Facebookページ
Twitter
Youtube

試乗・解説

パラレルツインエンジンを搭載した新世代ハーレーは とにかく楽しいコンパクトスポーツモデルだった
■試乗・文:河野正士 ■写真、取材協力:ハーレーダビッドソンジャパンhttps://www.harley-davidson.com/jp/ja/index.html




ハーレーダビッドソンは、普通自動二輪免許で乗ることができる「X350」と、その兄弟モデルである「X500」の国内販売を開始。歴史あるアメリカンブランドに、再び小排気量モデルをラインナップすることとなった。Xシリーズと名付けられた、そのハーレーダビッドソンの新世代モデルはいかなるものか。国内試乗会で感じた、2台の印象をお伝えする。

 ハーレーらしさって何だっけ? で、それって要るの? ハーレーダビッドソン(以下HD)が国内での発売を開始した小排気量モデル「X350」と「X500」を東京都内で走らせたときに、そう考え込んでしまった。HDはこれまで、空冷V型2気筒OHVエンジンから脱却し、アメリカを中心とした自社の販売構成から抜け出し、新しいマーケットで存在感を高めてHDブランドを再構築しようと、何度となくトライした。しかしそのたびに、そのプロダクトはHDらしくないと市場に受け入れられず、その試みは開かずの間へと葬られてきた。

 現在HDの新しい世界を構築しようとしている、水冷V型2気筒DOHCのエボリューションマックスエンジンを搭載する、パンアメリカやスポーツスターS&ナイトスターは、2017年に発表された「More Road」と名付けられた中長期の経営戦略の中でアナウンスされた、新しい市場を開拓するために開発された次世代HDを謳う各モデルたちだ。今回国内販売がスタートした「X350」と「X500」も、その「More Road」のなかで発表された新世代HDモデル群の中にいた。
 

 
 その後、感染症の世界的な拡大と、アメリカ市場における販売不振を引き金とする経営陣の一新などにより中長期販売戦略は「More Road」→「Rewire」→「Hardwire」へと変更になり、電動バイクを含む次世代HDの世界戦略モデルの開発やその市場投入などのタイムスケジュールは、「More Road」から大きく変更された。そして当初のスケジュールから約3年遅れで、日本を含むアジア・オセアニア市場で「X350」と「X500」が発表されたというわけだ。現在HDのWEBサイトを見ると、日本、中国、オーストラリアのみにXシリーズが紹介されている。今後、どの地域にXシリーズが投入されるのかも注目したい。
 

X500。500ccモデルとしてはコンパクトだが、次世代HDを謳うコンパクトモデルなら、X350並の、より小さな車体にチャレンジしても良かったのではないかと考えてしまう。しかし現状でも、十分に楽しめる。新旧スポーツスターともまるで違う、ネイキッドスポーツモデルである。

 
 これは余談だが、日本で「X350」「X500」が発表される直前、HDはインドの大手二輪車ブランド/Hero Moto Corpと共同開発した「X440」を発表した。空冷単気筒エンジンを搭載したその車両は、Hero Moto Corpで生産され、Hero Moto Corpの販売チャンネルを活かして、インド国内のみで販売される。HDは「Street500/750」でインド進出を果たしたが、思うような成果が得られず2020年9月に、Streetシリーズを生産していた工場とともにインド市場から撤退。その直後に、現CEOのヨッヘン・ツァイツがHero Moto Corpと車両開発とロジスティクスに関する提携にサインしたのだ。巨大な市場を持ちながら、その特殊性によりどのブランドも苦戦するインド市場において、絶対に連敗できないHDは、インドの最大手と手を組んだというわけだ。

 したがって「X350」「X500」は、インド以外のアジア地域を中心に市場投入される。この小排気量カテゴリー進出にあたってHDが手を組んだのが、中国の二輪車大手/Zhejiang QJmotorだ。彼らは自社ブランドの「QJmotor」に加え、イタリアの老舗ブランド「Benelli」、さらにはアジアや欧州などで販売する「Keeway」など複数のブランドを持つ巨大な企業だ。いまやBenelliの中間排気量アドベンチャーモデルは、欧州でトップセールスを記録するほどに成長しているし、そのプラットフォームはMVアグスタも採用している。海外メディアでは、MVアグスタのプラットフォームを活用したスーパースポーツモデルを、「QJmotor」ブランドで開発しているスパイショットまで出回っている。またロードレース世界選手権MotoGPのMoto2クラスにはQJmotorブランドで参戦。世界各地のあらゆる市場とカテゴリー、さらにはレースシーンにおいても、その影響力を強めているブランドなのだ。
 

X350。日本車的小排気量ネイキッドスポーツだ。ハンドルは手前に引かれていて、日本人好み。足着き性も良い。個人的にはシート座面の形状とバックステップ過ぎるライポジが気になった。また首都高速の継ぎ目などを通過すると、サスペンションの速い動きをダンパーが吸収しきれていない。

 
「X350」「X500」は、そのZhejiang QJmotorと共同開発し、中国で生産されるモデルだ。ベースとなるのは、Benelliブランドで世界展開するTNT302SとLeoncino500。ともに360度クランクを持つ並列2気筒エンジンを搭載するが、両車はキャラクターが異なる。しかしHDは、「X350」にはHDの歴史的な市販レーシングマシン/XR750をイメージソースとしたスタイリングを、「X500」には空冷スポーツスターのようなスタイリングを与え、ともにHDのスポーツカテゴリーを想起させるスタイルでまとめ上げた。またエンジンも、ボアストローク比などは異なるが、360度並列2気筒らしい特性を前面に押し出すことで、Xシリーズとしてのキャラクターをうまくまとめ上げている。

 とくに気に入ったのはエンジンの出力特性だ。いまほとんどの250ccクラスの並列2気筒エンジンは180度クランクを、500ccを越える並列2気筒エンジンは270度クランクを採用している。360度クランクを採用した並列2気筒エンジンを採用するのはカワサキW800だけ。並列という縛りを解いても、BMWのRシリーズのみとなる。

 等間隔爆発の並列2気筒エンジンは、滑らかな回転上昇と加速が特徴だ。不等間隔爆発の2気筒エンジンは、低中回転域で唐突で力強いシリンダー内爆発を感じ、それが力強いというフィーリングに繋がる一方、扱いづらさに変化してしまうこともある。低回転域でギクシャクしてしまう理由に、不等間隔爆発の特性があることもあるのだ。
 

 
 その点、「X350」「X500」は、ともに低回転域でも扱いやすい。パワーがありレスポンスの良い「X500」では、街中でもさっさと3速か4速にシフトを上げ、あとはアクセル操作だけでクルマの流れを十分にリードできる。首都高速では、3速以上を使っていれば、どのギアを使ってもかなり速く走れてしまう。

「X350」も、基本的には500と同様のエンジンフィーリングだが、350の方がより高回転型だ。排気量が小さいこともあり、首都高速を走れば、どのギアを使ってもX500より1500~2000回転ほどエンジンを回して走ることになる。しかしそれでも、その伸びやかなエンジンは気持ちが良い。そしてしっかりエンジンを回せば、しっかり速い。排気量350ccの2気筒エンジンなんて、エンジン回転ばかり高くなって車体が前に出ないんじゃないか、なんてことは杞憂だった。そして、車体がしっかり前に出て行く力強さは、低回転を多用する街中でも変わらなかった。

 このエンジンの上も下もしっかり使え、なおかつ反応の優しいエンジンは、たしかにバイク初心者や大型バイク初心者には大きなメリットとなるだろう。しかし同様に、いまや絶滅危惧種的な存在となった360度クランク採用の並列2気筒エンジンは、ベテランライダーにとってもそれを味わう絶好の機会であり、好き者たちが“なるほどねぇ”なんて膝を打ち、アゴをつまんで遠くを見上げるくらい、楽しめるエンジンになっている。
 

 
 と、ここまで書いたところで、冒頭のお悩み、ハーレーらしさって何だっけ? で、それって要るの? である。試乗前は、最小排気量とはいえHDなわけだから、HDらしさはどこかになきゃいけないし、「X350」「X500」のどこにそれがあるのだろうか、と考えていた。しかし試乗が終われば、なかなかに楽しいモデルだったという感想がアタマの中の大半を占めている。もちろん車体周りやポジションなど、気になるところも少なからずある。が、そんなことより、HDにもこんなモデルがラインナップされるようになったんだ、と素直に受け入れられてしまったのだ。それくらい「X350」「X500」はまとまっていたし、幅広いキャリアのライダーがシンプルに楽しめるバイクだった。

 日本でのデリバリーがスタートするのは11月後半から12月初旬。HDのWEBサイト上ではすでに大きな反響を得ているという。HDの新世代モデルが、日本のほか世界中でどのような反応を得るのか。いまから大いに楽しみである。
(試乗・文:河野正士、写真:ハーレーダビッドソンジャパン)
 

 

モダンなネイキッドモデルのような佇まいのX500。スチールパイプを組み合わせたフレームは、スイングアームピボット外側にスイングアームをセット。ワイドなハンドルは、ほぼ真っ直ぐに立ち上がった短いハンドルライザーにセットされるため、身長170cmの筆者が跨がると、肘がやや伸びるハンドル位置となる。

 

エンジンは360度クランクを採用した水冷並列2気筒DOHC4バルブ。フレームやエンジンは、ベースモデルとなるBenelli Leoncino500と共有しながら、出力特性や電子制御デバイスのプログラム、前後足周りのセッティングをX500専用にアレンジされている。
容量約13リットルの燃料タンク。X500はエンジン上部を囲むような幅広いフレームレイアウトを採用することから、旧スポーツスターが搭載したような小振りなタンクは採用できない。

 

クラシカルなスポーツスターを彷彿とさせるX500の一体型タンデムシート。身長170cmの筆者が跨がっても足着き性は良好だが、ライダーシートもピリオンシートも、座面が後ろ下がりで、尻がシートにハマってしまって自由度が少ない。
短くカットしたボバースタイルのリアフェンダー、それに真っ直ぐ伸びたフェンダーストラットなど、クラシカルなスポーツスターのような、軽快なイメージを構築したリア周りはX500の特徴的なスタイルだ。

 

X500はインナーチューブ径50mmの倒立フォークに、直径320mmのブレーキディスクをダブルで装備。4ポッドのブレーキキャリパーをラジアルマウントする。
X500はシンプルなフェンダー周りを実現するため、ナンバープレートやナンバー灯は、スイングアームから伸びるトラスフレームのナンバープレートホルダーにセットされる。

 

歯切れの良い排気音を奏でるアップタイプのX500のサイレンサー。前後17インチのホイールにはMAXXIS製タイヤが標準装備されていた。
スイングアームピボットのすぐ下に配置されたX500のステップ。シートとの距離や位置も良く、リラックスしたライディングポジションを採ることができる。ステップ周りのデザインもモダンに仕上げられている。

 

コンパクトなX350。モチーフにしたXR750的スタイルを実現するため、存在を消すブラックアウトした樹脂パーツを駆使する、トレンドのボディデザインを採用する。実車はまとまりが良く、違和感を感じない。

 

スポーティでモダンな形状のX350の燃料タンク。ニーグリップ部分のフィット感が良く、コンパクトな車体をさらに小さく感じさせている。
強いキャラクターラインと、張りのある面を駆使したボリューム感のあるX350のシートカウル。ライダーシートとピリオンシートの落差が大きく、またライダーシートの座面がリア下がりであることから、やや自由度が少ない。

 

大きく前傾したX350 のエンジン。X500よりも前傾していることが分かる。エンジン形式は360度クランク採用の水冷並列2気筒DOHC4バルブ。Benelli TNT302Sをベースにしながら、X350 独自のセッティングが施されている。トレリスフレームを採用し、そのフレーム内側にスイングアームをセットする。
灯火類は、X350とX500ともに、すべてLED化されている。ハンドルは、大きく手前に引かれたハンドルライザーによってセットされているためグリップ位置が近く、日本人に馴染みのあるネイキッドモデルに近い位置にグリップがある。

 

X350は、インナーチューブ径41mmの倒立フォークに、ウェイブタイプのブレーキディスクをダブルでセット。4ポッドキャリパーを組み合わせている。HDのサイトに掲載されているX350は海外仕様で、日本仕様よりも約40mmシート高が高い。日本仕様は、前後サスペンションを調整し、シート高を下げているという。
スチールパイプを組み合わせたX350のスイングアーム。ボックス型のサイレンサーはエンジン下に配置され、排気口は細めだが、X500にも負けないほど迫力がある排気音を奏でる。

 

Xシリーズ共通のシンプルなメーターパネル。針式のスピードメーターの中に、インジケーターと、距離計や時計、エンジン回転計などを切り換えて表示するデジタルディスプレイをセット。
X350のステップ位置。スイングアームピボットよりもかなり後ろにあることが分かる。グリップやシートの位置からするとやや後ろ過ぎる印象だ。

 

HARLEY-DAVIDSON X500主要諸元
■エンジン種類:水冷4スト並列2気筒DOHC4バルブ ■総排気量:500cm3 ■ボア×ストローク:69×66.8mm ■圧縮比:11.5 ■最高出力: 35kW(47HP)/8500rpm ■最大トルク:46Nm/6000rpm■全長×全幅×全高:2,135×─×─mm■軸間距離:1,485mm■シート高:820mm ■車重:208㎏ ■燃料タンク容量13.1L ■変速機:6段リターン ■ブレーキ(前・後):ダブルディスク・シングルディスク ■タイヤ(前・後):120/70-ZR17/58W・160/60-ZR17 ■車体色:ドラマティックブラック、ダイナミックオレンジ、スーパーソニックシルバー、パールホワイト ■車両本体価格(税込):839,800円

 

HARLEY-DAVIDSON X350主要諸元
■エンジン種類:水冷4スト並列2気筒DOHC4バルブ ■総排気量:353cm3 ■ボア×ストローク:70.5×45.2mm ■圧縮比:11.9 ■最高出力: 27kW (36HP)/8500rpm ■最大トルク:31Nm/7000rpm ■全長×全幅×全高:2,110×─×─mm ■軸間距離:1,410mm ■シート高:777mm ■車重:195㎏ ■燃料タンク容量13.5L ■変速機:6段リターン ■ブレーキ(前・後):ダブルディスク・シングルディスク ■タイヤ(前・後):120/70 ZR17 R・160/60 ZR17 ■車体色:ドラマティックブラック、ダイナミックオレンジ、スーパーソニックシルバー、パールホワイト:■車両本体価格(税込):699,800円

 



| 『CVO STREET GLIDE / ROAD GLIDE試乗インプレッション記事』へ |


| 『STREET BOB114試乗インプレッション記事』へ |


| 『Sporster Sの試乗インプレッション記事』へ |


| 『Breakoutの試乗インプレッション記事』へ |


| Harley-DavidsonのWebサイトへ |

2023/10/31掲載