第31回 バイアルスTL125誕生50周年記念 -1・トライアル活動挑戦の軌跡-
今から50年前の1973年1月30日、「バイアルスTL125」が発売されました。ここから、日本のトライアルが本格的なスタートを切ったと言えるでしょう。50年の間に、マシンもテクニックも大きく変わりましたが、変わらないのはバランスをとりながらマシンを操る楽しさだと思います。私が諸先輩から聞いた話や、直接携わった普及活動とPR活動も交え、50年に渡るホンダの挑戦の足跡を辿りながらトライアルの魅力と可能性を伝えることができれば嬉しい限りです。
【バイアルスTL125の誕生前夜】
ホンダのモータースポーツ活動を振り返りますと、二輪のロードレース世界選手権(WGP)においては華々しい戦績を残し1967年にワークス活動から撤退しました。レースで連戦連勝しても、日本の販売にはあまりプラスにならなかったのを一因と考える先輩社員もいました。レース活動を販売促進の有力な武器として活かすノウハウや行動が十分ではなかったと言えます(これは現在でも同じ悩みかもしれません)。F1世界選手権においては、1964年にデビューし1968年で休止に至りました。将来の排出ガス規制に対応するなど社会的責任を果たす活動にシフトしていきました。
1970年頃の二輪レースでは、ヤマハ、スズキ、カワサキがWGPや耐久ロードレース、モトクロスの世界で活躍していました。もはや、レースに強いというイメージはホンダにはなくなっていました。社内のレース愛好者にとっては、暗い時代でした。しかしながら、1970年に第一回オールホンダアイデアコンテストが開催されるなど、夢とアイデア、積極的な行動を大切にする社風は継続されていました。
1971年頃には、日本でもトライアル競技が各地で開催されるようになり、研究所メンバーは「ウィークエンドトライアル」というチームでSL125Sなどを改造したマシンで大会に参加しながら、トライアルマシンに必要な技術やテクニックを習得していました。そして、スポーツとしてのバイク普及を目指した「バイアルス」(バイク+トライアル)という新しいジャンルに積極的に取り組むようになりました。また、二輪を生産する浜松と鈴鹿の製作所内には、市販車で遊びを開発するプロジェクト「2LG(二輪レジャーグループ)」が組織されました。
1972年7月、ホンダは業界の先陣を切って完全週5日制(週休2日制)をスタートさせました。これからは、余暇をいかに過ごすかを真剣に考える時代になってきたのです。この余暇の過ごし方に、オートバイをいかに楽しく使えるかが重要視されました。1972年のホンダ社報では、バイアルスについて詳しく紹介しています。“トライアルスの技術を使いながら、より手軽にいつでも誰でも参加できるようレギュラー化した新しいスポーツ。自分自身で採点を行う紳士的なスポーツ”と説明しています。そして、研究所(和光)、浜松製作所、鈴鹿製作所にバイアルスパークを設営して普及をスタートしています。使用しているバイクは、モンキーやダックス、本格的な人はSL90やSL125を改造していました。
※資料類は個人所有のため、汚れや破損はご容赦ください。
このような社内活動を背景に、研究所有志の提案によって市販車「バイアルスTL125」が急ピッチで開発されました。製品リリースには、「わが国最初の本格トライアルスマシンであり、同時に一般道路の走行にも適した新しいスポーツ車」と紹介されています。この当時は、トライアルを”トライアルス”と呼んでいました。
【1973年10月発行のカタログから】
日曜日にライディングを楽しんだ思い出を日記に記し、これからバイアルスTL125で過ごす新しいモーターサイクルライフに期待を膨らませる様子をエンディングに持ってくるにくい演出です。
バイアルスTL125は、第3のモータースポーツとして位置づけられたトライアルも楽しむことができるスポーツモデルとして登場しました。当時の日本では、トライアルの認知度は低く趣味として楽しんでいる人は限られていました。このような環境ですから、商品を販売しただけではユーザーを獲得することはできません。
バイアルスTL125の発売直後の3月、本田技研本社の新しい組織として、モーターレクリエーション推進本部(以下モーターレク本部)が設立されました。この部門の主な活動は、今後浸透していく週休二日制による余暇の楽しみ方にオートバイを活用しながら、販売促進に寄与することでした。「楽しみ方(乗り方)の提供」「乗る機会の提供」「乗る場所の提供」を基本方針として、トライアルの本格的な普及活動を推進し、第一次トライアルブームと呼ばれる環境に大きく寄与したのです。
1973年から始まったモーターレク本部の普及活動と、本格化したトライアルレース活動については、次回で紹介させていただきます。
(続く)