Facebookページ
Twitter
Youtube

試乗・解説

セローじゃなけりゃ ダメなんだ! YAMAHA SEROW250 FINAL EDITION
2005年に発売して、キャブレターからフューエルインジェクションになるなど環境規制に対応しながら販売が続いてきたセロー250の生産が今年の夏に終わった。最後を飾ったファイナルエディションに乗った感想とともに、多くのオフロード好きライダーに愛されてきたセローの存在について思うところを書いてみる。
■試乗・文:濱矢文夫 ■撮影:渕本智信 ■協力:YAMAHA https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/






 現行セロー250の最終モデル、ファイナルエディションに乗って草木に囲まれたダート道を散策してきた。生産は終了したけれど作り置きがあるので、これを書いている時点(2020年10月半ば)でまだ新車は買える。このファイナルエディションは、1985年8月という今から35年前に発売された最初のセローであるセロー225をイメージしたカラーリングなのがミソだ。初期型225のようにグリーンとレッドのフレームカラーがニクイ。セローは250になってから、実はシルバーかブラックの地味系フレームカラーしかなかった。ただ色を変えただけじゃん、と思うかもしれないが、造り手側からすると現代ではフレームに塗れる色にあまり自由度がないらしく、開発陣は、多くの人に愛されてきたことを感謝する気持ちで決めたそうだ(ファイナルエディションについて詳しいことやプロジェクトリーダーへのインタビューなどはこちらにあるので一読を→https://mr-bike.jp/mb/archives/6799
 

 

ライダーの身長は170cm。

 ダート道にたどり着く前に、街を走り抜けて、ときにはコーナーが連続するような交通の流れがいい舗装路を走った。セロー225からセロー250になって車両重量は増えたけれど、メリットがあったのは、この舗装路での走りだと思っている。高速道路でのスタビリティと排気量アップで出力もトルクもアップしたことで余裕が出た。ある程度速度を上げながら走るワインディングでも、ブレーキングやコーナーリングでのしっかり感は断然250になってからの方が高い。デュアルパーパス、マルチパーパスとして許容する走行シチュエーションの幅が確実に広がった。
 

 
 フロント21インチ、リア18インチのホイール外径は、御存知の通りオフロード車としては定番。純正として履いているBRIDGESTONEのTRAIL WING TW301(フロント)とTW201(リア)は、ブロックパターンながら接地する面積を広めに取ったラウンド形状で、結構思いっきりオンロードを走ってもなかなかグリップ感がつかみやすくて唐突なところがまったくない。そこそこ深めのリーンでも不安を感じさせない動きだからスイスイとスムーズにいけた。
 

 
 225より重くなったと言ったが、空冷単気筒エンジンに細い車体は、オートバイ全体では間違いなく軽いので、これをツーリング用や街中の移動をメインとしても何ら不思議じゃない。オンロード専用モデルのような“速さ”はないが、日常的に困るほど非力じゃないし、便利で足の長いサスペンションはなかなか快適。だからしっかりとしたスクリーンや大きなリアキャリアを装備したツーリングセローがもてはやされたのも理解できる。オフロードが走れるからといっても、多くの人は舗装路を走っている時間が長い使い方で林道に行くにしても都市部に住んでいたら高速道路の移動も必要な場合も多い。
 

 
 オンロードでは高性能さを競ったレーサーレプリカがもてはやされた’80年代半ば。そのパフォーマンス主義的な流行はデュアルパーパスモデルにも影響をおよぼし、2ストモデルも含め、レーサーとの近似性をアピールするものが多かった。そんな中でセロー225は誕生した。 “マウンテントレール”という言葉をかかげて、速く走るよりも、深く山に分け入ることができる走破性にこだわった作り。いわば、イケイケドンドンな風潮の中で、それまでの流れとは全く違うもの。新しいコンセプトはすぐに理解されたわけではなく、発売してからしばらくはあまり売れなかった。
 

 
 しかし飛ばすだけがオフロードの魅力ではない。道がないところでも進みやすい要素による面白さにベテランライダーもハマりじわじわっと販売を伸ばしていった。それは口コミ的な伝播(でんぱ)に近いものだったと思う。思い出してみればこの頃のヤマハはこういう独創的な挑戦を他にもしていた。次々とレーサーレプリカが発売されて、それに多くのライダーが注目していた中で、空冷単気筒のロードスポーツ、SRX400/600を発売して大ヒットさせている。誰かと競うのではなく純粋にオートバイを操る自己完結型のよろこびを追求したところがセローと似ていておもしろい。

 ’90年代のハイパートレールで盛り上がったエンデューロブームを横目に、徐々に公道用オフロードモデルが衰退してモデル数が減り、エミッション規制が厳しくなっていった歴史の中でも生き残り、225から250にバトンタッチして続いてきた事実は、それだけ売れてきたことを裏付ける。支持される理由、セローをセローたらしめている部分はとてもシンプル。オンロードモデルより多めのサスペンションストロークと凸凹した悪路を乗り切れる最低地上高が必要とするオフロードを走れるモデルとしてはシートが低いこと。51度と大きくハンドルが切れること。低回転域から扱いやすいエンジン特性だということ。そして、実はかなり重要なのだが、お手頃な価格設定であること。これらは初代から受け継がれてきたものである。
 

 
 頭でっかちな話が多くて申し訳ないけれど、こうやってオンを走ってオフへ入り込んだらそこがわかる。林道のコーナーはだいたい見通しが悪い。たとえレーサーのような足周りやエンジンパワーでも、それを発揮して走るなんてナンセンス。危ない。そういう領域の中で、セローの前後サスペンションはしなやかに仕事をしてタイヤは路面をとらえ荒れていても走破するためのアクションに十分にこたえてくれた。少し前に試しにオフロードコースを飛ばして走ってみたが、連続するギャップを勢いよくいくと、特にフロントフォークが追従できず底づき感もあって少々怖かった。でも、こういう山の中ではまったく不足がない。それどころかグリップ状況がわかりやすく、凸凹をいなしコントロールしやすい足周りだ。
 

 
 ここ『WEBミスター・バイク』は無料のインターネットのメディアで、お金を出して購入しなければ情報を得られない紙メディアより気軽に読める。オフロードに興味がない人、これからオフロードを走ってみたい人も多いと思うので、“林道を走りやすいよ”と簡単に説明すると、未経験者はオフロード車さえ乗れば簡単に未舗装の荒れたところを走れると思ってしまうかもしれない。オフロード専門のサイトや雑誌では、ある程度の経験者を前提にした車両インプレッションになっていることが少なくない。そこで誤解のないように説明すると、オフロードライディングはライダーの経験やテクニックに依存する部分がオンロードより大きいということ。
 

 
 ギアを入れてクラッチをつなげば、それなりに走り出せてしまうオンロードとはちょっと違う。かくいう私もそうだった。16歳でライダーになって25年くらいずっとオンロードスポーツばかり乗ってきた。ほとんど興味がなかったのに、なぜかある日突然、オフロード車に乗りたくなって中古のトレール車を購入。初めての本格的なダート林道は刺激的で楽しかったと同時に、「オフロード車だからってオフロードがイージーに走れるわけじゃないのか」と思ったのであった。深いワダチや穴ぼこ、段差、ガレ場、水分でヌタヌタ、といろんなシチュエーションでただスロットル開けて突っ込めば楽勝なんてことはない。情けないけれど最初は滑るのが怖くてフロントブレーキを強く握れなかった。そういう入り口のライダーに対してセロー250はとてもいい選択になる。
 

 
 おっとっととバランスを崩しても低いシートのおかげで足を着いてささえられる。上級者になるほど、様々な場面でバランスを取りながら走破できるスキルがあがるけれど、予測できないこともあるわけで、腕があっても足が着かないよりは着いたほうが断然いいに決まっている。怖かったら両足を出してバタバタしてもOK。ステップから足を離すとトラクションが抜けるうんぬんは、もっと慣れてからから考えればいい。オンロードモデルより足が届くメリットはうれしい。このおかげでより積極的な気持ちになれる。林道の多くはシングルトラックで、自動車が通れないような道幅になっていることも多々ある。そういうときに、この足着きの良さと大きく切れるハンドルは有効で、Uターンも乗車したままで苦労しない。
 

 
 低回転域からしっかりあるエンジントルクは、スロットルを開けるとツキがはっきりとしていて、オフロード走行に必要な路面に合わせてフロントの荷重を抜きたい動きができる。こぶし大の石ころがゴロゴロしているところでそのままの位置で乗っていると、グリップしようとするフロントタイヤがはじかれてあっちゃこっちゃ行って不安定なだけでなく怖いので、よりリアタイヤに体重をかけて走りたい。そんなときでも体重移動が差し障りなくできる。長距離でもある程度の快適性を考えて、競技用オフロードモデルより座面幅を確保しながら、オフロードで必要な機能を考えたシートと車体とポジションだ。
 

 
 よりエンジン回転数を上げていっても唐突にパワーが出ることもなく、滑りやすいところでもリアタイヤを地面に押し付けて進みやすい。たとえ横滑りしてもオンロードより速度が低いから焦らずに対処できる。やっぱりトップエンドまで回して走るより、低中回転域でトコトコと走るほうが気持ちいい。欲を言うならばもう少し軽かったらいいのだけれど、ストリートを走れるトレール車としては特別重いわけではないし、ある程度しかたがないところか。コーナリングでリーンさせていってもグラっと倒れこむこともない。粘らずに軽快。倒木を乗り越えて、行き止まりで引き返して、逃げ場のない水たまりを突っ切って、荒れ地になるほどセローは自由自在に走れる頼りがいのある相棒だ。そしてどこにも難しいところがない。このファイナルエディションで歴史が途絶えるけれど、まあ間違いなくこれが最後ではあるまい。次のセローもこれまでのストロングポイントをしっかり踏襲させると思う。だったら、いつ出てくるのかわからないし、生産は終了したがまだ新車が買えるうちに、このセローファイナルエディションを手に入れるのもありだ。個性的なスタイリングはまだ色褪せない。
(試乗・文:濱矢文夫)
 

 

SEROW=カモシカ。このアイコンは誕生からずっと継承されている。ファイナルエディションとして燃料タンクに最終モデルを主張する控えめなエンブレムが取り付けられた。1月15日に発売され、7月31日に生産が終わりセロー35年の歴史にいったん幕を下ろした。ちなみに基本的な車体とエンジンを共有する兄弟車のトリッカーも生産終了したがファイナルエディションは用意されていない。

 

アルミシリンダーのショックユニットを使ったボトムリンク式リアサスペンション。リアのサスペンションストロークは180mm。公道用トレール車でも200mmを超えるものがあるが、林道を走って楽しむのに不都合は感じさせない動き。そしてセロー250はこれでシート高を下げられているところが重要だ。このグリーンフレームは外装に使われている緑と同じではない。

 

必要十分だけど簡素なモノクロデジタルメーターや、流行のファットバーなどの豪華さはないけれど、コンパクトなメーター&ヘッドライト周りで、シッティングでもスタンディングでもつかみやすいハンドル形状、滑り止めのついたグリップとオフロードモデルとしての機能は申し分ない。51°のハンドル切れ角は魅力だ。燃料タンク容量は9.3L(無鉛レギュラーガソリン)。

 

空冷4ストロークSOHC2バルブ単気筒エンジンは2008年にキャブレターからフューエルインジェクション化。そのときに二次空気導入装置が取り付けられたが、この最終世代ではそれが取り外され、気化ガスを受け止めるキャニスターがクランクケース前側左に取り付けられた。障害物にぶつけてもいいようにガードされている。最終のマイナーチェンジで3kg重くなったが最高出力は+2PSパワーアップ。

 

ファイナルエディションはこのホワイト/グリーンとホワイト/レッドがあり、後者は赤色ステッチを使った黒い特別シートだが、このホワイト/グリーンは緑色ステッチではなく従来の仕様を継続利用。独立したキー付ヘルメットホルダーはやはりあると便利だ。

 

LEDのテールランプ。2018年に登場したモデルから採用。これはセローをベースにしたモタードモデルであったXT250X譲り。フロントと同じくリアのウインカーも、左右のグラブバーの内側に設置され転倒の影響を受けにくいよう配慮。シート座面とテールカウルの上面に段差がないので、これを利用して大きめの荷物も積載できる。

 

フロントのサスペンションストロークは225mm。ホイールは21インチのアルミリム。リアと違いフロントはチューブ入りだ。フロントブレーキには245mmのディスクローターに異径2ポッドのキャリパーを組み合わせる。タイヤはBRIDGESTONEのTRAIL WING TW301。セロー250独特な造形部分のひとつとしてフロントフェンダーが前後に分かれ高さが違うところがある。白いフロントフェンダーが前側にハイポジション、黒い後ろはローポジション。

 

ブーツの裏に泥がついても滑りにくいようギザギザになった可倒式ペグ。転倒で破損しないようにリアブレーキペダルの先も可倒式だ。オフロードブーツは足首の可動域が狭いために、この純正位置よりブレーキペダルの位置を上げた方が踏みやすくなる。
1997年に発売されたセロー225WEから、リアはワイヤースポークながらチューブレスを採用している。パンクしてもチューブを取り出す作業が必要なく修理しやすいのと、低圧にして突起を乗り越えたときにリムに強く押し付けられ穴のあく、通称リム打ちをすることがないのがメリット。スポークはハブ側にクッションするようになっているのが特徴。余談だが近年のトライアル競技車はチューブレスでラジアルタイヤを履いている。

 

今回生産終了となった理由のひとつが100mm外径という小さなヘッドライト。これが通称丸Eと呼ばれるUNECEのEマーク(欧州連合指令適合品表示)がつかなくなることから。ヘッドランプ下にあるスタックバーは1985年発売の初期型セロー225から続くセローのアイデンティティ。ウインカーは点灯しても壊れにくい位置にある。

 

●SEROW250 FINAL EDITION(2BK-DG31J) Specification
■エンジン種類:水冷4 ストローク単気筒SOHC2 バルブ■ボア× ストローク:74.0×58.0mm■最高出力:14kW〔20ps〕/ 7,500rpm■最大トルク:20N・m〔2.1kg-m〕/ 6,000rpm■全長× 全幅× 全高:2100×805×1160mm■ホイールベース:1360mm■シート高:830mm■タイヤ(前× 後):2.75-21 45P × 120/80-18M/C 62P、車両重量:133 ㎏■燃料タンク容量:9.3L■メーカー希望小売価格(消費税10% 込み):558,500 円(本体価格535,000 円)

 


| SEROW250 FINAL EDITION プロジェクトリーダーInterviewのページへ |

| セロー大全 前編のページへ |

| セロー大全 後編のページへ |

| 新車プロファイル「SEROW250 FINAL EDITION」のページへ |

| ヤマハのWEBサイトへ |





2020/10/23掲載