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■インタビュー・文:西村 章  写真:Repsol Honda Team

 2021年プレシーズンテスト開始をいよいよ翌週に控え、2月22日(月)にRepsol Honda Teamがオンラインでチームプレゼンテーションを行った。YouTubeやMotoGP公式サイトなど複数のチャネルで公開されたこのプレゼンテーションでは、HRCゼネラルマネージャーの桒田哲宏氏、チームマネージャーのアルベルト・プーチ、そして、マルク・マルケスとポル・エスパルガロ両選手ならびに彼らのチーフメカニックを担当するサンティ・エルナンデスとラモン・アウリンのコメントなどが紹介された。

Repsol Honda
Repsol Honda
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 昨年のRepsol Honda Teamは、マルク&アレックスのマルケス兄弟というラインナップだったが、兄マルクが右上腕の骨折でシーズンを棒にふり、テストライダーのステファン・ブラドルが代役として弟のアレックスとともにシーズンを戦った。そのアレックスは今シーズン、サテライトのLCR Honda Castorolへ移り、同じくLCR陣営の中上貴晶のチームメイトとなった。

 昨シーズン弟が占めていたシートに今季新たに坐ることになったのは、昨年まで4年間KTMファクトリーチームに在籍していたポル・エスパルガロ。マルクとは少年期のカタルーニャ選手権時代にチームメイトとして過ごし、この時代以後はそれぞれ別のチームで好敵手として戦ってきた。ともに世界の舞台へ昇格してからは、Moto3やMoto2時代に熾烈なチャンピオン争いも繰り広げた。そのふたりが、世界最高峰でホンダファクトリーのチームメイトとなったのだから、まさに〈巡る因果は糸車〉(←古い)である。

 さて、この公式プレゼンテーションの後には、両選手を囲む質疑応答が例によってZoomミーティングの形式で執り行われた。まず最初に登場したマルケスだが、公式プレゼンテーションでも明らかにしたとおり、カタールのプレシーズンテストには参加しないことが決定している。では、その後についてはどんな予定や見通しを立てているのか。当然のように投げかけられたこの質問に対して、マルケスは「まだ、はっきりとしたことはわからない」と正直に回答した。


「でも、自分では前向きな展望を持っている。最初に立てていた目標はカタールテストで、それはダメになったけれども、その週に医師の診察を受けることになっている。だから、次の目標はカタールの開幕戦に間に合わせること。それがムリならカタールの2戦目。それも不可能なら、ポルティマオを目標にする。

 いま大切なのは、骨がしっかりくっついていると医師に確認をしてもらうことで、OKが出ればリハビリを開始することになる。時間のかかることで、すでにトレーニングも始めているけど、あまりムリはしないようにしている。骨がしっかりと100パーセントくっついていれば、今度は筋力を戻すトレーニングに取り組んで、バイクに乗れるコンディションを作っていく。

 骨が良くなって筋力も戻り、体調がよくなっているとはいえ、時間のかかることなので、現状ではまだ100パーセントじゃない。とはいえ、MotoGPバイクに乗れる状態に向けてしっかりといい方向に進んでいることはまちがいない」

#93マルク・マルケス
#93マルク・マルケス
#93マルク・マルケス

昨年の負傷から復帰を急ぐあまり、マルケスは今までの競技生活の中で時間的に最大の代償を払うことになってしまった。その試練が非常に辛いものであったことも想像に難くない。では、その辛い経験からどんな教訓を得たのだろう。やや直截すぎる問いかとも思ったが、あえてこの質問をストレートに訊ねてみた。


「もちろん、2020年はあまりいい1年じゃなかった。でも、それなりにいくつか学んだことはあった」

 穏やかな笑みを見せながら、マルケスは率直に述べた。


「そのひとつはもちろん、終始リスクを取ろうとするあまり、復帰を急ぎすぎたこと。ヘレス(2戦目)で復帰を狙ったのは明らかな誤りで、結果的に僕たちはその代償を払うことになった。復帰を狙ったことには様々な要因があるとはいえ、最終的には、大丈夫と考えた僕自身の判断にある。これは今後に向けておおいに教訓とすべきことだけれども、幸いにも、今は順調な回復の途上にある」

 彼のレース人生の中でもバイクに乗ることができない最長期間を過ごしている、というマルケスだが、上記で述べた自らの拙速な判断とそれに起因する長期欠場の期間は、9月と10月が最も肉体・精神ともにキツかった、とも振り返っている。


「というのも、その時期は腕のフィーリングがまったく変わらなかったから。悪化はしていないけれども、だからといって治癒している様子もない。まだ(体の)中で、なにか動くような感じがずっとしていた。様々な診察を受けて、医師たちはそのたびに時間がかかるというので、言われるとおり辛抱強く待ったけれども、感覚的にはまったく変わらなかったので、あの二ヶ月は本当に辛かった。その後、3回目の手術をして10日間入院し、その期間は万全の状態ではなかったけど、やがて少しずつ、腕の感じが良くなってきた。

 でも、僕はいつも前向きにものごとを捉えるようにしているので、二度とレースをできないと思ったことはない。次にバイクに乗れるときのこと、次に走り出してテストをして、レースをできるのはいつか、ということばかり考えている」

 では、今のマルケスは、何を目標に据えているのだろう。


「今はっきりしているのは、カタールテストには行かない、ということ。3月中旬に医師に腕を診てもらい、そこで骨がしっかりとくっついているとわかってOKが出れば、トレーナーとジムでリハビリを開始する」

 この質疑応答の冒頭でも明かしたとおり、カタールテストはすでに諦めている。だから、次の目標はあくまで開幕戦、と繰り返した。


「でも、それは医師の判断次第だし、時間がかかることもわかっている。体調が充分に戻って、自分でも、もう大丈夫、と思えたときに、MotoGPバイクに跨がることになるのだと思う。たとえば、医師が明日乗っても大丈夫だよ、といったところで、まだ自分にその準備ができているわけじゃない。明確な目標設定は立てないようにしているけど、唯一はっきりしているのは、カタールテストには参加しない、ということ。なによりも今もっとも大切なことは、前週よりも今週はいい状態に戻す、ということを続けていくことだね」

#44ポル・エスパルガロ
#44ポル・エスパルガロ
#44ポル・エスパルガロ

 次に、エスパルガロのZoomミーティングでは、新たなチームメイトとなるマルケスと、ファクトリーチームの仕事を協業していくことについて質問が出た。


「MotoGPの初年度は、YAMAHA陣営のサテライトチームだった。ファクトリーとは異なるスペックなので、速さを発揮するには自分たちの持てるものすべてを出しきる必要があったし、最高峰クラスルーキーだったので、チームメイトと協力することはとても大切だった。KTMでは、まったく新しいプロジェクトでチームそのものがまっさらの状態だった。他陣営に追いつくためには、皆で一致団結してがんばらなければならなかった。

 しかし、ここ(Repsol Honda Team)はそういうのとはまったく状況が違っていて、すでに実績のある勝てるバイクだし、パッケージはとても良い。チームメイトとよく話し合って協力しながら、改善を目指していく必要に迫られているわけでもない。だからといって、選手同士の関係性がイマイチでもいい、ってわけじゃない。相互に助け合う必要がないにしても、ピットの雰囲気が良いことは、何によらずいい方向に作用するに決まっているんだから」

 今回、KTMからHONDAへとマシンを乗り換えるに際しては、マルケス独特のライディングについてかなり考察したという。なかでも、奇跡のような数々の転倒回避術を自分もモノにしなければならない、と考えているのだとか。


「クラッシュしなかったからこそ、マルクはポイントをたくさん稼いできた。もし、転倒を回避できていなければ、あれだけの勝利数を挙げることもなかっただろう。だから、マルクがいったいどうやって転倒を防いでいるのか、それを僕も身につけなきゃならない、ということなんだ」

 同様に、他のHONDAライダーからも学ぶことは多い、と述べる。


「サテライトチームの選手たちもファクトリーバイクだし、それに乗るアレックスとタカはふたりとも超絶速いライダーだ。テストライダーのステファンもプレシーズンからたくさん乗り込んでいて、彼もカタールテストに参加する。だから、ステファンからもいろいろと教えてもらうことになるだろうね。

 あとは、マルクがいつ復帰するか。できれば開幕戦に間に合ってほしいけど、そこはまだ未定のようだ。でも、できるかぎり早く戻ってきてほしいと思っている。マルクはチームのナンバーワンライダーで、このバイクを誰よりも速く走らせることができる。だから、彼からたくさんのことを学び取りたいし、マルクの復帰が早ければ、その分だけ僕も彼の近くで学習して速くなっていける。速くなるための最大の近道は世界最速の選手と一緒にいることで、それはまちがいなくマルクなんだから」

 とはいえ、マルケスがテストに参加しないことはすでに明らかになっている。しかも、今年はプレシーズンテストが1会場5日間というコンパクトなスケジュールだ。


「新たにチームへ加入して初めてのバイクに乗るに際して、もちろん完璧なプランとはいえない。MotoGPのレベルはすごく高くて、若い才能はどんどんやってくるし、どのファクトリーも実力があるので、きっと皆が最初から飛ばしてくるだろう。

 そんななか、開幕まで5日間の準備しかないわけだけど、言い訳はできないよ。プレシーズンの準備が短いことは最初からわかっていたことだし、チームとも開幕に向けた準備と戦略をすでに相談している。早く順応して、開幕にしっかりと備えたいね」

Repsol Honda

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【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」は絶賛発売中。


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2021/02/26掲載