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試乗・解説

少し忘れていた楽しさ KLXが230ccで叶えます
セローが生産終了となってしまった今
オフロードバイクはCRF250Lのひとり勝ち?
と思ったらさにあらず。
CRFとはちょっと違ったKLXがあるのです。
■試乗・文:中村浩史 ■撮影:折原弘之 ■協力:Kawasaki https://www.kawasaki-motors.com/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、ヒョウドウプロダクツ https://www.hyod-products.com/




思えばオフ車のラインアップ、少なすぎ!

 決してメジャーにはならないけれど、特に普通二輪免許枠にずっと一定数い続けているオフロードファン。電子制御だ、ヒザスリだ、サーキットランだってオンロードファンが騒いでいる間も、とことことツーリングしたり、林道ツーリングで大自然を味わったり。
 もちろん、林道アタックとか、スキあらばモトクロスやエンデューロにも出場する、なんて層もいるだろうけれど、やっぱりオフロードモデルファンって、街乗りを軽快に、休日には高速道路もあんまり使わずにツーリング、なんてユーザーが多いように思う。
 にもかかわらず、今のラインアップは選択肢が少なすぎる。ビッグバイクは、アドベンチャーモデルがあるからまぁいいけれど、普通二輪免許枠はヤマハ・セローが生産を終了したことで、ホンダCRF250Lに、カワサキKLX230のみ。スズキVストローム250とカワサキVERSYS-X250は、オンロードモデル転用のアドベンチャーだからね。
 

 
 かつては、全メーカーとも4ストローク/2ストローク合わせてたくさんラインアップしていた時期があった。ホンダはXLR/CRMシリーズ、ヤマハはXTやTT/DT、スズキはDR/TS、そしてカワサキもKLX/KDXといった具合に、即エンデューロ出場OK、みたいな戦闘力重視のモデルから、林道ツーリング、トレッキング、街乗りに特化したモデルも、さらにはここから発展したバリエーションモデルさえあったのに。
 もちろん、ラインアップが減ってしまった原因は、2010年頃の排出ガス規制。2ストロークはもちろん、空冷エンジンを使用している4ストロークも規制適合が難しくなり、どんどんとラインアップが減ってしまったのだ。

 その最たる例がロングセラーだったヤマハ・セロー。1985年に225ccで生まれ、2005年に250ccに全面リニューアルしたセローは、08年にフューエルインジェクション化したり、さらに規制対応のためにいったん生産を中止して、再びキャニスターBOXを追加して再発売したものの、これ以上の規制強化に対応するのムリ!ってかんじで生産が終了されてしまったほど。ヤマハのセローに対する思いだけが生産継続をさせてくれていたのかもしれない。
 

 

走り出したら意外さがたくさん!

 そして、そんな規制の真っ最中、2019年にKLX230はデビューした。セロー生産終了のお知らせとほぼ同時期だったように思う。
 排出ガス規制に関しては、KLXは最初から規制対応をして誕生したモデル。これは、規制以前からのモデルを適合させるモディファイをするよりもずっとシンプルで、最初から誕生数年先の規制を見越して基本設計ができる、という強みがある。そのために、2016年に生産を終了した旧KLX250を改良して継続生産するよりも、という読みもあったのだろう。

 まったく排出ガス規制ってヤツは……なんて余計な話はおしまい。その新生KLX230は、まずはその排気量から、旧KLXよりも、どちらかというとセロー寄り、旧スーパーシェルパのような「トレッキング系」を思わせるかもしれない。
 けれど、その予想はひと跨りしただけであっけなく崩れ去る。シート、高い! シート、硬い! シート幅が狭く、ちょうど着座位置あたりの形状がシェイプされていることで、足着きは身長178cmの僕で足裏3/4くらい接地。とはいえ、車体が軽いからつま先つんつんでも不安はないだろうと思う。
 車体のボリュームはコンパクトで、CRF250Lよりもホイールベースが60mmも短く、車両重量も6kg軽い。けれどコンパクトさは数字以上で、ひとまわり、いやふたまわり小さい。そういえばセローの225cc版も「200ccのコンパクトさと250ccの力強さ」をアピールしていたっけ。
 

 
 走り始めても、エンジンの力強さに驚かされる。空冷SOHC単気筒の230ccエンジンといえば、力強さそこそこ……なんて考えがちだけれど、発進トルクもたくましく、軽量な車体を軽々と押し出してくれる。レスポンスもシャープで、回転フィーリングも軽やか。発進、アクセルを開けて加速、アクセルを閉めて減速、というアクションがスロットルに忠実で、ひと開けで出すぎとか、ひと閉めで減速しすぎ、ってことがない。
 その時のハンドリングは粘っこい感じ。もちろん、フロントが2.5リムの21インチのオフロードタイヤだから舗装路でグリップ云々いうレベルではないけれど、ヒラヒラ切れる軽快さも安定感もある。オフロードモデルとはいえ、走る機会は舗装路の方が多いだろうから、そこにまったく不安はない。

 高速道路に乗り入れたときはさらに意外。80km/hはもちろん、100km/h、120km/hまで、エンジンが苦し気に回っている感じもなく、車体の安定性も十分。おぉ、これなら高速道路もラクだし、ロングツーリングもいいし、行動範囲も広い!
 これ、KLXでいちばん意外でした。あまりオフロードモデルに乗ったことがない人は、250ccクラスのオフロードモデルで高速道路をクルージングすると、エンジンは回り切って苦し気で、直進安定性も心もとないと思っているだろうけれど、KLXはそれもないのだ。
 そしてオフロードファンがいちばん気にするであろうダート性能も、意外だった。軽い車体、低回転からトルクのあるエンジン特性で、低回転でトコトコと未舗装路に踏み入って遊ぶのはもちろん、不意に路面のギャップを拾った時とか、轍を斜めに踏んだ時には、前後サスペンションがよくストロークしてくれて、ライダーに伝わってくるショックがかなり少ない。
 

 
 ちょっとペースを上げて、リアブレーキを踏んずけてリアを流してみたり、車体をバンクさせてアクセルを開けてみたりすると、リアタイヤがきれいに流れて、コンパクトな車体をコントロールしやすいのがよくわかる。これはきっと、上手い人が乗ったら速い──そう感じさせるバイクだ。
 林道ツーリングをしたいと思っても、ほとんどの人は自宅から林道の入り口まで、ちょっと離れていることが多いだろう。今までのオフロードモデルだと、それが億劫なことが多かったけれど、KLXはそこもうまく解消している感じ。
 欲を言えば、シート高はもう少し低くもう少し柔らかくね!(笑)
(試乗・文:中村浩史)
 

 

ライダーの身長は178cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。
専用設計の空冷SOHC2バルブ単気筒232ccエンジン。出力は19psと数字的には控えめだが、車両重量が134kgと軽量なため、非力さを感じるどころか、小気味いいパワー感。バランサーつきで振動は少なく、タコメーターはないものの、8000rpm弱まで回り込む。

 

サウンドは230ccとは思えない歯切れのいいもので、エンジン特性と合わせ、エキパイ長なども中回転域のトルク型のセッティングとされているという。
ペタル型のΦ265mmディスクローターをシングルで装備。キャリパーは片押し2ピストンで、オンロードとオフロードでのセッティングを変えたデュアルパーパスABSを標準装備。

 

リアブレーキはΦ220mmシングルディスクに1ピストンキャリパーの組み合わせ。ホイールサイズは前21/後18インチで、リアサスはカワサキ独自のシステムを持つニューユニトラック。ホイールトラベルはフロント220mm/リア223mm。

 

ロードスポーツのツインスパーフレームにも似た、メインビームに角パイプを使用するスチール製ペリメターフレーム。タンクとシュラウドまわりは、車体をホールドしやすいようにシートにかけての面をフラットデザインとした。

 

シートは体重移動しやすいスリムな形状で、クッションはかなり硬め。シート高は885mmとかなり高いが、軽量な車体とスリムなシート形状で、片足接地でも不安はなかった。
キーで開閉できるテールカウル下にはETC車載器(税込4万5980円)がちょうど入るくらいのスペース。写真のリアキャリア(税込1万7380円)も純正アクセサリー。

 

ヘッドライトデザインがちょっと古さを感じさせる一因。しかし明るさを第一に考えたサイズと形状で、このあたりは生産国のインドネシアを含むアジア圏内での必要条件かも。
オド&ツイントリップ、燃料計、時計を表示するデジタルメーター。タコメーターはなく、近年では当たり前の装備となった燃費計などもないシンプルな構成だ。

 

●KLX230 主要諸元
■エンジン:空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ ■ボア×ストローク:67.0×66mm ■排気量:232cc ■最高出力:14kW(19ps)/7,600rpm ■最大トルク:19N・m(1.9kg-m)/6,100rpm ■全長×全幅×全高:2105×835×1165mm ■ホイールベース:1380mm ■シート高:885mm ■タイヤ(前・後):2.75-21 45P ・ 4.10-18 59P ■車両重量:134㎏ ■燃料タンク容量:7.4L ■車体色:ライムグリーン、エボニー ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):495,000円

 



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2021/09/06掲載