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試乗・解説

YAMAHA XSR900 ABS ヤマハ・モダンクラシックの秀作。トレンドを昇華させたプロダクトに◎!
MT-09シリーズと車体骨格、エンジンを共有しつつ、見事にXSRという別キャラ、別カテゴリーのバイクに変身を遂げたその手法は、まさにメーカーカスタム。カラーリングを含めた着せ替えパッケージなのだが、それに終わらないヤマハのまとめ上げ力はさすが。XSR900を今一度しっかり見てみることになった。
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:渕本智信 ■協力:ヤマハ発動機 https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/






 1960年代後半から1970年代にかけて日本のメーカーは、世界のビッグバイク市場に一石を投じることで今に続く歴史を作ってきた。ZやCB、GSなど、大排気量並列4気筒エンジン搭載の750㏄~オーバー750㏄クラスをルーツにするバイク達は、今なおファンを魅了してやまない。また、現在販売されるモデルには当時を思わせるセルフカバーなモデルがあるのもご存じの通りだ。

 その中、ヤマハが最初に4ストロークのビッグマシンとしてXS1を送り出したのは1970年のこと。しかもバーチカルシリンダーとした並列2気筒エンジン。4気筒エンジンで世界の勢力図を塗り替える勢いだったライバル達とは異なり、それ以前に覇権を握っていたブリティッシュトラッドなスタイルを選択した。

 その後もGX/XS750が搭載する並列3気筒エンジン+シャフトドライブという駆動系の採用など、独自路線を歩むヤマハ。空冷4気筒として、海外向けにXS1100が登場するのが1977年。国内向けにXJ750が登場したのが1981年。ナナハンのエンジンはそのベースをXJ650と共用にしたもので、国内仕様のZやCBがリッタークラスのスケールダウンとした大きなエンジン、大きな車体だったのに対し、玄人好みのコンパクトさで差別化を図っていた。
 

 
 こうした流れは今見たら大正解ながら、650ベースのエンジンや、シャフトドライブを採用した駆動方式は違いの分かる人専用、というか、当時としてはマニアックなベクトルだったようにも思える。その後、前傾シリンダーと5バルブを持つFZ750シリーズで一気に世界を変えてくるのだが、その動きを振り返れば、ヤマハの振り幅の大きさは大正解ながら、当時を思い出すと凄すぎてよく解らない部分もあった。
 一方、ヤマハの歴史、その史実からXSR900を読み解くのは少々難しい。最新モデルのZ900RSやCB1100シリーズ、KATANAといったモデルのように明解なイメージ「原型」があるわけではないからだ。だが、それがどうした? XSR900は往年のヤマハをしっかりイメージさせるし、それを良い塩梅でふんわりさせる線で誰もが自由に頭の中で旅しながらも、今のトレンドであるモダンクラシックとしての高い完成度を堪能できる。固定概念的に歴史観を限定させないから、イメージを自由に飛ばしやすいのが嬉しい。

 例えば自分の目線でXSR900を見ると、試乗車の白に赤い塗り分けはモータースポーツを彩ったヤマハのワークスマシンのソレにも見えるし、空冷から水冷になる頃のYZシリーズにもなぞらえることができる。ロードにもオフにもあったゴールドホイール。タンクの横顔はRZ250風に思えるし。テールランプも往年の丸形テールのヤマハ車のよう。
 

 
 私個人の記憶やバイクに憧れた頃穴が空くほどに見た雑誌、資料で過去のヤマハ車など、何枚ものフィルターを通して自分の脳が描くXSR900像だ。間違いなく言えるのは、アルミダイキャストフレーム+スイングアームで、前後17インチラジアルを履いた歴史的モデルなんかない。かつてヤマハはコンセプトモデルとして空冷Vツインを乗せたSAKURAや125MOEGIなど提案をしてきた。美しいスタイル、排気量やスペックにとらわれない新しい価値観に心を掴まれた人は少なくないはず。

 そうした工芸品のようなまとまりがありながらも、そうしたモデルが持つ芯の固さ、というか、こだわりの塊、というか、恭しく愛でるのが正しい、という感じとも異なるXSR900にはカジュアルさが備わっている。そこが良いのだと思う。

 それにしてもだ。ベースとなったMT-09 から外装、ハンドルバー、シート位置などルックスと見た目だけですっかり見る側の気分を変えてくれる。デザインの勝利であり、パッケージの妙だ。ライダーのポジションが変わる、サスペンションのセットアップが変わる、エンジンだって使いたい回転領域が変わってくるし、XSR900とMT-09は基本的に同じ並列3気筒エンジンサウンドこそするが、全くの別キャラに思える。

 これ、例えばCB1100RSとCB1100EXでも似たようなコトが言えそうだ。不思議なのは、CB1100だったら僕はEXが好みだけど、ヤマハの2台だとどちらも別キャラ、別のバイクとして体も頭も認識している。好みの問題もあるのだが、どちらも1つを2つに作り分ける仕事なのにだ。
 

 
 XSR900を走らせると、良い意味で外観同様、脳がちょっと古いヤマハ車に思いを飛ばし始める。その源泉となるのは、MT-09と比較してまさにポジションの違いだ。前後に長く伸ばされた燃料タンクに合わせ、着座位置は後方に移動した。ステッププレートやフットペグは2台を並べるとフレームへの取り付け位置まで共通だが、着座位置が違うだけでXSR900のほうが下半身はリラックス、上体は前傾したスポーツバイク的ポジションに思える。

 ハンドリングも同様。後輪にしっかり体重を預けているようで、ハンドリングのレスポンス、特に寝かせ始めた初期のフロントタイヤの向きの変わり方は17インチ的なものなのに、その後、寝かせるほどにその速度がマイルドになり、大径細身タイヤだったバイクのような穏やかでどっしりした印象へと変わる。そこにどこの回転域でもトルクフルな3気筒エンジンに右手から指令を出し、駆動を乗せて行くときの印象は、キビキビしたMT-09とはまた違った味わいなのだ。

 一体感の造り方がXSR900ではライダーとバイクが一緒に寝ながら曲がるのに対し、MT-09は動作的には似ているものの、バイクを寝かせてスパっと曲がるようなライダーのポジションを中心にスルリと曲げるような印象だ。もう一つ、MT-09だと走行モードを切替しつつしっかり味わいたくなるが、XSR900 だと、STD、A、Bとあるモードは乗り手が鷹揚に受け止め、あまり変更しなかった。個人的にたしかにBよりはSTDが好み、という印象はあったが、走る場面、それぞれでいじってみたくなるMT-09とはここも異なる部分だった。
 

 
 これも好みで、XSRのほうがダルと言えばダルだ。その分、走っている間、コントロールを味わい尽くす感じのMT-09よりも、景色やライディング以外の部分に気持ちを振り分けることができる。乗ってキャラ違いだと思うのもそんな違いだからだと思う。

 このスタイル、乗り味でバイクの個性をXSRというものにチューニングしてくる仕事の確かさ。これぞメーカーだからこそできるカスタムではないか。そう思ったXSR900なのである。
(試乗・文:松井 勉)
 

ライダーの身長は183cm。写真の上でクリックすると、両足着き時の状態が見られます

 

クロスプレーンコンセプトを掲げるエンジン。位相角120 度等間隔の3気筒エンジンは、回転域を問わず開けた瞬間にトルクをギュウっと絞り出す特性が魅力。845㏄ながらその特性により独自の魅力を持っている。回せばワープするかのような陶酔感と並列3気筒独自の音で刺激を止めない。アシストスリッパークラッチを装備するため、クラッチレバーの操作力はとても軽い。

 
 

φ298mmのディスクプレートとラジアルマウントされる4ピストンキャリパーを二連装するフロントブレーキ。ラジカルホワイトにはゴールドのホイールをフィットする。長さ、丸みに言うこと無しのフェンダーは、倒立フォーク故アクスルホルダー側にステーを持つスタイルに。太いアウターチューブが上、φ41mmのインナーチューブが下、という倒立フォークながら、まるで正立フォーク的に下方に重量バランスがあるような意匠を手に入れている。

 

リアショックは路面と水平に近い角度でマウントされている。スイングアーム、フレームが美しく立体的にデザインされているのが解る。
マフラー側のアームはごらんのように湾曲している。コレクターボックスから短く生えるマフラーエンド部分。ステップ下側から全体がエンドチップとした別パーツとなっているのはもちろん、エンドピース形状とリベット留めされたバンドをもした造形は見事。リアブレーキはφ245mmのディスクプレートとピンスライドキャリパーを組み合わせる。

 

シート表皮も細かくテクスチャーやステッチで味わいの切り返しをつけている。タンクにあるXSRのマークはエンボス、シートにはデボスでそれを刻印。全体のフォルム、厚みともスキのないデザインだと思う。

 

タンクのえぐり造形、一筆書きのようなライン。80年代初期のヤマハを彩ったスポーツバイクを連想させてくれたディテールがこれ。オフセットさせた給油口も全体の中でソレを補強する。これはライダーの年代によって全く自由にイメージさせるためにヤマハが仕掛けたマジックなのだろう。あえて名は体を表すに固執しないスタンスもモダン。いかにもニーグリップで膝とフィット感ぴったりに見えて、私の体格では膝はフレームとタンクカバーの隙間を挟む印象に。接触感は悪くないのでそれが気にならない。むしろ、タンクがしっかり見えるという妙が。

 

ガラスレンズ+マルチリフレクターの丸形。ライトケースも絞り加工のお椀型的なものではなく、テールランプ、メーターケースと同じような筒形状。これもカスタムトレンドだと思うが、倒立フォークの間に存在する丸形ヘッドライトの再定義のようなグッドルッキンだ。LEDではなくあえてH4ハロゲンという白熱球にしたんですよね、と思わず褒めたくなるものだ。

 

黒いテーパードチューブのハンドルバー、70年代風味のハンドルスイッチ類。オフセットした単眼デジタルメーター。今をベースに見事にネオレトロを演出したXSRのコクピットと操作系周り。LED照明を活かした視認性の良さとデザインの良さ。アナログの速度計と回転系がシンメトリックに置かれているよりもカフェレーサートレンドをダイレクトに封入していると思う。

 

エンジン、マフラーと凝縮したエリアに映えるステップ。ペグの長さ、ブレーキペダルの位置、角度、チェンジ側を含めまったく気を遣わせない作り込みがなされている。

 

テールランプは丸形。その筒形状はヘッドライトやメーターなどにも共通する造形。オフ車のようなストレートかつアップフェンダーの上に載せるあたり、下敷きにした過去のなにか、ではなく、XSRというまったく新しい個性を生み出していると思う。XSなのか、XなSRなのか、妄想はご自由に、という提案がカッコいい。

 

シート脇のプレートも拘った造形と表面処理がなされている。また、外装意匠に見える部分に使われるボルトの造形にも統一感がある。
MT-09では隠れていた電装パーツの取り付け位置が、XSR900では露出したため、ステアリングヘッドから流れる部分にあるボックス形状の部分には専用のフタが設けられた。当たり前のようにそこにあるので、全く気にならないのは、外観へのぼかし方が絶妙だからだと感じる。

 

塊から削り出し加工したかのようなヘッドライトステー。そのステーは、フォークのアウターチューブをクランプするのではなく、別ステーに締結されている。小径なヘッドライトとフォークスパンを上手く埋める役目も持たされている。
こちらはタンク上にあるXSRのエンブレム。

 

●YAMAHA XSR900 ABS 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ■総排気量(ボア× ストローク):845cm3(78.0× 59.0mm) ■最高出力:85kw(116PS)/10,000rpm ■最大トルク:87N・m(8.9 kgf・m)/8,500 rpm ■変速機:6段リターン ■全長× 全幅× 全高:2,075 × 815 × 1,140mm ■軸距離:1,440mm ■シート高:830mm ■キャスター/トレール:25°00′/103mm ■タイヤ:前120/70ZR17M/C 58V、後180/55ZR17M/C 73V ■車両重量:195kg ■車体色:ラジカルホワイト、マットグレーメタリック3 ■メーカー希望小売価格(消費税込み):1,061,500 円

 


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2021/01/18掲載