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レース・イベント

ヨーロッパGPの舞台は地元の名ライダーの名も冠されるバレンシア・サーキット。今回、また新たな勝者が誕生すると同時に、ここ数戦絶好調のスズキが遂にマニュファクチュアラーズタイトル争いでトップに浮上、三冠獲得に大きく近づきました。いよいよ2020年のMotoGPは終盤戦へ、ジャーナリスト・西村 章さんのZoom取材によるレポートをどうぞ!
●文:西村 章 ●写真:Suzuki/MotoGP.com

 これはもう、王手をかけたといってもいいだろう。

 スペイン・バレンシア郊外のリカルド・トルモ・サーキットで開催された第13戦ヨーロッパGPで、ランキング首位のジョアン・ミル(Team SUZUKI ECSTAR)が優勝、25ポイントを加算して、ランキング2位に37ポイント差とした。新型コロナウィルス感染症(Covid-19)の蔓延により、不安定で不確実な要素の多い2020年シーズンだが、その難しい環境をスズキのチームスタッフと一丸になって超ハイレベルの安定感を発揮しながら誰よりもうまく乗りきってきたジョアンが、故郷マヨルカに近いここバレンシアで、ついに最高の結果を獲得した、というわけだ。

 ここ数戦はほぼ毎回、安定して表彰台に上り続けてランキング首位の座を守り、誰が見ても今年のチャンピオン最右翼候補、という状態ではあった。このままコンスタントに好成績を収め続ければ、タイトル獲得は時間の問題にも見えた。ただ唯一、優勝だけはまだ達成していなかったことが微妙に気にかかる要素ではあったが、その気がかりも今回自らの手で払拭し、もはや誰にもどこからも文句を言わせない堂々たるチャンピオン候補である。

 しかも、その勝利にいたる過程が、まさに風格を漂わせる盤石のレース運びだった。

 土曜の予選を終えて獲得したグリッドは2列目中央の5番手。日曜午後2時にスタートしたレースは序盤からトップグループにつけ、先頭を走るチームメイトのリンちゃんことアレックス・リンスの背後にピタリとつけた。そして、レースが中盤を過ぎたあたりで、リンちゃんのわずかなミスを見逃さずにスルリと前に出ると、あとはハイレベルのラップタイムを毎周着々と刻み続けて、リンちゃんとの差を周回ごとに0.1秒、0.3秒、とじわじわ広げていった。ラスト数周では1.4秒差で、見た目上はけっして多いと言えないけれども確実にして充分なギャップを築き上げた。

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※以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。





 トップでチェッカーフラッグを受けた後のクールダウンラップでは、もちろん喜びを爆発させていたものの、パルクフェルメに戻ってきた後は、むしろ必然の結果としての1勝、ともいうべき落ち着いた雰囲気で「勝ったことはもちろんうれしいけど、気持ちとしては同じ」と冷静な口調で喜びをあらわした。

 ただ、そうはいっても最高峰クラス初勝利は、やはりなによりも特別なものであることは間違いない。

「ラスト2周はフロントが切れて転ばないように、ということを考えていた。とくに最後の1周はとても長く感じた。もっと短いレースなら良かったのに(笑)」
 と述べた言葉には、落ち着いた物腰に見えながらも、じつは素朴に世界最高峰初優勝を喜ぶ新鮮な感情を見て取ることができる。そして、23歳という年齢やMotoGP2年目という若い経歴を感じさせないほどの沈着冷静で落ち着いたレース運びや戦況分析能力については、以下のように話す。

「もともと自分の資質はアグレッシブで、たくさんミスをしながら今のようにうまくコントロールして走れるようになってきた。Moto3時代も、初年度の経験を経て2年目に落ち着いて走れるようになった。今年も同じで、去年から今年にかけて自分の力が上がってきたのだと思う」

 この自己分析自体に、彼の卓越した冷静な客観視能力がよく表れているように見える、と考えるのは、けっしてうがち過ぎではないだろう。チャンピオン獲得が近づくなか些細なミスが命取りになるプレッシャーについても、非常にうまく対処できている様子である。

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スズキに20年ぶりの栄光をもたらすのは時間の問題か!?

 それにしても、今シーズンのスズキは例年のカラースキームとは少し違うスペシャルデザインで臨んでいることにも表れているとおり、2020年という年はスズキ株式会社の創業100年、そして同社の世界GP参戦活動60周年、という節目の年にあたる。その記念すべきスペシャルイヤーに、ジョアンは王座獲得に王手をかけている。また、今回の結果を経てマニュファクチュアラーズタイトルでもトップに立ち、ここ数戦首位の座についているチームランキングは、今回もポイントを重ねて足場をさらに固めた。つまり、三冠達成へ着々と近づいているわけだが、これを本当に達成するとすれば、ライダーズタイトルは2000年のケニー・ロバーツ・ジュニア以来20年ぶり、マニュファクチュアラーズタイトルは1982年以来38年ぶり、そしてチームタイトルは2002年に創設されたタイトルであるため、もちろんスズキにとっては史上初、ということになる。

 スズキにとって創業100周年・WGP活動60周年という記念すべき年に、これだけの偉業達成に近づいていることを、本人はどう捉えているのだろう。そこのところを、レースを終えて表彰台記者会見もすませ、一段落したジョアンにちょこっと尋ねてみた。

 すると、へへ、と軽く笑みを泛かべながら、こんなふうに述べた。
「そういった外的な要素は、もちろん、自分にとってのいいモチベーションになる。スズキライダーが1-2フィニッシュを飾るのは1982年以来のことだ、とレース後に誰かから聞いたけど、そういったことも、自分たちをさらに奮起させてくれる要素になる。(タイトル獲得という)目標を達成するためのね」

 それにしても、節目の年にこういう好結果を獲得できているのは偶然なのか、それともなにか魔法のような何かが働いて、スズキやチーム内のモチベーションを高めているのだろうか。さらにそう訊ねると、ニヤリとしてこう答えた。
「どうなんだろう。そこは最終目標(チャンピオン)を達成してからおはなしするよ。現状では、『ちょっとわからない』と言っておこうかな」

 さて、上記のことばにもあるとおり、今回のレースではスズキが1-2フィニッシュを達成した。2位はリンちゃんことアレックス・リンス。ここ5戦では優勝1回、2位2回、3位1回、という非常に高度に安定したリザルトである。リンちゃんのこの結果と、ランキング首位を走るジョアンの表彰台獲得7回、という結果を合わせてみれば、今シーズンのスズキが着々と三冠達成に近づいているのもむべなるかな、と思わせる数字である。

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次戦は自力でランキング単独2位をもぎとるか!?

 第13戦を終えたランキングは、ジョアンが162ポイントで首位、シーズン序盤に優位を見せたファビオ・クアルタラロ(Petronas Yamaha SRT)が125ポイントで2番手、リンちゃんが同点でランキング3番手となっている。同点とはいえ順位が異なるのは、両選手の優勝回数ではリンちゃんのほうが劣っているからだ。ちなみにランキング4番手には、マーヴェリック・ヴィニャーレス(Monster Energy Yamaha MotoGP)が121ポイントでつけている。レースは一寸先が闇の世界で、2020年シーズン最後の2戦でも何があってもけっして不思議ではない……とはいえ、どんなコースでもどんなコンディションでも安定して強さを発揮するスズキと、レースごとに浮沈の激しいヤマハ勢では、〈流れ〉〈勢い〉という理屈では説明できないものの確実に存在するのであろうなにかは、確実にスズキ側へ有利に動いている、というのが大方の見方ではないだろうか。

 とはいえ、ヤマハである。

 今回のレースウィークは、ヤマハ陣営にとって大殺界(古い)というか天中殺(さらに古い)というか、要は「泣きっ面に蜂」というしかない展開で、すべてが悪い方向へ悪い方向へと流れてしまう〈呪われたウィーク〉になってしまった。

 端緒になったのは、エンジンのバルブを不正に交換したのではないかという疑惑から、テクニカルレギュレーション違反でヤマハのマニュファクチュアラーズポイント50点と、Monster Energy Yamaha MotoGP、Petronas Yamaha SRTのチームポイントがそれぞれ20点、37点剥奪される裁定が下った一件である。

 周知のとおり、MotoGP各メーカーは開幕前にエンジン仕様を決定し、その設計複写図とサンプルエンジンを提出しなければならない。以後は使用エンジンを封印してシーズン中の開発を禁止し、使用基数は7基まで(今シーズンは特例として5基まで)に制限される。ヤマハ陣営が開幕戦で使用したエンジンは、上記手続きの申請内容と異なるバルブを使用し、このルールに違反していたのではないか、というのがその疑惑の概要で、結論的には、その違反行為に対して、チームとマニュファクチュアラーズポイントを剥奪する処分が下された。

 この問題については、詳細に論じようとも当初は思っていたのだが、こまかな検証を始めるとものすごい分量になってしまうので、今回はひとまず控えておくことにする。ご関心のある諸兄諸姉には、畏友デイヴィド・エメットのMotomatters記事(11/05掲載)11/07掲載や、マット・オクスレイのMotorsport Magazineコラムなどの優れた考察をぜひともご参照いただきたい。

 ヤマハのこの違反行為に各方面から疑問が上がったことに対して、ヤマハモーターレーシング・マネージングディレクターのリン・ジャーヴィスは、MotoGP公式サイトのインタビューに答える形で釈明と詳細な説明を行っている。興味のある向きは、こちらもぜひご覧をいただきたい。

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泣きっ面に蜂、藁打ちゃ手を打つ……。
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第13戦の結果は「愛の不時着」……。

 ジャーヴィスの説明はかなり明快で理路も整然としているのだが、その釈明を聞いた後でもなお、いくつかの釈然としない疑問が残る。

 たとえば、問題のスペインGPで使用したエンジン(Engine No1、EngineNo2)は、ロッシの場合には決勝レースでトラブルが発生(Engine No1)し、ヴィニャーレスもFP3で不具合が発生(Engine2)したために、ともに以後の使用を止め、不具合が生じたエンジンはアロケーションから撤収させている。

 以後のシーズンは、両選手ともエンジンを3基で回さなければならなくなったために(実際にはヴィニャーレスはスティリアGPでEngine No1を使用しているが、決勝はブレーキトラブルでリタイアしたため、結果的にこの行為は上記違反の譴責対象にはなっていない)マイレージ管理が非常に厳しくなり、これがひいては今回のヨーロッパGPで規定基数限界を超えて6基目のエンジンを使用せざるをえなくなったために、レースではルールの取り決めによりピットレーンスタートを余儀なくされた、というわけだ。

 Petronas Yamaha SRTの両選手も、スペインGPでは問題のEngineNo1とNo2を使用したことがポイント剥奪の譴責対象になっている。また、フランコ・モルビデッリの場合は、スティリアGPのFPと予選でEngineNo1を使用していたために、このレースで獲得したポイントも剥奪対象になっている。

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残り2戦でなんとしても意地を見せたいところです。
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この「不幸のつかみ取り」状態でも沈着冷静さを保つ。

 で、上記ジャーヴィスの説明を聞いたうえでなお釈然としない、というのは、このモルビデッリのエンジンに関することだ。彼の場合は、EngineNo1こそスティリアGPで使用したものの、Engine No2はスペインGP以後のレースではまったく使用していない。そして彼の場合、ヘレスの2週連続開催2戦目となったアンダルシアGPでエンジンブローが発生しているのだが、ロッシの場合はそれが問題のEngine No1であったことに対して、モルビデッリの場合はEngine No4であったことが、エンジンアロケーション情報から明らかになっている。

 問題のEngine No1でもNo2でもなく、No4がブローしたということは、はたしてどう理解すればいいのか。ジャーヴィスが上記インタビューで説明していたこと(仕様や性能に差はないけれども製造メーカーの異なるバルブAとB)は、Engine No1 No2とNo3 No4 No5に仕分けられていたのでない、ということなのか。もちろん、モルビデッリのアンダルシアGPでのエンジン故障は、たまたまEngine No1やNo2と似たような事象がEngineNo4に偶然に発生した、と考えられなくもないのだろうが、そのような解釈はあまり合理的とはいえないようにも思う。このあたりについては、もしも可能であればシーズン閉幕後にもう少し考察をしてみたい。

 ともあれ、そのような一連の出来事を経て、今回の決勝レースではヴィニャーレスがピットレーンスタートから13位フィニッシュ。ランキング2位のクアルタラロは、転倒後にリスタートして14位。そして、Covid-19の陽性反応が出てここしばらく欠場を強いられていたロッシは、土曜の走行から復帰を果たしたものの、決勝レースでまたしてもマシントラブルに見舞われてリタイア、という惨憺たる結果になった。

 このマシントラブルについて、ロッシ自身はレース後に、エンジンの故障ではなく電気系もしくは制御系のようだ、と話していたが、DORNAピットレポーターのサイモン・クラファーが得た情報によると、どうやら燃料ポンプがその原因らしい、という情報もある。この情報に対して、仕様や性能は同じだけれども製造メーカーが異なるのでないか、というジョークもあったのだが、それははたして気が利いているというべきなのかどうか。

 いずれにせよ、ヤマハにとっては惨憺たる週末であったことはまちがいない。ヤマハ陣営は、金曜にヴィニャーレスのクルー一名にCovid-19の陽性反応が出て、チーム・ディレクターのマッシモ・メガリを含む5名が隔離状態になっている。彼らは、次戦のバレンシアGPも出席を見合わせることが決定している。

 さて、少し明るい話題に目を向けるとしましょう。

 中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)は、2戦連続で今季3回目のフロントロースタートから、4位でゴール。

 自己ベストタイリザルトで表彰台まであと一歩、インディペンデントチームでは最上位の結果……とはいえ、レース終了後パルクフェルメに戻ってきたときの表情では、なにやら釈然としないふうも窺えた。

 なので、その納得しきれない表情の理由について、レース後の中上に尋ねてみたところ、
「ちょっと微妙ですね……、表彰台まであともう少しだったので。終盤の6~7周は限界まで攻めてベストパフォーマンスを発揮できたし、限界以上に0.2~0.3秒を削ることもできて、ラスト2周で自己ベストタイムを出せたのは良かったのですが、これをレース序盤や中盤からやっておくべきでした。チームがすごくがんばってくれたおかげでバイクはとてもいいフィーリングだったし、タイヤも良好に作動して非常に高い水準で走れたのですが、今日は自分自身に満足をできませんでした。もう少し早い段階からチャージしていれば表彰台も見えていたので、序盤に少しセーブしすぎてしまったところが悔やまれます。これを改善して、幸い次のレースはすぐなので、今度こそがんばりたいと思います」

 とのこと。インディペンデント勢のトップとか、あるいはトップファイブのリザルトでは満足できなくなっているのは、中上がライダーとしてさらにハングリーに高みを目指している証拠だ。彼自身にとっても、そしてチームや彼を応援するファンにとっても、これはとても良い傾向といえるだろう。

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表彰台は文字どおり「目の前」に迫っているはず。
冷静さと安定感を武器に残り2戦をしのぎ切れ!!
冷静さと安定感を武器に残り2戦をしのぎ切れ!!

 Moto3クラスでは、ここ数戦表彰台から遠ざかっていた小椋藍(Honda Team Asia)が5戦ぶりの表彰台で3位。ランキングでも首位まで3ポイント差に迫った。チャンピオン獲得のかかった残り2戦、さらに良い結果を目指してくれることでありましょう。

 というわけで、またしてもたいへんに長くなってしまいましたが、今回はひとまずここまで。次戦は今週末、今回同様にリカルド・トルモ・サーキットで開催の第14戦バレンシアGP。

 MotoGPクラスは、ランキング首位のジョアンと、2番手ファビオおよび3番手リンちゃんのポイント差が現在は37。次戦終了時にこれが26点以上に開いていれば、2020年のライダーズタイトルが決定する。逆に25点以内なら最終戦まで持ちこし。さて、どうなりますやら。では、今週末も固唾を呑んで見守ることにいたしましょう。

ヨーロッパGP

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【西村 章】
web Sportivaやmotorsport.com日本版、さらにはSLICK、motomatters.comなど海外誌にもMotoGP関連記事を寄稿する他、書籍やDVD字幕などの訳も手掛けるジャーナリスト。「第17回 小学館ノンフィクション大賞優秀賞」「2011年ミズノスポーツライター賞」優秀賞受賞。書き下ろしノンフィクション「再起せよースズキMotoGPの一七五二日」は絶賛発売中。


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2020/11/09掲載