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試乗・解説

ファニールックスと5速で帰ってきた遊べるヤツ Honda GROM
原付二種クラスでスポーツマインドを持ったミッション付モデルと言えば、今やDOHC化したCB125Rが存在する。しかしやはり小径ホイールのいわゆる「ミニバイク」って直感的に「楽しそう!」じゃないか。見た目も特性もさらに楽しそうになったGROMに乗る。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:赤松 孝 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン https://www.honda.co.jp/motor/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、Alpinestars http://www.okada-corp.com/products/?category_name=alpinestars




エイプが作り上げた世界

 既に絶版となってしまったが、ホンダの縦型エンジンを搭載したAPEというモデルは新たな遊びを創出したと言えるだろう。いわゆるフルカウルの2ストミニバイクによるレースはずっと存在し続けていたが、APEはもう少し大きな車体で、4ストロークで、そしてツインリンクもてぎでの耐久レース「DE耐」などの開催もあり、こういったバイクを遊び倒す! という流れができた。ミニバイクレーサーほどホンキでなくとも、レースごっこやカスタム、チューニングを楽しめる、そんな世界を作り出してくれた。
 

 
 それを引き継いだのがGROM。横型のカブ系エンジンに替わり、どこかクラシカルだったAPEに対して、2013年に発表された初代はアイアンマン的なフェイスを持ちモダンでカッコ良かった。2016年には、ますますマーベル的な上下二段ヘッドライトデザインとダウンマフラーへとモデルチェンジ。高いシート高や立ったフォークアングル、少ないトレール量など色々独自の設定がありAPEとは少し違う乗り味だったが、それでもこのクラスの遊びやスポーツの欲求を満たすモデルとしての地位を確立していった。
 そのGROMがさらにルックスを変更し、そして初めて5速ミッションも獲得してモデルチェンジしたのも記憶に新しい。新しいグロムはマーベル感が薄れて、逆にレゴ感をまとったルックスに。各パーツが独立し、簡単にはめ込んで自分好みに仕立てられるだろう、というのを視覚的に強く訴え、ますます遊べるバイクとしてアピールしてきた。
 

 

アンバランスを楽しむ

 APEが出た時、アンバランスさが一つの魅力だったように思う。昔からあるエンジンに他車流用のタンク、細いフォークなどベーシックな構成がまさかあんなに楽しめる走行性能を提供してくれると思った人は当初少なかっただろう。対するGROMはルックスからして「やる気」。いかにもスポーツを楽しめそうな印象を受けたが、ところがしかし、カブ系の4速ミッションエンジンを搭載し、その実は牧歌的な乗り物であり逆の意味でアンバランスさを感じたものだ。
「こんなルックスなのに、日常的に付き合いやすいフレンドリーなヤツなんだな」と。
 パワーはAPEから大幅に上がったものの、セル付のインジェクション仕様カブ系エンジンは包容力があり誰でも付き合いやすかった。一方で車体の方は腰高でわりに積極的なディメンション。倒立フォークやAPEに比べれば初期の沈み込みが少ないサス等、シャキッとした印象でモタード的にも感じられたハンドリングもまた意外だった。「エンジンは優しいのにハンドリングはなかなかですね」といった印象で、ここでもアンバランスさを楽しむような要素があったのだ。さて新型は5速になり、エンジン側がだいぶキビキビしたというが??
 

 

腰高モタード健在

 GROMに乗ると、とてもモダンだと感じる。シート高は761mmなのだから足着きは十分なのだが、前後のアクスル位置と着座位置を三角形で結んだ時、イメージとしては頂点の低い二等辺三角形ではなく、正三角形に近いような印象。高い位置に座って車体の重心とは離れたところにライダーの身体がある感覚は初代GROMから共通で、そして近年のスポーツモデルの流行りでもあるだろう。加えて立ち気味のキャスター角、そして81mmというかなり短いトレール量は乗ってすぐに気付けるシャープな運動性を発揮する。APEでできた怠けた走りはさせないぞ、しっかり積極的に走らせようぜ!というメッセージを発しているかのようだ。

 乗車姿勢は185cmの筆者が乗っても窮屈には感じないのだが、このクイックなハンドリングは慣れが必要で、車体との一体感を得るのにはいくらか時間を要する。しかしその軽さや、股の間で遊ばせるような手の内感のコツを掴めば、なるほどHRC仕様が登場するのも理解ができるスポーツ性を持っていることにも気付かされる。ベーシックな構成に見えるこのクラスでも、モダンなスポーティさをしっかりと追求できる証明だろう。
 不思議なのは、兄弟車であるモンキー125はGROMよりもシートが高く、ホイールベースが短く、かつディメンションはほぼ共通にもかかわらず、あちらはこの腰高感はあまりないことである。フカフカシートとアップハンの位置関係、専用サスセッティングによる重心位置の違いだろうか。ミニマムなバイクだからこそ少しのことでイメージが大きく変わるのだろう。
 

 

5速化は大正解

 ルックスの変更も印象的だが、ミッションの5速化が最も大きなトピックだろう。10馬力を発するロングストロークのカブ系エンジンは、先代でもこの車体を走らせるのに過不足はなかったものの、シャキッとした車体に対してエンジンがかなりのんびりした印象だったのは否めない。しかし5速となったことで短い加速を効果的に繋いでいける感覚が強まり、実際の加速度は大差ないかもしれないが、加速「感」は大幅に増している。また常にエンジンの美味しいトコロが使いやすいため、クイックなハンドリングとパワーの取り出し&駆動をかけるタイミングが上手くリンクした時の一体感は劇的に向上したと言えるだろう。かつてのアンバランスさを楽しむ感覚は薄れたが、乗り物としては正常進化、ハンドリングとエンジンキャラクターが歩み寄った印象だ。
 ただそれでもカブエンジンはカブエンジン。5速化したと言っても今回さらにロングストローク化されたこともあり、のんびりしている根本的性格に変更はない。よってゆっくりと流すような、知らない土地を散策するようなペースでは良き脇役に徹してくれ、ヘンな主張はしてこない。5速化はキビキビ感を出しただけでなく、クルージング時の余裕や燃費向上にも貢献しているだろう。
 

 

ココからどう遊ぶか

 最初にレゴブロックのような、と書いたが、新型になってますます「何か手を加えたい」と思させてくれるルックスとなっている。シンプルに外装類を代えても楽しそうだし、ステッカーをセンス良く貼っていくのも個性を主張できそう。何かしら自分仕様にしていきたくさせるGROMである。
 機能面では、ツーリングライダーはもう少しシートを下げたりハンドルを上げたりした方が車体のダイレクト感が薄まり付き合いやすくなりそうな気がする。逆にアクティブなライダーならば、5速化したエンジンをベースにさらに速くするチューニングを楽しんでもいいだろう。パーツはいくらでも出ているし、カブ系となればノウハウも豊富である。HRC仕様のようにキビキビハンドリングに合わせたハイパワーエンジンとしたら、きっとGROMはまた新しい魅力を発揮するはず。
 買ったままで楽しんでももちろん良いのだが、APEがそうであったように、「自分仕様」へと様々な変更をしてこそ楽しめそうなGROM。現代を代表する4ミニとして満喫できる良きオモチャとして付き合ってみたい。
(試乗・文:ノア セレン)
 
 

 

ライダーの身長は185cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

横型の、いわゆるカブ系のエンジンは5速化の他、今回のモデルチェンジでロングストローク化と圧縮比のアップも果たしている。いつでも安定の始動性を発揮するインジェクションとセルスターターがありがたい。

 

倒立フォークに2ピストンキャリパーのディスクブレーキは制動力十分。フロントのみABSも備えるが、ミニマムな車体ではABSが介入する間もなく自在に減速させることができた。

 

シンプルな鉄のスイングアームだが、チェーン引きは車体デザインに合わせてこだわっているのが伺える

 

シンプルなモノショックだが、スポーツ走行とタンデム走行に懐深く対応する設定。プリロード調整ぐらいは欲しかった気もするが……。
先代でダウンタイプとなったマフラーはさらに形状を変更。エキパイと分割できるためスリップオンマフラー交換などカスタムも容易。なお兄弟車のモンキーではできないタンデムもGROMでは可能だ。

 

かなり幅広に感じるタンクは容量6Lを確保し、WMTCモードでも68.5km/Lを誇る燃費と合わせツーリングにも十分対応。
サイドカバーに加え、シュラウドもボルトオンタイプであり、気軽に付け替えを楽しめる。違う色と組み合わせても、ワンオフで色を塗っても良いかもしれない。気軽にカスタム感が楽しめる設定なのが嬉しい。

 

先代の上下2階建てのヘッドライトから、薄型の8角形へと変更。4カ所のボルト留めもデザインの一部としてカッコイイ。
LEDのテールランプはもうお馴染みのもの。テールはかなりショートだがナンバーホルダーが泥ハネをしっかりとガードする。

 

無理のないポジションを提供するハンドル。専用のミラーはレブルと似たデザインでこれも遊び心がある。ホーンボタンとウインカースイッチが上下逆で使いにくいのは相変わらずのホンダ仕様。
速度やタコメーターはもちろん、平均燃費や燃料計、ギアポジションなど充実機能を小さなメーターに詰め込んでいる。特にありがたいのが時計。通勤に使う場合の強い味方。

 

数値的には高くないのだが、ホイールベースやハンドル位置に対しては高く感じ、ゆえにモタード感のようなものを演出しているシート。フラット形状であることでライダーの体格や乗り方を選ばず、またフラットだからこそミニマムな車体でもタンデムライダーと一体感を持って乗れるということもあるだろうが、もう少し低いシートとした場合の運動性の変化も気になるところ。シート下へのアクセスは良好でバッテリーもすぐそこのため電源取り出しなども容易なハズ。

 

●GROM 主要諸元
■型式:ホンダ・2BJ-JC92 ■エンジン種類:空冷4ストローク単気筒OHC ■総排気量:123cm3 ■ボア×ストローク:50.0×63.1mm ■圧縮比:10.0 ■最高出力:7.4kw(10PS)/7,250rpm ■最大トルク:11N・m(1.1kgf・m)/5,500rpm ■全長×全幅×全高:1,760×720×1,015mm ■ホイールベース:1,200mm ■最低地上高:180mm ■シート高:761mm ■車両重量:102kg ■燃料タンク容量:6.0L ■変速機形式:5段変速 ■タイヤ(前・後):120/70-12 51L・130/70-12 56L ■ブレーキ(前/後):油圧式ディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:フォースシルバーメタリック、マットガンパウダーブラックメタリック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):385,000円

 



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2022/04/01掲載