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試乗・解説

最新GTはスポーツを忘れない! SUZUKI GSX-S1000GT
スズキから「GT」と名の付くバイクが出るのは、少なくとも国内においてはあの2スト3気筒シリーズ以来だろう。長距離を淡々と走る「GT=グランドツアラー」的車両が各社から登場し、このカテゴリーが復権を果たそうとしている今、スズキの答えはGSX-S1000のGT化だった。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:赤松 孝 ■協力:SUZUKI https://www1.suzuki.co.jp/motor/  ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、Alpinestars http://www.okada-corp.com/products/?category_name=alpinestars




GTがキテいる!?

 2000年ごろまでは、スポーツバイクと言えども同時にツーリング性能や一定の実用性が備わっているのが普通だった。その当時主流だったビッグネイキッド群はそれぞれダイナミックなスポーツ性を持っていたことに加え、快適なライディングポジションやたっぷりのタンク容量、そしてタンデムや荷物の積載も許容するフトコロを併せ持っていた。しかしその後バイクは各カテゴリーへの専用化/先鋭化が進み、スーパースポーツと呼ばれる車種が出現したこともあり「スポーツバイクはスポーツバイクとして割り切る」といった流れになってきてしまった。

 代わりにツーリングシーンを託されたのは「アドベンチャー」と呼ばれるカテゴリー。VFRやFJR、1400GTRといったいわゆる「(スポーツ)ツアラー」と呼ばれるバイクも存在し続けたが、アドベンチャーの盛り上がりと共に目立たない存在になってしまった。アドベンチャー群は快適で荷物が積めて航続距離が長くて、加えて公道においては十分以上に速いおかげで大ヒット。しかしそんなヒットが起きたため市場は飽和状態になったとも言えるだろうし、何よりもハイエンドモデルの大型化・ハイパワー化・高価格化が進んでいくらか持て余し感も出てきてしまった。
 そんな時にヤマハはMT09ベースのトレーサーをブラッシュアップした「トレーサーGT」、ホンダはアフリカツインの派生機種として「NT1100」を投入。そしてスズキはこのGSX-S1000GTを投入し、にわかにオンロード走行を主眼としたスポーティなツーリングモデルが出そろい始めたのだ。
 

 

GSX-Sシリーズの差別化

 今回のGSX-S1000GTのベースとなったのは、フルカウルスポーツモデルとして展開していたGSX-S1000F。このGSX-S1000Fと、その兄弟車種でありネイキッド版のGSX-S1000Sはいずれもスタンダードなストリートスポーツモデルとして展開されており、2台の違いは大まかに言えばカウルの有無のみだった。しかし今回のモデルチェンジで、2台は車体の根幹部分は変わらず共有しながらもカウル付の方はGTとしてより差別化された。

 ハンドルの位置がよりライダーに近づき、タンク容量も2L増やされたのはネイキッド版と共通であり、いずれの項目もツーリングシーンにとってはプラス。これに加えGTの方はシートレールがより低い角度でメインフレームに取り付けられる専用設計とされ、これによりシートのクッションを増やし快適性を向上させる共に、十分なスペースを確保したタンデムシートや、パニアケースを装着できる設定とするなど、GTに求められるユーティリティ性を確保している。
 フルカウルであることは先代と同様だが、デザインは一新されネイキッド版にも使われたモノフォーカスヘッドライトを採用。またネイキッド版には採用されなかった大型カラーディスプレイやクルーズコントロール、スマホと連動できる機能なども搭載。ツーリングシーンを力強くサポートする装備で固めたのだ。
 

 

実はスプリンター?

 そういった各種便利機能を備えたほか、徹底したウインドプロテクションの追求やステップにゴムを貼って振動低減を追求するなど快適な長距離GTモデルを作り上げてはいるのだが、しかし実際に乗ると「グランドツアラー」という言葉からイメージする程ノンビリした乗り物ではない。GTといえばいくらか車重があって、エンジンもハンドリングも落ち着いた印象があるだろう。しかしGSX-S1000GTはルーツにGSX-Rを持つだけあって、なかなかアクティブなのだ。

 高速道路を走り出すとハンドル位置が近くなり、またいくらかワイドにもなっているのだが、そんな余裕のポジションでありつつも大きなスクリーンで快適性を確保しているのはありがたい。ハンドルバーはラバーマウントされ、ハイスピードでの巡航も楽々である。タンク容量が増えているとはいえニーグリップ部は適度にスリムで、近未来的な外観ルックスに対して、コクピットに収まった時には1000ccのバイクとしての威圧感は少なめ。車重の軽さと相まって、これなら日常的に付き合う事だってできるぞ、などと思えてしまう。

 しかし車重も操作性も軽いおかげで「GT感」のようなものは希薄にも感じる。加えてエンジンもかつてのGTモデルのようなズオオォォッとしたトルクで低回転域から大きな車体を押し出していく、というよりは、軽やかに回り軽量な車体をキビキビと動かしてくれるようなイメージ。よってついつい高回転域まで回したい衝動にかられ、淡々と走り続けるというよりはメリハリをつけた加減速を楽しむような気持ちが湧いてしまいがちに思う。
 

 
 ワインディングに入るとなおその印象が強い。GTという名前ゆえ、車重があって重心の低いツアラーらしくズイズイと峠道をいなしていく……というイメージがあったのならそれはまるっきり違うと言わざるを得ない。コーナーが連続すればここではもう、気分はGSX-Rである。アクセルを大きく開けて、ブレーキをしっかりかけて、軽量な車体をコーナーに放り込んで、そしてまた150馬力を後輪にしっかりかけていってやるぞ!といったスポーツマインドが自然と沸き起こってしまう。しかもスポーツバイクと比較すればサスがやわらかめで路面状況が掴みやすく、かつポジションが遠くまで見渡せて公道では特に馴染みやすいことから、その昔のビッグネイキッドのように、気軽にスポーツで汗を流したくなるのだ。もちろん、かつてのバンディットなどに比べるとずっと軽く、ずっとモダンなスポーツ性を持っているわけだが。
 

 

忘れていない「ストリートファイター感」

 遠くまで行き、行った先のワインディングではGSX-R由来のスポーツ性を満喫する、というのがこのGTの楽しみ方としてベストなのだろうが、しかし意外にも楽しかったのがストリートでの走りだった。特に複数車線の幹線道路を走っていると、その圧倒的機動力や軽い操作性はネイキッド版が放っているストリートファイター的性格をしっかりと感じさせてくれる。それでいてリアシートに面積があるためちょっとした荷物も括り付けられるだろうし、そしてなによりスマホもメーターとリンクさせられるし、これなら日々の通勤にだって使えてしまうじゃないか、と使い方の期待が膨らむ。

 バイクがそれぞれのカテゴリーのなかで趣味のものとして先鋭化するのは世の流れだが、このGTは大型バイクの汎用性に再び回帰してくれたような気がする。これだけ幅広く様々な場面で楽しめて、かつ「使える」となると、「月に1~2度しか乗らない趣味の乗り物」から「天気さえよければ日常的にでも乗れちゃう乗り物」としても良いように思った。
 

 

電子制御を考える

 今や大排気量バイクでは電子制御の類は標準装備になってきただろう。GSX-S1000GTもまた、ABSやトラクションコントロール、クイックシフターなどは当然のように備わっている。加えてGTではクルーズコントロールが追加され、長距離ライドをサポートする。

 その中で最も良いと感じたのは「ドライブモードセレクター」。A・B・Cと3つのモードが用意され、それぞれスロットル開度に対して実際のパワーの盛り上がりを変えているというもので、Aが元気に(時には意思以上に)フケ上がっていくモード、Cが実際の開度に対して穏やかにフケ上がっていくモードでBがその中間となる。先代のGSX-S1000シリーズではいくらかドン付き(アクセル開け始めにおいてライダーの意志以上に車両が前に出てしまう現象)があったのに対して、この新型では、特にBやCモードはとても扱いやすくなっている。ネイキッド版ではAでも全くストレスなく使えたが、GTの方ではサスが柔らかいためか、はたまたそもそも車体の性格的にそう感じさせるのか、Aはいくらか過敏に感じ、BやCが適正に思えた。ただ嬉しいことにどのモードでも最高出力は同じなのだ。Cモードでノンビリ走っていたとしても、ヨシ行くぞ!となりアクセルをワイドオープンすればしっかりと150馬力を発してくれ、「なんだ……Cモードに入っちゃってて思うような加速やパワーが得られなかったよ……」といったガッカリはない。モデルによってはCモードに相当するモードは最高出力も抑えられていることが多いが、GSX-Sにおいてはそれがなく、こちらの方が素直に思える。
 なお、クルーズコントロールだが、普通に使うには十分な機能ではあるものの、いまや追走型のクルーズコントロールがバイクでも普及し始めているため、そっちを知ってしまうと普通のクルーズコントロールは途端に古く感じてしまうもの。いずれアップデートされることを期待したい。
 

 

欲張りライダーに捧げたい

 他社含めGTというワードが今注目されているようにも思えるが、GSX-S1000GTについては、「グランドツアラー」という言葉からイメージするほどツアラー的でもないかな、という結論に至った。むしろこれは良きオールラウンダーというイメージで、当然長距離のロングランツーリング的な使い方にも対応しつつ、その先々でも興奮を提供してくれるが、そうでなくとも、日帰りのツーリングでも十分スポーツ性を楽しめるし、タンデムでも良いだろうし、そして日常ユースにまで使えてしまう汎用性があるモデルと言えるだろう。1台で様々な場面を目いっぱい楽しみたいといった、欲張りなライダーこそGSX-S1000GTの魅力にハマるのではないかと思う。

 蛇足だが、本当にスズキが「GT」を作るのなら、ハヤブサをベースとしたモデルがあっても良いのではないかな、などと思いも馳せた。あの低重心車体、豊かなトルクで、ハーフカウルとアップハンドルにしたらそれこそ昔ながらの「グランドツアラー」イメージのモデルが出来上がりそう!と盛り上がったのは完全なる妄想ではあるが……スズキさん、どうでしょう??
 

 

●GSX-S1000GT 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:998cm3 ■ボア×ストローク:73.4×59.0mm ■圧縮比:12.2 ■最高出力:110kW(150PS)/11,000rpm ■最大トルク:105N・m(10.7kgf・m)/9,250rpm ■全長×全幅×全高:2,140×825×1,215mm ■軸距離:1,460mm ■シート高:810mm ■装備重量:226kg ■燃料タンク容量:19L ■変速機: 6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C・190/50ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:トリトンブルーメタリック、リフレクティブブルーメタリック、グラススパークルブラック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,595,000円

 



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2022/07/13掲載