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レース・イベント

周知のとおり、2022年末をもってスズキは二輪モータースポーツ活動を終了した。Team SUZUKI ECSTARのアレックス・リンスはシーズン最終盤の2戦、オーストラリアGPとバレンシアGPで劇的な勝利を挙げて〈チーム=バイク=ライダー〉のパッケージがトップクラスの高水準にあることを改めて広く世に知らしめ、世界中のレースファンに惜しまれながら長年の歴史に幕を引いた(その際の佐原伸一氏スペシャルインタビューはこちらを参照)。毎年12月下旬には、スズキ株式会社の本拠地浜松を訪問して、技術開発陣トップからシーズンレビューと翌シーズンへ向けた展望を聞かせてもらう取材が恒例になっていたが、それも今回が最後となる。長年にわたりスズキのMotoGP活動を支えてきたプロジェクトリーダー・佐原伸一氏と技術監督・河内健氏に、2022年シーズンおよび長年にわたるスズキのMotoGP活動について振り返ってもらった。
●インタビュー・文:西村 章 ●取材協力:スズキ https://www1.suzuki.co.jp/motor/

(右より)今回、お話を伺ったスズキレーシングカンパニー レース車両開発課の佐原伸一氏(プロジェクトリーダー)と河内 健氏(テクニカルマネージャー)。
※以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。

―最終戦が終わってから今(12月末)まで、長かったですか。

佐原:どうなんだろうなあ……。最終戦後に、私と河内はイタリアのワークショップへ行っていろいろと片付ける作業があり、日本に戻ってからもなんやかやと忙しく過ごしていたので、あっという間に時間が過ぎていった気がします。でも、思い返してみれば、もうだいぶ昔のことだったようにも感じますね。

河内:そうですね。今は片付けもだいぶ進んで、本来だったらこの時期は次のテストのためにすごく忙しくしている時期なんですよ。でも、今年はそれがない、というところに、なんだか違和感がありますね。ひょっとしたら、ここ十何年でいちばん暇な12月かもしれないですね。

―そういうぽっかりとできた時間に、いろいろと考えたりすることはありますか。

河内:でもまあ、撤退という方針が今から変わるわけでもないので、そこは受け入れざるをえないし、自分でも受け入れたつもりではあるんですけれども。

佐原:そうですね……、考えますよいろいろと。うちのことだけに限らずね。今だからこそ考えることができるのかもしれないですけれども、たとえば今世間では欧州メーカーに対して劣勢と言われている日本メーカーが、どうすれば来年強くなるのかな、って余計なお世話なことを考えたり(笑)。

―どうすれば強くなれると思いますか。

佐原:いろいろ考えますが、ただ妄想しているだけです。じっさいは外からしか見てないし、それぞれのメーカー内部の事情はわからないので、私には何とも言えないです。今でもマシンはそれぞれの強みを持っているので、変えるべきところと維持すべきところを見極めていくのはきっと大変だろうなと思います。

―河内さんもそんなことを考えたりしますか? 日本のメーカーのことにしても、あるいはドゥカティやアプリリア、KTM等の欧州メーカーのことについても。

河内:自分たちが撤退したからというわけではなく、そういうことは常に考えますよ。たとえばドゥカティがちょっと良くなったりすると「何が変わったのかな」とか、アプリリアが調子を崩したら「どこを変えたからなのかな」ということは、常に勝手に想像したり、原因を自分なりに考えてみたり―それが自分のことの練習にもなるんですけども―、そういうふうに考える癖がついているんですよ。

ホンダさんとヤマハさんについていえば、私が勝手に考えているのは、まわりが不調だ不調だと言い過ぎているだけで、本当はそれほど悪いわけではないと思うんですよ、何かちょっとしたボタンのかけ違いのようものがあるだけで。ホンダさんとヤマハさんが、悪い性能であるはずがないんですから。スズキのバイクは保守的だとよく言われるんですが、そういったちょっとしたボタンの掛け違いのようなことを防ぐためにどうしても慎重にならざるを得ないところがあって、そう見られるのだろうと思っています。

佐原:スズキはもちろん日本の企業なんですが、我々がやってきたことは、現場にいるクルーチーフやエンジニアたちの力をけっこう上手に活用できていたと思うんですよ。走行データや、そこに至るまでのオートバイ作りも含めて。

たとえばドゥカティを見ていると、アグレッシブにいろんな新しいものをどんどん投入して開発していきますよね。そういったイケイケのヨーロッパ的手法と保守的な日本的方法のバランスが、スズキの場合はいい具合に和洋折衷できていたと思います。その組み合わせで最終的に出てきたものは、大はずれもしないし、かといって保守的になりすぎることもない。それが、2020年にチャンピオンを獲れた理由のひとつでもあったように思いますね。

―和洋折衷の連携については後ほど少し伺いたいんですが、そこに行く前に、2022年のスズキのパフォーマンスを振り返ると、今年は2年ぶりにエンジン開発の凍結が解除されて新しいスペックになったシーズンでした。パフォーマンス面では、自分たちが目標にしていた数値や対他社の戦闘力比較では目標を達成できましたか。

河内:エンジンパフォーマンスについては、必要充分なところは満たしていたと思います。ただ、パワーが上がれば今度は何かが足りなくなってくるわけで、次はそこをどう足していこうか、といろいろ開発を計画していたところでレース活動終了の知らせがあり実現しませんでした。

―2022年の戦況を振り返ると、ヤマハは前半まずまずに見えたものの中盤戦以降は苦戦が続き、総じてドゥカティ陣営が非常に強い、というシーズンでした。夏以降の戦いでは、ドゥカティ勢に競る戦いができたのはスズキだったのではないかとも見えるのですが、8台の圧倒的なパフォーマンスで押しまくるドゥカティと互角に戦えた原因はどこにあったと思いますか。

佐原:さきほど河内から話があった、去年から今年にかけての性能的なステップアップは我々現場サイドにとっても開発陣にとっても、期待に近いものに仕上がっていました。2021年の後半戦から投入したリア用デバイスもまとまってきて、コーナーで抜いてもストレートで抜き返されて苦戦していたかつての状況は、かなり解決できていたと思います。コーナーリングで無理をするあまり転倒リスクが高まるような例も、減らすことができました。

ただ、シーズン中盤戦にはライダーのケガ等、不可抗力的な要素もあって苦戦を強いられたのも事実です。ケガをするとライダー本人だけではなくて、チームメイトの側もデータを比較したり刺激をしあう対象がいなくなってしまうために、成績が出にくくなる傾向があるのも事実なんですよ。その意味では、ジョアンが復帰した終盤のフィリップアイランドでは、アレックスはいつにも増して気合いが入ってリズムをうまく乗せられるようになり、その結果として優勝できました。最終戦もいい形でまとめられたので、マシン性能もさることながら、最後の最後にスズキ勢の調子が上がってきたのは、チームメイトふたりが揃ったことが大きかったのだろうと思います。

河内:さきほど佐原が言った、コーナーで抜いても抜き返されないバイクはライダーやクルーチーフに非常に好評でした。決勝レースの組み立てもまったく変わってくるので、そこは2022年のポジティブな点でした。パワーが上がった分、車体の方もそれに応じて次のステップを踏まなければいけないと思っていたところで撤退になってしまったので、実際は今のパッケージでまとめざるを得なかった、というのも一面では事実です。だから、これに加速時の安定性がもう少し加われば満点だったと思います。ウイリーや立ち上がり時の振られを抑えて、パワーをしっかりと加速につなげる部分をもう少し改良したかったですね。

―2022年は決勝レースの組み立てが変わった、というのはたとえばどういうところですか。

河内:今までなら、コーナーで抜いても直線でまた抜き返されてしまい、何回もそういうことを繰り返しているうちに前のライダーに逃げられていました。でも、2022年のエンジンでは、コーナーで抜いて前に出るとストレートで追いつかれることはあっても追い抜かれないので、順位を維持できるわけです。そうすると、次に一周してきたときに、コーナーがいくつかあれば後ろを引き離せる。そこで時間を使わなくてすむので、決勝レースでも今までと全然違う組み立てで戦うことができました。

―予選はどうでしたか。相変わらずやや苦労している傾向にも見えましたけれども。

河内:そこは課題だったんですが、結局、最後まで改善したとは言えませんでしたね。いろいろとトライはしたんですけれども。

―ある程度の方向は見えていたのですか。あるいは、試行錯誤の模索が続いていたのですか。

佐原:もしも2023年もレースを続けるのであれば、試したいことはいろいろとあったんですけれども、それが正解だったかどうかは、わかりません。ただ、予選を重視するあまり決勝がネガティブになってしまうのは許されることではないので、2022年は「フロントローを取れなくても2列目3列目だったらなんとかなる」というくらいの開き直りでやっていました。ライダーはスタートが上手だし、バイクもスタート後の加速がよかったので、なるべく前の位置からスタートしてスタート直後にポジションを取り戻すことができれば、追い抜いていく過程でのタイヤ消耗は抑えることができます。あとは、予選はどうしても運に左右されてしまう部分もあって、ごく僅差のタイムを争っているときにイエローフラッグが出てチャンスを失うと、グリッドポジションにも大きな影響があります。正直なところ、そういう要素が影響しあったのも事実ですね。

―2022年のレースで表彰台を獲得し、優勝をしたのはすべてアレックス・リンス選手でした。2020年にチャンピオンを獲得したジョアン・ミル選手は、それ以降の2年を振り返ってみると、やや苦戦傾向にも見えたのですが、それは何か特定の理由や原因はあったのですか?

河内:2021年のジョアンは、そんなに悪くなかったと思っているんですよ。バイクのパフォーマンスでちょっと苦戦したところはありましたが、そんな状況でもジョアンは頑張ってくれて、2020年に引き続いてコンスタントな走りで年間ランキングでも3位でした。一方のアレックスは転倒が続いたりして、あまりいい結果が残らないシーズンでした。

 2022年は先ほど言ったようにエンジン諸元を変え、それによってスピードも上がっているので、すべてが同じではないんですよね。減速にしろ加速にしろ、フィーリングが若干違う。アレックスは本来ならそういった細かい差異を気にするんですが、2022年は特に気にすることもない様子でした。ジョアンは、シーズン中盤になって、減速に若干の違和感を訴えた時期がありました。いろいろとセッティングを変えることでそれもシーズン後半には落ち着いてきたんですが、その中盤戦には、エンジンに少し違和感があったことが原因と思われる不調は、たしかにありましたね。

―スズキの中にはジョアンチームとアレックスチームがありますよね。そのふたつのチームで基準になっていたのは、マーヴェリック・ヴィニャーレスからアレックス・リンスへ連なるチームのバイクだという話を聞いたことがあるのですが、実際のところはどうだったんでしょうか。アレックス車を基準にセットアップが派生していって、何か問題があったときにはベースとしてのアレックス仕様に戻る、という考え方だったのですか。

佐原:必ずしもそうではないと思いますけれども、結果的にアレックスのバイクの方がどこに行っても通用するような汎用性は高かったので、もしかしたらベースとしてはよく出来上がっていたのかもしれないですね。ただ、その仕様をジョアンがそのまま使うような機会はありませんでしたよ。さきほど河内が言ったように、ジョアンが問題視するところとアレックスが問題視するところは必ずしも同じではないし、ふたりは乗り方も違うので、そういう意味ではふたりの正解が同じバイクになるとは限らない。ただ、安定してスタンダードな諸元でどこでも走れるという意味では、アレックス側のほうが汎用性はありました。

河内:ジョアンがスズキへ来た時には、アレックスはすでにスズキの先輩だったので、ジョアンはアレックスが走ってきた仕様でスタートすることになるわけです。そこから少しずつ、ジョアンの好みに変えていったので、ジョアンに対して「アレックスのバイクに乗ってみてというような機会があったわけではないんです。ただ、その裏でデータや諸元をチェックしている者としては、「アレックスからこれぐらい離れているから、この部分はどうなのかな」というような見方はしていました。

―もし来年があったら、という質問は〈たら・れば〉になってしまいますが。さらにどれくらいステップアップできていたと思いますか。

河内:2022年も本当は、後半3戦のパフォーマンスをシーズン序盤からずっと通すつもりだったんですけれどもね。翌年があるのなら、後半3戦の勢いを維持し続けたかったなとは思います。
佐原:空力面などでいえば、もっとライバル勢に追いつけ、という形になっていたでしょうね。いろいろと試しかけてやめたこともあったりしたので。

―もてぎで少しだけ走らせたリアの羽根のような?

佐原:あれはまあ、あくまでもいろいろあった中のひとつです。いずれにしろ私たちは追いかける立場だったので、空力面の開発もまだまだやりようがあったし、あれもこれも試したい、ということはいっぱいありました。

―シーズン後半戦2戦の勝利は、それぞれ違うパターンの勝ち方でしたよね。オーストラリアGPではドカティとホンダと最後まで争い、バニャイア選手とマルケス選手に競り勝ちました。最終戦のバレンシアGPは完全に独走で、誰にも一度も前を譲らずに勝ちました。これはただの感想になってしまうのですが、両レースとも素晴らしい勝ち方でしたね。

佐原:あれが我々本来の力なんだと思いたいところですが、レースは戦う相手と環境にも左右されるものなので、全部が全部、自分の実力だけで勝てるわけでもないでしょう。でも、ポテンシャルとしてはあれくらいのレースをいつもしなきゃダメだ、と思っていました。ジョアンも表彰台や優勝争いをできる力がある選手なので、いい結果を出してもらいたかったんですが、2022年は残念ながらそこには届きませんでした。

―今までのスズキのレース活動を振り返って、これがもっとも印象深かった、といえるレースはありますか。最終戦の決勝前に佐原さんに訊いたときは「特にこれというものはない」という話でしたけれども。

佐原:今になれば、やはり最後の最後のバレンシアはとても印象的でした。アレックス自身も、決勝レースが始まる前のグリッドですごくエモーショナルになっていて、とてもよくがんばってくれたと思います。

―GSV-Rの時代も含めてもっと長いスパンで考えてみると、どうですか。

佐原:Vの時代も含めて、この先一番最初に思い出すのはやはり、バレンシアのレースでしょうね。

河内:『再起せよ』の中にも出てきますけれども、マーヴェリックが勝ったシルバーストーンとアレックスのオースティン。そのふたつの初優勝は、すごく印象的だったですね。

―2022年のふたつの勝利はどうですか。

河内:もちろん印象には残っていますし、撤退を決めた後でよくがんばってくれたとも思います。その反面、それを思い出すとどうしても寂しさも思い出してしまうので、そこが残念ではありますね。

―これがワーストだった、というレースはありますか?

佐原:今まで誰にも言ったことはなかったんですが、クリス(・バーミューレン)がラグナセカで勝ちそうになって勝てなかったレースがあったんですよ(2006年U.S.GP)。あれは技術的にもうちょっとやりようがあったと思ったし、悔しい1戦でした。

―最初に独走していて、ニッキー・ヘイデン選手に抜かれたレースでしたよね。

佐原:独走していましたからね。レース後半にちょっとトラブルがあって、そのトラブルも予期できていたものなので、それが悔しいですね、今思えば。でも、本当の意味でのワーストは、ライダーがケガをしてしまったときでしょうね。そのレースだけではなく、後々の数戦にも影響をしてしまいますから。

―最初に話題に出た、現場の力をうまく使う「和洋折衷」について伺いたいのですが、〈パフォーマンスチーム〉というものがスズキではうまく効果を発揮していたという話を何度か聞いたことがあります。これはどういうグループなんですか?

佐原:解析エンジニアの集合体、みたいなものですね。タイヤだったり車体の挙動だったり電子制御だったり、それぞれの専門分野でバイクがどういう要求しているのかということをリアルタイムで見ている人たちです。

河内:もともとドゥカティがそういうことをやっていて、それをうちでも始めるようになりました、最初は少人数から始めて、その専門のスタッフが何人かいます。

佐原:チーム内でそのようなことを担当しているスタッフが〈パフォーマンスチーム〉と呼ばれています。彼らが解析したデータを次のセッションに活かしたり、オートバイそのものの開発に使ったり、両方の意味で〈パフォーマンスチーム〉にはおおいに活躍してもらいました。

―あとふたつほど質問させてください。まずひとつはヨシムラSERT Motulが2023年もEWCの参戦を継続し、スズキがそのサポートをするというニュースが年末に話題になりました。これに、スズキはどういう関わり方をしていくんでしょうか。二輪レースグループは、年末いっぱいで解散するんですよね。

佐原:そうです。ただ、スズキが作っているファクトリー部品の供給は続けていきましょう、ということです。これはヨシムラやSERTに限った話ではなく、スズキのレースユーザーに向けた部品供給もそうですし、万が一問題があった場合の対応も、もちろん続けてゆきます。おっしゃるとおり、レーシングカンパニーは2022年末でなくなるんですが、スズキの二輪部門で対応できることをやっていきます。

―新たな開発もしていくんですか?

佐原:そのために特別な部門を新たに作る、というわけではなくて、今までやってきたことを継続し、二輪のエンジンや車体について支援をしていきましょう、ということだと理解しています。

―時間的にこれが最後の質問になってしまうと思うのですが、さきほど、スズキはどうしても保守的なバイク作りになってしまうという話題がありました。そことも関連しているのかもしれませんが、近年のMotoGPでは、空力にしてもデバイスにしても、技術的なメガトレンドになるものはすべてドゥカティが先鞭をつけて、皆がそれに追随してゆく傾向が強いように見えます。なぜ、日本のメーカーからそういったイノベーティブなものは出てこないのでしょうか。この傾向は、日本企業の体質とも関係していると思いますか?

佐原:過去の技術には、スズキ発のものもいろいろとあったんですよ。とはいえ、確かに現時点で言えば、ドゥカティが開発の先頭を切っているように見えるのも事実ですね。

河内:うちの場合は、会社のレースにかける規模の問題もあって、コンサバティブにならざるを得ない部分もあったと思います。ただ、ホンダさんやヤマハさんができない理由はないと思うんですよ。ホンダさんなんてそれこそ、シームレスギアの発祥元なんですから。だから、たまたま時期的に新しいアイディアが出たかどうかでそう見えるだけなのかもしれないな、と個人的には思っています。日本メーカーの姿勢が保守的だからだとも言われますけれども、そんなものはレースに勝つという目標の前ではあまり問題にならないと思いますよ。ただまあ、逆境に入ってしまうとなかなか大振りしづらい、というところはあるのかな(笑)。どうしても確実に当てに行ってしまう、というか。でも、そこで逆転ホームランを狙うというやりかたもあるとは思うんですけどね。

佐原:Vの頃にはいろいろと新しいものを試して、確認が充分ではない状態で実戦に投入して痛い目をみたこともあるんですよ、うちの場合も。そういう意味では、それがトラウマになっている面もひょっとしたらあるのかもしれないかな、とも思ったんですが……、でも、今となってはその時代のことを知ってる人はいないですからね。

(河内氏が自分たちふたりを黙って交互に指さし、苦笑)

佐原:まあ、そういう過去の経緯があって今は新しいものを投入する際には確実に確認をして大丈夫というものを使用する、というルールが出来上がっているので、基本的にはもちろんそれに従います。でも、ときには見切り発車で使うものもありましたよ。そこはもう、自分たちの判断でやっていたんですが、そこは最初に言った和洋折衷じゃないけれども、我々のチームの日本らしくないところだったかもしれないですね。だからといって、ではドゥカティのように新しいものをどんどん投入するのかというと、そこにかけるエネルギーやリソースという面では、彼らが明らかに大きいものをかけているのは事実でしょうね。

―2023年はレースを見ますか?

佐原:気になりますからね、もちろん。やはり純粋に、ジョアンとアレックスの活躍を見たいですよね。

(インタビュー・文:西村 章、取材協力:スズキ)

(※このシーズン総括取材が行われたのは2022年12月22日。その後、2023年1月中旬には河内健氏のHRC移籍が明らかとなった)

【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」優秀賞受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」と最新刊「MotoGP 最速ライダーの肖像」は絶賛発売中!

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2023/01/23掲載