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試乗・解説

Honda GROM プラッと乗れる リアルストリートファイター
巷を賑わす新型モンキー125。カワイイルックスと懐かしさくすぐるデザイン、元祖モンキーよりもサイズ的にも動力性能的にも現代の交通事情にマッチすることなどで大変人気になっているが、そのベースとなったグロムを忘れるなかれ! 新世代125ccファンバイクのスタンダードなのだ。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:松川 忍 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン https://www.honda.co.jp/motor/

 

エイプに代わって

 モンキーやゴリラ、さらにはダックスやシャリイまで、カブ系のエンジンを積んだ様々なファンバイク/レジャーバイクが盛り上がり、カスタムも盛んだった80~90年代を経て、2001年には新たに「エイプ」がそれらの仲間入りを果たした。こちらはカブ系ではなく縦型のエンジンを搭載し、ホイールも12インチ、5速ミッションなどそれまでの「猿」から「類人猿」へと進化し、これまたカスタムやレースなど幅広く楽しまれたバイクだ。しかしそんなエイプも役目を終え生産終了に。代わって出てきたのが、とうとう原付二種枠いっぱいの125ccエンジンを搭載したグロムである。

 エンジンは再びカブ系の横型に戻ったわけだが、アジア圏をはじめ幅広く使われている125ccカブ系エンジンのため各種規制にも対応したインジェクション仕様で、まさにポストエイプ、ポストモンキーな存在としてデビューしたのである。そのルックスは先輩たちのような愛らしさよりも、トランスフォーマー的シャープなカッコ良さを追求しているあたりが新しく、またアジア圏とのグローバル化も感じさせるが、デビューと同時に国内でも人気となり、ストリートはもちろん、やはりカスタムに、そしてレースにも活躍することになった。そんなグロムも今や2代目、特徴的な上下二段LEDヘッドライトやダウンタイプに改められたマフラーなどの変更が加えられている。
 

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モンキー還りしたハンドリング

 発売された時にその先鋭的なスタイリングや125ccとなったエンジンがスポーティな走りを連想させたため、エキサイティングな乗り物なのじゃないかと予想して試乗したと記憶する。この新型になって乗り味に大きな変化があるとも思えないが、現在大人気となっているモンキー125の陰に隠れている感がもったいなく思い、今回の試乗に至った。

 新型のグロムは、ますますトランスフォーマー感が増した印象。またがると地面がこんなに遠かったか、と思い出す。足着きが悪いというわけではないが、ホイールベースに対してライダーの重心が高い感じがし、前後輪とライダー重心を結んだ三角形が正三角形ぐらいのイメージ、エイプはその三角形が上からギュッと押さえられたペタンコな二等辺三角形というイメージだったため、重心はかなり高くなった印象ではあるものの、元祖モンキーも極端に短いホイールベースゆえ、似たような感じだったように思う。この設定は車体を小さく感じさせると同時にちょっとした危うさみたいなものも併せ持っており、それがこういったミニバイクの楽しさというか自在さというか、特徴的な部分になってもいるのだろう。そう考えるとエイプはずいぶんと安定志向だったのかもしれない。

 走り出すとこの腰高な感じがますます印象的になる。ハンドルは高いはずなのにシートも同様に高いため結果としてハンドルは低い印象で、前輪がアゴの下にあるかのようなダイレクトでコンパクトな印象。極端にミニマイズしたビューエル? なんてことを想像した。
 ホイールは12インチと特別小さいわけではないものの、クイックなハンドリングの影響もあってまるで10インチかのようなセンシティブさを感じてしまう。それでも走っているうちこのストリートファイター的ハンドリングに慣れてきて、コーナリングが楽しくなってくる。そう、グロムはそのスタイリングが暗示するようにしっかりとストリートファイターなのだ。高い位置に座り、クイックなハンドリングで車体をペタリと寝かせグイイーンと旋回させる。そんな乗り味であり、ハイグリップタイヤや良く効くブレーキパッドを装着してサーキット走行に興じる人が多いのも納得だ。

 ただ、相対的にエイプ的な寛容さは少し薄れたとも言える。エイプはボサーっと乗ることも許容したが、グロムはもう少し積極的に操ることを楽しむタイプのバイク。エイプよりも乗り物としての主張が強いように感じる。
 

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逆にのんびりなエンジン

 スパルタンとさえ言えるハンドリングに対してエンジンがのんびりなのが意外だ。125ccとなってパンチのあるものになったかと思いきや、これがかなりジェントルなのだ。パワーはエイプよりも大きいが、4速となったミッションがのんびり感を作り出しているのだろう。またエキパイの細さなどから察するに、様々な環境規制などに対応する都合もあったかと思う。ストトトっと日常領域で使っても、頑張って上まで回しても、パワー特性は一貫して「カブのそれ」であり、ハンドリングがそうであるように個性的なものではなく、どちらかと言えば実用的な印象だ。

 乗り始めはもう少しキビキビしていた方がハンドリングの特徴と合っているのではないか、などとも思ったが、距離が進むにつれその主張しないエンジンが付き合いやすいとも思い始めた。ハンドリングには落ち着きが見出せる乗り方を探り、逆にエンジンにはストレスなく加速できるゾーンを見出せば、それぞれ相反するとも思える特徴が歩み寄りを始め、ツーリングやワインディングロードを流すうえで一体感を感じることが少しずつできてきた。この時、シートの良さにも気づかされた。タンデムシートとの段差が絶妙に尻をホールドしてくれ、小さな車体をそこでグッとつかみ一体感が高まる印象なのだ。

 ただ、モンキーシリーズやエイプがそうであったように、カスタム心が刺激されるのも必然。しっかりしたサスや前後ディスクブレーキなど足周りはそのままでも十分だが、アフターマーケットを賑わす社外マフラーやそれに伴うインジェクションチューニングなどを施せばカブ系エンジンは大化けするはずだ。さらには(原付二種枠ではなくなってしまうものの)排気量アップのキットなども知ってしまうと夢が膨らむというもの。そこまでのチューニングはしないまでも、僕だったら5速ミッションだけは組み込みたいな、と妄想した。フラットな出力特性でも、5速化すればもう少しキビキビと走らせ、ハンドリングのシャープさをより楽しめそうな気がするのだ。
 

大柄は良いこと

 モンキーやゴリラはその小ささが魅力ではあった。ただ、近所を散策する分にはいいが幹線道路などに出ると他の交通から見落とされがちで、その限られた動力性能と共に近年の道路のハイスピード化から取り残されている感は否めない。それは後継となったエイプもまたしかり。筆者もエイプはしばらく乗っていたが、100の方でも圧倒的交通弱者感は否めなかった。このため、安全のためにもある程度のサイズ感は大切だと思っている。

 グロムは絶対サイズはやはり小さいものの、背が高いために道を走っていても存在感があり四輪からの被視認性も高い。しっかりと効くブレーキ(リアはもう少し効いても良いが)も安心だし、筆者のように長身でも窮屈さがないのも、乗る上で余裕があって嬉しい。このグロムをベースとした新型のモンキーが「大柄すぎる」という声も聞くが、それは快適に乗るためにも決して悪い事ではなく、安全面から考えた場合は確実にプラス要素だろう。大きくなったことで昔のモンキーのように玄関に入れるだとか簡単に車に積むだとかそういったことは難しくなったかもしれないが、この大柄化は時代に合ったものだと思う。
 

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毎日遊べる相棒として

 筆者は使い勝手に厳しい所があるのだが、グロムに対する要望と言えば独立したヘルメットホルダーが欲しかった、ということぐらいだろうか。シートを外せばヘルメットをかける所はあるのだが、ホンダ車はシートの着脱にクセがあることも多いし、シートを外して地面に置くと縁が傷ついてしまったりするため、やはりこういった、日々気軽に使いたい車種については簡単に使える独立式ヘルメットホルダーを装備してほしい。またホーンとウインカーのスイッチが上下逆という近年のホンダの設定は非常に使いにくいと(しつこく)書いておく。

 しかしそれ以外は本当に毎日でも乗りたくなる相棒となるだろう。大柄になったとはいえ乗り物としてはミニマムですぐにアクセスできる楽しさが詰まっており、燃費も驚異的に良く、かつモンキー125ではできないタンデムもできる。ガレージにしまわずに玄関先においておけば、通勤通学はもちろんのことちょっとしたお買い物や幼稚園への送り迎えなどにと活躍することだろう。便利さではPCXなどに敵わないだろうが、グロムならば乗るたびにちょっとしたスパイスとなって、「あ、やっぱりバイクって楽しいな!」と思い出させてくれる。価格がモンキー125よりちょっとリーズナブルなのも魅力だ。

 これからバイクを楽しんでいきたいという若者にも、本当はバイクなんて乗ってる場合じゃないんだけど……という働き盛り世代にも、もう一度何かに乗っておきたいなぁというリターンな人にも、きっと楽しんでもらえるグロムである。
 
(試乗・文:ノア セレン)
 

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50ccのカブ系エンジンを搭載していたモンキー、そして縦型エンジンになったエイプだが、グロムでは再びカブ系の横型エンジンを搭載。125ccの4速仕様である。もちろんインジェクションで、セルもついているためいつでも簡単始動。カスタムパーツ/チューニングパーツも豊富なためそういった楽しみもある。
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倒立フォークと立派なディスクブレーキを装着し、ストリートファイター的ハンドリングをサポート。純正タイヤはタイ製VeeRubberだが、一般的なサイズのため選択肢は豊富。
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リアにもディスクブレーキを装着。先代から効きはもう一つだが、パッド交換などでタッチ向上も見込めるだろう。サスはモノショック。マフラーはけっこう横に張り出しているため狭いところは注意。
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スマートキーではないものの、キーがホルダーの中にしまえるリトラクタブルキーを採用。ポケットの中でかさばらない。
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タンデム部との段差が絶妙に尻をホールドしてくれ、この小さな車体との一体感を演出してくれる。シートを外すにはちょっとしたコツもいるが、ヘルメットホルダーはシートに挟み込むタイプ。バッテリーへのアクセスは良好だ。(※写真の上でクリックすると、シートを外したところが見られます)
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テールライトもLEDで被視認性は良好。タンデムシートの後ろでスパッと切られたようなデザインのため、荷物の積載時やタンデムライダーのリュックでテールランプを隠さないよう注意。
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ホンダ車で広く使われているデジタルメーターはシンプルで機能的。バックライトは青で、夜間も良く見える。時計がついているのがありがたい。
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今回の特徴的な変更点である顔は、上下二段となったLEDヘッドライト。ますます未来的なデザインになり、クラスを越えた存在感を示している。
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●GROM 主要諸元
■型式:2BJ-JC75■全長×全幅×全高:1,755 ×730×1,000mm■ホイールベース:1,200mm■最低地上高:155mm■シート高:760mm■車両重量:104kg■燃料消費率:26.7km/L(国土交通省届出値 60km/h定地燃費値 2名乗車時)67.1km/L(WMTCモード値 クラス1 1名乗車時)■最小回転半径:1.9m■エンジン種類:空冷4ストロークOHC単気筒■総排気量:124cm3■ボア×ストローク:52.4×57.9mm■圧縮比:9.3■最高出力:7.2kw(9.8PS)/7,000rpm■最大トルク:11 N・m(1.1 kgf・m)/5,250rpm■燃料供給装置:電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)■始動方式:セルフ式■点火装置形式:フルトランジスタ式バッテリー点火■燃料タンク容量:5.7L■変速機形式:常時噛合式4段リターン ■タイヤ(前/後):120/90-12M/C 51L / 130/70-12M/C 56L ■ブレーキ(前/後):油圧式ディスク / 油圧式ディスク ■懸架方式(前/後):テレスコピック式 / スイングアーム式■フレーム形式:バックボーン■車体色:パールバレンタインレッド、パールヒマラヤズホワイト、マットアクシスグレーメタリック■メーカー希望小売価格(消費税8%込み):351,000円

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2019/09/06掲載