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試乗・解説

「なんか良いバイクない?」 に対する正しい答え こんな普通のバイクが欲しかった CL250
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:赤松 孝 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパンhttps://www.honda.co.jp/motor/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html




2010年ごろからだろうか。バイクは細に入り微に入るように進化してきたように思う。トレール車はよりコンペ車に、アドベンチャーはよりハードなアドベンチャーに、ネイキッドはよりストリートファイターに……。みんなその想定される使用環境を追求し続けてきているようで、逆に想定外の使用環境では我慢を強いるような場面も増えてきている気がする。そこにこのCLである。極めて普通。だがそれが良い。

FTR223の再来

 レブルの派生モデル、と言ってしまっては何だか申し訳ない気もするが、エンジンやフレームの大部分を共有する兄弟車として登場したCL。今再び人気となっているスクランブラーテイストは老若男女に受け入れられやすいルックスだろうし、そもそも「スクランブラー」というカテゴリーがそうであったように、何にでもまんべんなく使えるというスタンスを体現しているようで歓迎したい。
 こんなバイク、久しくなかったじゃないか、などと思いつつ回想すると、FTR223が近しい存在な気がする。無理のない乗車姿勢と日常的に使えるフレンドリーさ。FTRに比べると一回り車体は大きいものの、気兼ねなく走り出せる感覚は近いだろう。
 

 

都内散策ツーリングですっかり気に入る

 撮影の前夜、CLのメインの活躍の場であろうストリートでの適性を探ろうと、都内をグルグルとプチツーリングして回ったが、これが滅法いいのだ。確かにレブルに比べると大柄ではあるものの、その大柄さがハードルになるような感じはなくむしろ視点が高くて気持ちが良いだけでなく、交通の中での存在感も高まり安全にも感じた。
 大柄ゆえにポジションにも余裕があり、よくライディングフォームで言われる「胸の前に大きな球体を抱えるような」自然と余裕を持った形で乗っていることに気付く。走っている時のサイズ感もレブルよりも大きく、幹線道路を流している時は本当に余裕があって気持ちが良い。しかし反面、前後長が長めでハンドル切れ角も大きくはないため、厳しい渋滞路などではレブルほど小回りは効かない印象もあった。また足をついてヨチヨチ進むようなノロノロ渋滞では、ステップが妙に飛び出していてふくらはぎに当たる感じがあるため、そんな状況は得意とは言えないだろう。ただそんなことは慣れの範疇であり、堂々としたサイズ感でありながら軽快な車体は都内にさりげなくフィットしてくれた。
 

 
 これを支えてくれるのがエンジンで、レブルベースとしながらCRFのカムを使うことで中回転域を強化しているというそのユニットは、車体の性格によく合っていると感じられた。クラッチを繋いですぐの領域では決してエンストさせない確かな粘りを持っているし、その先のストリートで使うパタパタと流す回転数(タコメーターはないが、3000回転前後だろうか)ではむしろトルク感が薄まり、アクセルに対する反応はやや鈍いおかげでラフに扱ってもギクシャクせず、パタパタと進む感じはブレない。通常はこの領域だけで走っても十分だろうし、この領域ならば燃費も30km/Lを超えていたし、振動も排気音も静かでストレスフリーだ。
 一方で信号ダッシュや追い越し加速を決めたい時はその上の領域も確かにある。1速落とすなりして高回転域を使えばそこはさすがDOHCエンジン、しっかりとパワーバンドが存在し、さっきまでのノンビリ車体が途端にピピッと走ってくれるのがありがたい。普段は付き合いやすいのにその気になればちゃんと250ccなりのダッシュがあるというのは嬉しい。
 

 

カスタムしたくなる素材感

 FTR223がそうであったように、CLにも「素バイク」的な感覚があり、カスタムをしても楽しそうだ。と言ってもハードなものではなく、スリップオンでマフラーを換えてみようだとか、ハンドルをもう少し手前に引きたいだとか、もしくはストリートバイクらしくステッカーなど貼るところから始めても楽しそう。
 もう少し実用的なカスタムとしては、最近のバイクには珍しくヘルメットホルダーもないため、これは後付けしたい部分。また個人的にはアップマフラーの存在感が大きく、荷物の積載やタンデム時に気になりそう。ヘルメットホルダー同様、純正アクセサリー/カスタマイズパーツとしてモリワキのダウンタイプマフラーもラインナップされており、スタイリングや音だけでなくかなりコンパクト化されるため実用的にも有効に思える。
 キャリア系のパーツも豊富のため、ツーリングバイクとして仕立て上げることもできる。ちなみに純正アクセサリー及びカスタマイズパーツとしてホンダのHPに乗っている商品は本当に数多く、「CLはいかようにも自分好みに楽しんじゃってくださいね~!」というメッセージが感じられる。
 

 

高速道路とツーリング

 撮影当日は高速道路も使ったツーリングに出かけたが、高速道路はCLにとってはあまり得意なステージとはいえなさそうだ。回していけばスピードも出るし、120km/h制限区間も怖がらず走れるだろうが、でも快適な速度域はせいぜい90km/hといったところ。それを超えると振動や音が気になりだすと共に風圧も強まり、そして燃費も落ちてきてしまう。高速道路は短距離を淡々と走るのが良さそうで、CLの汎用性や(アクセサリーのキャリア類を使った)積載性を活かして遠くまで行くというなら、兄弟車の500の方を選んだ方が良いだろう。
 しかし高速道路を降りてからはストリート同様に気軽なツーリングペースを楽しむことができた。田舎の幹線道路でも流れをリードしながらスイスイと走れるし、ワインディングでもゆったりとした19インチのフロントが路面状況に関わらずスイーっと旋回してくれて、どんな場面でも不安なく走らせることができた。良い意味で特徴のないハンドリングだからこそ、ちょっとした不整地を含めて走る場面を選ばないのだ。
 

 
 レブルに対して大きく伸ばされたリアサスも魅力的。レブルもワインディングを楽しく走るには何も問題はなかったが、長距離となるとリアサスのストロークの少なさゆえ腰痛を誘発するようなこともあったし、またタンデムシート部がミニマムということもあり、タンデムや荷物の積載も得意ではなかっただろう。そういった問題はCLでは綺麗に払しょくされている。
 もう一つこの季節に嬉しく思ったのは、とにかく「熱くない」ということ。エンジン熱が排気量ゆえに小さいということもあるだろうが、ラジエターからの熱がライダーの方に来ないし、ステップ周りも遮熱が徹底されていて薄手のズボンでもエンジン周りに触ってしまって熱いということもない。
 これに貢献しているのがマフラーの取り回しだとも思う。アップマフラーなのになんでエキパイが下を通るんだよ! とツッコミたい気持ちもわかるのだが、オフ車のようにエンジン横をエキパイが通ってきたらどうしても熱いし火傷の危険度も高まる。その点、マフラーが下を通っているCLは快適/安全に思えその決断は大いに称えたい。
 

 

「こんないいバイクあるよ」

「なんか良いバイク、ない?」という質問はよく受ける。それぞれの人にとって「良いバイク」の基準が違い過ぎるためなかなか良い答えはないのだが、それでもかつてはFTR223やトリッカー、もしくはスーパーフォアなど、誰が乗っても間違いないバイクというのがあった。そんなバイクが減ってきていたと思っていたところにこのCLである。
 これならば本当の初心者でもすぐ慣れるだろうし、ベテランでも気軽で楽しく付き合えると思う。逆に、大排気量のツーリングバイクに疲れてきた人にも良いだろう。荷物満載でキャンプツーリングをするにもきっと良いし、遠くに行きたい人には同じサイズで500cc版もある。
 そして何よりも、乗る頻度が高くなりそうだ。スッと出してきて、跨って走り出すまでに越えなきゃいけないハードルがとても少ない。安全性には気を付けたいが、それこそプロテクションも最低限に、原チャリ感覚で乗れる250cc、これは貴重であり、ライダーの裾野を広げてくれるモデルに思う。
(文:ノア セレン、撮影:赤松 孝)
 

 

ポジションは無理のないものでどんな使用状況にもフィットするだろう。レブルではシートが低かったがゆえにスピードを出した時にメーター周りの後ろに隠れられるような感覚もあったが、CLでは着座位置が高まったことで高速道路では風を受けやすいような気がした。足着きはステップとペダルの間にふくらはぎを滑り込ませれば悪くないが、飛び出たステップの外側に着こうと思うと足が開いてしまい、思ったほど足着きが良くないと感じるかもしれない。ステップがかなり飛び出しているというのがちょっと難しいポイントで、跨ったままヨチヨチと押したりするとふくらはぎをしこたまぶつけてしまう。Uターンなどで自信がなければ降りて行った方がいいかもしれない。なお純正アクセサリーで「フラットシート」というのがあるのだが、足着きに不安のない人はコレがとても良いとの話だ。バイクとの一体感も高まり、クッションも良くなり、パッセンジャーも快適になるという。是非とも試してみたい。

 

シングルCBRから派生してきて、今ではレブル/CRF/CB250R/そしてこのCLと様々な車体形式に採用されてきているエンジン。CLではレブルをベースにしてCRFのカムを使ったというが、たくさんの兄弟車種があるだけに他の車種からも上手に色んな魅力を集めていることだろう。シンプルでタフで燃費の良いエンジンで、DOHCらしい高回転域があるのも魅力だ。
文中にも書いたが、エキパイがエンジン横ではなく下を通っているのは熱問題的にも火傷を防ぐ意味でも素晴らしいと思うが、アップタイプのマフラーはデザインアイコン的な意味合いがあっただろうけれども、特に250ccとしてはいくらなんでもちょっと巨大に思える。荷物の積載やタンデムではやっぱり気になってしまうだろう。アップタイプゆえによく耳に届くということもあるだろうが、音質はパルス感のある元気なものだ。

 

19インチホイールにシングルディスクというフロント周り。タイヤはラジアルタイプを純正採用することもあり、コーナリングはとても安定していて癖がない。ハンドル切れ角は少なめで、車体の長さと相まってUターンは慣れが必要。
レブルと同様の丸パイプスイングアームはレブルよりもかなり伸ばされ、あわせてリアサスのストロークも伸ばされた。スポーティに走る上でもストローク感は「その気」にさせてくれるが、何よりも快適性が大幅に向上している。調整機能はプリロードのみ。

 

レブル同様に中に4つのLEDを持つ丸型ヘッドライトはモダンだ。一時期のホンダのLEDは明るさに不安があったが、今ではかなり明るくなったと感じる。撮影前夜の夜間都内ツーリングでその安心の明るさに感動した。

 

LEDのテールランプとウインカーが車体本体から離れて設置されているのは、様々なキャリア類の装着を見込んでのことだろう。純正アクセサリーの大きめなキャリアを装着し、その上にボックスを乗せても隠れないアングルとなっている。
レブルベースのフレームのため、最初はちょっと不思議なカタチに見えたタンクだったが、すぐに見慣れたのだからデザイン的に車体と調和していたのだろう。容量は12Lと聞くと心許ないが、燃費が30km/L前後で安定している所を見ると、ワンタンク300キロぐらいは大丈夫という計算だ。

 

ライダー側と段差の少ないダブルシートは座る位置を限定しないためライダーの体格を選ばないうえ、タンデムライダーとも密着できるため重心が集中し運転しやすい。素直なシート形状はエイプを連想させてくれた。なおシートを開けることはできない。
ステップは妙に左右に飛び出していて、ふくらはぎをぶつける問題があるのだが、しかしそのステップ周りの遮熱はしっかりしていて、薄手のズボンで乗っても熱く感じることは全くなかったし、各カバー類の仕上げが良いのだろう、ズボンのスソが引っかかるといったこともなかった。これでもう少し内側に追い込めていたら良かったのに……。

 

ひとつどうしても慣れなかったのはキーの位置だ。クルーザーのレブルは車体横にメインキーがあるのも一つのデザインだったのだろうが、車体横のキーは見えなくてアクセスがしにくいし、そしてハンドルロックするには一度抜いて、反対側のステム下の鍵穴をまた見つけなければいけない。せめて最近のハーレーのようにハンドルロックがトップブリッヂ横にあればまだ良かったが、これはちょっとナシに思った部分。普通にメーター横に集約してほしい。

 

反転液晶のメーターはとても印象がいい。速度、ギアポジ、時計、燃費という、普段把握しておきたい情報がみな同時に表示させられるし、いつでも見やすく操作も単純だった。
19インチ車にしてはハンドル幅が広すぎることなく、渋滞路も特に気にならなかった。丸ミラーは表側にデザイニングもされているレブルと共通のものでカッコいい。またグリップもオフ車のグリップになっていて手へのなじみがとても良かった。

 

●CL250 主要諸元
■型式:ホンダ・8BK-MC57 ■エンジン種類:水冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒 ■総排気量:249cm3 ■ボア×ストローク:76.0×55.0mm ■圧縮比:10.7 ■最高出力:18kW(24PS)/8,500rpm ■最大トルク:23N・m(2.3kgf・m)/6,250rpm ■全長×全幅×全高:2,175×830×1,135mm ■ホイールベース:1,485mm ■最低地上高:165mm ■シート高:790mm ■車両重量:172kg ■燃料タンク容量:12L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):110/80R19M/C 59H・150/70R17M/C 69H ■ブレーキ(前/後):油圧式ディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:キャンディーエナジーオレンジ パールカディトグレー パールヒマラヤズホワイト ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):621,500円

 



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2023/09/15掲載