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試乗・解説

高みで終わる、 美しい引き際
何事も「引き際」ってのは大切だと思う。カート・コバーンの「色褪せるぐらいだったら燃え尽きた方が良い(It’s better to burn out than to fade away)」の言葉ではないが、セローというビッグネームはファイナルエディションまで高みを保ったまま、この度引退が決まった。最後のセローの、オプション4点セット付である「ツーリングセロー」に試乗した。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:徳永 茂 ■協力:YAMAHA(https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/) ■ウエア協力:アライヘルメット(http://www.araihelmet.com/)、アルパインスターズ(http://www.okada-corp.com




最後まで最高で

 CBやZといった日本のオートバイ業界の歴史そのものを表すようなネーミングが存在し、それは今も新しいモデルに使われているアイコンだが、セローというネーミングは一貫して一つのモデルを指してきたことを思えば、これだけ浸透し、長く幅広く愛された名前もないのではないかと感じる。SRもロングセラーではあるが、老若男女、またあらゆるライダー層に支持され続けたという意味ではセローはSR以上ではないだろうか。それだけにとうとう絶版が決定し、昨年ファイナルエディションが発表された際には、惜しむ声がとても大きく雑誌業界でも数々の追悼(?)本が登場している(『All about SEROW セロー大全』もヨロシクお願いします。https://www.motormagazine.co.jp/_ct/17441481 )。

 今回の撮影現場でスタッフが「この形を維持するのが難しくなったんだろうな」と言い、なるほどと思った。様々な補器類で固めていけばまだ延命も可能だろうけれど、セローのコンパクトさや軽さ、気軽さやスマートさ、ノビノビとした自然さといった部分が損なわれてしまう、というわけだ。そういう意味では延命のための延命をせず、無理なく「最高だ!」と素直に思える状態のままファイナルを迎えたのは、まさに有終の美だと思える。セローブランドが消えるのは寂しいが、セローがバイク業界に長い間に渡って貢献した数々の功績に感謝しつつ、お疲れ様と言いたい。
 

 

バリエーションモデルを考える

 225時代のバリエーションモデルとしては、今になって人気が出ているブロンコがあったが、250cc版はそもそもトリッカーが先行して登場したため、どちらかといえば250セローのほうがバリエーションモデル的位置づけ。さらに前後に17インチホイールを装着したモタード版のXT250Xも登場。250シリーズはこの3台で展開され、そしてインジェクション化も果たしたがXTは先に絶版になり、最後まで残ったのはセローとトリッカー。その中でセローには純正で用意されていたオプション品4点を装着しお得なセットとしたこの「ツーリングセロー」がラインナップに追加された。

 ツーリングセローはアドベンチャースクリーン、ハンドルガード、アドベンチャーリアキャリア、アルミアンダーガードを装着した状態での提供。セローをツーリングに使う人も昔から少なくなかったが、荷物を積載しての快適な長距離ツーリング仕様としての提案だ。
 

 

誰でも親しめるサイズ感

 実車を目の前にするとその小ささに感動すら覚える。「乗れるかな?」と不安にさせるような要素がゼロで、威圧感は微塵もない。今世間を賑わせているハンターカブ125と大して変わらない感覚だろう。
 跨ると初代から続く低いシート高と、オフ車としてはストロークの短いサスペンションがまた好印象。オフ車でよくあるのは、シート高は高いが跨るとサスが沈んで意外と足が着く、というパターン。しかしそれは同時に、足を着いた時にシートが尻にくっついてくるということ。セローのコンセプトであった二輪二足で、脚を着きながらバタバタ進む場面では、バイクと人がちゃんとセパレートしないとなかなか安心感が得られないのだが、ストロークの長い標準的なオフ車だとシートが尻にくっついてくるため、せっかく足が着けてもその足を踏ん張れないということがあるのだ。
 バイクと人がしっかりとセパレートして、着いた足に体重をのせて安心して踏ん張れるというのは、オフロードシーンだけでなくUターンなどでも活きる魅力。シートの低さだけでなく、短めのサスストロークこそがセローの魅力の肝にも思える。
 

 
 車体の方はとにかく小さい! ポジションもコンパクトで車体もスリム、それでいて筆者のように長身でも走っている時は特別窮屈に感じることもない。オプションのスクリーンもとてもクリアで視界を遮るような感覚はなく、特に寒い時期は効果絶大。
 ハンドルガードはバーエンドに繋がるタイプのため、風をガードしてくれるだけでなくもし転倒した際もレバー類をしっかりと守ってくれるのだが、同時に手が大きな人が冬用のグローブをした場合はいくらか引っかかるきらいもあった。キャリアとアンダーガードは目に入るものではないため、乗車感は普通のセローとなんらかわりない。

 ツーリングセローはCRF250のラリーのように初めからツーリング仕様として作り込まれたものではなく、あくまで「アクセサリーパッケージ」。「この4点がついているのにこのオトクな価格」というのが魅力なわけだが、そもそものセローにもまるで不満がないわけだから、これらアクセサリーの中で自分好みのものだけを選んでスタンダードセローにつけるのもアリかな、とも思った。筆者だったらスクリーンだけでも……良いかもしれない。
 

 

タタッとトルク!

 今や唯一の250ccオフライバルとなったCRFは水冷のDOHCエンジンと考えると、この空冷2バルブユニットはだいぶ不利、かと思いそうなものだが、実は80km/hぐらいまでの速度域においてはまるで劣っていないどころか、むしろ良いかもしれないという場面も多い。クラッチ繋ぎしなのスタッと出るトルク感は秀逸で、スタートダッシュはなかなかのもの。さらに車体の軽さや明確なクラッチの繋がり感が自信を持たせてくれ、ちょっとウイリーでもしてみようかなんていう気になってしまう。軽い車体と重心の低さもそういった気持ちにさせてくれるのだろう。ホント、走り出して数10メートルぐらいという超短いスパンでもう手足のように扱えるような気がしてしまうのは「さすがセロー」である。

 この気持ちの良いトルクに載せて加速していくと予想以上にキビキビ走り、「旧いエンジンだから」などという言い訳的な、後ろ向きな感情は一切わかない。ただ、80km/hを超えたあたりからいくらか頭打ち感が出てきて、その先、高速道路の流れに合わせて巡行する速度帯も可能ではあるものの、セローの「気持ち良い領域」からはもう出てしまっている印象となるし、車体的にも軽さゆえに安定感にかけてしまう。やはりセローはこの解りやすいトルクを80km/hまでの領域で楽しむのが一番幸せだろう。ということはやはり下道トコトコツーリングが気持ち良いということである。
 

 

しなやかな車体と深いフトコロ

 オフ車としては短めであるサスストロークを補うかのように、フレームや車体は全体的にとてもしなやかで接しやすい。カチッとした感覚はどこにもなく、手足の延長上にバイクがあるかのような、人車が融合した感覚がある。前後足周りと車体、そしてエンジン特性も含めてトータルで良いバランスなのだろう。現場では「いいデチューニングがとれてる(笑)」なんて冗談も出たが、その通りだろう。フレーム単品やエンジン単品、サスペンション単品で見たらどれもちょっと旧世代的で今の感覚からすると「足りない」と映る部分もあるかもしれない。しかし全部が合わさることで絶妙なバランスを構築しているのはさすがセローブランドであり、こういったさじ加減が他社にまねできなかった部分なのかもしれない。

 こういった特性は安心してオフロードを楽しむという意味でもいいのだろうが、オンロードでもかなり良いと感じさせてくれる。舗装ワインディングを元気に走っていると、ブロックタイヤの限界の低さとあいまって車体がユラユラとすることも珍しくないのだが、そんな場面でもリアブレーキをスッと舐めてあげれば車体が安定しペースを維持できる。ほんの少しの入力でセローの超絶バランスを更に活かすことができ、あらゆるシチュエーションで直感的に楽しめてしまうのだ。「あぁ、これでもうセローは終わりなのか。やっぱり一台買っておいた方が……」なんてことを本気で考えてしまう試乗だった。
 

 

最後のバイクとして

 カブに始まりカブに終わる、なんて言われることがあるが、その前にセローというワンクッションがあるだろうと常々思ってきた。本サイトと連動することも多いミスターバイクBG誌において、「持続可能なバイクライフ」というテーマのもと「スローライフ・セローライフ」という連載をしていたことがあるが、セローならば乗るにも維持するにも無理がないだろうという提案だった。

 車検はないし、軽くて取り回しに苦労はしないし、コンパクトだから置き場所にも困りにくい。今のモデルならインジェクションなのだからバッテリーさえ気を付けておけばいつだって一発始動。幼稚園への送り迎えからツーリングから林道遊びからエンデューロレース参戦まで、使える・遊べる・楽しめるフィールドがとても広い。さらに重要なポイントだが、セローはしっかりとしたブランドなのである。まるっきりの初心者でもセローなら間違いないし、酸いも甘いも知り尽くしたベテランライダーが乗っても一目置かれる稀有なバイクと言えるだろう。

 やはり「いつかはセロー」なのである。ライダー人生の中で、どのタイミングかはそれぞれだろうが、一度は所有し、消化するべきバイクに思う。
 

 

敢えてツーリングセローを選ぶのか?

 ファイナルとなるタイミングで買っておこうという人はいるだろう。今買えるセロー系は販売店でまだ見つけることができるだろう「普通の」セロー、そしてメーカーがオフィシャルにファイナルと謳った「ファイナルエディション」、そしてこのオトクなオプション4点セット「ツーリングセロー」、そして忘れてはいけない兄弟車のトリッカーである。

 今回の試乗でツーリングセローに乗って感じたのは「やっぱりセローは良いな!」だった。そこに「ツーリングセローだからなお良い」というのは、正直あまりなかった。よってツーリングセローはあくまでオプションをつけることを前提に考えていて、その選択肢と価格のバランスを考えて「これはオトクだな!」と納得する人向けの商品であるという認識で、オプションをあまり考えない人はノーマルのセローでも十分良いと思う。
 

 
 さらにつっこんでちょっと厳しいことを言うと、ツーリングに使うなら激しいオフロードは走らないだろうからエンジンガードが活きる場面は少なそう。キャリアは超堅牢で魅力的だが、セローの軽さや小ささを考えるとあまり大きな(重い)荷物を積んでもバランスが崩れて運転しにくくなりそうでもある。そういう意味ではこの4点セット、ちょっとチグハグに感じなくもない。先述した通り、筆者がセローをツーリングに使うならこのスクリーンだけは装着し、キャリアはもう少し小ぶりなものを選ぶだろう。それは人それぞれ、使い方それぞれの部分ではあるが。

 そしてここで改めてアピールしておきたいのが、トリッカーの存在だ。現行セローはトリッカーこそが先輩なのだが、残念ながらトリッカーはファイナルエディションなど設定されず静かにモデルライフを終えている。しかしセロー以上に気軽に使えて楽しめるバイクとして筆者は高く評価しているし、価格もかなり良心的なのである。セローばかりが注目されるが、このタイミングで「いまこそセローにしてみようかな」と考えている人は、トリッカーという選択肢も是非加えて欲しい。
(試乗・文:ノア セレン)
 

 

とにかくコンパクトさが魅力のセロー、ツーリングセローでもそれは同様だ。足着きが良いだけでなく、サスペンションストロークが少ないがゆえ、しっかりと足に体重を乗せ、踏ん張れるのである。(ライダーの身長は185cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます)

 

空冷2バルブのユニットは旧世代的でもあるが、今も走りは一級品。インジェクション化した際にはフューエルポンプが必要になり、さらに近年はガソリンの揮発対策のエバポレーターなるものも必要に(エンジン前方左側)。絶版はこういった補器類が今後さらに増えた場合、セローの魅力を保持するのが難しくなるからではないかと考えられる。

 

オフ車として一般的な18インチホイールなため、スイングアームは兄弟車のトリッカーよりも長い仕様。リアのみチューブレスタイヤとなっていることもツーリングの味方(ツーリングセローだけでなくスタンダードセローも同様)。

 

かなり細身のシートだが、今回の行程では特別尻が痛くなるようなことはなかった。ただ後ろに行くほどにクッションが薄くなってくるためタンデムライダーからは苦情が出そうである。
スタンダード仕様もツーリングセローもタンク容量は変わらず9.3Lとオフ車にしてはたっぷり。燃費の良さも手伝って航続距離は十分以上だろう。これだけの容量を確保しながらもスリムにしているのも好印象だ。

 

オプションの一つである大きなキャリアはシートと平らなため荷物は確かにたくさん積めそうではある。ただフックの類が圧倒的に足りなく、ネットなどをひっかけるのに大変苦労する。サブベルトの装着など工夫が必要だろう。なおかなり太い角パイプで構成されているため、取り回し時など手でつかむとゴツゴツして持ちにくい感じもあった。

 

スクリーンはとても透明度が高く、曲面もナチュラルで視界を遮る感じが全くなかった。特に寒い季節は重宝するだろう。なおヘッドライトは信頼のハロゲンである。流行りのLEDとせず、あらゆる天候でも安定した見やすさを確立しているハロゲンとしたところにぞっこん! そこも含めてセローらしさだろう。
テールは被視認性の高いLEDを採用。独立したヘルメットホルダーも備えて利便性を確保する。

 
 

シンプルで見やすく軽量なメーターだが、燃料計が無いのはちょっと寂しくも感じた。給油ランプが点灯した時点から自動的にフューエルトリップがカウントを始めるスタイル。
ツーリングセローには標準装備される大型のナックルガードは、バーエンドにも接続するタイプのため転倒の際にもレバー類を守ってくれるツーリングの味方。ただいくらか狭い感じもあり、冬用グローブでは小指側が引っかかることも。

 

●SEROW250 FINAL EDITION(2BK-DG31J)主要諸元
■エンジン種類:水冷4 ストローク単気筒SOHC2 バルブ■ボア× ストローク:74.0×58.0mm■最高出力:14kW〔20ps〕/ 7,500rpm■最大トルク:20N・m〔2.1kg-m〕/ 6,000rpm■全長× 全幅× 全高:2100×805×1160mm■ホイールベース:1360mm■シート高:830mm■タイヤ(前× 後):2.75-21 45P × 120/80-18M/C 62P、車両重量:133 ㎏■燃料タンク容量:9.3L■メーカー希望小売価格(消費税10% 込み):558,500 円(本体価格535,000 円) TOURING SEROWアクセサリーセット 販売会社希望小売価格(消費税10% 込み):88,770円

 


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2021/04/07掲載