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レース・イベント



●文:西村 章 ●写真:MotoGP.com/Gresini Racing/Husqvarna Motorcycles/Marc VDS Racing Team

 いやそれにしても、いろんな意味でいろいろと予想外のことが起こった週末でしたね。第16戦オーストラリアGPの舞台フィリップアイランドサーキットは、カメラ越しに映る海のきらめきや青い空に舞うカモメ等々、まさに風光明媚を絵に描いたようなコースとして人気が高い開催地だけれども、その一方では天候の不安定さでもよく知られた地である。

 今回も、走行前の木曜段階から決勝日は風雨、とくに強風で大荒れになるとの予報で、それが大きな話題にもなっていた。その対応として決勝レースを土曜午後に繰り上げ、本来は土曜午後に行うスプリントを日曜へ振り替える、という対応策が金曜午後に発表された。午前に予選(Q1とQ2)を行って午後にレース(スプリント)、というスケジュールは開幕戦ポルティマオ以来慣れているはずなのに、そのレースがスプリントではなくフルディスタンスの決勝レースになると途端にせわしなくなる印象があるのは、やはりスプリントと決勝レースが持つ重みの違いゆえなのでしょうね、おそらくは。

 ともあれ予選を終えて、ポールポジションはホルヘ・マルティン(Prima Pramac Racing)。2番グリッドにBBことブラッド・ビンダー(Red Bull KTM Factory Racing)、3番グリッドにフランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)という顔ぶれ。特にマルティンは金曜午前の走り出しから相変わらず図抜けた速さを披露しており、前戦決勝での転倒という失策から立ち直り、ふたたび〈追う者〉の強さを発揮し始めているようにも見えた。一方の〈追われる者〉バニャイアは王道の安定感というべきか、死角がないとは言わないまでもソツのない高いまとまりを感じさせた。

 で、決勝レースがスタート。マルティンはいつものように目の醒めるようなスタートで1周目からぐいぐい後続を引き離しにかかる暴走機関車というか、笑うシューマッハ手にゆうせん状態(←古い)。大きくリードしているさなかに転倒を喫した前回の教訓を肝に銘じているのか、今回は後方に大差を築いている最中も細心の慎重さを保ち続けているようにも見えた。ただ、気になるのは上位陣で唯一、リアタイヤにソフトコンパウンドを選択していること。他のライダーたちは揃ってミディアムコンパウンドで、この違いが終盤周回になってハッキリとラップタイムに現れはじめた。

 一時は3秒以上開いていた差がわずか数周で一気に縮まって、後方からビンダー、バニャイア、そしてファビオ・ディ・ジャンアントニオ(Gresini Racing MotoGP/Ducati)、ヨハン・ザルコ(Prima Pramac Racing/Ducati)が追い上げてきた。最終ラップはこのグループに完全に呑み込まれ、最後はザルコ、バニャイア、ディ・ジャンアントニオ、ビンダー、そしてマルティン、という順でゴール。この最終ラップはじつに見応えのある攻防で、なかでも特筆すべきは、猛烈な追い上げでMotoGP初優勝を果たしたザルコと、終始表彰台圏内を争ってついに最高峰クラス初表彰台を獲得したディッジャの走り。

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※以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。

 ザルコは、MotoGPへステップアップして7年目でようやく達成した優勝である。2017年開幕戦カタールGPでは1周目からトップを独走しながら7周目に転倒したとはいえ、鮮烈なデビューレースであったことは間違いない。以後、何度もトップ争いを繰り広げ、表彰台にもたびたび登壇してきたものの、優勝には届かないレースが続いた。今回は後方から追い上げて最後は激しいバトルを制してトップでチェッカーフラッグ、という王道の勝利である。

「本当に気分がいい。いつも全力でこれを掴み取りに行こうとしてきたけれども他のライダーたちがいて、彼らのほうがペースもよく、この感覚も彼らがモノにしていた。これを掴まない限り、レースに勝つことはできない。だからペコは3年前よりも勝つようになっていて、ドゥカティの速さを発揮して何勝も挙げている。今はホルヘも予選で素晴らしい仕上がりを見せて、レースをうまくコントロールする。だから(この勝利は)本当に特別だ」

 苦節何年、というわけではないにしても、これまで何度も届きそうで届かなかった優勝をようやく手にしたわけだから、喜びもひとしおだろう。

「ヘルメットの中で感情を爆発させたのかと訊ねられたけれども、万事とても落ち着いていた。『オーケイ、これだよ。やったよなあ』という感じで気分がよかった。それから少し気持ちが昂ぶりもしたけれども、多くのライダーたちが祝福してくれたことはとてもうれしかった。ヘルメットのバイザーを上げて、彼らの目を見ることができた。皆喜んでくれていたし、それがとても気分よかった」

 そして、ザルコ優勝時の定番、コースサイドのバク宙である。これを披露するのは2016年最終戦のバレンシアGP以来。

「ゴールラインを通過したときは念頭になかったけれども、(クールダウンラップで)数コーナー通過したら、やらなきゃいけないな、と思った。できないほど疲れきっているわけではなかったし、やってみることにした。地面がいい状態ではなかったので完璧(なパフォーマンス)ではなく、両手を着くことになったけれども、地面から2フィートほど高いところから着地することはできた。パルクフェルメでやろうかとも考えたけれども、前からやってきたように、観客の前でやるのがいいと思った」

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 2位のバニャイアは20ポイント獲得。マルティンは5位で9ポイント加算に終わったため、両者のポイント差はこれで27になった。マルティンがリアにソフトを装着し、自分たちはミディアムを選択していたことについては、レース後に以下のように話した。

「ソフトでレースできると考えたのは、唯一、ホルヘだけだった。昨日はたくさん周回していたし、タイムも非常に速かった。ただ、出たり入ったりした周回数は最大でも19周だったと思う。レースになると話は別で、序盤から大きなリードを作ったあとも、終盤までその差は維持できなかった。それは予測していたけれども、レース中は自分のリアタイヤ選択は正しいと信じて慎重に走り続けた。やがてブラッドとファビオ(ディ・ジャンアントニオ)が追い上げてくると、ムリせずに迫っていくことができた。これが正しい(タイヤ)選択だったし、適切な戦い方だった」

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 そして、初表彰台のディッジャである。前週のインドネシアでは、4位に入りベストインディペンデントライダー。そして今回は、2列目6番グリッドのスタートから終始上位グループを走行し続けて3位表彰台、とじつに見事なリザルトだ。

「楽しいレースだった。スタートがとてもうまくいって、序盤は難しかったけれども、リアタイヤをマネージするよう心がけながら、引き離されないように少しずつ攻めていった。やがてブラッドを捕まえてオーバーテイクし、引き離そうと思ったけれどもできなかった。風も少しあったので、(集団の)前にいるとなかなか攻められなかったけれども、いいレースをできた。週末を通して速さを発揮できたし、最後の7周は皆、タイヤが落ちてきたけれど、レースは安定して走ることができた。最終ラップは皆が入り乱れてちょっとMoto3時代に戻ったようで、勝利のチャンスが見えて抜きつ抜かれつの争いを楽しむことができた」

 それにしても、最高峰クラスで2年間苦戦してきた彼がここ2戦で好結果を見せるようになったのは、前回の当コラムでも紹介したとおり、まさに「ディーゼル」そのもののパフォーマンスである。

「もちろん最初から高い成績を収めるライダーたちもいるし、そこに到達するのに時間がかかることもある。ローマは一日にして成らず、と言うとおり、努力が必要だ。世界最高のライダーたちを相手に戦っているんだから、とにかく努力を続けて信じること。簡単なことではないけれども、信じてがんばり続ければ、報われるんだよ」

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 さて、表彰台を獲得した彼ら3名と対照的に、マルティンはラスト2周までずっとトップを走行しながら、最後は後方からの追い上げに呑み込まれて5位で終わってしまった。

「今となってはどれがベストの選択だったかわかるけれども、自分のプランでは100パーセント、ソフトで行こうと思っていた。その結果、うまく運ばなかったけれども、自分のパフォーマンスには満足している。スムーズにうまく走ることができたし、タイヤにも万全を期した。最終的にはうまくいかなかったとはいえ、これは今後の教訓にしたい」

 これはまずいな、と感じ始めたのはレースが終盤にさしかかりかけた頃だったという。

「ラスト7周で、後ろが0.4秒ほど詰めてきたので、これはまずいかもなと思った。だから攻めたけれども、うまく加速していかなかった。ブレーキングとコーナーでがんばったものの、リアタイヤにグリップが残っていなかったので、できるかぎり全力でフィニッシュしようとがんばった。その結果が5位、というリザルトだった」

「ソフトがベストの選択だと確信していたけれども、これから先はバクチをできないので、ライバルたちと同じタイヤを選ばなければならないと思う。シーズン残りはそれを心がけていきたい」

 今回の結果によりマルティンとバニャイアのポイント差は、上記のとおり27に広がった。とはいえ、まだ4戦8レースを残している。全レースを制すれば148ポイントを獲得できることを考えると、タイトル争いはまだ予断を許さない。マルティン自身も、諦めるそぶりはまったくない様子だ。

「自分が最速だったけれども、決勝での選択を誤ってしまえば意味がない。速さを発揮できたことには満足している。これで15位や10位という結果だとタイトル争いは望めないけれども、まだ戦える。自分次第なのでしっかりと集中して、今回のようなことにならければ、今シーズンはまだたくさん勝てると思う」

 そして、初優勝を飾ったチームメイトのザルコには以下のような言葉を贈った。

「勝利して当然だし、チームと彼のためにもうれしく思う。チームチャンピオンシップのタイトルも目前に迫っている。でも、僕が欲しいと思っているのはもうひとつのほうだ。そこは自分次第なので、クレバーな戦いかたでミスをしないように心がけたい」

#12

 ……という土曜の決勝レースから一夜明けた日曜は、朝から気象予報どおりの雨。安全を確認するために、Moto3、Moto2、MotoGPの全クラスが10分ずつのウォームアップを実施した。

 余談になるが、これを機に、来年からは全クラスとも決勝日朝のウォームアップセッションを行うスケジュールに戻してはどうだろう。MotoGPというイベントがプロフェッショナルスポーツビジネスである以上、「ライダーファンパレード」等のファンサービスに一定の意義は認めるけれども、とはいえこれまで各所で何度も述べてきたとおり、日曜午前という限られた時間の中で競技の安全性とファンサービスを天秤にかけるのであれば、どちらのほうがより大切かはいまさら言うまでもない。この点に関しては、開幕戦からの主張を変えるつもりはない。安全性を確認するセッションよりもライダーとファンの接触機会を増やすほうが重要だ、と考える方々からの批判や指弾はいくらでも受けます。

 さて、Moto3クラスの決勝は当初の予定よりも時間を繰り上げて10時にスタート。チャンピオンを争うジャウメ・マシア(Leopard Racing)、佐々木歩夢(Liqui Moly Husqvarna Intact GP)、ダニエル・オルガド(Red Bull KTM Tech3)は、それぞれ8位、2位、13位。2位表彰台で20ポイントを獲得した佐々木が、マシアと16まで開いていた差を4ポイントに詰めた。残り4戦。緊張感に充ちた彼らのチャンピオンを巡る戦いは、まだまだ先が見通せない。

#49
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 Moto2クラスは風雨が強くなり、全23周予定のレースは9周目に赤旗中断。天候が好転する兆しはなく、8周終了時の順位でレースが成立した。予定周回数の半分を終了していないため、入賞者のポイント数は本来の半分が与えられる。優勝したトニー・アルボリーノ(ELF Marc VDS Racing Team)はパルクフェルメのインタビューで

「こんなコンディションで走ったんだから、ポイントは半分じゃなくて、むしろ倍もらってもいいよね!」

 とジョークを飛ばしておりましたが、たしかにごもっとも。この後に行われる予定だったMotoGPクラスのスプリントも、とても実施できるような状況ではなく中止に。これも妥当な判断でしょう。

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 で、今週末はこの3連戦をひとまず締めくくるタイGP。舞台はブリラムのチャーン・インターナショナルサーキットで、シーズン屈指の盛り上がりを見せることは必至。というわけで、プラッチャヤー・ピンゲーオ監督とトニー・ジャーによろしく。

(●文:西村 章 ●写真:MotoGP.com/Gresini Racing/Husqvarna Motorcycles/Marc VDS Racing Team)


#MotoGPでメシを喰う
【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」優秀賞受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」と「MotoGP 最速ライダーの肖像」、そして最新刊のインタビュー集、レーサーズ ノンフィクション 第3巻「MotoGPでメシを喰う」は絶賛発売中!


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2023/10/23掲載