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レース・イベント

●文:西村 章 ●写真:MotoGP.com

 激しいバトルの名勝負や手に汗握る駆け引きがあったわけではないけれども、第12戦シルバーストーンはじつにいいレースだった、という印象を残す。表彰台を獲得した3選手それぞれにとって、この結果は2021年シーズンの分水嶺になるような、重要で意義のあるポディウムだった、といってもいいかもしれない。また、レース以外の各種パドック情報という面でも、この週末にはさまざまな話題が飛び交った。

イギリスGP
以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます.

 まずは優勝を飾ったファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP)から。

 土曜の予選では3番手タイムを記録して、今季11回目のフロントロースタート。つまり、最前列を外したのは今年1回だけ(第2戦ドーハGPの2列目5番グリッド)、というわけである。この予選の前に行われた30分間のFP4のパフォーマンスを見ても、頭ひとつ抜けた高度な安定性を見せており、一発よしレースペースよし、という隙のなさ。決勝レースで序盤から飛び出してしまえば、おそらく誰も追いつけないだろうな、ということも充分に窺わせた。

 じっさいにその予想どおりの展開で、5周目にトップに立つとあとは一気に引き離して独走モード。最後までミスなく走りきって余裕のチェッカーフラッグを受け、今季5勝目。

「スタート直後は混乱しやすい状況なので、そこがもっとも難しかった。その後は、エスパルガロ兄弟とバニャイアの背後につけて、着実に抜いていった。楽しみながらオーバーテイクできたし、余裕を持ちながら攻めて引き離していけた。(序盤に後ろについているときは)できるだけスリップにつかないようにして、タイヤを過熱させないように心がけた。ブレーキングも思いどおりのパフォーマンスを発揮できたし、とてもレースを愉しめた」

 レースを振り返るこのことばからも、盤石のレース展開だったことがよくわかる。

#44&20





 この優勝で25点を加算したクアルタラロのチャンピオンシップポイントは、現在206点。ランキング2番手につけるジョアン・ミル(Team SUZUKI ECSTAR)が9位で7ポイントの加算に終わったため、ふたりの差は65点に広がった。シーズンは残り6戦。ミルが残りのレースで全戦優勝したとしても、クアルタラロは3位に入り続ければタイトルを獲得できることになる。これはあくまで机上の計算にすぎないが、そのような計算が成立する状況にたどり着いたという意味では、非常に重要な優勝だったといえるだろう。

 グランプリ史上初の最高峰クラスフランス人王者に向けて着々と地歩を固めている状態だが、本人はいたって冷静にこの状況を捉えているようだ。

「まだ先は長いし、ミザノ(第14戦)が終わるまではチャンピオンシップのことはあまり考えないようにしたい。今後も毎戦、どうやってリードを築くか、ポイントを稼いで最後までしっかり戦うか、ということに集中し、表彰台や優勝争いをしていきたい」

 この落ち着きぶりが、タイトル獲得を手元に引き寄せている印象をさらに強くする。

 じっさいに、今回のレースで2位に入ったアレックス・リンス(Team SUZUKI ECSTAR)と3位のアレイシ・エスパルガロ(Aprilia Racing Team Gresini)はともに、

「MotoGPでは何があってもおかしくないけど、ファビオは落ち着いて走っているし、去年よりも成長している。この調子でいけばタイトルを獲ってしまうだろうね」(リンス)

「ファビオは誰よりもうまく乗っている。愉しんで走っているし、ポイントを獲り逃したこともあったとはいえ、彼がもっともうまくバイクに乗っていることは、なによりもポイントがそれを示している。誰かが彼を倒せるとは思わない」(エスパルガロ)

 と見解を述べ、この流れでいけば、クアルタラロがタイトルを手中に収めるだろうことを認めている。一方、ディフェンディングチャンピオンであるジョアン・ミルは、今回のレースが厳しい内容と結果になったことは認めつつも、チャンピオン争いの帰趨については、問われても直答せず明言を避けている。もちろん、可能性はまだ潰えたわけではない以上、チャンピオンの意地としても易々と負けを認めるわけにはいかないだろうから、これもまた当然の反応ではあるだろう。

 で、上記のとおり、2位はリンちゃんことアレックス・リンス。今シーズンは折々に高いパフォーマンスを見せながらも、転倒などによるノーポイントレースも多く、今回が2021年初表彰台である。

#42
アレイシ・エスパルガロ

「後方からポジションを大きくリカバーできた。10番グリッドのスタートで2位は上々の結果。この数戦は最高でも7位という結果だったので、今日の2位は本当にうれしい」

 レース直後にそう話して、喜びを露わにした。

「ライバル勢は全員手強くて、去年はたしかにいいレースをできたけれども、そのときとは状況がかなり変わっている。でも、この調子で進んでいけば、今後はもっと表彰台を獲れると思う」

 そう話すリンちゃんだが、じつはウィークが始まる前の木曜には、「今回は優勝争いをできるという期待は持っていない」と、週末に向けてやや悲観的なことも述べていた。その観測が、どこでポジティブなものに変わったのか、公式記者会見等を終えてやや一段落した様子の彼に訊ねてみた。

「決勝は10番手スタートだけど、序盤からとてもフィーリングが良かった」

 リンちゃんは、表彰台の余韻を味わうような笑みを残しながらそう説明した。

「このコースはタイヤの落ちが早いので、序盤からしっかりとコントロールを心がけて温存した。アレイシの後ろについたあたりから『表彰台は行けそうだな』と思って、狙いすまして抜いていった。ペコをオーバーテイクして、エスパルガロ兄弟を抜いたころには、ファビオはすでにかなり離れてしまっていたけど、最後はほんの少しだけとはいえ、彼との距離を詰めることもできたので、まあよかったかな」

 そして3位がアレイシ・エスパルガロ。自身にとっては、2014年のCRT陣営のForward Yamaha時代にアラゴンGP(9月28日)で2位を獲得して以来、6年11ヶ月ぶりの表彰台。そして、アプリリアにとっては、2002年に4ストロークMotoGP時代が990ccの排気量で始まってから初めての表彰台獲得である。というわけで、アプリリアのMotoGP参戦史を少し振り返っておこう。

アレイシ・エスパルガロ

 2002年から2004年までは、RS Cube(RSの3乗、と表記します)というマシンで参戦した。このマシンはエンジンがコスワース製で、いまでいうライドバイワイヤーやニューマチックバルブなどの先進的な機構を搭載した意欲的なものだったが、戦闘力という面ではかなり厳しいのも事実だった。

 2002年はレジス・ラコーニ、2003年は芳賀紀行とコーリン・エドワーズ、2004年はジェレミー・マクウィリアムスとシェーン・バーン、というライダーたちを擁して参戦したが、良好な結果を残すことができず、2004年を限りに最高峰からはいったん退いて同社は中小排気量クラスに専念することになった。

 その後、いわゆるリーマンショックの影響によるCRT (Claiming Rule Team)カテゴリーの導入期に、SBKで強さを発揮していたRSV4の改良型であるART製マシンで参戦。2015年からは、チーム運営をグレシーニレーシングが請け負う形で、現行ファクトリーマシンRS-GPによる参戦復帰を果たした。この長い隠忍の期間を経て、ようやく今回、アプリリアはMotoGP初表彰台を達成したわけである。最高峰クラスの表彰台、という意味では、2000年イギリスGP(7月9日:当時はドニントンパーク)でジェレミー・マクウィリアムスが獲得した3位以来だ。

 ……とまあ、このように振り返ってくれば、「アプリリアレーシンゲ」時代を知る古参ファンにとってはなおのこと、今回の兄エスパルガロの3位は感無量のできごとだったのではないかと拝察する次第である。

#41

 この快挙を達成した兄エスパルガロも、この表彰台に大きな達成感を得たようである。

「コンディションなどが影響したために自分たちが表彰台に上がれた、というようなわけではなく、誰かが転んだ結果(の棚ぼた)でもない。表彰台を獲れるだけのことを、アプリリアはしっかりとやってきた。じっさい、これまでのレースでもずっといいところを走れていた。今回の表彰台は、皆でがんばってさらにバイクを改良していくいいためのよいモチベーションになる。この5年は厳しくて、何度も転倒したし、自分のレースキャリアでも厳しい時期になったけど、いまは間違いなく良い方向へ進み始めている。これで満足するのではなく、今後はもっといい結果を勝ち取りたい」

 彼のことばにあるとおり、アプリリアは今年になって明らかに、大きなポテンシャル向上を見せている。何戦か前にそれについて多少詳しく記したので、ここでは繰り返さないけれども、マシン全体の耐久性と信頼性がさらに向上すれば、今後はさらに上位陣の常連となることも期待される。

 4位はジャック・ミラー(Ducati Lenovo Team)。レース終盤に兄エスパルガロを追い詰め、とくにラスト数周は緊迫感のあるバトルを続けたが、最後はわずかに及ばず、0.149秒差で表彰台を逃した。

「タイヤ右側はとても良かった。アレイシは厳しそうだった。左側は厳しかった。アレイシは左が良さそうだった。だから自分は右コーナーが良かったけど、アレイシは左がいいので、そこからの立ち上がりも彼はかなり速かった。最後は少し及ばなかったけれども、ポテンシャルを見せることはできたと思う。戦略も悪くなかった」

 5位はポル・エスパルガロ(Repsol Honda Team)。土曜の予選ではポールポジションを獲得し、開幕以来続いた苦戦をようやく払拭できそうな兆しが見えてきた。決勝レースでは、ホールショットを奪って序盤数周にトップを走ったものの、やがて後続選手にひとりまたひとりと追い抜かれ、最後は5位でチェッカー。

「タイヤの右側が厳しかった。兄を追いかけていたけど、タイヤが終わってしまった。いいレースをできた。表彰台にも登壇したかったけど、よくがんばったと思う。今回はひとまずこれで満足すべき。次のアラゴンは、タカ(中上貴晶)が去年ポールポジションを獲得したコースで、ホンダ勢は強さを発揮できると思うので、さらにがんばりたい」

 そう述べて、笑顔でレースを振り返った。今シーズンのポルは、レースが終わるといつも沈みがちな表情をしていただけに、日曜の午後にここまで快活に話す彼の姿を見たのは、ほんとうに久しぶりのような気がする。

 レース中盤まで兄と弟で表彰台争いを繰り広げたことについては、「兄弟でMotoGPのトップを争うのは、いままで誰もやっていないと思う。感無量だった」と振り返った。4ストロークMotoGP時代に兄弟ライダーが表彰台を争うのはおそらく初めて、ということは、ポルのいうとおりだが、最高峰クラス、という意味では、1997年のイモラGPで青木宣篤が2位、拓磨が3位、という結果が残っていることは記しておきたい。

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 そして6位には、前戦で優勝を遂げたブラッド・ビンダー(Red Bull KTM Factory Racing)が入った。これにより、優勝から6位まですべて異なるメーカー(ヤマハ、スズキ、アプリリア、ドゥカティ、ホンダ、KTM)が入ったことになる。これは1972年ユーゴスラビアGP(MVアグスタ、ヤマハ、ケーニッヒ、スズキ、ハスクバーナ、カワサキ)以降初めてのことなのだとか。つまりそれだけ各メーカーが、それぞれの特性を武器に緊密な戦いを繰り広げていることの証、といっていいだろう。

 ところで、今回のレースでは1周目にマルク・マルケス(Repsol Honda Team)とホルヘ・マルティン(Pramac Racing/ Ducati)が接触し、ともに転倒。両者ともリタイアとなった。マルケスが無理矢理ねじ込んでいってマルティンを引っかけてしまった格好で、レースを終えたマルケスは平謝り。

「あれは明らかに自分の過失。オーバーテイクに楽観的すぎた。マルティンとプラマックに謝りにいった。レースではそういうこともあるとはいえ、じつに申し訳ない。こちらのミス」

ブラッド・ビンダー

ブラッド・ビンダー
#89

 一方のマルティンは、なんとも苦り切った表情でこのできごとを振り返った。

「(マルケスに)レースを台無しにされた。表彰台争いをできるペースはあったし、2位は争えると考えていたので残念。いまはうまく気持ちをあらわせないけれども、次にまたがんばりたい」

 マルケスの行為はペナルティものだと思うか、という問いに対しては、

「ムリにねじ込んできて、なんで途中で引き起こすようなことをするのかまったく理解できないけど、それがペナルティに相当する行為かどうかはぼくの決めることじゃない」

 と述べ、マルケスは今回のできごとから学んでほしい、と述べた。直截な物言いはいかにもマルティンらしい……とはいえ、それにしても最高峰クラスルーキーが同国人のチャンピオン経験者(しかも8回)にそんな露骨なことをいうのだから、よほど腹に据えかねたのだろう。このあけすけな物言いは、2011年のヘレスでストーナーがロッシの巻き添えを食らって転倒した際に、ロッシの謝罪に対して「自分にできもしないことをムリにやろうとするからだよ」と挑発的な返事をした例の一件をちょこっと彷彿させるような気も、しないではない。

 レースそのものから少し離れた話題としては、ヤマハのリン・ジャーヴィスがアンドレア・ドヴィツィオーゾの陣営参加を認める発言をしており、おそらくサンマリノGPあたりからPetronas Yamaha SRTに参加。負傷から復帰してくるであろうフランコ・モルビデッリはファクトリーへ昇格、という線で大筋は決定のようである。

 そのPetronas Yamaha SRTは、タイトルスポンサーのペトロナスが撤退することにより、チームを縮小して再構成する方向で調整が進んでいるのは、以前にも記したとおりだ。それに伴い、現チーム監督のウィルコ・ズィーレンバーグが来季のチームマネージャーを探しているスズキに加入するのではないかという話も、一部で囁かれているようだ。現在のスズキは、テクニカルディレクターの佐原伸一氏や技術監督の河内健氏などによる7名の合議マネージメント体制でチームを運営しているが、おそらくズィーレンバーグを含む数名を、スズキ側は候補に挙げて交渉や打診等をしているのだろうと推測される。そのなかには、かつてドゥカティやホンダで陣営を率いたリヴィオ・スッポの名前もある、という話も一部で囁かれているようだけれども、もしもそれが本当であるならば、彼の性格やスズキのチームの雰囲気を外部からとはいえ多少知る身としては、この組み合わせはちょっとお互いの雰囲気がそぐわないんじゃないかなあ、という気もしないでもない。いい悪いの問題ではなく、たとえていえば、まるで阪神タイガースの監督を広岡達朗に依頼するような印象もあって、お互いの気性というか雰囲気のようなものの組み合わせに、なんというか、ある種のそぐわなさのようなものを感じる。外野がとやかくいうことではないし、そもそも両者についてよくわかっているわけでもなんでもないので、よけいなお世話なんですけれどもね。でもできれば、たとえていうならば〈のびのび野球〉のチームにはムッシュ吉田のような監督がいいんじゃないかなあ、と思わないでもないです、はい。いやすいません、何も知らない外野の素人がつい偉そうなことをほざいてしまいました。

 噂話といえば、日本人Moto3選手の佐々木歩夢や鈴木竜生の来季の所属についても何らかの動きがあるようで 、おそらく遠からずなにか発表があったりするのかもしれない。

 そういえば、ヤマハとすったもんだして袂を分かったマーヴェリック・ヴィニャーレスが8月31日と9月1日にミザノでアプリリアのテストをするようで、 こちらも直近の話題として大きな注目を集めそうだ。

 というわけで、次のレースは2週間後の第13戦モーターランドアラゴン。ではごきげんよう。

イギリスGP

【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」優秀賞受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」と最新刊「MotoGP 最速ライダーの肖像」は絶賛発売中!


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2021/08/31掲載