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試乗・解説

かつて2000年代が始まると走りのパフォーマンスを意識したクルーザー達が登場した。カワサキのミーンストリーク、ヤマハのロードスターウォーリア等々だ。その流れはジャパニーズアメリカンモデルの歴史をひもとけば、並列4気筒、V4エンジン搭載モデルや、ゴールドウイングの進化も、実はクルーザー界の巨人、ハーレーダビッドソンに対する日本流の解答だったのか。あえてのV型45度2気筒という「様式美」に拘ったスズキのVS750イントルーダーも、水冷エンジン、高いブレーキ性能、旋回性もやはりスポーティだった。そんな走りのDNAを650㏄パラツインとリンク付きモノサスを備えるシャーシで再現しているバルカンS。クルーザーという目線だけではなく、走る楽しさを日常域でどれだけ多く味わえるかという目線で評価したら、かなり高いスコアを出してくれたのだ。その「どのへんが?」を紹介します。
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:富樫秀明 ■協力:カワサキモータースジャパンhttps://www.kawasaki-motors.com/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、SPIDI・56design https://www.56-design.com/




ジャンルを超えた面白さ。

 今、日本のクルーザーマーケットはかなりシンプルだ。250と同じ車体に500㏄のパラツインを搭載したレブル250/500。さらにDCT搭載のアフリカツインの心臓を持つレブル1100を持つホンダは、ゴールドウイングかレブルか、という二択で迷う人もいないだろう。
 古典的空冷Vツインとダブルクレードルフレームというパッケージで、ボバールックとスポーティなディテールを融合させたVOLT R。実はホンダ、ヤマハもデザインのキーセンテンスに使っているのはボバー。そう、バイクがどれもリジッドフレームに空冷エンジンを搭載していたころ、レースをするためにフェンダーを短く切り、外せるものを可能な限り外したスタイル、それがボバールックの源泉。舗装路が少ない当時、深く長い鉄製のフェンダーは必須。安定性を出すために幅広のハンドルバーもセットのようなものだったから、ボバーと呼ばれるようになったそのスタイルは、往年のレーサーレプリカを再現したスタイル、とも言えるのだ。

 で、バルカンSである。スタイルは鉄板とも言えるロー&ロングなスタイルで、ミーンストリークなどが刺激したクルーザーをスポーツバイクのようにするカスタムトレンドと、ガンガン走るライダー達に支持されたそのスタイルを今に受け継ぎ、同時に町でもツーリング先でも走りの一体感が市街地スピードから味わえる。そう、今時なかなかない存在の一台なのだ。
 

 

エンジンは649㏄パラツイン、専用チューン。

 カワサキには650ツインを搭載したZ650、Ninja650、国内では販売されていないが、ヴェルシス650も同系のエンジンを搭載している。このパラレルツインエンジンをベースにバルカンS用には、フライホイールマス増大やカムプロファイルの変更、そして吸気ボックス内にある吸気ファンネルを長いものにすることでより低速トルク、低中速域の充実したレスポンスに向けたチューニングが施された。結果的に低い回転から豊かなトルクを持ち、240㎏に迫る車体をグイグイ押し出してくれるのだ。

 シリンダーヘッドには空冷オマージュのようなデザイン化された冷却フィンを持ち、14リットル入りの燃料タンクとフレームに囲まれた中でしっかりと外観意匠としも仕事をしている。
 180度位相のクランクシャフトは他モデル同様で、軽快感と重厚さをバランス良く耳に尻に刺激として届けてくれるのも嬉しい。
 

 

ポジションはタイト。

 伸びやかなスタイルをも持つバルカンS。その全長は2310mm。これはヤマハのVOLTよりも20mm長く、レブル500とは105mmも長いサイズ違いを感じさせる。全幅を見るとバルカンSが855mmとVOLTの830mm、レブル500の820mmよりも数値的にはワイドだが、バーエンドには長い制振ウエイトが左右に付いているから、グリップ位置でみると想像以上に幅がタイトに感じる。また、トップブリッジからライダー側に引かれ、かつグリップが斜め下に垂れているもので、アップライトなネイキッドのようなライディングポジションなのでライダーのフィット感抜群。

 ステップ位置はやや前方、かつブレーキもシフトペダルも立った位置にあるので、長身の私(183cm)は足を押しつけておく感じになり、ハンドル位置とはややバランスが悪い。そんなライダーに向け、ステップ位置を25mm単位で2段階、標準位置より前方に動かせる仕掛けがこのバルカンSにはある。オプションパーツのシフトリンケージを用いてやる必要があるので、クルマのシートスライドのように動かすことは出来ないが、オーナーとなれば調整後は固定でも不満はないだろう。
 このステップはラバーマウントされており、シフト側の締結部分のラバーが少々ソフトな設定で踏ん張ると、意外に動く。走っていると案外気にならないが、最初にグニョッと動くそれを見た時、ちょっと驚いた。

 また、そのことと関係しているのかまでは突き止められなかったが、シフトペダルとリンケージのレバー比の関係なのか、つま先のストローク量が意外に多く、信号でシフトダウンしたつもりがニュートラルではなく3速だったとか、交差点で左折する時、シフトダウン感があるので2速にシフトダウンしたつもりで、まだ3速だった、ということが乗り始めに何度かあった。右側はそのグニョ感がないラバー硬度を持っているので、左右で格差あり、なのだ。まあ、慣れの範疇だが、ちょっと気になったポイントだ。
 しかし、ポジションは、ステップ、グリップ、シートの位置関係も乗り慣れてくると走りのよさとシンクロするような一体感が味わえた。
 

 

交差点を曲がるのが楽しい!

 今、カワサキが国内に展開するクルーザーはこのバルカンSのみ。アメリカのWEB サイトを見ると、以前国内でも展開していたVツイン搭載のバルカン900に3機種、1700㏄のVツイン搭載モデルに2機種、それにパラツイン搭載のバルカンSを展開している。
 フラッグシップたる1700のバルカンは、バガークルーザー、ツーリングクルーザーという呼び名が記載され、900はカジュアルクルーザー。そして650のバルカンSは、スポーツクルーザーとの表記があった。

 そう、乗った瞬間、解るのがバイクとの一体感。まさにスポーツクルーザーだったのだ。
 走り出しは軽快。低速トルクに溢れるエンジンは、1500回転でクラッチミート、後輪の確かな蹴り出しにアクセルを少し追い増しすればダダダダと感じる進行方向に打ち出されるような増速感……。一時停止の交差点からの再スタートも、任せて安心な低速トルク。エンストしそうな気配がない。

 キャスターが31度、トレール量が120mmと長めなのに、低速でフロントフォークがコテンと切れ込まないのは18インチと120/70サイズのラジアルタイヤの組合せの妙だろう。また、スポークとせずキャストにしてホイールの回転マスも合わせ込んでいるとしたら、この部分は成功だろう。ほど良さがいい。
 

 
 とにかく走りとフロントエンドの動きが自然で、舵角がバランスして思いのままに向きが変えられる。ここはクルーザーを評価する時大切に見えているポイントで、ライディングポジションやハンドル幅、アクセルに対するエンジンのレスポンスも関わってくる。これらのチューニングが丁寧に取られているバルカンSは、走りだして3分と経たずに意思疎通が濃密になりだした。

 先述したシフト空振り問題に馴れた頃、このバイクとの一体感は早くもピークにあった。青い針の回転計とシフトインジケーター、速度をメインに表示する液晶モニター。スポーツバイク的視覚情報にクルーザーな気分でありながらも新ジャンルのバイクを走らせている印象もある。

 渋滞路でもその取り回しのよさは不思議と長いサイズを感じさせない。好みの位置にアクセルワイヤーの遊びを調整すれば、わずかにワイヤーを曳いた時にエンジンが反応する「開け口」の部分が充実&マイルドに対応してくれるので無駄な神経を使わずにすむ。
 さらにブレーキ性能はコントロール性充分。ホイールベースが長く、キャスターの寝たクルーザーだとフロントをあえてダルな効き味にしてリア中心に使いたくなるが、バルカンSは普通のバイクから乗り換えても違和感なし。
 

 

ツーリングの楽しさも推して知るべし。

 高速道路で御殿場に向かった。交通量は多く、100km/hクルーズが保てない。それでも90km/h、80km/h、時に60km/hへと速度が落ちても、6速のまま充実のトルクで再加速は充分に刺激的レベルで行なえた。道が空いたところで追い越し加速も試したが、もう充分。この650は低速からミドル域まで力感がしっかりある。飛ばす気にならないのはこうした充実感があってこそ。低中速トルクがもたらすゆとりは偉大なのだ。

 カントリーロードを流していてもその様相は変わらない。一人乗り用が標準となるリアショックユニットのスプリングプリロードを自分の体重と好みに合わせて数段入れたが、路面への追従があがり、乗り心地もスムーズな印象に。前後の荷重バランスも変わるから、良い感じ。するとますますフロントタイヤの接地感が出て走りにも一体感が出た。
 調整は、サイドカバー内に入っている六角レンチでタンデムシートを外し、それからフロントシートを外すとツールキットがある。そこにフックスパナがあるからアクセスは少々手間がかかるが、体重や好みで調整をしたら頻繁に変更する理由もないだろう。
 

 
 峠にも足を伸ばした。キツい上りがあるその道でもバルカンSが持つトルクのゆとりはなかなか。バンク角はクルーザーゆえスポーツバイクのようにはいかないが、ツーリング気分でハンドリングの一体感を楽しむレベルなら問題なかった(イニシャルプリロードを調整後)。

 結論を言えば、バルカンSは良いバイクだった。アジリティの良さ、加速の良さ、それを制御するブレーキのバランスやサスペンションの性能もバランスが取れている。クルーザーとしての評価という部分は見た目、かくあるべし、という好みの世界に足を入れることになるが、その手前、モノとしての良さは乗るほどに沁みてきた。良い意味で誰でも楽しめるバイクだろう。工具を出す時、リアシートを外した姿(いわゆるソロシート)もカッコ良かったし。ちょっと嬉しくなる1日だったのだ。
(試乗・文:松井 勉)
 

 

ライダーの身長は183cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

18インチのキャストホイール、ラジアルタイヤ、φ41mmのインナーチューブ径を持つ正立フロントフォーク、φ300mmのディスクプレートと2ピストンキャリパーを組み合わせたフロントブレーキシステム。

 

シリンダーの位置とクランクケースにあるクラッチ周りの位置関係から軸間距離を短くしたコンパクト設計のエンジンであることが解る。ハンドリングが好印象なのも、このエンジンを適正な位置にレイアウトできる恩恵もあるのだろう。回転フィールの造り込みにもスポーツエンジンらしからぬゆとりを感じさせる。

 

リアブレーキは、φ250mm径のディスクプレートとシングルピストンキャリパーを組み合わせる。前後ともニッシン製。リアタイヤは160/60R17。デザイン的にワイドに見えるが、このクラスの標準サイズ。これもナチュラルなハンドリングに活きていると思う。スイングアームはピボット部分が絞り込まれた形状のダイキャスト製。ブレースに見えるのはチェーンガード兼用のインナーフェンダーだ。

 

シート高にも影響せず、バッテリーその他の補機類のレイアウトの自由度を高めることに貢献するレイダウンマウントのリアショック。リンケージを持つところもスポーツバイク風。
丸型のサイレンサー部分。エンジン下部に排気ボックスをそなえている。

 

フロントシートはタンク側がボディーに巻き付くように細身となり、ヒップポイントがワイドに。そしてエンドの部分でしっかり加速Gが掛かった場合、あるいはステップを踏ん張りたいときにストッパーとして役目を果たしてくれる。シートエンドの位置をさらに前進させたシートもオプションで用意される。リアシートもエンドが少し盛り上げてあり、加速時に滑り落ちる感じは無かった。また、ステップとの位置関係も快適。バックレストもオプションで用意されている。ラゲッジキャリア関係もあるから使い方に合わせたカスタムもしやすいだろう。
燃料タンクはライダー側が細身、ステアリングヘッド側はフレームに合わせてワイドに仕立てられている。14リットルの容量を持ち、指定燃料はレギュラーガソリン。

 

ヘッドライトはハロゲンバルブ、ウインカーも電球を使う。ヘッドライトのカバーによりその形状を印象的なものにしている。
テールランプとナンバープレート照明はLED光源となる。

 

丸型のステップと存在感あるペダル類。ステッププレートの締結部分に入るラバーの硬度が左右で異なり、シフト側がより動く印象。振動は見事にキャンセルされている。

 

コンパクトなライディングポジションを作るハンドルバー。立ち上げ角、グリップの垂れ角ともにフルロックしても違和感なくバイクをコントロールできる。ワインディングから高速道路まで扱いやすかった。
今回、試すつもりで回したが、通常であれば5000回転以上ほぼ使わずに事足りることを教えてくれた回転計。その下のモニターには、速度、ギアポジション、時計、オド、A、Bトリップ、瞬間燃費、平均燃費、航続可能距離などを表示する。

 

右にキルスイッチ、スタータースイッチ、左にはパッシング、ロー/ハイ光軸切り替え、ウインカー、ホーン、そしてハザードスイッチを装備する。

 

●VULCAN S 主要諸元
■型式: 8BL-EN650J ■エンジン種類:水冷4ストローク並列2気筒/DOHC 4バルブ ■総排気量:649cm3 ■ボア×ストローク:83.0mm×60.0mm ■圧縮比:10.8■最高出力:45kW(61PS)/7,500rpm ■最大トルク:62N・m(6.3kgf・m)/6,600rpm ■全長×全幅×全高:2,310mm×855mm×1,090mm ■ホイールベース:1,575mm ■最低地上高:130mm ■シート高:705mm ■車両重量:229kg ■燃料タンク容量:14L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70R18M/C (59H)・160/60R17M/C (69H) ■ブレーキ(前/後):油圧式シングルディスク/油圧式シングルディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:キャンディクリムゾンレッド ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):913,000円

 



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2022/10/25掲載