今年も、というか今年はEICMA/ミラノショーが開催されました。昨年は世界的なパンデミックによって開催が中止となり、今年は何が何でも開催したいという主催者の気合いのようなものを感じる開催です。しかし、たった1年という短い言葉で言い表せない、大きな変化もありました。ドゥカティ、BMW Motorrad、KTM/ハスクバーナ/GasGasを揃えるKTMグループという、つねに巨大なブースを展開していた欧州の中心的ブランドに加え、ハーレーダビッドソン、インディアンというアメリカンブランドも出展をしないという異常事態。いつも会場で見ていた、お馴染みの二輪関連ブランドのいくつかも、出展リストに名前が載っていない、という状況です。
多くの人が集まるイベント出展に対するコンプライアンス的な何かというより、各メーカーのプロモーションの方法および、今後のバイクブランドのあり方が劇的に変化した、というのが僕の印象です。
その変化はここ数年、とくに前回開催の2019年にも感じていたので、パンデミックによってそのトリガーが引かれてしまったのではないか、と感じています。
とはいえ、待ちに待った世界最大の、新型車のお披露目の場。出展を決めた二輪車メーカー及び関連メーカーは、しっかりとニューモデルを揃え、久しぶりに一堂に顔を揃えるリアル・イベントを、心底楽しんでいるように見えました。まぁ、まだ初日が終わっただけで、まだ顔を出せていないブランドもあるのですが……。
まずはそのなかから、国産メーカーの様子をお届けします。
■ホンダ
プレスカンファレンスのトップバッターはホンダでした。しかも、他のすべてのメーカーが会場内ブースでプレスカンファレンスを行うなか、唯一、会場内のイベントホールに別立てでカンファレンス会場を造り、発表を行いました。担当者に話を聞いたところ、「EICMAはただ新型車を発表する場所ではない。どのような雰囲気で発表し、それに対してプレスやお客様がどのように反応するかが重要。社内でもいろんな意見があり、議論を尽くした結果、それでもホンダは、このように発表の場を設けた」と。気合いを感じました。
発表したのは「CB500」「CB500R」「CB500X」という欧州のスタンダードツインマシンをバージョンアップした各モデル。それに「ADV350」。イタリア生まれ、イタリア育ちのニュータイプ・アドベンチャーにミドルクラスが加わりました。日本でも人気が高まっている「ADV150」よりも一回り筋肉質になった感じ。シックなカラーリングもいい感じでした。このあたりの中間排気量のスクーターは、各メーカーがしのぎを削っていますね。
そして「NT1100」。すでにオンラインで発表されていましたが、現物は初対面。もっとエッジが効いたボディを想像していましたが、僕的には柔らかな面のデザインが印象的でした。なんかこう、シャチっぽいんですよね。思わず、ボディ面に触れたくなるような、そんな感じです。
初お目見えだったのは「30周年記念カラーの新型CBR1000RR-R/SP」。2022年は、初代CBR900RR“ファイヤーブレード”が誕生して、30年の節目なんですね。その初代に採用されていたトリコロール・グラフィックをまとったというわけです。ボディデザイン的には変更がないということなのですが、初代グラフィックのおかげか、ぐっと引き締まって軽快なイメージになった気がしました。
驚いたのは、カンファレンスの最後に“ブースには「ホーネット」のデザインコンセプトを展示したので是非見ていってください”と発表があったこと。いや、ここで「ホーネット」の名前を聞くとは思っていませんでした。会場にはカーテンで仕切られた暗室があって、そこに数人ずつが入る特別展示になっていました。そこには、真っ白のモックアップが置いてあり、その背景を含めて光を投射するプロジェクションマッピングで、コンセプトを見せるというもの。会場で見た映像は動画で配信されているようなので見てもらえると分かると思いますが…いろいろ想像しちゃいます。
また今年2021年は、ホンダ・イタリアの50周年記念。ということで、さきにオンラインで発表された新型「SH350i」の特別カラーも展示されてました。ちょっと派手ですが、さすがイタリアな感じです。
■スズキ
スズキはすでに、「GSX-S1000GT」「GSX-S950」「Vストローム650」をオンラインで発表していました。でも会場には3台のマシンにベールがかかっていました。そこで発表されたのは、2021年に世界耐久選手権でタイトルを獲得した「ヨシムラSERT Motul」カラーと、2020年シーズンにMotoGPでタイトルを獲得した「チーム・スズキ・エクスター」カラーのGSX-S1000、そして新型「KATANA」でした。新型「KATANA」は、外観的な変更はありませんが、各部をバージョンアップ。つや消しのニューカラーを採用していました(https://mr-bike.jp/mb/archives/25998 参照)。
そして各モデルのプレゼンテーションに参加したのは「ヨシムラSERT Motul」のシルバン・ギュントーリ、「チーム・スズキ・エクスター」のジョアン・ミルとアレックス・リンスでした。ロードレースは世界選手権のすべてのスケジュールが終了しているので、こういったトップライダーの参加が可能になるんですね。
ブースには「GSX-S1000GT」(写真下)と「GSX-S950」(写真上方)なども展示されていましたが、最近のスズキのデザインはとても好きです。ボディラインに緊張感があって、それでいてスズキとしての統一感もある。シックなカラーも、それを引き立てています。
■カワサキ&ビモータ
スケジュール的に、さきに発表を行ったのはビモータ。前回のEICMAで、カワサキとのパートナーシップとともに、新型「TESI H2」の発表はセンセーショナルでした。そのときはカワサキ・ブースに隣り合わせる感じのビモータ・ブースでしたが、今回はカワサキ・ブースの一角がビモータになっている感じ。これを見ると、両者の連携がより密になったと、勝手に想像しています。
で、発表になったのは噂通りの「KB4」。カワサキ「ニンジャ1000SX」のエンジンを使用していることや細かなディテールは、先に発表されていましたね。ただ個人的には、先に発表されていたデザインスケッチとは印象が違いました。
スケッチでは、ややクラシカルな雰囲気の、スーパースポーツというよりカフェ的スタイルだと想像していました。しかし実物は、かなりモダン。ここで名前を出すのは良くないのですが、MVアグスタの「スーパーベローチェ」のようなモダンさ。この比喩はあくまでも、モダンさの加減ということで、デザイン的に似ている、と言うものではありませんので、お間違えなきよう。
デザイン的に似ているのは「TESI H2」ですね。フロントフォークがない「TESI H2」の独特のデザインバランスが、「KB4」にも受け継がれている感じ。細かなディールは、見れば見るほど作り込まれているので、日本の皆さんは、この実車を見るのを楽しみにしていてください。
同時に発表された「KB4 RC」は、もう少しカフェ的要素が多め。とはいえ、ほかでは真似できないスタイルになっています。
そしてカワサキ。注目はやはり「ニンジャH2 SX/SE」ですね。ボッシュのレーダーを車体の前後に搭載し、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)とBSD(ブラインド・スポット・ディテクション)のライダー支援システムを採用していることです。車体前方にレーダーを搭載したことから、それを踏まえたフロントフェイスとなり、そのまったりした(←良い意味で!)顔つきが、スーパーチャージャー付きという強面のトピックスを和らげている感じ。写真で見ると、各部のエッジがキレキレに見えてしまいますが、実物はサイドバッグ装着の効能があるかもしれませんが、なめらかで、シュッとした感じにデザインされていました。
あとは「Z900RS SE」、通称“イエローボール”カラーの実車の展示に加え、先に発表された「Z650RS」と初代「Z650」の同色の新旧ザッパーが展示されるなど、ヘリテイジ路線も抜かりがありませんでした。
■ヤマハ
前回、会期前&別会場でのプレスカンファレンスを取りやめ、オンラインローンチに変更したヤマハ。今年は、そのオンラインカンファレンスも行わず、事前のプレス発表のみでEICMAに臨みました。
GYTロゴがデザインされた「テネレ700プロトタイプ」。顔周りを一新し、7インチTFTカラーディスプレイやジョイスティックコントローラーを装備した「TMAX」。「XSR900」&「XSR700」というのが新顔の主戦力でしょうか。TMAXは、顔周りのデザイントピックスが増えましたね。XSR900の現車は想像通りにいい感じ。前モデルよりも、振り返る年代が少し新しくなった感じ。ニーグリップのタンク・ラインが変わると、こんなにも時代感が変わるのかと。カラーリング変更のみだったXSR700との対比で、それはよく分かりました。
ということで、これで1日目は終了。すぐにシャワーを浴びて会場に向かいます!
(取材・文:河野正士)