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試乗・解説

街の快速王は、 どう変わった? SUZUKI Address 125
2022年10月18日よりスズキから発売された新型のアドレス125に乗ってきた。これまでとは違うスタイリングに、これまで以上を目指したシャシーとエンジンからなる走り。その部分を確認。これまで人気の源であった便利な移動手段としての実力はどうなったのか。乗って得た印象からそこのところを検証する。
■試乗・文:濱矢文夫 ■撮影:富樫秀明 ■協力:SUZUKIhttps://www1.suzuki.co.jp/motor/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html




姿は大きく変わった

 ノーズが尖った旧モデルのアドレス125からがらりと変わった丸っこいレトロなスタイルは、車名数字の前に“V”がついていた時代から続いた便利なスクーターのイメージから脱却してちょっと可愛さがあるデザイン。テールの上がり方がひかえめになって、大きなヘッドライトのまわりにはクロームメッキの加飾がついて、スポーティ路線から方向転換。
 タンデム時の快適性をあげるために「ロングでワイドなシートにした」とスズキが説明していたが、特に後席部分が伸びて広くなっている印象だ。運転席に座ってお尻を後ろに下げていくと、前後の段差は小さいけれど、ちゃんとお尻がそれ以上はいかないストップするクッション形状。前後に乗る人の座るエリアの棲み分けができている。前にあったアドレス125フラットシート仕様の方がフラット感はあったかも。こればかりは並べて比較しないと断言はできないが。
 原付二種アドレスの伝統ともいえるフラットフロアを採用しており、前にオープンタイプのコンビニフック、シート前の下にクローズドタイプのフックを備えているから、トランクスペース以外にも荷物を運ぶためのバリエーションとして便利に使えるだろう。
 

 

ライディングポジションの自由度が大きい

 以前より足を前に出したときに足裏が当たる部分の傾斜がより急になっているので、見た目で狭くなったように思えるかもしれない。シートに腰を下ろし足をまっすぐ前に出したところにある前後に長いエリアは最大で470mmの長さがあるから実際はヨーロッパブランドのスクーターによくある椅子に座ったライディングポジションで固定されるようにはならない。
 フロアは横方向の広さもあるから、足を開いて広げたり、閉じて並べたり、靴を置く位置をいろいろ変えたり動かせる自由は広い。身長170cmの筆者なら、ひかえめな区切りのあるところまでお尻を下げて、カカトをダッシュボードにつけるように前に出すと膝の曲がりをほとんどなくすことだってできた。椅子に座るような姿勢から、足を前に投げ出した姿勢まで座る位置も含めて下半身にゆとりがある。見た目は変わっても、日々の足としていろいろなシチュエーションで長時間の移動を考慮したものになっている。このへんは普及型ピンクナンバースクーターとしてアドレスシリーズを90年代から作り続けてきたスズキらしくぬかりはない。
 これはインドで生産され、今年の1月からインドで売られ大ヒット中。日本市場よりもっと実用性を重んじる彼の地での要望を満たすためにも手を抜けない部分といったところか。
 

 

気になる足着きも問題なし

 シート高は旧型アドレス125の標準モデルが745mm、フラットシート仕様が760mmだったが、新型は770mmとちょっと高い。スクーターのシートは、ライディングしやすさというより椅子としての役割に重点を置いた形状で、さらにシート下にトランクスペースがあったり、エンジンとリアサスペンションが合体したユニットスイング構造を低く収めるためもあり、シートも車体の幅も広くなりがち。普通のオートバイよりもシート高が低い数値でも足が横に広がって地面ヘと伸びるので、足着きが悪くなったりする。日常的に乗りたい人は特にそこのところが気になってしまうハズ。
 これの場合、走る時の座る位置だと両足なら足の裏がべったりと接地しないが、片足をフロア、片足地面なら楽に届く。角を落としてもっと横幅を絞ったシートの前側に体を移動させると、一般的な身長170cmより短足であることを痛感することが多い昭和体型の私でも両足がカカトまでしっかり接地する。これはありがたい。
 

 

規制をクリアしながらこれまで通りの加速感

 新しくなったアドレス125の変化は見た目だけにとどまらないのがミソである。スチール丸パイプを使ったフレームは従来と同じくらいの剛性がありながら1.1kg軽くして、大きなグラブバー部分でも1.1kgの軽量化などトータルで4kgもの軽量化を遂げた。差はほんの少しだと思っても、ガソリン1Lを750gとすると燃料5.3L分も軽くなっているのだと考えるとないがしろにできない。路上を走る乗り物だから軽いことに越したことはないが、軽くしたかった理由の中に平成32年(令和2年)国内排出ガス規制に適合させるというのがあった。排出ガスの規制とエンジンパワーは密接な関係で、どうしても厳しい規制になるほどパワーは落ちてしまいがち。
 スズキはそれを嫌った。空冷124ccの4ストロークSOHC2バルブSEP(スズキ・エコ・パフォーマンス)単気筒エンジンは混合気をよりプラグ付近に集めるようなスキッシュ形状にして、フリクションロスもおさえた。それらによって最高出力は6.9kW[9.4PS]/ 7000rpmから6.4kW[8.7PS]/ 6750rpmとやや落ちながらも、最大トルクは10N・m[1.0kgf・m]と変わらず、発生回転数は6000rpmから5500rpmと低くなった。
 

 

走りと燃費の両立を図った

 排出ガス規制をクリアしながらも今までの走りをスポイルしたくなかったのである。それで燃費を定地でもWMTCモードでも旧型より伸ばしているから感心する。CVTの設定も見直したそうだ。走ってみると、停止からアクセルを大きく開けての発進は想像したより力強く、信号からだとクルマを置き去りにできるすばしっこさを失っていない。ものすごく加速が良くて速いというわけではないけれど、スルスルっと速度は伸びていく。一般道の最高速上限になっている時速60キロまでそれがスムーズに続いて、引き続いて伸びていく実力もある。
 一定のアクセル開度になると減速比を可変させトランスミッションの役割をしているCVTのプーリーが高速型へと切り替わっていくのがわかる。加速中はキビキビ、定速巡航ではCVTがハイギアードになって回転を落として燃費を伸ばす。そのメリハリがある。巡航している状態からの追い越し加速が、レスポンスも含めてややゆったりしたものになるのは、排気量を考慮するとある意味で仕方がないところか。
 ただ、流れている一般道で大きな不満になるようなもどかしさを試乗中に感じなかった。低燃費に結びつくエンジン燃焼状態を表示するメーター内のエコランプが、アナログスピードメーターの周りを囲むように大きく配置されているので、「いまエコ運転なんだな」とすぐにわかるからいい。意識して燃費を伸ばす運転をしやすい。個人的にまったく気にはならないのだけれど、アイドリング時はブルブルとした振動がある。
 

 

安定感のある快適な走り

 フロントが12インチ、リアが10インチのホイール外径は引き続きで、90/90-12 44J / 100/90-10 56Jのタイヤサイズも変わらない。今となってはそれほど大径ホイールではない。それでもサスペンションはほどよく、体がゆすられるようなヒョコヒョコとした動きをおさえて綺麗な道ならフラットに進んでいく感じ。速度を出しながら段差を通過するとフルストロークしてダンっと音がしてショックがある。けれど、それで走行が不安定になることもなく怖い思いもない。
 同排気量スクーターのホンダPCXやヤマハNMAXより車両重量が25kgくらい軽く、ホイールベースがやや短いながら、不快なピッチングをしっかりおさえている。
 ブレーキはフロントがφ190mmのディスクで、リアはφ120mmのドラム。車体が軽いので効きはじゅうぶん。ABSの設定はなく、そのかわりにリアブレーキレバーを握るとフロントブレーキも働くコンバインドブレーキを採用。

 試乗したのは夜半に降り出した雨があがった早朝で、路面は完全なウェット。グリップが低い状況を利用してわざとリアブレーキレバーを強く握り込んでの急減速をやってみた(前後確認をしてます)。ギュッとつんのめるように停止。前後がバランス良くて、どちらかがグリップを失う状態にならなかった。
 フロントにインナーチューブがφ35mmと太めのテレスコピックフォークを採用しているのもあってよれるような頼りなさはなく、コーナリング、直進性の安定感もあって、どのシーンでも走りやすいと思わせるコントロール性。大柄に見えてそうでもないので、狭い路地やUターンなどでの小回りも確実にできて気持ちいい。
 

 

バリューという言葉がぴったり

 全体に特筆したくなるようなものすごく飛び抜けたところはない。だが、すべての項目で合格点を与えられるバランスの良さ。もっと小さく軽く、1万8千700円価格が安いジョグ125が先日ヤマハから発売され、これが国内メーカー同士のライバルになるので気になっている人も多いだろう。
 走りについての違いをここでは述べないが、タンデムのことだけを考えると間違いなくリアシートの広いアドレス125に軍配があがる。実用車的な要素を持ちながら、レトロなルックスで退屈な日常に埋没しにくい存在感があるのが個人的なツボにハマる。これで税込み27万3千900円はなかなかお買い得だと思う。“バリュー”という言葉に弱い現代のトレンドとマッチしている。
(試乗・文:濱矢文夫)
 

 

ライダーの身長は170cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

フロントのキャストホールは12インチ外径。φ190mmのシングルディスクにピンスライドの1ポッドキャリパー。ABSの設定車はなく、リアブレーキと連動したコンバインドブレーキを採用。タイヤは様々な銘柄から開発者が選んだDUNLOP製 D307。なんとレトロ形状のフロントフェンダーは樹脂製ではなくスチール製。
ダッシュボード左側にフタのないポケットと、その上にゴムのフタがついた2AのUSB電源がある。中央にはオープンタイプの荷掛けフック(最大積載許容重量1.5kg)。エンジンとシャシーを共有するアヴェニス125(メーカー希望価格が1万1千円高い)は右にポケット、左にフタ付き小物入れ。そのフタ付き小物入れにUSB電源が入っている。

 

フロアボードはフラットで、横方向の最大が422mm。縦方向の最大は470mm。中央の狭くなったところで230mm。前側のシート下にクローズド型のフックがあるから荷物をここにひっかけてフロアに置くようにすることもできる。使い方の幅は広い。

 

センタースタンド、サイドスタンドは標準装備。折りたたみ式タンデムステップにはラバーの緩衝材が付く。兄弟車のアヴェニス125にはない。インドで生産し、すでに販売されている車両で、これから日本、他のアジア、欧州、南米とグローバルに発売する車両だけあって、エンジン始動はセルのみならずキックペダルでも可能。バッテリーあがりとかなどを考えると嬉しい。
リアホイール外径は10インチ。ブレーキはドラム式。リアサスペンションはリンクレスのモノショック。強制空冷の4ストロークSOHC2バルブSEP(スズキ・エコ・パフォーマンスエンジン)は、オイルポンプのサイズを見直しフリクションロスを低減。混合気を効率よく燃焼させるために、燃焼室形状とバルブの挟み角を見直して、タンブル流を生み出す吸気ポートにした。スキッシュエリアをM字形状にして、混合気を点火プラグ近くに導いて確実に燃焼させることに成功。厳しい平成32年(令和2年)国内排出ガス規制をクリアしながら力強さを失わず。

 

燃料給油口はシートを開けずにできるこの位置にした。後席に荷物を積んでいてもおろす必要がない。しかし、そのために従来のトップボックスでは給油の邪魔になり使えず、スズキ純正アクセサリーとして高く持ち上げた位置になるトップボックスとフレームが用意されている。リアコンビネーションランプはLEDではなくバルブ式。
シートは従来比でロングにワイドに。タンデムでの後席快適性を大きく考慮した形状。上面は前後棲み分けの段差がひかえめにあるけれどフラットに近い。大きなグラブバーは前の鉄製より1.1kgもの軽量化になっているそうだ。エンブレムをステッカーではなく立体エンブレムにしたことでちょっと高級感がある。

 

インド市場からの要望もあって、マフラーとリアホイールとの間を広く取って、マフラーをはずさずホイールを脱着できるようにした。完全にフラットな場所でもセンタースタンドを立てようと力いっぱい踏むと車体が左側に車体が傾くから、ややコツがいる。
アナログの速度計は大きい。その周りを囲むようにLEDのエコドライブイルミネーションがあり、走行中でもエコ運転かどうかすぐにわかる。ブルー→水色→グリーンと変化する。グリーンが最もエコ。小さい液晶画面は切り替えながら、燃料計、オイルチェンジインジケーター、オドメーター、トリップメーター、電圧計、時計を表示できる。

 

ハンドルカバーにクロームメッキの縁取りのあるヘッドライトを埋め込んだクラシカルなルックス。縦長のウインカーはフリント=火打ち石をイメージしたものらしい。2段に別れたLEDヘッドライトは、ロービーム時は上だけ、ハイビーム時で上下が点灯。ウインカーはLEDではなくバルブ。その下にあるポジションランプはLED。
フラットフロアで前後に短そうに見えるけれど、身長170cmで膝の曲がりはこのくらい。きつくない。シートの段差にお尻がつくくらい下げると、この身長だと足をほぼ真っ直ぐに伸ばすこともできる。足の自由度は大きい。実用車としても重要な要件。

 

シート下トランクは21.8Lの容量。今回の撮影で被っているアライヘルメットのCLASSIC MOD(Sサイズ)だと高さ的にギリギリ入らず。無理やり押し込んだらできそうだが、ヘルメットが傷つきそうだから避けた。ヒンジの部の左右にフック式のヘルメットホルダーがあるので、無理せずそちらを使いたい。

 

●Address 125 主要諸元
■型式:8BJ-DP12H ■エンジン種類:空冷4ストローク単気筒SOHC 2バルブ ■総排気量:124cc ■ボア×ストローク:52.5×57.4mm ■圧縮比:10.3 ■最高出力:6.4kw(8.7PS)/6,750rpm ■最大トルク:10.0N・m(1.0kgf・m)/5,500rpm ■全長×全幅×全高:1,825×690×1,160mm ■ホイールベース:1,265mm ■最低地上高:160mm ■シート高:770mm ■車両重量:105kg ■燃料タンク容量:5L ■変速機形式:Vベルト無段変速 ■タイヤ(前・後):90/90-12 44J・90/100-10 53J ■ブレーキ(前・後):油圧式シングルディスク/機械式リーディングトレーリング ■懸架方式(前・後):テレスコピック・ユニットスイング ■車体色:ダークグリーニッシュブルーメタリック、マットボルドーレッドメタリック、パールミラージュホワイト、マットブラックメタリックNo.2 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):273,900円

 



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2022/12/23掲載