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試乗・解説

スズキから「真」のグランツーリンスモ誕生 ハヤブサとは違う旅力あり! SUZUKI GSX-S1000GT
スズキGSX-S1000といえば
名機GSX-R1000K5系の水冷4気筒を使った
ストリート&ベーシックスポーツだけれど、
S1000の兄弟モデルS1000「GT」は
大きく魅力をアップグレードしている!
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:富樫秀明 ■協力:https://www1.suzuki.co.jp/motor/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、クシタニ https://www.kushitani.co.jp/






 ここまで割り切ったか、よしよし──そんなイメージのGSX-S1000GTだ。もちろんそれは、スタイリングにも、キャラづけにも、装備にも言えること。
 GSX-S1000シリーズは2015年にデビューした、スズキの新しいツーリングバイクファミリーだ。名機GSX-R1000K5系のエンジンを使用したネイキッドバイクで、S1000とS1000Fの二本立て。これが、GSX-R譲りのパフォーマンスとシンプルな構成でヒット。大きな変更なく5年もの長い期間も人気となった、ロングセラーモデルだ。
 2021年8月に発売されたニューGSX-S1000は思い切ったスタイリング変更がなされ、さらに2022年2月には従来のS1000Fに当たるバージョンを「S1000GT」としてベーシックバージョンS1000との差を大きく区別してみせた。スズキがバージョン違いの兄弟モデルをここまでキャラづけするのは珍しいことだ。多くはカウルが装着されているかどうかだったり、見た目は違うけれどそう大きな変更はなし、ってことが多かったのだけれど、新しいS1000兄弟は思い切った色付けがなされている。
 

 
 まずはスタイリング。この、なんともイカツいフルカウルは、それ単体の装着だけではなく、シートカウルまわりも専用デザイン。S1000GTを思い切って「ツーリング向け」へと全振りすることで、サイドケースの装着しやすさやタンデムライダーの居住性まで考えて専用にデザイン。S1000GTにのみステップバーにラバーが貼ってあるのもツーリングでの長距離ランを想定してのことだろう。
 エンジン/車体は基本的に同一ながら、S1000GTにのみスマホリンク機能も持たせている。これは本体のメーターパネルと自分のスマホがブルートゥースで連結可能で、「SUZUKI mySPIN」というアプリをダウンロードすれば、スケジュールや電話の発信などのスマホ機能をバイクで行なえるというもので、つまりS1000GTを介して自分のスマホに表示されるMapが表示できるし、ワイヤレスインカムを接続すれば音楽が聴けるし、Mapを見ながらのナビに使える、というもの。ホンダ・ゴールドウイングもApple Car Playを採用しているけれど、このS1000GTの、わざわざ専用アプリを設計してのスマホ連結は、かなり使いやすかった! 今後、スズキのメインモデルは続々とスマホ連携モデルが増えるかもしれないね。
 

 
 そのS1000GT、エンジン/車体の主要スペックに大きな変化はないが、上記のスタイリング変更や装備追加に加え、電子制御を大幅にアップグレードした。
 その総合制御はS.I.R.S.(スズキ・インテリジェント・ライド・システム)と呼ばれ、スロットルを電子制御(つまりTbW=スロットルバイワイヤ化)し、そのおかげで可能になった制御項目を追加しているのだ。まずは3段階に選択できるパワーモード(SDMS=スズキ・ドライブモードセレクター)、5段階+OFFに設定できるトラクションコントロール、シフトアップ&ダウンの両方向にクラッチ操作なしでシフトワーク可能なクイックシフト、クルーズコントロールを採用。そこにスズキモデルでおなじみとなったローRPMアシスト、セルボタンをワンプッシュするだけでエンジン始動までセルが回るイージースタートシステムも標準装備。S1000がイッキに、そしてスマホリンクまでするS1000GTはさらにさらに電脳化を遂げているのだ。

 乗り味もかなり洗練された印象がかなり強い。あれ?S1000ってこんなにトルクあったっけ!と思うほどパワフルで、その力の出方が決して唐突じゃない。パワーの出方がすごくスムーズで、アクセルをわざと雑に開け閉めしても、きれいに力がついてくる印象なのだ。
 特に街中で多用する2000~4000rpmといったエリアがすごく使いやすい。レスポンスもていねいで、反応がジェントル──それにしてもトルクが大きいから、3段階に調整できるSDMSを中間パワーの「B」モードにしていたほどだった。
 

 
 ハンドリングは、ツーリングバイクと呼ぶよりずっとスポーティで、ワインディングでも、このボディの大きさを気にすることなく振り回すことが出来た。GSX-R的なクイックさはもちろんないが、安定性をしっかり持った、フットワークが軽い、そんなキャラクターだ。大きなボディアクションなしでもきちんと向きを変えてくれて、それが神経質じゃない。余裕を持ちながらコーナーを連続クリアしているのに、いつのまにかどんどんペースが上がってくるようなイメージだ。ここのところは、さすがGSX-Rの血統を思わせる。

 けれど、やはり得意なフィールドは高速クルージングだろう。新たに採用されたクイックシフトでとんとんとトップギアに入れて、5000rpmあたりで120km/h。ここにクルーズコントロールをセットすれば、スロットルをこの開度でホールドしておく労力も要らず、一定スピードでのクルージングが可能なのだ。
 その時の車体の快適さも大きなもので、よく動くサスが路面の凹凸を上手にいなしてくれているのがよくわかる。カウルのウィンドプロテクションはほどほどで、カウルサイドのウィングレットのおかげか、ヒザまわりへの風当たりが少なめだった印象だ。スクリーンはVストローム1000のような角度高さ可変メカがあるわけではないが、最小限のスクリーン面積で最大限の防風効果がある印象だ。
 欲を言えば、走りでもS1000GT専用の色付けがあればもっと良かった! たとえばタイヤがワンサイズ細かったり、ファイナルがロングだったりで、高速クルージングをもっと低回転で楽しめたり、ね。これだけトルクあるエンジンならば、ドライブスプロケットが1丁大きくたってラクラクに走るだろうに、そういった専用設定も楽しみにしていたいな、と思います。
 

 
 今回はトライしなかったけれど、国産モデルのなかではきちんとタンデムのことも考慮されたモデルで、タンデムシートは厚く広く前後長もあるし、S1000GTのみグラブバーが取り付けられている。ライダーの上半身が前傾していないぶん、パッセンジャーも安定感あるタンデムができる。ことタンデムでの走行だけを考えたら、ハヤブサよりも快適かもしれない。

 たとえば関東から北海道まで自走するならばハヤブサがラクだろうし、それがフェリー移動で北海道だけをツーリングするならばS1000GTで行きたい──そんなグランツーリスモがスズキから誕生しましたね! 
 ETCもクルーズコントロールも標準装備だし、あとはクルージング時のエンジン回転数をもっと下げられて、グリップヒーターなんかあっても嬉しいかも。あ、それは個人的なカスタムでモディファイしちゃえばいいか!
(試乗・文:中村浩史、撮影:富樫秀明)
 

 

ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

Φ43mmの倒立フロントフォークはKYB製。フォークトップに伸び側、ボトムに圧側の減衰力調整ノブを備えるフルアジャスタブル。ブレーキはΦ310mmディスクにブレンボ製モノブロック4ピストンキャリパーをラジアルマウント。タイヤはダンロップスポーツマックス・ロードスポーツ2。

 

エンジンは旧GSX-R1000がベース、KATANAとも共通の水冷4気筒。TbW(=スロットル・バイ・ワイヤ)を採用し、3モードにパワーモードを変更でき、スリッパー&アシストクラッチも採用。スズキビッグバイク共通の装備となりつつあるローRPMアシストやワンプッシュスタートも採用している。

 

先代モデルと同じく、これもKATANA系と共通のアルミツインスパーフレーム&スイングアーム。タンデムや積載機会が多いためシートレールを新設計。タンデムシート位置を下げ、シート形状や厚み、サイズも考慮。
他モデルでも見慣れた感のあるショートマフラー。先代のS1000時代から定評のあるサウンドチューニングはそのまま、迫力ある重低音を聞かせてくれる。車体下部に消音ボックスを持ち、車両の低重心化にも役立つ。

 

リアブレーキはΦ220mmローターとニッシン製1ピストンキャリパーの組み合わせ。一次/二次ギア比はKATANAともGSX-S1000とも共通で、リアサスはプリロードと伸び側減衰力調整が可能だ。S1000とS1000GTは、より長距離ランを意識してか、S1000GTバージョンのみにステップラバーが貼られている。

 

コンパクトなLEDヘッドランプが特徴的なフロントフェイスを作り出すS1000GT。ヘッドランプ上に眉状にV字に配されるのがポジションランプ。LEDウィンカーはセンターシュラウドに別マウントされる。
19Lの容量を確保したフューエルタンク。今回の試乗での実測燃費は約19km/Lで、計算上では約350km以上の航続距離が望めることになる。ショートタンク設計でライダー着座位置を前方においているのがわかる。

 

まるでMotoGPのウィングレットのような整流版を持つS1000GT。レイヤード構造となったウィングに加えて前後に突き出し部もあり、このあたりがスズキの社内風洞実験施設でテストされた結果なのだろう。スクリーンは位置&高さこそ変更できないが、複雑な形状でライダーの肩回りの防風性も高めているという。

 

シートはライダー側/タンデム側とも別設計。S1000GTの方がタンデム側の前後長があり、クッション厚も多めに取られ、グラブバーもS1000GTのみに装備されている。タンデムシート下はETC車載器を標準装備。タンデムシート裏には荷かけフック用のフラップが収納され、ヘルメットも内蔵のワイヤーでホールドできる。

 

メーターには6.5インチフルカラー液晶を装備。ギアポジション表示付きで、写真の状態はパワーモードA/トラクションコントロール5/クイックシフトONを表わしている。オド&ツイントリップ、平均&瞬間燃費ほかを表示できる。

 

S1000GTのみスマホとのブルートゥース連携が可能。「SUZUKI mySPIN」をインストールすれば、電話の発信や地図の表示、スマホ内のカレンダーがメーターに表示される。ヘッドフォンも連結すれば音楽再生もできるもので、国産モデルとしては数少ない採用例だ。メーターに地図が表示されるのは今後も増えてほしい機能だ。メーター左にはシガーソケットではなくUSBによる電源供給ソケットを標準装備。

 

右ハンドルスイッチはセルボタン併用のキルスイッチとハザード、クルーズコントロールスイッチ。左スイッチはモード/決定スイッチ横に丸型十字キーがあり、これで各種設定とメータ表示項目変更をコントロール。ウィンカーボタン右のRES/SETはクルーズコントロールのスピード設定ボタンで、2速/2000rpm以上で設定でき、クルージングスピードを1km/h刻みで設定ができる。

●GSX-S1000GT 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:998cm3 ■ボア×ストローク:73.4×59.0mm ■圧縮比:12.2 ■最高出力:110kW(150PS)/11,000rpm ■最大トルク:105N・m(10.7kgf・m)/9,250rpm ■全長×全幅×全高:2,140×825×1,215mm ■軸間距離:1,460mm ■シート高:810mm ■装備重量:226kg ■燃料タンク容量:19L ■変速機: 6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C・190/50ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:トリトンブルーメタリック、リフレクティブブルーメタリック、グラススパークルブラック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,595,000円

 



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2023/01/18掲載