MT。マスター・オブ・トルク。そして「スロットル操作に対し、リニアにトルクを創り出す」という設計思想。それをヤマハではクロスプレーン・コンセプトと呼んでいる。
MTの名が登場したのは、2005年。クルーザー系の空冷OHV4バルブエンジンを搭載したMT-01から始まる。ロードスター・ウォーリアも積んでいた1670ccエンジンと、巨砲とも言える2本出しのサイレンサーそのものがリアフレームなのか! というインパクトをパックにしたスタイル。猛烈な鼓動感とロードバイクのハンドリングを加味して考えても、好きになったら離せないタイプのバイクだ。
初代MT-03(2006年)は、テネレ用だった水冷単気筒660㏄エンジンを搭載し、ホリゾンタルマウントのリアショックなどユニークな設計とスタイルは01が切り開いた既成概念をぶっ飛ばす系のパッケージで造られた単気筒ネイキッドスポーツだった。
そして2014年。並列3気筒エンジンと、まるでモタードバイクのような乗り味にまとめた新種のロードバイクとして登場したMT-09で再びMTの名が脚光を浴びる。その後、MT-07、MT-25、MT-03、MT-15、MT-10とそのテリトリーを拡げたことはご存じの通り。
「一手間かけた」だけなのに……。
今回走らせたMT-09は、SP専用のシルバー、ブラック、ブルーのR1M、MT-10 SPと共通するイメージのボディーペイントや、ホイールカラーの採用はもちろん、専用シート表皮やメーターパネル表示もオリジナルモデルとは異なる「一手間」が加えられている。
何より、このSPにはリアにオーリンズ、フロントのサスも専用チューニングを施したKYBを装備する上級バージョンであり、乗り味にも変化が加えられている。その変化ぶりは、いわゆる市販品を取り付けたのとは味わいがどう異なるのだろうか。
かつて大人気を誇ったネイキッドモデルにXJRシリーズがあった。400と1200、1300があったそのモデルにもオーリンズの2本ショックが採用されていた。そのモデルに乗った率直な印象は「あれ、意外と普通だな……」というもの。それは、取材で乗った経験があるオーリンズに交換したカスタムバイクのそれに比べると、スタンダードモデルのような乗り味だったからだ。
しかし、しっかり味わうと、やはりサスの動き始めの部分が滑らかで突き上げ感が少ない。タイヤと路面と接触するその印象がこと細かに伝わるのに、ダイレクト感がある。そのダイレクト感はあたかもサスが介在していないような(いや、高性能なサスが介在しているからこそ、そう感じるのだ、と結論付けるまで少々の時間を要した)しっとりとしたもので、雑味がない。
カスタムバイクのそれは、もう少しサスの存在感が出る。それもそのはず、機種向けキットとはいえ、バネレートはノーマル同等だとしても、イニシャルプリロードや減衰圧ダイヤルはそのバイクや乗り手のベストなセットアップではなく、ましてや日本の速度域での設定でもない。あくまでアフターパーツメーカー、オーリンズが店頭に置くために設定した出荷状態。そこに乗り手の好みのハンドリングに合わせた車体の姿勢作りやイニシャルプリロードの設定、さらには好みの減衰圧を決めていくなんて作業まで入ってくると、途方にくれることになる。
もちろん、それを突き詰めれば自分の好みに近づくが、理想はどこ? ハンドリングがこれだ! ブレーキを掛けたときのダイブ感は、この速度でこんな感じじゃないとイヤだ……! 等々、明確な好みとそれを反映するセッティング能力が必要になる。
電子制御セミアクティブサスペンションの時代になり、減衰圧調整で車体姿勢や、加速した時の姿勢変化を穏やかにすることで、フロントが地面から離れるのを抑えるなど、アクションに対するリアクションも、経験値を積んだ人に教わりながら変更すると、こんな方向に変わるのか! という体験をした身としては、コンベンショナルなサス、しかも高性能、高機能なオーリンズの旨味を引き出すのは難題だし、調整幅を超えた場合、そもそも減衰圧を生み出すシムバルブの積層やそのサイズ、それらの変更で変わるシムバルブの剛性をどう変えればどう変化する、というさらに高い学費を投じて学ぶ必要が出てくる。
これは、サスペンション・マジック!
その点で、MT-09 SPは、かつて乗ったXJRのようにしっかりとバイクのキャラクターになじみ、それでいてオーリンズらしい動きの良さを味わわせてくれた。さらにMT-09を知り尽くした開発者達がセットアップしただけに、僕が弄りたくなったのはイニシャルプリロード程度。座った時にリアが沈む量を調整し、前後のサスにかかる荷重バランスを調整したレベル。コツコツ感があるのは、伸びを1、2クリック緩めるか、タイヤの空気圧をほんの少々下げるだけで変わりそうだ、という方向性を簡単に連想させてくれるのも高性能サスのメリット。
つまり、車体パッケージの純度を高め走りの価値観をわかりやすく伝えてくれているのだ。市街地や首都高を流してもMT-09らしい機敏さを持ちながら、走る安心感の部分がグレードアップしている。コーナリングでは寝かせはじめから曲がり終わるまで流す速度ながらリアにもじんわりと荷重が乗り、タイヤを路面に押しつける印象が解る。今の寒い時期、走り出しから安心感醸成には嬉しい部分だ。
過去、MT-09に乗るとついついメリハリの効いた走りをしていた。コーナーのアプローチでは、シフトダウンを必ずして、ブレーキングで姿勢変化を呼び出し、寝かせるとグッと3気筒のトルクを引き出すためにアクセルを多めに開ける。ギューンという排気音に刺激されながら、次のカーブを狙う……。マインドとしてはハンターな気分。
それがSPでは溢れ出さない。むしろアクセルのオンオフすらさほどしないでスイスイと思い通りの走りをバイクが勝手にしてくれる印象になっている。大人しいのではない。いつものパタンで走らせると、いつもより楽しいMT-09との世界がそこにあった。
結論として、やはりメーカーの仕事は丁寧で確実だ。サスを換えたからではなく、車体剛性やエンジンの旨味がある部分、吸排気諸元や環境規制と制御関連など生みの親であるからこそ知っている右手のひねり方やOEMタイヤのキャラに合わせた全体のチューニング。ライダーはそられのパッケージに誘われるようにバイクの美味しい部分を使って走る。結果、それが上質なものか、どうかはシンプルにオーリンズだから、とは言えない部分だと思う。
だからホントのところ、KYBでもさらに上行くサスフィーリングを合わせ込むことは出来るのだろう。ただ、コスメというカスタムや所有感には欠かせない部分に神通力を持つオーリンズ、ということなのだろう。ミーハーな僕もどっち??と聞かれたら、オーリンズを選択する。だって、かっこいいし(笑)。まさにカスタムの術中にはめる技、お見事でした。
(試乗・文:松井 勉)
■エンジン種類:水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ■総排気量(ボア× ストローク):845cm3(78.0× 59.0mm) ■最高出力:85kw(116PS)/10,000rpm ■最大トルク:87N・m(8.9 kgf・m)/8,500 rpm ■変速機:6段リターン ■全長× 全幅× 全高:2,075 × 815 × 1,120mm ■軸距離:1,440mm ■シート高:820mm ■キャスター/トレール:25°00′/103mm ■タイヤ:前120/70ZR17M、後180/55ZR17M ■車両重量:193kg ■車体色:ブラックメタリックX ■メーカー希望小売価格(消費税込み):1,133,500円
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