ハーレーダビッドソンは、普通自動二輪免許で乗ることができる「X350」と、その兄弟モデルである「X500」の国内販売を開始。歴史あるアメリカンブランドに、再び小排気量モデルをラインナップすることとなった。Xシリーズと名付けられた、そのハーレーダビッドソンの新世代モデルはいかなるものか。国内試乗会で感じた、2台の印象をお伝えする。
ハーレーらしさって何だっけ? で、それって要るの? ハーレーダビッドソン(以下HD)が国内での発売を開始した小排気量モデル「X350」と「X500」を東京都内で走らせたときに、そう考え込んでしまった。HDはこれまで、空冷V型2気筒OHVエンジンから脱却し、アメリカを中心とした自社の販売構成から抜け出し、新しいマーケットで存在感を高めてHDブランドを再構築しようと、何度となくトライした。しかしそのたびに、そのプロダクトはHDらしくないと市場に受け入れられず、その試みは開かずの間へと葬られてきた。
現在HDの新しい世界を構築しようとしている、水冷V型2気筒DOHCのエボリューションマックスエンジンを搭載する、パンアメリカやスポーツスターS&ナイトスターは、2017年に発表された「More Road」と名付けられた中長期の経営戦略の中でアナウンスされた、新しい市場を開拓するために開発された次世代HDを謳う各モデルたちだ。今回国内販売がスタートした「X350」と「X500」も、その「More Road」のなかで発表された新世代HDモデル群の中にいた。
その後、感染症の世界的な拡大と、アメリカ市場における販売不振を引き金とする経営陣の一新などにより中長期販売戦略は「More Road」→「Rewire」→「Hardwire」へと変更になり、電動バイクを含む次世代HDの世界戦略モデルの開発やその市場投入などのタイムスケジュールは、「More Road」から大きく変更された。そして当初のスケジュールから約3年遅れで、日本を含むアジア・オセアニア市場で「X350」と「X500」が発表されたというわけだ。現在HDのWEBサイトを見ると、日本、中国、オーストラリアのみにXシリーズが紹介されている。今後、どの地域にXシリーズが投入されるのかも注目したい。
これは余談だが、日本で「X350」「X500」が発表される直前、HDはインドの大手二輪車ブランド/Hero Moto Corpと共同開発した「X440」を発表した。空冷単気筒エンジンを搭載したその車両は、Hero Moto Corpで生産され、Hero Moto Corpの販売チャンネルを活かして、インド国内のみで販売される。HDは「Street500/750」でインド進出を果たしたが、思うような成果が得られず2020年9月に、Streetシリーズを生産していた工場とともにインド市場から撤退。その直後に、現CEOのヨッヘン・ツァイツがHero Moto Corpと車両開発とロジスティクスに関する提携にサインしたのだ。巨大な市場を持ちながら、その特殊性によりどのブランドも苦戦するインド市場において、絶対に連敗できないHDは、インドの最大手と手を組んだというわけだ。
したがって「X350」「X500」は、インド以外のアジア地域を中心に市場投入される。この小排気量カテゴリー進出にあたってHDが手を組んだのが、中国の二輪車大手/Zhejiang QJmotorだ。彼らは自社ブランドの「QJmotor」に加え、イタリアの老舗ブランド「Benelli」、さらにはアジアや欧州などで販売する「Keeway」など複数のブランドを持つ巨大な企業だ。いまやBenelliの中間排気量アドベンチャーモデルは、欧州でトップセールスを記録するほどに成長しているし、そのプラットフォームはMVアグスタも採用している。海外メディアでは、MVアグスタのプラットフォームを活用したスーパースポーツモデルを、「QJmotor」ブランドで開発しているスパイショットまで出回っている。またロードレース世界選手権MotoGPのMoto2クラスにはQJmotorブランドで参戦。世界各地のあらゆる市場とカテゴリー、さらにはレースシーンにおいても、その影響力を強めているブランドなのだ。
「X350」「X500」は、そのZhejiang QJmotorと共同開発し、中国で生産されるモデルだ。ベースとなるのは、Benelliブランドで世界展開するTNT302SとLeoncino500。ともに360度クランクを持つ並列2気筒エンジンを搭載するが、両車はキャラクターが異なる。しかしHDは、「X350」にはHDの歴史的な市販レーシングマシン/XR750をイメージソースとしたスタイリングを、「X500」には空冷スポーツスターのようなスタイリングを与え、ともにHDのスポーツカテゴリーを想起させるスタイルでまとめ上げた。またエンジンも、ボアストローク比などは異なるが、360度並列2気筒らしい特性を前面に押し出すことで、Xシリーズとしてのキャラクターをうまくまとめ上げている。
とくに気に入ったのはエンジンの出力特性だ。いまほとんどの250ccクラスの並列2気筒エンジンは180度クランクを、500ccを越える並列2気筒エンジンは270度クランクを採用している。360度クランクを採用した並列2気筒エンジンを採用するのはカワサキW800だけ。並列という縛りを解いても、BMWのRシリーズのみとなる。
等間隔爆発の並列2気筒エンジンは、滑らかな回転上昇と加速が特徴だ。不等間隔爆発の2気筒エンジンは、低中回転域で唐突で力強いシリンダー内爆発を感じ、それが力強いというフィーリングに繋がる一方、扱いづらさに変化してしまうこともある。低回転域でギクシャクしてしまう理由に、不等間隔爆発の特性があることもあるのだ。
その点、「X350」「X500」は、ともに低回転域でも扱いやすい。パワーがありレスポンスの良い「X500」では、街中でもさっさと3速か4速にシフトを上げ、あとはアクセル操作だけでクルマの流れを十分にリードできる。首都高速では、3速以上を使っていれば、どのギアを使ってもかなり速く走れてしまう。
「X350」も、基本的には500と同様のエンジンフィーリングだが、350の方がより高回転型だ。排気量が小さいこともあり、首都高速を走れば、どのギアを使ってもX500より1500~2000回転ほどエンジンを回して走ることになる。しかしそれでも、その伸びやかなエンジンは気持ちが良い。そしてしっかりエンジンを回せば、しっかり速い。排気量350ccの2気筒エンジンなんて、エンジン回転ばかり高くなって車体が前に出ないんじゃないか、なんてことは杞憂だった。そして、車体がしっかり前に出て行く力強さは、低回転を多用する街中でも変わらなかった。
このエンジンの上も下もしっかり使え、なおかつ反応の優しいエンジンは、たしかにバイク初心者や大型バイク初心者には大きなメリットとなるだろう。しかし同様に、いまや絶滅危惧種的な存在となった360度クランク採用の並列2気筒エンジンは、ベテランライダーにとってもそれを味わう絶好の機会であり、好き者たちが“なるほどねぇ”なんて膝を打ち、アゴをつまんで遠くを見上げるくらい、楽しめるエンジンになっている。
と、ここまで書いたところで、冒頭のお悩み、ハーレーらしさって何だっけ? で、それって要るの? である。試乗前は、最小排気量とはいえHDなわけだから、HDらしさはどこかになきゃいけないし、「X350」「X500」のどこにそれがあるのだろうか、と考えていた。しかし試乗が終われば、なかなかに楽しいモデルだったという感想がアタマの中の大半を占めている。もちろん車体周りやポジションなど、気になるところも少なからずある。が、そんなことより、HDにもこんなモデルがラインナップされるようになったんだ、と素直に受け入れられてしまったのだ。それくらい「X350」「X500」はまとまっていたし、幅広いキャリアのライダーがシンプルに楽しめるバイクだった。
日本でのデリバリーがスタートするのは11月後半から12月初旬。HDのWEBサイト上ではすでに大きな反響を得ているという。HDの新世代モデルが、日本のほか世界中でどのような反応を得るのか。いまから大いに楽しみである。
(試乗・文:河野正士、写真:ハーレーダビッドソンジャパン)
■エンジン種類:水冷4スト並列2気筒DOHC4バルブ ■総排気量:500cm3 ■ボア×ストローク:69×66.8mm ■圧縮比:11.5 ■最高出力: 35kW(47HP)/8500rpm ■最大トルク:46Nm/6000rpm■全長×全幅×全高:2,135×─×─mm■軸間距離:1,485mm■シート高:820mm ■車重:208㎏ ■燃料タンク容量13.1L ■変速機:6段リターン ■ブレーキ(前・後):ダブルディスク・シングルディスク ■タイヤ(前・後):120/70-ZR17/58W・160/60-ZR17 ■車体色:ドラマティックブラック、ダイナミックオレンジ、スーパーソニックシルバー、パールホワイト ■車両本体価格(税込):839,800円
■エンジン種類:水冷4スト並列2気筒DOHC4バルブ ■総排気量:353cm3 ■ボア×ストローク:70.5×45.2mm ■圧縮比:11.9 ■最高出力: 27kW (36HP)/8500rpm ■最大トルク:31Nm/7000rpm ■全長×全幅×全高:2,110×─×─mm ■軸間距離:1,410mm ■シート高:777mm ■車重:195㎏ ■燃料タンク容量13.5L ■変速機:6段リターン ■ブレーキ(前・後):ダブルディスク・シングルディスク ■タイヤ(前・後):120/70 ZR17 R・160/60 ZR17 ■車体色:ドラマティックブラック、ダイナミックオレンジ、スーパーソニックシルバー、パールホワイト:■車両本体価格(税込):699,800円
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