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レース・イベント

■文:西村 章  写真:PETRONAS Yamaha Sepang Racing Team

 2月中下旬から三々五々始まった各陣営各チームの2021年チームプレゼンテーション、今回はヤマハサテライトチームのPetronas Yamaha SRTである。

 サテライトチームとはいえ、プレシーズンテスト開始を今週末に控えたウィークでの発表会は、なにやらいよいよ〈真打ち登場〉といった趣すら漂う。それもそのはず、このチームには今シーズン、バレンティーノ・ロッシが合流するのだ。2000年に、当時は2ストローク500ccというマシンスペックで争われていた最高峰クラスへ昇格して以来、MotoGPの世界的人気を一身に背負ってきたスーパースターの所属するチーム発表なのだから、ファクトリーチームと同等かそれ以上にワールドワイドな注目を集めるのもむべなるかな、である。

 それにしても、である。最高峰昇格初年と2年目こそNastro Azzurro Hondaというサテライト体制での参戦だったが、2002年にファクトリーのRepsol Honda Teamへ移って以降、ホンダ→ヤマハ→ドゥカティ→ヤマハとメーカーを移籍しても、ロッシは常にファクトリーチームのライダーとして19回のシーズンを戦ってきた。その彼が、2021年シーズンは20年ぶりにサテライトチーム所属のライダーとして戦うことになる。

 もちろん、サテライトチームとはいえどもマシンの仕様はファクトリースペックだし、処遇だってファクトリー契約である。とはいえ、所帯としてのサテライトチームは、やはりメーカー直結のファクトリーよりはある程度小規模にならざるをえないし、マシン開発の最先端を担うわけでもない。

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 そんなこまごまとした差異はあるものの、なんだかんだいってもやはり、一挙手一投足のすべてに注目が集まるバレンティーノ・ロッシである。今回の発表会は、3月1日(月)のチームプレゼンテーションに続き、同日の日本時間夜にはチームプリンシパルのラズラン・ラザリとチームディレクターのヨハン・スティーグフェルトの質疑応答が各40分程度、例によってオンラインのZoom形式で行われた。

 翌2日(火)は、昨年は3勝を挙げてランキング2位、と大活躍のシーズンを過ごしたフランコ・モルビデッリとMotoGPチームマネージャーのウィルコ・ズィーレンバーグの各Zoom囲み取材。そして3日(水)にいよいよロッシがZoomに登場、と、他に類を見ない3日間をかけた大河発表会になった。

 ロッシの圧倒的な存在感もさることながら、このチームをそれだけの高い注目を集めるまでに育て上げたのが、上記のチームプリンシパル、ラズラン・ラザリである。マレーシア出身でセパンサーキットの運営にも携わっていた彼は、マレーシアGPの観客動員を毎年1~2万人規模で着実に増やし続けて、現在は17万人規模のイベントへ育て上げ、同国のMotoGP人気発展に大きく貢献した。また、このSRT(Sepang Racing Team)も、2015年にMoto3クラスへの参戦を開始して以来、チームの規模を着実に拡大しつづけて、ついに最高峰クラスまで組織を広げて世界的スーパースターへシートを提供するに至った。チームを運営し、スポーツビジネスを采配する彼の手腕が卓越していることは疑問の余地がない。

 国営燃油企業ペトロナスを冠スポンサーに戴くマレーシアのナショナルチームをここまで大きくしてきた彼に、バレンティーノ・ロッシという世界的スーパースターを自分たちのチームに擁することは、マレーシアにとって、そしてマレーシアのレースファンにとってどのような意義があることなのか、と月曜の質疑応答の際に訊ねてみた。


「それはもちろん、とてつもなく大きなことですよ」
とラズラン。


「マレーシアや東南アジア諸国には、たくさんのバレンティーノファンがいます。私がセパンサーキットを運営していた時代、1コーナーにバレンティーノ応援席を設けていたのですが、そのエリア1万8000枚はキレイに完売しました。去年まで彼はヤマハファクトリーチームに在籍していましたが、今年は我々のナショナルチームに加入しました。これは(マレーシアの)ファンにとって感無量で、すごくエキサイティングなことです。

 それだけに、今年の10月にマレーシアGPを開催することは非常に重要です。我々のホームレースで、バレンティーノが我々のチームのライダーとして走ることになるのですから。マレーシアや東南アジアのバレンティーノファンにとって、こんなに感動的なことはありませんよね」

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 それにしても、中小排気量時代から通算すると四半世紀もの間(2021年は、1996年に125ccクラスでデビューして以来、26年目のシーズンになる)現役の第一線で活動を続けてこれほどの人気を保ち続けるアスリートは、他にちょっと思い当たらない。そのロッシの水曜日に行われた囲み取材では、20年ぶりにサテライトチームのライダーになることにどういう印象を持っているか、という質問が出た。


「長い間ファクトリーライダーだったからね。2002年から2020年まで、19年間になるかな」

 そう振り返ったロッシは、20年前のようにサテライトチーム所属となったことを「居心地がいい」と述べる。


「サテライトチームはバイクに関わる人の数も少ないけど、仕事のしかたが(ファクトリーとは)やや異なるので、バイクの開発に関わるよりもレースのパフォーマンスに集中しやすくなる。これは好材料だろうね。技術面ではヤマハからフルサポートもあるし。このチーム(SRT)は、去年までの2年間で勝つ実力があってライダーをトップへ押し上げる力があることをすでに証明済みなので、今年も高い水準を発揮するだろうし、開幕が楽しみだよ」

 この言葉にもあるとおり、ファクトリーチームと違って開発に関わらない、というところにサテライトチームの利便性を見ているようだ。


「レースウィークは、バイクの開発が優先事項じゃなく走りに集中できるのは、リザルト(を狙う)面ではいいことだと思う。去年は、サテライト勢の選手たちが何度もいい結果を出してきた。ファクトリー勢のほうが問題を抱えていたこともあった。だから、これ(サテライトという環境)は自分にとっていいことだと思う」

 自身の新シーズンに向けた抱負は、あくまでも上位で争うこと、だという。


「ただ時間を消化するためにレースをしたことなど、いままで一度もない。今年は自分にとって非常に重要なシーズンになると思う。2019年と2020年は、自分で思っていたほどの走りをできなかった。なんといっても、リザルトが良くなかった。リザルトはやはり大切だよ。僕は高い水準で戦いたいし、過去2年よりも強くなりたいとも思う。シーズンを通じて高いレベルで表彰台争いをしたいし、優勝も狙いたい。今の世界的な感染状況がまだ収まらないとしても、今年は昨年よりはある程度まともなシーズンになってほしいと思っている。できるかぎり、いつもと同じような進行で各地に行ってレースをできることが望ましいね。だから、目標はシーズン最初から最後まで力強く走ることだね」

 戦う以上は高みを目指す。当然といえば当然のことだが、20年以上も世界最高峰の場で意気軒昂な闘志と意欲を保ち続けるバレンティーノ・ロッシの42歳という年齢を考えると、やはり超人的ななにかを感じざるをえない。今週末の6日(土)からカタールで始まる2021年プレシーズンテストは、最高峰クラス22回目のシーズンの帰趨を測る最初の試金石になるだろう。

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【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」は絶賛発売中。


[Part3 Repsol Hondaに訊くへ]





2021/03/05掲載