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試乗・解説

セローとそのスピリッツは 永久に不滅です!!
ファイナルエディションの発表をしてから1年。現行セローの生産も終了し在庫は店頭にあるだけになった。熟成に熟成を重ねた今、お疲れ様、の意味を込めて改めてセローに乗る。試乗したのはオプションパッケージ車、ツーリングセロー。今日は荷物を積んで出かけたワケではないし、その実力の半分も計れなかったが、やっぱりセローはセロー。今後への期待を込めて、セローの走りを堪能したいと思う。
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:徳永 茂 ■協力:YAMAHA ■ウエア協力:アライヘルメットhttp://www.araihelmet.com/index.htm、56designhttps://www.56-design.com






 原稿を書くのに検索すればセローネタがこれでもか、と出てくる。カスタムの定番モノでいえば、エキパイ換えた、サス換えたという話題を筆頭に、山仕様にした、ツーリング仕様にした、盆栽カスタム系等々枚挙に暇がない。愛されているな、セローと時間も忘れて眺めてしまった。

 我に返って記憶を辿れば、2018年に現行型となってリバイバル後、いつでも乗れる、という気分だったので、ちゃんと乗れていなかったことを思い出す。そう、テールランプがLEDがXT250Xのモタード仕様になってから以降ご対面したのがこのファイナルエディションだった。
 250になった2代目のセローが登場したのが2005年。以来時流に合わせた改良、進化を遂げながらもセローという普遍的なコンセプトを変えずに進んできた。それは初代から続く確固たるものだったからこそ、2代目も16年目の今も鮮度変わらず、というところなのだろう。
 

 
 本来のコンセプトたる『二輪二足』というハードコアなマウンテントレールに、ウインドスクリーンや大きなリアキャリアなどを取り付けた「旅仕様」は盛りすぎでは? という意見も聞く。反面、リアルなツーリングシーンでは、1泊でも10泊でも、キャンプありきのツーリングなら持ち物の総量は着替えの量が増減する程度で、基本的に大荷物だ。ならば積みやすいリアキャリアは必須。高速移動を快適にするウインドスクリーンも数時間の移動には嬉しい。ハンドガードやアンダーガードといったタフなルックスは華奢なセローを立派なアドベンチャーバイクへと変身させるし、なによりそうした装備は実際に腹打ちしそうな道を行くか行かないかより乗り手を勇気づけてくれる。

 キャンプの装備は最低限、最軽量のアイテムを用意するストイックさも一つだし、焚き火台、コット、フォールディングチェアやテーブル、ランタン用のポールにブランケット……。着いた先での快適と充実をみっちり積んでゆくのもスタイルだと思う。そんな点でツーリングセローの装備は、かつてあったAG200にも通じるものがあるし、アウトドアトランスポーターとしてかっこいい。
 

 

最終型が持つ完成度。

 空荷のツーリングセローに跨がった。その印象はいつものセローだ。コンパクトなライディングポジションだし、足着き性も足まで武器にして山に登ろうというセローワールドを直感させるものだ。コンパクトゆえ、ホイールベースの適正な場所に乗るコトを意識させるあたり、セローが持つスポーツ性だと思う。

 空冷OHC2バルブのエンジンは進化を続けてきただけに、回り方に滑らかでフリクションロスの少ない出来映えが伝わってくる。スペックの数字で見ると頼りなくも思えるが、実際に1速でクラッチを繋いだ印象は「トルクフル!」「力強い!」「バイクが軽い!」という言葉が頭に浮かぶ。シフトアップを続けてもその印象は続き、トップ5速に入れてもそれは変わらない。45km/hから50km/h程度で5速に入り、そこからはアクセルだけで気持ち良く走るのだ。なに、この完成度!と驚く。
 

 
 サスペンションはスムーズだし、以前にましてダンピング感もしっとりしたように思う。細かく上質に磨かれてきた様子が分かった。ABSを持たないブレーキは、フロントに関してはダートでもコントロールの幅を拡げるようタッチは硬め、握り込んでもいきなりロックにつながるような兆候はない。リアもそれにバランスしたどちらかと言えばダルな効き味だ。勿論、力を込めたらロックはするが、そこまでの幅が広いという表現が正しい。ぬかるんだ道でもロック寸前の効き味を引き出せる設定なのだろう。

 ツーリングセローでワインディングを走った。しんなり柔らかめな車体はそのまま。ライダーが多少ずぼらな位置に乗ったり、少々こわばった動きをしても車体にモロにそれが響かない。シャープさはないけど良い意味で鈍感で扱いやすい。その分、高速道路ではガッシリした印象はないし、120km/h制限のところでは、そんなこと何所吹く風、と言いたくなる。100km/hで充分じゃないか。と、バイクが諭してくれるようだ。

 全体に何所にも尖ったところがない、というか、225時代から続く「勝負はそこじゃない」というスタンスもいい。全体のささくれを丸めた乗り味に最終型の美学を感じたのだ。
 

 

今後に私見を交えて。
何時、どんなセローが理想か。

 と、自分で振っておいてこれは難しい。今のセローで充分だが、それと同等以上に攻めた新型、これからの新しいセローコンセプトを再定義するような一台を見てみたい。まずはEURO 5相当の要件を満たす必要があるから、装備面が増える。それらを搭載するスペースも必要だから車体から再設計するのが近道だろう。エンジンはイケルなら今の空冷2バルブでも充分な気もするし、120km/h時代の高速道路でのゆとりを考えたらもう少し力を掘り起こしつつ低中速トルクを今以上に厚くしたパワーユニットも期待したい。
 

 
 セローとは。それを自問しつつ育ててきたヤマハがどんな手法で新しいセローを組み上げるのか。実はとっても楽しみにしているのである。時代とともに趣味性が際立つオフロードを含めたライディング。乗る人にとってセローはその入り口であり、トランジット先であり、終着点でもある。多様なのだ。

 装備もセローとツーリングセローというような2個性ではく、タクティカルバッグのように出かける先で必要なものを外付けでシュキンと付けられるような存在も期待したい。セローという最良のツール、お待ちしております。
(試乗・文:松井 勉)
 

 

ライダーの身長は183cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

OHC4ストロークエンジンとしてはもっともシンプルな吸排気各1本のバルブを持つセローのエンジン。シリンダー径は74mm、ストロークは58mm。圧縮比は9.7。最高出力14kWと最大トルク20N.mを生み出す。スムーズさが魅力。

 

φ245mmのブレーキディスクプレートと異径2ポッドのキャリパーを組み合わせるセローのフロントブレーキ。タッチはカチっとしているが、効き具合はマイルド。握力で制動力を調整するタイプだ。フロントフォークのストロークは225mm。

 

ブレーキペダル、チェンジペダルとも踏面をフォールディングタイプとすることで、転倒時のダメージを受けにくい配慮がされている。ペダル類の取り回しも同様にオフロード走行に配慮したもの。

 

リアブレーキはφ203mmプレートと1ポッドキャリパーを組み合わせる。スイングアームはスチール製。チェーンアジャスターは多段カムタイプを装備。特徴的なのはリアホイールに採用したチューブレスホイール。オフロードバイクらしいスポークながら、リムセンターに縦リブを設けそこにスポークのネック側を通し、ハブ側にスポークを締めるニップルを取り付けることでリムを一体成形。チューブレスとしての機密性を保っている。

 

角パイプを使ったリアキャリア。その造りはサイズタップリ。シートと荷台の高さを合わせることで荷物の積みやすさに配慮するなどツーリングシーン、キャンプラゲッジの積載シーンをしっかり想定している。キャリアのデッキスペースはプレス成形されたプレートをあわせている。最大積載量は6.5㎏。

 

2018年のマイナーチェンジでXT250Xと同様のテールランプになったセロー。ウインカーなどはヤマハ伝統のオフロード系。小ぶりなサイズが魅力的。リアキャリアには荷掛フックがあり、ネットなどをつかって荷物を積むのに便利。
丸筒型のサイレンサー本体からオフセットされた方向に出た排気口。代々セローが採用する意匠だ。伝統と言えば伝統。デザインを気にするヤマハにしては野暮ったいともいえる。「乗れば文句なし」なセローだけにこれはこれだけど、次期作には期待したい部分。

 

ツーリングセローのパッケージに含まれるアルミアンダーガード。エンジンケースの底部を護るのはもちろん、転倒時などケースカバーへのダメージを軽減する役割も。
ツーリングセローのパッケージキットに含まれるアドベンチャースクリーン。シッティングで高速道路移動をする時、道脇から夏草が生い茂る林道でバサバサとそれらを切り分けるように進むのにも便利。

 

ハンドルガードという名のナックルガードは適度な強度をもつため小転倒では良い仕事をしてくれるにちがいない。また、寒い日、雨の日にもライダーを支えてくれるに違いない。

 

2005年に2代目にスイッチした時からセローはこの液晶モニター。ハンドル周りの軽量化にも貢献する。
ツーリングセローのライダービューがこんな感じ。ハンドルバーは22.2mm径のコンベンショナルなもの。スイッチ類も慣れ親しんだライダー以外でのすぐに扱えるもの。

 

リンクを使ったリアサスは低い位置にマウントされている。シンプルコンパクトな中にぎゅっと機能を詰め込んだデザインがセローの魅力でもある。
ファイナルエディションは初代にオマージュを送るカラーリングとなっている。9.3リットル入る燃料タンク。安定的、定期的に燃料補給が可能な高速道路のサービスエリア。しかし、本来セローが得意とするフィールドでは給油ポイントたるガソリンスタンドの数が減りつつあり、燃費の良さでカバーはしているが、250の軽さと航続距離のバランスは今後の課題にもなるように思う。

 

●SEROW250 FINAL EDITION(2BK-DG31J)主要諸元
■エンジン種類:水冷4 ストローク単気筒SOHC2 バルブ■ボア× ストローク:74.0×58.0mm■最高出力:14kW〔20ps〕/ 7,500rpm■最大トルク:20N・m〔2.1kg-m〕/ 6,000rpm■全長× 全幅× 全高:2100×805×1160mm■ホイールベース:1360mm■シート高:830mm■タイヤ(前× 後):2.75-21 45P × 120/80-18M/C 62P、車両重量:133 ㎏■燃料タンク容量:9.3L■メーカー希望小売価格(消費税10% 込み):558,500 円(本体価格535,000 円) TOURING SEROWアクセサリーセット 販売会社希望小売価格(消費税10% 込み):588,500円

 


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2021/04/05掲載