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レース・イベント



●文・写真:西村 章

 最終戦バレンシアGPを終えたリカルドトルモサーキットでは、レース翌日の月曜にMoto2とMoto3クラスのテストが、そして火曜にはMotoGPクラスの2024年シーズンに向けたテストが実施された。

 今までならレース翌日に一日の休養を置いて火曜と水曜にテストを行う、というスケジュールが慣例だった。だが、今年の場合は2024年から中小排気量のタイヤサプライヤーがダンロップからピレリへ変更になるため、そのタイヤテストという名目で事後テストを実施することになった。

 また、MotoGPクラスの事後テストも新型コロナウイルス感染症のパンデミック前は火曜と水曜の2日間に渡って行われることが通例だったが、レースを増やしてテスト日数を減らすという近年の傾向に加え、そもそもあと数日で12月という事実上の冬場でもあるだけに、今回は一日限りの日程で行われた。そもそもついでに言うならば、11月上中旬に最終戦が行われていた時期でも、その翌々日にテストを行うのはあまりに冷えたコンディションで良いテストにならない、という声が多く、それを受けてアンダルシア地方のヘレスで行ったときもあったのだが、あの頃のコンプレインはいったいどうなってしまったのでしょうね。

 というのはともかくとして、月曜の中小排気量クラステストでは、Moto2クラスへステップアップする佐々木歩夢(Correos Prepago Yamaha VR46 Team)と長年過ごしたIDEMITSU Honda Team Asiaを離れてMT Helmets-MSIへ移る小椋藍、Moto3クラスでも移籍組の山中琉聖(MT Helmets-MSI)と鈴木竜生(Liqui Moly Husqvarna Intact GP)たちに注目をしてみた。

 2023年最終戦を優勝して気持ちよくシーズンを締めくくった佐々木は、初乗りのMoto2バイクへの慣熟走行に一日を費やし、総合ではトップタイムの選手から2.581秒差で終えた。

「まあまあ、予想どおりでした。トップと2秒くらいの差で終われれば上等かなと思っていて、実際にそれくらいのタイム差だったので、そこはよかったと思います。今日がホントに初めての大きいバイクでしたが、ブレーキングポイントはつっこめているし、あとはそこからタイヤをスピンさせながら曲げていく方法を学ぶのが冬休みの課題です。

 バイクを重くは感じなかったけど、停めるときのGフォースはMoto3よりも全然大きかったのでもっとスタミナをつけなければならないし、体重もあと3kgくらいは上げたいので、もっとトレーニングをして筋肉量を増やしたいと思います」

 ちなみに、佐々木はMoto3時代に71番をバイクナンバーに使用していたが、Moto2クラスではすでに使用している選手がいるため、2024年はアジアタレントカップ時代にも使用した22番で戦う。

#22
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※以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。

 小椋藍は一日の走行を終えて、1.055秒差で総合21番手タイム。2022年に最終戦までタイトル争いを続けた小椋は、2023年シーズン開幕前にチャンピオン候補に挙げられていたものの、冬のトレーニングで手首を骨折したためにシーズン序盤を棒に振ってしまった。

「来年は、最初の5戦くらいはまずしっかりといい位置で完走してシーズンの出足でリズムに乗れればなあ、と思います。今年は開幕戦に出られてなかったので、出足も何もなかったっすからね」

 と苦笑。2024年はタイヤがピレリへ変わることに加え、チームの移籍で車体もKalexからボスコスクーロへ変更になる。

「細かいところは違うけどまったく違うというわけでもないので、その細かいところを把握して、あとは限界で走るということについてはKalexと同じですね」

 また、少年時代から切磋琢磨してきた佐々木がステップアップしてくることも、様々な意味で期待を感じているようだ。

「もともと速いライダーだしMoto3でチャンピオン争いをしていたから、Moto2でもすぐ速くなると思います。Moto2には日本人選手があまりいなくてふだんは情報の共有ができないから、その面でも歩夢がきてくれるのはいいですね。歩夢は自分からしたら負けてはいけない存在になるし、いい刺激になると思います」

#79
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 Moto3クラスでは、山中琉聖が2年前に所属していたチーム、MT Helmets-MSIへ戻る恰好になった。ピレリを経験するのはこれが初めてで、この日のテストは限界を探りながらの走行になったと話す。

「モンメロのテストで乗っていた選手も多いけど、自分は今回が初めて。ラップタイムはあまり良くなかったんですが、最後のほうはだいぶ乗りかたがわかってきたので、いいテストになりました。今日は、自分の乗りかたをピレリタイヤに調整するのをメインにやったので、それもいい方向に進んだのでよかったと思います」

 昨年所属していたチームへ戻ったことで居心地もいい、という。

「クルーチーフは新しい人になったけど相性もいいし、2024年はいいシーズンになると思います。ピレリタイヤに早く順応できるように、冬の間に日本でしっかりトレーニングをします」

#6
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 鈴木竜生が移籍するのは、今年佐々木歩夢が所属していたチームだ。今年の日本GP後に2023年の所属先であるLeopard Racingのシートを喪失することになったため、8週間ぶりの走行になった。

「(チームを離れて)家にいた期間ももちろんトレーニングをして準備を進めていたんですが、Moto3バイクのトレーニングはMoto3バイクに乗らないとできないところも、やはりいろいろとあります。2023までホンダで、今年からはハスクバーナ(KTM)でタイヤも新しくピレリになってチームも変わって、と何もかもが初めて尽くしなので、今日はチームと一緒に作業するフィーリングを確かめつつリラックスして走り、とくにタイムを追いかけるわけでもなく、リハビリのような一日でしたね」

 Leopard Racingといえば鈴木がシートを喪失した後に別のライダーを採用し、カタールGPの際には世界中で物議を醸したことは記憶に新しい。だが、そのレースはじつは見ていなかったのだという。

「時差があったので、カタールのレースはイタリアで朝方だったんですよ。自転車トレーニングから帰ってきてSNSをチェックしてみたら、いろんな国のレースファンの人たちからものすごい量のメッセージが届いていて、『チームがタツキをクビにした理由がようやくわかった』みたいな内容。それからレースのハイライト映像をちょっと見てみたんですけど……。

 アスリート目線、ライダー目線からすると、あそこまでさせた歩夢もすごいと思うんですよ。Leopardがチーム一丸となってああいうことをする状況に追い込んだ歩夢の実力は本当にすごい。すごいんですけど、現実的な話をすると、10年後20年後にはマシアがチャンピオンで歩夢が2位、という結果だけが残って、彼がどういうふうに勝ったかということなんて多くの人が忘れてしまうんですよ。その意味ではレースは非情な世界だから、結果がすべて。

 だから、なんともコメントに困るんですよ。同じ日本人ライダーとしては残念だし、歩夢の立場になったら悔しいだろうなとも思う。もちろん、自分ならあんなことは絶対にしない。唯一言えるとしたら、あれをマシアがひとりでやっていたのなら、ダーティだけど、『まあ、そういうこともするんだろうな』とも思うけど、そこにチームメイトが絡んできたからややこしいんですよ」

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 シートを喪失した理由はチームがこの展開を視野に入れていたからだろう、とも言われるが、鈴木自身は、そこは自分にはわからないことだ、と判断を留保する。

「いい加減なことは自分の口からは言えないし、たとえ何らかの意図があったとしても、それを僕には報せていないのでわかるすべがないんですよ」

 翌日の火曜は、MotoGPクラスのテストが午前10時から午後5時まで行われた。

 Moto2からステップアップしてくるのは、ペドロ・アコスタ(GASGAS Factory Racing Tech3)1名のみ。チームを移る移籍組はマルク・マルケス(Gresini Racing MotoGP/Ducati)、ファビオ・ディ・ジャンアントニオ(Mooney VR46 Racing Team/Ducati)、ルカ・マリーニ(Repsol Honda Team)、フランコ・モルビデッリ(Prima Pramac Racing)、ヨハン・ザルコ(CASTROL Honda LCR)、アレックス・リンス(Monster Energy Yamaha MotoGP)。

 2024年マシンのプロトタイプを試した選手たちはいずれも好感触を訴え、チームを移った選手たちも揃って新たな環境の良好さを話す。この段階で厳しい言葉を述べるようでは先が思いやられるし、そもそもこの時期のコメントはある程度話半分の社交辞令的なものとして聞いておいたほうがいい、ともいえる。さらに、移籍組の選手たちは移籍元との既存契約などの関係で取材対応できない場合が多い。投入されるマテリアルという点でもコンディションという点でも、本格的なテストとその評価は、やはり年明けのマレーシア・セパンまで待つべきだろう。

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 とはいえ、今回のテストからひとつハッキリとわかることは、マルク・マルケスはやはり図抜けた才能を持っている、という事実だ。

 マルケスはホンダとの契約が年末まで残っているため、このテストではメディア取材に応じず、初乗りのドゥカティについてもコメントをしていない。しかし、昼下がりの午後3時半にはトップタイムを記録し、一日の走行を終えた総合順位でも4番手につけた。ずっとホンダに乗ってきたマルケスが、初めて乗るドゥカティでたった42周しただけで全体のトップタイムを記録した、ということの意味は大きい。

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#バレンシア・ポストシーズンテスト

 この日のテストで得たフィードバックを受けて、各メーカーはどのように開発を進め、年明けのセパンテストではどんなマシンが登場してライダーたちはそれをどう使いこなして走るのか。新たなコンセッションルールが適用される2024年シーズンは、マレーシアのシェイクダウンテストまで9週間。

 というわけで長かった2023年、テスト的にはすでに2024シーズンなわけですが、関係者の皆様もファンご一同様も、ひとまずはおつかれさまでした。

 2024年は、さらにエキサイティングでスリリングで健全な興奮に充ちた一年になりますように。では。

(●文・写真:西村 章)


#MotoGPでメシを喰う
【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」優秀賞受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」と「MotoGP 最速ライダーの肖像」、レーサーズ ノンフィクション第3巻となるインタビュー集「MotoGPでメシを喰う」、そして最新刊「スポーツウォッシング なぜ<勇気と感動>は利用されるのか」(集英社)は絶賛発売中!


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2023/11/29掲載