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試乗・解説

■試乗・文:松井 勉 ■撮影:松川 忍 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、SPIDI・Xpd・56designhttps://www.56-design.com/

レトロモダンでカスタムテイストを追い増ししたバイク、CL250に乗った。レブル250をベースとしたスクランブラーで、レブル同様、同じフレームを使った兄弟、CL500も用意されている。その素性は控えめにいっても素晴らしく、早くもレブルに続くヒットの予感しかしない。そう感じた理由を乗り味から解き明かしていこうと思う。

いわゆる「昔の名前で」出てきた話題性と
スクランブラーという今に再燃する時代性、
だけじゃない深みある走りの性能にマル。

 CLとはホンダの中ではスクランブラーモデルの呼称だ。スクランブラーを簡単に言えば、50年代から60年代に流行したオフロード走行を念頭において造られたバイク達のカテゴリー、屋号のようなもの。スクランブラーは、ベースとなるロードバイクにオフロード走行性能を上げるための装備を持ったモデルともいえそうだ。当時のいわゆるオンロードバイクだって未舗装路を走る機会はめちゃくちゃ多かったから、スクランブラーがかなり強くオフロードを意識していたかがうかがえる。

 外観の特徴は、オンロードモデルが採用するダウンマフラーに対してアップマフラーを装備することで、グランドクリアランスを稼ぎ渡河性能を上げた。サスペンションストロークもベースとなったロードバイクからちょい増し。ホンダの初代CL72は前後19インチホイールを履くなど、走破性向上とグランドヒット低減を狙うなどしている。

 1962年にCB72をベースにしたCL72が登場。アメリカなどの主要スクランブラー消費国でのろしを上げた。当時の主流はイギリスメーカーが送り出す500㏄から650㏄並列2気筒のバイク達。圧倒的排気量の少なさはホンダ得意の高回転高出力でカバー。カブと同様、アメリカでまだ認知度抜群とまでは行かない新興メーカーのホンダを印象付ける存在でもあった。このCL72、発売当時プロモーションとしてアメリカとメキシコの国境の町、ティファナからバハカリフォルニア半島の南部の町、ラパスまで2台のCL72がスピード縦断記録に挑戦。わずかに40時間を切るタイムで駆け抜け、性能と耐久性をアピール。この記事が展開されると、イギリスのメーカーや自動車メーカー、オフロードレーサーが様々なカタチで縦断記録に挑戦。そのうちの一人、ランクル40にV8エンジンをぶち込んで走ったエド・パールマンという人が「これは面白いからみんなでレースにしよう」と1968年にメキシカン1000ラリー(後のバハ1000)という長距離オフロードレースを開始。今に続く歴史の発火点にもなっているCL。そのCLという名が復刻したのは、レトロモダンブームに乗って販売されたCL400やCL50が販売された1990年代半ば以来となる。

Honda_CL250

CL250の造り方

 試乗したCL250がレブル250をベースに造られたことは先述の通り。また、CL250と500は、エンジンハンガー部分を除き、共通のフレームを2台は使っている。メインフレーム後部、シートサブフレームはCL専用となるほか、メインフレームとサブフレームの溶接部分にはガセットプレートなどを使わずパイプの付け合わせで溶接したシンプルなルックスを持たせている。

 フロントフォークは150mm、リアのアクスルトラベルは145mmのストロークが与えられていて、現代のCLもオフロード走行をしっかりと見据えている。
 前後にはラジアルのアドベンチャーバイク向けタイヤを装着。フロントが110/80R19、リアが150/70R17を採用。あえてバイアスを選ばずラジアルを選択した理由は、フロント19、リア17インチタイヤをユーザーがリプレイスする際、OEM装着と同等のものからブロックタイヤまでバリエーションが多く、スタイルを探求しやすくするのが目的だと開発者は語っていた。コスパ命の人は同等サイズのバイアスもチョイスの中に入るだろうから、それも含めた選択肢の多さでタイヤが選択されているとも言える。

 エンジンはCL250の場合、吸排気系のチューニングとカムシャフトをCRF250Lと同じものを採用。これは低中速トルク/パワーに重きをおくことで、走りやすさ、楽しさを演出するためのもの。また、アクセルの開け口、締め口の部分を滑らかでドンツキ感のしないものへと仕立てることで、走りやすさを演出した。
 同時に、ファイナルレシオを加速側に振るため、レブルの36TからCLでは37Tへとすることでパワフル感も演出している。ちなみに、リアタイヤの外径を比較するとレブル250が履く150/80-16というサイドウォールが肉厚のファットなルックスのタイヤが651mm、CL250のそれは642mmとわずかに小径となるためその分でも加速側に振れているから、その相乗効果がどのように表れるのか、それも気になるところだ。

CL250

乗ったら、なるほど! な、CLワールドが待っていた。

 CL250用に容量はレブルより1リットル増しとなる燃料タンクにはサイドにニーグリップラバーを装備している。シートはスリムでわずかにライダー側とパッセンジャー側で高低差を持つ形状のもの。全体にはほぼフラットな形状のシートだ。シートの高さはカタログにある790mmという数値を感じるが車体もシートも細身で172㎏の車体が重さを感じさせない。

 ライダービューはレブルで見慣れたメーターがあり、ハンドルバーはややワイドでライズアップしたベンドのバーを使っている。始動したエンジンが発する排気音がしっかりと耳に届くタイプで、単気筒らしい歯切れ良いパパパ、という音がこのバイクが想像以上にパワフルなのでは、と期待させた。操作力の軽いクラッチレバーを繋いで走り出す。レバーを離して行く時に感じる、エンジンの力が後輪へとグラデーションのように伝わるスムーズさ。これが本当に250ccの水冷DOHC単気筒エンジンの芸当なのだろうか、と嬉しくなる。速いとか力強いとか有り体な表現では済まない特性の磨き込まれた質感の妙だろうか。

CL250

 発進停止、おそらくバイクの中でもライダーが一番多く直面するライディングシーン。それが文句なしに気持ち良いのだ。シフトアップを続けて一般道をゆく。アクセルを捻る時に湧き出すトルク感が意思どおりのタイミングで湧きだし、望んだような増速をするほど良い加速だ。ECUのマッピングや吸気ボックスから排気系の設定までが気持ち良く整っている。250にしては大きめに見えるマフラーもこうした特性に一役買っているとすれば嬉しい。充実の低中速トルク感なのだ。アクセル開度の少ない領域、つまりは日常域で感じるエンジンの充実した力感はどこか250離れしてるように思えた。これもファイナルレシオなどを含めた車体のまとめ上げた総合力だろう。

 ハンドリングも同様。軽快過ぎず安定しすぎず。何所へでもどんな場所でも走ってやろう、という気概を膨らませるような楽しさがある。ブレーキのタッチ、制動力もちょうどいい。コントロールに神経を使わず、でも意思通りに何時でも走れる印象だ。

CL250

 高速道路を走った。出口に向けて上りになる海底トンネルを抜けると海上を越える風が吹く橋上部分へ。250という原資しか持たないCLだがそれらの場面で「足りない」を感じることは無かった。小排気量でもぶん回せば今時の制限速度など簡単に維持ができる。6速ホールドでアクセルをそれほど回してなくてもいとも簡単にCL250はしてくれた。

 郊外の道を走る。市街地的な小気味よさが嬉しい。頑張って高回転まで引っ張らなくても増速感に満足できる。コーナリングも安心感があるなかでCLがもっている旋回力を楽しめる。サスペンションもよく動くのだがフワフワしない。

 CLが丁寧に造られていることをあちこちで知らされた。造り手の情熱という部分の奥に「どこへでもイケル」という気分が高まった。価格はCRF250Lと同じ。いったい、砂利道を走るとどうなのだろう。

 時間の関係で駆け足の試乗となったが、砂利道も走ってみた。若干の重さを感じる部分もあるが、CRFのような車高の高さ、サスペンションストロークを長さ(S)のようにある程度のスキルを求められることがない。フツーにバイクでフツーの道を走るような感覚でダート路を行けた。

Honda_CL250

 例えば車体の硬さから来る前輪や後輪がはじかれるような印象も無く、適度にパワートルクが回転上昇とともに等間隔で増進するパワー特性も相まって、ちょっと冒険したつもりでアクセルを開けても、車重(とライダーの重さ)を、サスペンションを通じてタイヤの接地点にスムーズに乗せることで、しっかりとタイヤをグリップさせている。妄想のなかでは路面をかきむしりながら走るパワフルなライディングにも憧れるが、まあ空転している時点でそれはロスでもあるので、トラクション特性がスバラシイとCL250を評価するのが妥当だろう。

 平坦路だったからアップダウン、あるいは土の滑りやすい路面での走破性は未確認ながら、このシャーシとエンジン特性なら静かにアクセルを開けてグリップを生み出すような位置にライダーが座っていれば上りは意外と楽そうな予感がする。下りでもブレーキの扱いやすさや前後のサス設定がソフトなだけに林道レベルは意外とすんなり走れると想像する。

 結果的にいろいろな場面でCL250を走らせて想像以上の楽しさを体験したのだった。
(試乗・文:松井 勉、撮影:松川 忍)

CL250

CL250
CL250
※ライダーの身長は183cm

CL250
CRF250L、CBR250Rなどに搭載されてデビューして以来熟成を重ねる水冷DOHC4バルブ単気筒ユニット。CL用はCRF250L用のカムを採用したもの。吸排気系レイアウトが特性造りに貢献しているようだ。
CL250
フロントフォークはφ41mmのインナーチューブを持つ正立タイプ。キャストホイールの19インチにダンロップ製ミックスツアーを履く。ブレーキは片押し2ピストンキャリパーとφ310mmのディスクプレートの組合せ。パッド、マスターシリンダーやブレーキホースの膨張率等々丁寧なチューニングが成されたようで、ブレーキ操作力の少ない段階から遊びがなくじんわり効く印象がとても良かった。

CL250
CL250
CL250
145mmのアクスルトラベルを持つリアサスペンション。5段階に調整可能なイニシャルプリロード調整機構を持つリア2本ショック。φ45mmのチューブを使ったスイングアーム。リアブレーキはφ240mmのディスクプレートとシングルピストンキャリパーを採用。タイヤのトレッドパターンはノイズレベル、転がり抵抗感も低い。砂利道、ワインディングともに走りやすいハンドリングとグリップ力を持っている。

CL250
CL250
いにしえのスクランブラーの多くはエキゾーストパイプがポート直後から湾曲しシリンダーの横を抜けるように後方のマフラーへとつながっていたが、21世紀のCLはクランクケース下側の膨らみの中にキャタライザー、O2センサーなどを備え、スイングアームピボット下方周辺からキックアップ、メインマフラーへとつながる。マフラーを大きく見せるのがヒートシールドカバーだが、タンデムライダーの足に熱が悪影響を及ぼさないよう二重のプレートでガードされている。縦二連の穴から心地よい排気音を届ける。

CL250
CL250
オフロードを意識したギザギザのエッジが付いたスチール製ステップにラバーを装着している。シフトレバー、ブレーキペダルもCLのスタイルに合ったモノを採用。

CL250
CL250
CL250
ヘッドライトはレブル系と同様のモノを採用。ウインカーなど灯火類はLED光源となる。テールランプもフェンダーから生えるデュアルパーパス的な意匠を採用。

CL250
円筒型のシェルの中に液晶モニターを備えたメーター。速度、ギアポジション、燃料ゲージ、時計の他、オド、トリップ、平均燃費などを表示する機能を持つ。
CL250
ライダー側が少しだけ低くなったシート。よりスクランブラーらしいスタイルを探求したいならオプションでフラットシートも用意される。シートフレームの後端部分の形状とシート形状が見事に合っている。

CL250
CL250
●CL250 主要諸元
■型式:ホンダ・8BK-MC57 ■エンジン種類:水冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒 ■総排気量:249cm3 ■ボア×ストローク:76.0×55.0mm ■圧縮比:10.7 ■最高出力:18kW(24PS)/8,500rpm ■最大トルク:23N・m(2.3kgf・m)/6,250rpm ■全長×全幅×全高:2,175×830×1,135mm ■ホイールベース:1,485mm ■最低地上高:165mm ■シート高:790mm ■車両重量:172kg ■燃料タンク容量:12L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):110/80R19M/C 59H・150/70R17M/C 69H ■ブレーキ(前/後):油圧式ディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:キャンディーエナジーオレンジ パールカディトグレー パールヒマラヤズホワイト ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):621,500円

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2023/07/24掲載