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試乗・解説

スズキは、インドで生産し発売していた『アドレス125』と『アヴェニス125』を国内でも販売を開始した。日本人にもなじみの深い両ブランドの最新モデルは、いったいどういうスクーターで、どこが魅力で、どういう作り、装備、これまでとはどう違うのか。そこのところを先日開催された記者発表で得た情報とともに詳しく解説する。両車とも30万円を切る購入しやすい価格設定なのもあり気になっている人は多いだろう。
■解説:濱矢文夫 ■協力:SUZUKI

Address 125

 原付二種クラスのアドレスといえば、1991年から発売された2ストロークエンジンの『アドレスV100』が価格、サイズ、走りのバランスの良さから大ヒット。その後『アドレス110』も追加で登場。2005年から4ストロークエンジンを搭載して排気量を上げた後継機種の『アドレスV125』へとバトンタッチ。このシリーズはリーズナブルで実用性が高く、通勤などの日常的な移動の足として使うユーザーが多かった。今回の新型『アドレス125』は評価されてきた実用性を高めながら、これまでとはがらりと変わった丸みのあるスタイルなどもっとユーザーの幅を広げることを狙った意欲作。このモデルの生産国であり先に発売されているインドでは、125ccスクータークラスでトップの販売を維持しているという。

adress125
Address 125。

■STYLING ルックス

 初代の『アドレスV100』からイメージを継承した、スラントしたノーズの先がとがった形状の先代までとは大きく変わり、フラットフロアを継承しながら丸みのあるボディのレトロなデザインにチェンジ。インド市場では、こういうハンドルカバーにヘッドライトが入ったオーソドックスなデザインが好まれるという理由もあるが、グローバルモデルとして日本をはじめとした他の地域のことも考慮したものだと記者発表の際、担当デザイナーから説明があった。毎日使うから街になじんで、幅広い人に親しまれるカタチ。

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 室内に置かれた実車を見て、ふっくらとした面構成からひとまわりサイズアップしたように思えた。けれど、全長/全幅/全高=1825mm/690mm/1160mmという数値は、前モデルの1900mm / 685mm / 1135mmと比べると全高以外はむしろサイズダウンしている。ホイールベースも1285mm→1265mmと20mm短くなった。

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 LEDのヘッドライト周りにメッキリングをあしらって上質感を演出。アルミのグラブバーは大きく、後席に乗ったライダーが体を安定させやすいよう握りやすいもの。旧モデルの鉄製グラブバーからは1.1kgの軽量化。丸みのあるレッグシールド部分とフロントフェンダーは重厚感のあるディテールにこだわった。フロントウインカーはフリント=火打ち石をテーマにしたデザイン。新型はタンデムのしやすさも追求し、シートは前後の段差がよりなくなり、前後の人がゆったり乗れるロングでワイドな形状。シート高は以前の745mmから770mmに上がっている。それでもまたいだときに太ももの内側にあたる部分を足着きを考えたフォルムにした。

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■ENGINE 動力系

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 強制空冷の4ストロークSOHC2バルブSEP(SUZUKI ECO PERFORMANCE)124cc単気筒エンジンを搭載。空冷で厳しい日本の夏でも大丈夫なのか、とあえてユーザー的に気になりそうなところをエンジン開発担当者に問うてみたが、当然ながら水冷ほどの安定性はないもののまったく問題ないと回答。通年を通してテストしてクリアしているそうだ。考えてみれば日本より厳しそうなインドの環境で使われているのだから。ただし、空冷でやれるのは125ccまでだとも話していた。空冷を選択したのは軽量化のため。もちろん部品点数が少ないことはコストを下げることにもつながる。

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 目標としたのは厳しい平成32年(令和2年)国内排出ガス規制に適合させながら、従来モデルの加速力を維持してより優れた燃費にすること。そのために[最適な燃焼][高圧縮比][フリクションロスの低減][軽量化][最適なCVTの設定]などに取り組んだ。混合気を素早く、効率的に燃焼させるため、吸気ポート形状やバルブの挟み角、燃焼室形状を見直した。吸気経路で燃焼室内にタンブル流(混合気が縦方向に回る渦)を作り出し、それに加えてピストン上部とヘッド下面の間にできる狭い空間、スキッシュをM字形状にして混合気を点火プラグ近くに導いて、確実に燃やすように。吸気バルブは強度を確保しながらネック部分をくびれさせ傘の部分の形状と合わせ吸入抵抗を軽減させ、混合気がスムーズにシリンダー内に入るようにした。
 ベルトを使ったCVTはエンジン特性の変化に合わせて設定を変更。素早くアクセルをひねったときの加速反応が良く、一定のペースでクルージングする運転領域ではエンジンの回転数がより低くなるようにした。気持ちの良いドライバビリティと低燃費の両方を検討した仕様。

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 吸気排気管の太さと長さも見直し、旧型より低回転で最大トルクを発揮できるような特性にする。低回転から力強い駆動力を得られることは低燃費と加速に有効。フリクションロスの低減にもつとめて、カムシャフトと接触する部分にはローラーロッカーアームを使っている。オイルポンプも見直され、サイズを小さくして駆動ロスを小さくした。効率良く燃焼させ、その燃焼で得られた力を少しでも失わないようフリクションロスを低減。排気管にレイアウトされた触媒はその位置について検討を重ねて、サイズとその密度を修正したものを二段構えで採用。これによって効率的に浄化しながら排出抵抗を小さくし、アクセル開度に追従したスムーズな走行フィーリングを得た。最高出力=6.4kW〈8.7PS〉 / 6750rpm、最大トルク=10.0N・m〈1.0 kgf・m〉 / 5500rpmは、前モデルより最高出力は少し下がったが、最大トルクは同じだ。そして、その発生回転数は最高出力で250rpm、最大トルクで500rpm下がった。

■CHASSIS 車体系

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 鉄の丸パイプを使ったフレームは従来型と同等の剛性を確保しつつ1.1kgの軽量化を遂げた。フロントサスペンションはスクーターでは一般的なアンダーブラケット部分だけでクランプしたテレスコピック式で、インナーチューブ径は旧型と同じφ35mm。原付二種スクーターとしては太い部類に入る。太い方が剛性を高めることができ、減衰を安定して出しやすいと車体設計担当者の弁。ブレーキはリアブレーキレバーを握るとフロントブレーキも働く前後連動のコンバインドブレーキを採用。フロントのディスクはφ190mm、リアのドラムブレーキはφ120mm。ABSはない。現在、原付二種クラスでは前後連動ブレーキがあればABSを装着する必要はない。
 ホイールは旧型と同じフロントは12インチでリアは10インチの外径。90/90-12 44J / 100/90-10 56Jのタイヤサイズも一緒。開発者との質疑応答では、これで十分な快適性と操縦安定性を得ていると答えてくれた。タイヤはいくつかの銘柄をテストしてハンドリングとグリップ力で最適だと選んだダンロップ D307。シャシーとエンジンが基本的に同じのアヴェニス125の左ブレーキレバーにあるリアブレーキロックシステムはこのアドレス125にはない。

■UTILITY その他の機能

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adress125

 何かと便利に使えるフラットフロアは左右の部分で最大前後長470mm。中央の狭い部分で230mm。横方向は最大で422mmという数値。折りたたみ式タンデムステップは滑り止めラバー付き。
 マフラーを取り外さなくてもホイールを脱着できるよう、ホイールとマフラーの間にスペースを確保していることも見逃せない部分。道路事情が過酷なインドからの要望があったからだが、メンテナンスのことを考えると日本でもありがたい仕様だ。

adress125
adress125

 給油口はテール部分。シートを開けなくても給油できるメリットがある。燃料タンク容量は5L。このスクーターを日常的に使いたいライダーが気になるのは、トップボックスを装着する場合に給油しにくくなるのではないかという心配だろう。そのために一段高い位置になる専用キャリアとトップボックスのスズキ純正アクセサリーが用意されている。

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adress125
荷物を引っ掛けられるフックは前にオープンタイプ(最大積載許容重量1.5kg)、シート前側の下にクローズドタイプ(最大積載許容重量1.5kg)と2つある。荷物を安定させやすいフラットフロアだからこのフックの使いみちも広がる。

adress125
adress125
2AのUSB電源を装備。その左側にポケットがありここにスマホなど充電したい機器を置いておける。最大積載許容重量は0.5kg。

adress125
adress125
シート下トランクは21.8L(最大積載許容重量3kg)。ヘルメットの大きさによるけれどフルフェイスは厳しいか。シートヒンジ部の左右(合計2箇所)にヘルメットを吊り下げられる簡単なフック式ヘルメットホルダーがある。サイドスタンドには出したままでは走行ができないインターロック機能付き。

adress125
adress125
1度押せば押し続けなくてもセルが回りエンジンがかかるイージースタートシステムを採用。メーターにはスピードメーターの周りを囲むようにエコドライブイルミネーションがある。通常はブルーの点灯で、燃費の良い運転をしていると写真のようにグリーンに変わる。すぐに視認できる大きさ。

adress125
マットブラックメタリックNo.2。
adress125
マットボルドーレッドメタリック。

adress125
パールミラージュホワイト。
adress125
ダークグリーニッシュブルーメタリック。

adress125

●Address 125 主要諸元
■型式:8BJ-DP12H ■エンジン種類:空冷4ストローク単気筒SOHC 2バルブ ■総排気量:124㎤ ■ボア×ストローク:52.5×57.4mm ■圧縮比:10.3 ■最高出力:6.4kw(8.7PS)/6,750rpm ■最大トルク:10.0N・m(1.0kgf・m)/5,500rpm ■全長×全幅×全高:1,825×690×1,160mm ■ホイールベース:1,265mm ■最低地上高:160mm ■シート高:770mm ■車両重量:105kg ■燃料タンク容量:5L ■変速機形式:Vベルト無段変速 ■タイヤ(前・後):90/90-12 44J・90/100-10 53J ■ブレーキ(前・後):油圧式シングルディスク/機械式リーディングトレーリング ■懸架方式(前・後):テレスコピック・ユニットスイング ■車体色:ダークグリーニッシュブルーメタリック、マットボルドーレッドメタリック、パールミラージュホワイト、マットブラックメタリックNo.2 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):273,900円

Avenis 125

 通りを意味する“Avenue”と“Street”を組み合わせて命名されたアヴェニス125。アドレスシリーズほど歴史は長くないが、90年代後半には初代アヴェニスが登場していた。この新型は、強制空冷4ストロークSOHC2バルブSEP124ccエンジンやシャシー、足周りなど基本はアドレス125と共通である。それでもスタイルはもちろん、兄弟車アドレス125との違いを出している。開発コンセプトは、「キビキビ」と走る軽快なスポーツスクーターだ。

Avenis 125
Avenis 125。

■STYLING ルックス

Avenis 125

 風の視覚化をイメージした空気を切り裂くようなシャープなデザインにしたと担当デザイナーは語った。アグレッシブでエッジのきいた流行のスタイリング。

Avenis 125
Avenis 125

 前方のサイド部分はモトクロッサーのシュラウドのようなデザイン。そこに残像デジタル処理をされたようなAvenisの“A”文字を使った疾走感のあるグラフィック。ツートーンカラーでカラーパーツが周りから内側に入り込むようにして、外装と内装の境界線をなくす工夫。ヘッドライトをハンドルカバーに内蔵してハンドルを切ると左右に動くアドレス125とは違い、低い位置に固定式ヘッドライトを装着。

Avenis 125
HAYABUSA、KATANA、Vストローム、GSX-S1000/GTなどスズキスポーツバイクのアイデンティティである縦型2灯ヘッドライトを採用。5つの独立したLEDランプを使い、明るく、かつ広い照射範囲を実現した。
Avenis 125
ハンドルカバーの中央にあるメーターバイザーは、モトクロッサーのゼッケンカウルからインスピレーションを得た形状。埋め込まれたウインカーも特徴的なカタチをしている。

Avenis 125
セパレートされた2灯式LEDコンビネーションランプ。一体型の丸くてレトロ感のあるアドレス125とはまったく違う、未来的、戦闘的デザイン。
Avenis 125
アドレス125のアナログ表示とはうって変わり、モノクロフル液晶デジタルメーター。周りの外装と接触しておらず、フローティングマウントさせたように見せる凝った演出。

Avenis 125
“Avenis”の立体エンブレムは、より立体感を出すために逆曲面にして、グロスブラックで塗装。シート形状はアドレス125と同じではない。赤いステッチをアクセントにしてグレーとブラックツートーンのシート表皮。グラブバーは躍動感のあるルックスに合わせたセパレートタイプ。
Avenis 125
エッジの効いた形状で、質感の違うブラックを使いコントラストを出している。アドレス125と同じくマフラーを取り外さずにホイール脱着ができるスペースを確保している。

■ENGINE=動力系と、CHASSIS=車

Avenis 125

 エンジン、CVTの駆動系などはアドレス125とまったく同じだが、よりスポーティーさを出すために制御コンピューター(ECM)をアヴェニス125専用にして加速の特性にこだわった。エンジンで違うのはそこだけだ。鉄製のフレームも基本は同じ。しかしお尻上がりのスタイルにするためにサブフレームが後端に向けアドレス125より持ち上がった形状。シートもよりライダーが前にくるもので、それによって前に荷重がかかることになり、よりフットワークの良いハンドリングに仕立てた。フロントフォークも構成部品は基本変わらない。しかし、前後荷重バランスに対応してインナーチューブ径φ35mmのフロントフォークのバネレートを上げて減衰をきかせてキビキビとした動きを出している。前ディスク、後ろドラムのコンバインドブレーキも同様。カタログスペックを見ていて、装備重量がアドレス125より2kg重い107kgでありながら、WMTCモードの燃費が54.3km/Lとアドレス125の53.8km/Lより良いのが気になって開発責任者にたずねると、どうしても測定と個体のばらつきがあり、それで差があるだけで、アドレスとアヴェニスの燃費の差はほとんどないとのこと。

■UTILITY その他の機能

Avenis 125
Avenis 125
フロント側の収納はアヴェニス125の方が充実している。左側のフタ付きの方に2AのUSB電源がある。

Avenis 125
Avenis 125
タンデムステップはアルミ。滑り止めラバーが付いたアドレス125と異なる形状。容量5.2Lの燃料タンクへ燃料を入れる給油口はアドレス125と変わらずテールにあるが、お尻下がりにスラントしている面にあるアドレス125と違い、アヴェニスはほぼ真上を向いている。これを書いている2022年11月22日現在、スズキ純正オプションにアドレス125にあるトップボックスの設定はない。同じものだと給油できなくなりそう。より趣味性の部分にこだわった機種だということのあらわれか。

Avenis 125
Avenis 125
アヴェニス125には左側レバーにリアブレーキロックシステムが装備されている。シート下トランクスペースは同じように見えて、アヴェニスの方が0.3L少ない21.5L容量。これもフック式ヘルメットホルダーがシート開閉ヒンジ部分の左右、合計2つある。他、2種類の荷掛けフック、インターロック機能付きサイドスタンド、イージースタートシステムなどは共通装備。

Avenis 125
Avenis 125
パールミラージュホワイト×マットフィブロイングレーメタリック。

Avenis 125
マットフィブロイングレーメタリック×ラッシュグリーンメタリック。
Avenis 125
グラススパークルブラック×マットブラックメタリックNo.2。

●Avenis 125 主要諸元
■型式:8BJ-EA12J ■エンジン種類:空冷4ストローク単気筒SOHC 2バルブ ■総排気量:124㎤ ■ボア×ストローク:52.5×57.4mm ■圧縮比:10.3 ■最高出力:6.4kw(8.7PS)/6,750rpm ■最大トルク:10.0N・m(1.0kgf・m)/5,500rpm ■全長×全幅×全高:1,895×710×1,175mm ■ホイールベース:1,265mm ■最低地上高:160mm ■シート高:780mm ■車両重量:107kg ■燃料タンク容量:5.2L ■変速機形式:Vベルト無段変速 ■タイヤ(前・後):90/90-12 44J・90/100-10 53J ■ブレーキ(前・後):油圧式シングルディスク/機械式リーディングトレーリング ■懸架方式(前・後):テレスコピック・ユニットスイング ■車体色:パールミラージュホワイト×マットフィブロイングレーメタリック、マットフィブロイングレーメタリック×ラッシュグリーンメタリック、グラススパークルブラック×マットブラックメタリックNo.2 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):284,900円

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2022/11/24掲載