原稿を書くのに検索すればセローネタがこれでもか、と出てくる。カスタムの定番モノでいえば、エキパイ換えた、サス換えたという話題を筆頭に、山仕様にした、ツーリング仕様にした、盆栽カスタム系等々枚挙に暇がない。愛されているな、セローと時間も忘れて眺めてしまった。
我に返って記憶を辿れば、2018年に現行型となってリバイバル後、いつでも乗れる、という気分だったので、ちゃんと乗れていなかったことを思い出す。そう、テールランプがLEDがXT250Xのモタード仕様になってから以降ご対面したのがこのファイナルエディションだった。
250になった2代目のセローが登場したのが2005年。以来時流に合わせた改良、進化を遂げながらもセローという普遍的なコンセプトを変えずに進んできた。それは初代から続く確固たるものだったからこそ、2代目も16年目の今も鮮度変わらず、というところなのだろう。
本来のコンセプトたる『二輪二足』というハードコアなマウンテントレールに、ウインドスクリーンや大きなリアキャリアなどを取り付けた「旅仕様」は盛りすぎでは? という意見も聞く。反面、リアルなツーリングシーンでは、1泊でも10泊でも、キャンプありきのツーリングなら持ち物の総量は着替えの量が増減する程度で、基本的に大荷物だ。ならば積みやすいリアキャリアは必須。高速移動を快適にするウインドスクリーンも数時間の移動には嬉しい。ハンドガードやアンダーガードといったタフなルックスは華奢なセローを立派なアドベンチャーバイクへと変身させるし、なによりそうした装備は実際に腹打ちしそうな道を行くか行かないかより乗り手を勇気づけてくれる。
キャンプの装備は最低限、最軽量のアイテムを用意するストイックさも一つだし、焚き火台、コット、フォールディングチェアやテーブル、ランタン用のポールにブランケット……。着いた先での快適と充実をみっちり積んでゆくのもスタイルだと思う。そんな点でツーリングセローの装備は、かつてあったAG200にも通じるものがあるし、アウトドアトランスポーターとしてかっこいい。
最終型が持つ完成度。
空荷のツーリングセローに跨がった。その印象はいつものセローだ。コンパクトなライディングポジションだし、足着き性も足まで武器にして山に登ろうというセローワールドを直感させるものだ。コンパクトゆえ、ホイールベースの適正な場所に乗るコトを意識させるあたり、セローが持つスポーツ性だと思う。
空冷OHC2バルブのエンジンは進化を続けてきただけに、回り方に滑らかでフリクションロスの少ない出来映えが伝わってくる。スペックの数字で見ると頼りなくも思えるが、実際に1速でクラッチを繋いだ印象は「トルクフル!」「力強い!」「バイクが軽い!」という言葉が頭に浮かぶ。シフトアップを続けてもその印象は続き、トップ5速に入れてもそれは変わらない。45km/hから50km/h程度で5速に入り、そこからはアクセルだけで気持ち良く走るのだ。なに、この完成度!と驚く。
サスペンションはスムーズだし、以前にましてダンピング感もしっとりしたように思う。細かく上質に磨かれてきた様子が分かった。ABSを持たないブレーキは、フロントに関してはダートでもコントロールの幅を拡げるようタッチは硬め、握り込んでもいきなりロックにつながるような兆候はない。リアもそれにバランスしたどちらかと言えばダルな効き味だ。勿論、力を込めたらロックはするが、そこまでの幅が広いという表現が正しい。ぬかるんだ道でもロック寸前の効き味を引き出せる設定なのだろう。
ツーリングセローでワインディングを走った。しんなり柔らかめな車体はそのまま。ライダーが多少ずぼらな位置に乗ったり、少々こわばった動きをしても車体にモロにそれが響かない。シャープさはないけど良い意味で鈍感で扱いやすい。その分、高速道路ではガッシリした印象はないし、120km/h制限のところでは、そんなこと何所吹く風、と言いたくなる。100km/hで充分じゃないか。と、バイクが諭してくれるようだ。
全体に何所にも尖ったところがない、というか、225時代から続く「勝負はそこじゃない」というスタンスもいい。全体のささくれを丸めた乗り味に最終型の美学を感じたのだ。
今後に私見を交えて。
何時、どんなセローが理想か。
と、自分で振っておいてこれは難しい。今のセローで充分だが、それと同等以上に攻めた新型、これからの新しいセローコンセプトを再定義するような一台を見てみたい。まずはEURO 5相当の要件を満たす必要があるから、装備面が増える。それらを搭載するスペースも必要だから車体から再設計するのが近道だろう。エンジンはイケルなら今の空冷2バルブでも充分な気もするし、120km/h時代の高速道路でのゆとりを考えたらもう少し力を掘り起こしつつ低中速トルクを今以上に厚くしたパワーユニットも期待したい。
セローとは。それを自問しつつ育ててきたヤマハがどんな手法で新しいセローを組み上げるのか。実はとっても楽しみにしているのである。時代とともに趣味性が際立つオフロードを含めたライディング。乗る人にとってセローはその入り口であり、トランジット先であり、終着点でもある。多様なのだ。
装備もセローとツーリングセローというような2個性ではく、タクティカルバッグのように出かける先で必要なものを外付けでシュキンと付けられるような存在も期待したい。セローという最良のツール、お待ちしております。
(試乗・文:松井 勉)
■エンジン種類:水冷4 ストローク単気筒SOHC2 バルブ■ボア× ストローク:74.0×58.0mm■最高出力:14kW〔20ps〕/ 7,500rpm■最大トルク:20N・m〔2.1kg-m〕/ 6,000rpm■全長× 全幅× 全高:2100×805×1160mm■ホイールベース:1360mm■シート高:830mm■タイヤ(前× 後):2.75-21 45P × 120/80-18M/C 62P、車両重量:133 ㎏■燃料タンク容量:9.3L■メーカー希望小売価格(消費税10% 込み):558,500 円(本体価格535,000 円) TOURING SEROWアクセサリーセット 販売会社希望小売価格(消費税10% 込み):588,500円
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