第15回 本田宗一郎氏生誕の地を訪ねて -ものづくり伝承館とカブミーティング 大集合in天竜-
「ポンポンCLUB浜松」代表の宮地武夫さんから電話をいただいたのは、今年の1月頃でした。5月3日にカブファンのミーティングを開催するので、スーパーカブをテーマに講演して欲しいというものでした。私には荷が重い相談ですが、本田宗一郎氏生誕の地を訪れてみたい気持ちのほうが強く「私でよろしければ伺わせていただきます」と、即答しました。
会場は、浜松市天竜区二俣町の「天竜壬生ホール」駐車場で、講演はホールの一室で行う段取りでした。このイベントは、私よりもカブ経歴が長い人たちが圧倒的に多いわけで、知ったかぶりをするととんでもないことになりそうです。以前に講座用として作成した資料がありますので、これをベースにして改廃すれば何とか聞いてくれるものになりそうです。テーマは「スーパーカブロングセラーの秘密」としました。
移動は、もちろんスーパーカブ110(60周年記念車)です。リアのB0Xは大きいものに変えて、2泊コースにしよう。など久しぶりのロングツーリングに備えていました。そのような中、新型コロナウィルスの勢いは収まらず、残念ながら中止となってしまいました。
ここで、「ポンポンCLUB浜松」の紹介をさせていただきます。代表の宮地武夫さんは、本田技研工業のOBで、郷土の偉人本田宗一郎氏の顕彰活動を20年ほどおこなっている他、バイク仲間との交流イベントや、安心・安全なまちづくりなどのボランティア活動も精力的に行っています。活動の一環として、「本田宗一郎かるた」を今年の4月に完成させました。構想から7年の歳月を要した力作です。読み札は、公募も実施。絵札は、地元の子供たちにも参加して創り上げたものです。
それから1か月くらい経った6月頃に、宮地さんからまたお誘いの電話がありました。今回は、「本田宗一郎物語」と題した講談を行う。講談は有料だが、その前座としてカブの講演を行ってほしいという相談でした。無料であれば、「素人の私でもなんとかなりそう」なので即OKの回答をしました。
数日後、立派なポスターが送られてきました。「本田宗一郎生誕115年 没後30年記念イベント」という重厚なものでした。気候の良い9月23日(木・祝)ですから、移動はスーパーカブ110に決めました。
9月に入り、12日に予定されていた緊急事態宣言は、あっさり9月30日まで延長されてしまいました。静岡県でも感染状況は思わしくなく、このイベントも中止の判断になりました。主宰者の宮地さんは「本田宗一郎をテーマに掲げているので、万一でも感染者を出すわけにはいかない。準備万端整ったがあきらめるしかない。またの機会によろしく」と、気持ちの切り替えが早い。「またの機会」は無いだろうな。と思いながら、宮地さんのご苦労には頭が下がる思いでした。
そうこうしているうちに、宮地さんから「またの機会」の電話がありました。
「11月14日にカブミーティングを考えているんだけど、来てくれる? 会場は用意した」
「分かりました。伺います。パソコンを持っていけばいいですね」
「講演の会場には、カブを3台ほど飾ろうと思っているんだ。いい場所だよ」
「話は素人なので、私が携わった書籍とかパンフレットや古いカタログを持っていきます。テーブル1つあれば、皆さんに自由に見てもらえると思います」
そんなやりとりがあり、いよいよ三度目の正直です。
カブミーティングの前日は、顔合わせと準備の後に、本田宗一郎ものづくり伝承館を初めて訪れました。建物は、旧二俣町役場を改修したもので、中に入ると地元産の木材をふんだんに使った「人と自然のぬくもり」を感じる空間です。
1階では、ホンダコレクションホール所蔵のレーシングマシンが目に飛び込んできます。ともに世界選手権ロードレースでチャンピオンを獲得した500ccクラスのワークスマシンです。
本田宗一郎ものづくり伝承館は、本田宗一郎という天才発明家が手掛けた製品の紹介よりも、人柄、精神性、人間性を知ってもらいたいという願いが込められています。素晴らしい展示内容はもちろんですが、笑顔で迎えてくださるスタッフの方々や家族連れで見学に訪れている人たちを見ていますと、「本田宗一郎さんは愛されているなぁ」と感じ入ってしまいました。何度でも訪れたい場所です。
11月14日(日)は、天候に恵まれ東京から来場されたカブオーナーさんもいらっしゃいました。
本田宗一郎氏生誕の地で、創業者自ら指揮を執って創り上げたスーパーカブをテーマにお話しできたことは、恐悦至極です。 この二俣の地で、末永くスーパーカブやオートバイの集いが続けられる事を願い、再会を約束して天竜を後にしました。
1955年山形県庄内地方生まれ。1974年本田技研工業入社。狭山工場で四輪車組立に従事した後、本社のモーターレクリエーション推進本部ではトライアルの普及活動などに携わる。1994年から2020年の退職まで二輪車広報活動に従事。中でもスーパーカブやモータースポーツの歴史をPRする業務は25年間に及ぶ。二輪業界でお世話になった人は数知れず。現在は趣味の高山農園で汗を流し、文筆活動もいそしむ晴耕雨読の日々。愛車はホーネット250とスーパーカブ110、リードのホンダ党。