伝わるやる気
そうなのだ。気に入ってしまったし、欲しくなったし、驚かせてくれた。なんて面白いんだ、KLX230!
最初、走り出した瞬間は、スムーズで大人しく、お手本のように乗りやすい。見た目は、大きめなヘッドライトが車体全体をコンパクトにみせる。たしかにペリメターフレームの間に納めた燃料タンク、ラジエターがないため、タイトな幅で前に伸びるシュラウド、そして細めのシートが作る車体は、細身で小ぶり。
しかし、調べ直すと、全長×全幅×全高×ホイールベースなどの体格スペックどれもがセロー250を上回る。搭載される空冷OHC2バルブエンジンも排気量こそ17ccセローより少ないが、生み出されるパワーは、14kW(19PS)7600rpm、19N・m/6000rpm。空冷OHC2バルブ249㏄のセローが14kW(20PS)7500rpm、20N・m/6000rpmだから、多少少ないが大差無し、というところ。
車重は134㎏とセローを1㎏上回るが、ABSを装備するKLXとABSを装備しないセローではその差を勘案しないとならないが、これも大きな違いではない。
またがってもその印象は変わらず。足着き性に関してはセロー圧勝だ。885mmのシート高はセローより55mm高い。だけど、跨がった時に細身なKLXは足着き感に不満はない。なにより、シートがフラットでオフロードライクなポジションが取りやすいため、前後タイヤの中間位置に座りやすい。スポーティーなポジションに自然と導かれる印象なのだ。
着座位置とともに、そこからステップに置いた足がバイク全体を把握しやすい印象だったことも付け加えます。これには注釈が必要。ボク自身はオフロードバイク乗りなので、シートで良い位置に座ると、自動的にステップに置いた足がブレーキやシフト操作時に窮屈になる。これは大柄、小柄関係なく、そうなるのでは、と思う。それに慣れ、ブレーキペダル操作もシフトチェンジ操作もベストな位置に体重を載せることを前提にモディファイしている。早い話、ステップを軸にしてブレーキを踏んだり、シフトチェンジ操作をしにくいから別のやり方をしています、ということ。
多くのオフ車の場合、こんな位置関係になっているので、そもそもステップ軸の操作しやすい位置に座ると大抵体重の多くがリアサスに乗ることになり、アスファルトでも林道でもリア荷重になってしまう。そのことを前提に読み進めて下さい。
例えばシート高830mmのセローに跨がると、自分の場合、足着きは全く問題無いが、前後サスに体重を上手く分散させる場所を選択すると、ボリューミーなタンクに向けせり上がったシート前方に座ることになり、なんとなく大柄で重たい印象がある。もちろん、KLX230と比較すると、ということになるが、それほどこのバイク、コンパクト感をだすこと、走りのポジションにライダーを乗せるようなデザインがされている。これだけで作り手のやる気が伝わる。KLX230Rというオフロード専用車と同根であることを考えたら、これは当たり前のことかもしれない。
その意味で、カワサキは、KDX200RとKDX200SR、KLX250RとKLX250SRのようにエンデューロモデルとデュアルパーパスが兄弟車だった頃を彷彿とさせるのである。
走りだしからスムーズライド。
大きな広場から、くるんとUターンをして走り出す。身軽だ。エンジンはスムーズでトルクがある。ブレーキのタッチもカッチリしていて制動感がわかりやすい。サスペンションも適度にピッチングをする動きの良さはあるが、ゆるふわな感じでは無くしっかり感がある。
アクセルが低開度の時、排気量なりのたおやかさでシフトアップとともに速度を増す印象。ギアリングのつながりもよくトコトコと走るのには申し分ない。このパートだけを見ても、自信をもってビギナーにもエキスパートにも勧められる特性だ。どこにもいやなカドやトゲがない。
ハンドリングも同様で、コンパクトながらそれなりにある車重が逆に功を奏しているのか、緩いカーブを進むとき、バイクを寝かす、起こすという動きに、手応え感がバランスをしている。しかも基本的に身軽だ。次第に里山からワインディングへと道が進む。長いカーブ、タイトなカーブも同様に走りが軽快。比較的タイヤのトレッドにあるブロックが柔らかなタイヤだが、舗装路で走りに不満はない。攻め込むという表現は当たらないが、気持ち良くその道を行くときも、前後のブレーキの減速感、サスペンションがもたらす車体の動き、そしてアクセルに呼応するエンジンパワー。そのどれをとっても市街地よりも一歩レベルアップしていながら、一体感に変化なし。楽しい。
さらに峠の下りを駆け下りてきた。ツーリングで景色を眺めながら走る。ペースは前を行くクルマのリズム。そんな想定で走ると、多少下りではフロント周りの旋回性がダルにも感じるが、あくまで景色を眺めるのであればそれはそれ。同じ道をツーリングペースながら、アクセルを開けるタイミングも、ブレーキングのタイミングもKLXが望むままにすると、やはり走りのリズムが整い気持ち良さが変わってくる。しっかり減速しアクセルで駆動力を掛けながら曲がる、という当たり前のことをしただけなのだが、KLXの走りは圧倒的にリズミカルに。少しペースを上げても同様。速さではなく、そうしたリズム作りで楽しんでね、とKLXは語りかける。6速のギアリングもなかなか。
少しだけペースアップする。アクセルをぐっと開けて行くと、いままで開いていない扉が開いたかのようにパワフルさが顔を出す。エンジンの伸びがあり、回しても息苦しさを見せない。まるで違うバイクに乗っているようだ。それまでやや外を回っていた印象だった前輪がパワーを掛けた後輪によって路面にさらに押しつけられるかのように旋回し、ワインディングを切り取って行く。切り返しも長いストロークのサスペンションを持つが、しっかりした印象だ。前後のバランスがとてもいい。開けるとこうなるのか!
この体験は「大人しい」「スムーズ」というKLXの印象に別の表情を加えてくれた。水冷時代のKLX250とよく似た印象のスポーツネス。ちょっと嬉しくなった。
そしてダートへ。
そして林道へ。林道を行くとき、極力左側の轍キープで走るようリズムを作る。狭いその幅の中を悠々と進む感じがある。コントロールがしやすいからだ。このシートポジションが生むライダーの体重を上手く前後タイヤに載せることで、ハンドリングの補正がとてもしやすい。また、開けると伸び上がるパワー感とそれをチューニングして行けば、コーナリングするスピードと体重を使って、慣性とパワーを合わせた気持ち良いスライドを楽しめる。コーナリングの極みのような感じだ。適度なパワー、しっかりとした車体、それにバランスしたタイヤが作る一瞬のファンタジーだ。
こうして短時間で信頼感を構築できること。これはKLXがもつ一番の才能だと思う。最近、こうしたファンバイクとお目に掛かってなかった。それもあって惚れ体質のボクは早めにテストを終えることにした。これ以上はまずいホントに。惚れちゃうし。そんなバイクだったのだ。
(試乗・文:松井 勉)
■全長×全幅×全高:2105×835×1165mm、ホイールベース:1380mm、シート高:885mm■エンジン:空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ、ボア×ストローク:67.0×66mm、排気量:232㎤、最高出力:14kW(19ps)/7,600rpm、最大トルク:19N・m(1.9kg-m)/6,100rpm 、燃料消費率:国土交通省届出値、定地燃38.0km(60㎞/h)(2名乗車時)、WMTCモード値33.4km(クラス2-1)(1名乗車時)■タイヤ(前×後):2.75-21 45P × 4.10-18 59P、車両重量:134㎏、燃料タンク容量:7.4L
■メーカー希望小売価格(消費税8%込み):486,000円
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