだ。
 なお前作パワー5との性能比較図によると、ライフはそのままにウォームアップ性能/ドライグリップ/ウェットグリップがそれぞれ10%ほど向上。ハンドリング性能も5%ほどの向上を果たしている。
 試乗車はホンダのCBR650R。まずは前作パワー5で走り出す。100%公道向けというだけあり、この寒い季節でも気軽に走り出せ、すぐにグリップ感を掴みやすいのはありがたい。接地面が強力に路面を掴んでいる、という感覚ではなく、コロコロと路面をなぞって行きたい方向にスイスイとバイクを向けることができるというイメージだ。ワインディングを想定したツイスティなコースで左右にヒラヒラと切り返していると、その軽快さや気軽さが嬉しい。一方でハードブレーキングからコーナーにアプローチするような場面では、パワーGPよりはロード6に近いような、あくまで公道での楽しいワインディング向けであり、サーキット的な速度域も体験できた試乗会場のようなハードスポーツ向けではないと感じる場面もあった。とはいえ、ロードシリーズよりはワンランクスポーツを楽しみたいユーザーにとってはとてもバランスされているタイヤだと思う。
 対するパワー6だが、これがいい意味であまり変わらないのだ。コロコロと路面をなぞり、スイスイと行きたい方向へ向きを変える、という基本性格はそっくり踏襲していると言って良いだろう。デザインが変わっているだけにもっと劇的な変化も予想してしまっていたが、それはいい意味で裏切られたわけだ。
 しかし走り込んでいくうちに、5では決してステップが接地することはなかったのに、6ではいとも簡単にステップをガリガリと路面に擦っていた。5の安心感や付き合いやすさはそのままに、進化したウォームアップ性やドライグリップが効いているのだろう、知らずのうちにさらに高いスポーツ性を楽しめていたのだった。
 

公道向けタイヤでありサーキット走行は想定しないパワー6は通常のライディングウェアで試乗。とっつきやすさや温まり性能の高さ(というか温まっていない状態での怖くなさ)など、パワー5から引き継ぐ総合性能が嬉しい。5と6の乗り比べでは明確な違いはあまり感じられなかったが、5では一度も擦らなかったステップが6ではすぐに擦っていたのだからバンク角は自然と深くなっていたのだろう。

 

小排気量クラスはよりスポーティな設定か

 正直、即座に体感できるほどの変化・進化とはなっておらず、いくらか玄人向けの、底上げ系進化となっていたパワー6。しかし小排気量クラスではそのスポーティさにすっかり感じ入ってしまった。
 試乗できたのはCBR250RRとニンジャ250の2台。試乗コースはCBR650Rと同じところだったのだが、CBR650Rと違ってフロントからグイグイ曲がっていく感覚がすぐに掴め、「え? これはパワーGP2の方?」と一度停車して確認したほどだ。フロントタイヤの剛性が適度に落とされていて、ブレーキ時に変形しながら路面を強力にグリップしつつ旋回していくのが良く分かり、かなりのハイペースが可能だったのだ。
 こんなに楽しくスポーツできるなんて……。気軽に公道ワインディングを走り回ることはもちろん苦もないだろうが、こんな性格ならば空気圧もしっかり管理して、サーキット走行にも繰り出してみたいな、と思わせるほどだった。ライトウェイトクラスユーザーにとってこれはなかなか魅力的な選択肢となるはずだ。
 

ウェット性能も向上しているとされるが、こちらも先代に対してどうか、というよりは、先代同様に安心、というイメージ。特にウェット路面のスラロームは「こんなにイケるものか」と感心する程であり、ツーリング先での予期せぬ雨も安心だろう。

 

段違いにハイレベルな「パワーGP」そして「2」

 パワー5からパワー6への進化は「直感はしにくいが、縁の下の力持ち的確実な進化」と感じたが、対するパワーGPからパワーGP2への進化はさらに難しいものだった。というのも、前作パワーGPが全く旧く感じなかったのだ。
 パワーGP2の主な変更点は左右非対称かつ前作よりも長くなったグルーブデザインとそれによってもたらされたエッジ部のスリック化、2CT+技術の進化により特にコーナー立ち上がりのスタビリティの向上、が主な所。また160幅サイズも加えたことでミドルクラス車両にも対応したのもトピックだ。前作との性能比較では、ドライグリップ、ハンドリングが10%向上、ウェットグリップは15%ほど向上、ライフは5%ほど向上となっている。
 こちらのテスト車両はスズキのGSX-S750で、やはり前作のパワーGPから走り出した。特にパワー6から乗り換えたということもあって、ビタリと路面に張り付く性格が印象的だ。パワー6ほどの気軽さや万能感はないが、それでもちょっとタイヤが温まればこの季節でも不安に感じる要素はなく、そしてコーナリングについてはさすがサーキットを意識した作りというだけのことはあり、ブレーキを残してバンクさせていっても路面に食い込んでいるような豊富な接地感がある。また立ち上がりでも頼もしいグリップがあるため積極的にパワーをかけていけるし、その際にフロントが膨らんでいくといったことがなく思いのままのスポーツライディングが可能だった。
「こんなに良かったっけ」などとホクホクのまま次はGP2に乗り換えると……あれ? あまり変わらない。ハンドリングのフィーリングも、グリップ感も、少なくとも試乗コースを走り回っている分にはほとんど違いが判らなかったというのが正直なところだ。細かなコーナーが連続するコースでも、200km/hを優に超えていく高速周回路でも、ハイスピードスラロームでも、あらゆるシチュエーションで試したものの、「ブラインドテストだったらわからないな」という結論に達したのだった。
 違いが分かる場面と言えば、サーキットでラップタイムを計った時などだろう。前作よりもラップタイムが劣るはずはないため、空気圧を調整しセッティングを進めていけば前作よりも光る場面を見出せるかもしれない。
 こういったスポーツタイヤは少し古くなるととたんに「ハンドリングが古くさい」だとか「タイムが出ない」という印象となることもあるが、パワーGPの時点でそんな感覚は全くなかった。よってGP2への進化は大きなグレードアップというわけではなく、あくまでマイナーチェンジといったレベルではないだろうか。
 

パワーGP及びGP2の方はスズキのGSX-S750での試乗となった。車両の性格的にCBR650Rよりもスポーティではあるが、それを差っ引いてもパワーGPはパワー6に比べると明らかにワンランク上のスポーツ性を有している。ハードブレーキングからコーナーへと進入していくときの差が最も顕著で、なるほどこれならばサーキット走行も十分楽しめかつタイムも追及できるだろう。ただGP2との差は、少なくとも今回の短い試乗では明確には見つけられなかった。空気圧の調整など、細かなセッティングを突き詰めるとタイムという形で結果が出ることだろう。またライフは向上しているためそれはわかりやすい進化と言えよう。

 

スポーツに寄ったパワー6とライフに寄ったGP2

 今回の試乗は2銘柄共に劇的な違いを感じることはなく、いずれも前作の良い所を引き継ぎ、ユーザーに気付かせないレベルでの性能底上げをしているように感じた。同時にデザインの部分でモダンなバイクに合わせてアップデートをした、といったところだろう。
 しかし2銘柄の進化の方向性が逆だというのは面白いポイント。パワー6はライフをそのままにスポーツ性を向上させているのに対し、ライフが比較的重視されなさそうなGP2は(グリップ向上などに加えて)逆にライフを向上させているのだ。
 よって、パワー6ユーザーはライフはそのままにスポーツ性向上を楽しめるし、パワーGP2ユーザーはGPが持っていたスポーツ性を楽しみつつよりロングライフの恩恵にあやかれるというわけで、どちらに転んでもありがたい話である。
 春のシーズンインに向けてニュータイヤを検討する時期にきているだろう。公道メインで楽しく走りたい人にはパワー6を、そして一度でもサーキット走行を考えているのならば、パワーGP2(もしくはパワーGPでも良いかも知れないが)を試していただきたい。
 

パワー6は新たに軽量車向けのサイズもラインナップ。パワーGPと比べてしまうとかなりツーリングタイヤ寄りの性格に感じていたパワー6だが、しかしこの軽量車向けのサイズはグッとスポーティな味付けとなっていた。CBR250RRでもニンジャ250でも相性はとても良く、CBR650Rの時よりも格段に積極的に走らせることができたのだった。パワー6はこの軽量車向けラインナップが新たに加わったことが大きなトピックに思える。


| 『ミシュランの新・パワーシリーズ試乗インプレッション記事(2020年)』へ |



| ミシュランのWebサイトへ |

 





2024/02/23掲載