1960年代後半から1970年代にかけて日本のメーカーは、世界のビッグバイク市場に一石を投じることで今に続く歴史を作ってきた。ZやCB、GSなど、大排気量並列4気筒エンジン搭載の750㏄~オーバー750㏄クラスをルーツにするバイク達は、今なおファンを魅了してやまない。また、現在販売されるモデルには当時を思わせるセルフカバーなモデルがあるのもご存じの通りだ。
その中、ヤマハが最初に4ストロークのビッグマシンとしてXS1を送り出したのは1970年のこと。しかもバーチカルシリンダーとした並列2気筒エンジン。4気筒エンジンで世界の勢力図を塗り替える勢いだったライバル達とは異なり、それ以前に覇権を握っていたブリティッシュトラッドなスタイルを選択した。
その後もGX/XS750が搭載する並列3気筒エンジン+シャフトドライブという駆動系の採用など、独自路線を歩むヤマハ。空冷4気筒として、海外向けにXS1100が登場するのが1977年。国内向けにXJ750が登場したのが1981年。ナナハンのエンジンはそのベースをXJ650と共用にしたもので、国内仕様のZやCBがリッタークラスのスケールダウンとした大きなエンジン、大きな車体だったのに対し、玄人好みのコンパクトさで差別化を図っていた。
こうした流れは今見たら大正解ながら、650ベースのエンジンや、シャフトドライブを採用した駆動方式は違いの分かる人専用、というか、当時としてはマニアックなベクトルだったようにも思える。その後、前傾シリンダーと5バルブを持つFZ750シリーズで一気に世界を変えてくるのだが、その動きを振り返れば、ヤマハの振り幅の大きさは大正解ながら、当時を思い出すと凄すぎてよく解らない部分もあった。
一方、ヤマハの歴史、その史実からXSR900を読み解くのは少々難しい。最新モデルのZ900RSやCB1100シリーズ、KATANAといったモデルのように明解なイメージ「原型」があるわけではないからだ。だが、それがどうした? XSR900は往年のヤマハをしっかりイメージさせるし、それを良い塩梅でふんわりさせる線で誰もが自由に頭の中で旅しながらも、今のトレンドであるモダンクラシックとしての高い完成度を堪能できる。固定概念的に歴史観を限定させないから、イメージを自由に飛ばしやすいのが嬉しい。
例えば自分の目線でXSR900を見ると、試乗車の白に赤い塗り分けはモータースポーツを彩ったヤマハのワークスマシンのソレにも見えるし、空冷から水冷になる頃のYZシリーズにもなぞらえることができる。ロードにもオフにもあったゴールドホイール。タンクの横顔はRZ250風に思えるし。テールランプも往年の丸形テールのヤマハ車のよう。
私個人の記憶やバイクに憧れた頃穴が空くほどに見た雑誌、資料で過去のヤマハ車など、何枚ものフィルターを通して自分の脳が描くXSR900像だ。間違いなく言えるのは、アルミダイキャストフレーム+スイングアームで、前後17インチラジアルを履いた歴史的モデルなんかない。かつてヤマハはコンセプトモデルとして空冷Vツインを乗せたSAKURAや125MOEGIなど提案をしてきた。美しいスタイル、排気量やスペックにとらわれない新しい価値観に心を掴まれた人は少なくないはず。
そうした工芸品のようなまとまりがありながらも、そうしたモデルが持つ芯の固さ、というか、こだわりの塊、というか、恭しく愛でるのが正しい、という感じとも異なるXSR900にはカジュアルさが備わっている。そこが良いのだと思う。
それにしてもだ。ベースとなったMT-09 から外装、ハンドルバー、シート位置などルックスと見た目だけですっかり見る側の気分を変えてくれる。デザインの勝利であり、パッケージの妙だ。ライダーのポジションが変わる、サスペンションのセットアップが変わる、エンジンだって使いたい回転領域が変わってくるし、XSR900とMT-09は基本的に同じ並列3気筒エンジンサウンドこそするが、全くの別キャラに思える。
これ、例えばCB1100RSとCB1100EXでも似たようなコトが言えそうだ。不思議なのは、CB1100だったら僕はEXが好みだけど、ヤマハの2台だとどちらも別キャラ、別のバイクとして体も頭も認識している。好みの問題もあるのだが、どちらも1つを2つに作り分ける仕事なのにだ。
XSR900を走らせると、良い意味で外観同様、脳がちょっと古いヤマハ車に思いを飛ばし始める。その源泉となるのは、MT-09と比較してまさにポジションの違いだ。前後に長く伸ばされた燃料タンクに合わせ、着座位置は後方に移動した。ステッププレートやフットペグは2台を並べるとフレームへの取り付け位置まで共通だが、着座位置が違うだけでXSR900のほうが下半身はリラックス、上体は前傾したスポーツバイク的ポジションに思える。
ハンドリングも同様。後輪にしっかり体重を預けているようで、ハンドリングのレスポンス、特に寝かせ始めた初期のフロントタイヤの向きの変わり方は17インチ的なものなのに、その後、寝かせるほどにその速度がマイルドになり、大径細身タイヤだったバイクのような穏やかでどっしりした印象へと変わる。そこにどこの回転域でもトルクフルな3気筒エンジンに右手から指令を出し、駆動を乗せて行くときの印象は、キビキビしたMT-09とはまた違った味わいなのだ。
一体感の造り方がXSR900ではライダーとバイクが一緒に寝ながら曲がるのに対し、MT-09は動作的には似ているものの、バイクを寝かせてスパっと曲がるようなライダーのポジションを中心にスルリと曲げるような印象だ。もう一つ、MT-09だと走行モードを切替しつつしっかり味わいたくなるが、XSR900 だと、STD、A、Bとあるモードは乗り手が鷹揚に受け止め、あまり変更しなかった。個人的にたしかにBよりはSTDが好み、という印象はあったが、走る場面、それぞれでいじってみたくなるMT-09とはここも異なる部分だった。
これも好みで、XSRのほうがダルと言えばダルだ。その分、走っている間、コントロールを味わい尽くす感じのMT-09よりも、景色やライディング以外の部分に気持ちを振り分けることができる。乗ってキャラ違いだと思うのもそんな違いだからだと思う。
このスタイル、乗り味でバイクの個性をXSRというものにチューニングしてくる仕事の確かさ。これぞメーカーだからこそできるカスタムではないか。そう思ったXSR900なのである。
(試乗・文:松井 勉)
■エンジン種類:水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ■総排気量(ボア× ストローク):845cm3(78.0× 59.0mm) ■最高出力:85kw(116PS)/10,000rpm ■最大トルク:87N・m(8.9 kgf・m)/8,500 rpm ■変速機:6段リターン ■全長× 全幅× 全高:2,075 × 815 × 1,140mm ■軸距離:1,440mm ■シート高:830mm ■キャスター/トレール:25°00′/103mm ■タイヤ:前120/70ZR17M/C 58V、後180/55ZR17M/C 73V ■車両重量:195kg ■車体色:ラジカルホワイト、マットグレーメタリック3 ■メーカー希望小売価格(消費税込み):1,061,500 円
| 2020年型XSR700の試乗インプレッション記事はコチラ |
| 2018年型XSR900の試乗インプレッション記事はコチラ(旧PCサイトに移動します) |
| 2016年型XSR900の試乗インプレッション記事はコチラ(旧PCサイトに移動します)
|
| 2017年型XSR700の試乗インプレッション記事はコチラ(旧PCサイトに移動します) |
| ヤマハのWEBサイトへ |