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試乗・解説

セロー250 FINAL EDITION発売 “最後への思い”を訊いた。
1985年に発売された初代のセロー225から来年で35年。この節目にセロー250の最終モデルが発表された。初代セローをイメージさせるカラーリングが施されたセロー250 FINAL EDITIONは、2020年1月15日から発売予定。このセロー250について、開発を担当したプロジェクトリーダー・橋本貴行氏に、最後となった経緯や思い入れなどを含めて話をうかがった。
■インタビュー・文:濱矢文夫 ■撮影:依田 麗 ■ヤマハ https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/

 

はじめは売れなかった。

 最初のセロー225が発売されたのは空前のバイクブーム最中の1985年だった。XT125から発展したXT200をベースに開発された。この時代のオン・オフモデルやトレール車と言われる公道が走れるオフロード車は、2ストロークエンジンのDT125/200Rや4ストロークエンジンのXT250Tなど、より高性能を求めて進化してきた機種が中心。これがストリートリーガルの機種で近くの山のガレ場などを乗り越えて登る遊びをするアメリカ市場であまりウケが良くなかったことが発端のひとつ。走破性にこだわればTY250スコティッシュなど公道用トライアルモデルも存在したが、そこだけに特化しておりトレールモデルのような使い方は難しい。その間を埋める、家から走り出して、より多くのレベルのライダーが山の奥深くに分け入って遊べるマウンテントレールという新しいジャンルとして生まれたのが初代セローである。

 生みの親である当時実験担当だった近藤充氏が書いた初期のコンセプトには、“XT200をベースに低中速でのパンチのあるエンジン特性、低いシート高、大きく切れるハンドル、軽い車重”など、セローの特徴的な魅力が既に入っていた。今とは比べ物にならないくらいオートバイが売れて、その市場はスペックを重視し、オンロード、オフロード問わず各メーカー間で熾烈な争いを繰り広げていた頃に、スペック的には特別なところはない新コンセプトのオフロード車は苦しんだ。最初ははっきり言って売れなかった。しかし、コンパクトで市街地でも気軽に乗れる操作性や、山を走る楽しさなどが浸透していき、ご存知のようにセローはヤマハを代表するオートバイとなった。

らしさを変えずに、変えてきた。

 そんな人気を博した225の後を継いで2005年に誕生したのがセロー250だ。その現行セロー250の最終モデルとなる、セロー250ファイナルエディションのプロジェクトリーダー(開発責任者)を任されたヤマハ発動機の橋本貴行氏は、225から250になってもセロー人気が続いてきた理由に、「とどまらずに進化してきたこと」をあげた。

ファイナルエディションを担当した、左から、企画のMC戦略統括部商品戦略部商品企画の松田克彦氏。カラーリングに携わったプランニングデザイン部プランニング部の太田晴美女史、プロジェクトリーダーを務めたPF車両開発統括部ST開発部ST設計Grの橋本貴之氏。
橋本貴之
セロー250ファイナルエディションのプロジェクトリーダー。46歳。セロー250が誕生した2005年にヤマハ発動機へ中途入社して、XVS950やXVS1300といったクルーザーモデルのサスペンションを担当。初代MT-09も途中まで携わる。その後オン・オフモデルの開発に移る。最初はブラジル向けXTZ230テネレ、それからセロー、WRといったスモールからミドルのオン・オフモデル全般をやるように。セローチームに入ったのは30周年記念モデルがリリースされた直後から。最近では他にインドネシア市場向け機種として発表されたWR155Rにも携わった。

 

橋本:「プロダクトアウトとして開発され発売した当初、セロー225の販売はボロボロでしたが、数字にあらわれない走りの魅力に加え、お客様の使い勝手を考え、声を聞きながら発展していきました(詳しくはセロー大全https://mr-bike.jp/mb/?p=6944を参照)。オフロードモデルにおいてこれだけ短いスパンで手を入れて変化させたのは珍しいと思います。コンセプトは不変ながら、ユーティリティは時代に合わせて変えてきた。250になったときもそうです。操る楽しさを再構築することで、充実したトレッキング能力と装備、オフロード走破性。排気量が250になることで、手に入れたパワーによって、オフロードを乗らずに市街地や高速道路で使う場合でも爽快な走りが出来るようにしました。250のスタイリングは20代の女性が担当して、走る機械というより女性も馴染みやすいキャラクター性のある姿になった。これは変化ではなく深化なんです。」

 橋本氏がセローに関わるようになったのは、2015年4月に発売された30周年記念モデルの後からだ。2017年8月に1度生産が終了し、エミッション規制に対応して2018年に復活した機種の実質的プロジェクトリーダーも担当。その5年ほど前からヤマハのオン・オフのモデルに携わってきたが、自らを機械オタクと言う彼は、それまでオンロードのスーパースポーツモデルが大好きで、オフロードモデルにはちょこちょこっとしか乗った経験がなかった。その後、オン・オフモデルをやるようになったことがきっかけで未舗装路へ乗り出すようになったけれど、セロー250に乗ってのファーストインプレッションは全てがポジティブなものではなかった。

橋本:「万能性が魅力と言われていましたが、最初は乗りにくいと感じたんです。セローとは違うオフロード車を所有して乗るようになったんですが、それと比較すると身長181cmの私には小さい。一般的というかオーソドックスなオフロードバイクよりステップ位置が後ろめのポジションも不思議でした。でも、それには理由があることを、次第に理解できてきました。」
 
 セロー250が発売されてこのファイナルエディションまで15年間。節目によって販売台数の上下はあるものの、これまでコンスタントに売れてきた。ここ最近では、2018年に復活してから販売台数のグラフは右肩上がりになっているほど。排出ガス規制に対応しながらこだわったのは、これまでと変わらないこと。

橋本:「意識して変えないようにしたという表現が正しいですね。排出ガスをもっとクリーンにするために、より理論混合比、ストイキ(14.7:1、ガソリン1に対し空気量14.7)で燃やさないといけないのですが、それだと以前のものより薄くなってしまいまして、どうしてもパワー感に欠けてしまうんです。『こんなのセローじゃない』と言われたくないので、まず大事にしたのは、これまで愛されてきたセローらしさなんですね。それがすごく難しいんです。やっぱり低速のトルク感が大事。“トルク”ではなく“トルク感”です。私は設計出身ですから数値目標に置き換えて達成手段を考えるんです。何回転でどのくらいのトルクで、以前より何%足りないのかと。それが数値のトルクではなくトルク感となるからたいへんです。重いと言われて単純に車重を軽くしても、『その軽さじゃない』と言われるわけですよ。どこの部分がどれだけ重くてそこを軽くしたらいいのか。重心位置に対してどれだけ上側なのか下側なのかによっても変わる。ツキが、ギクシャク感、ヘジテーションがどうだとかの感覚的なものに対応して仕上げるんです。そこでエンジンは圧縮比を上げて若干パワーが上がっていますが、それは目標ではなく、セローらしい乗り味を追求した結果なんです。」
 

なぜ終わりがこのタイミングになったのか。

 多くの人が気になるのは、2018年に復活して販売的にも好調という表現ができるのに、なぜ2020年という早いタイミングで最終モデルを登場させることになったのかということだろう。新型車ではなく継続車において、ABSの義務化は2021年の10月から、より厳しい排出ガス規制になるユーロ5への適合は2022年の10月から。もう少しだけ猶予があるのに、と思うかもしれない。ところが、まだ他にも要因があったのだ。

橋本:「実はABSやユーロ5より先に灯火器規制がくるんですよ。今の小さなヘッドライトでは通称丸Eと呼ばれるUNECEのEマーク(欧州連合指令適合品表示)がつかなくなる。この規格を現状ではクリアできない。通すように新しくするにも、セロー250のヘッドライトは丸いガラスレンズでして、もうガラスレンズを作ってくれるサプライヤーさんがほぼなくなりました。さらに別のものにするにしても、今の販売台数の10倍ほどになる個数でないと作ってもらえない。もしその数で作ったとしても、コストをお客様に負担していただくことになる。それはできません。セロー250の重要な要素としてプライシングもあります。道具として、転んだりしながら使い倒していい車両価格でないといけません。70万円、80万円だとスペック的にも納得していただけない。セローはリーズナブルというのがずっとありますから、コストをかけての対応は限界があります。その後に、ABSがきて、ユーロ5が来るという3連チャンを個別に対応するには厳しいんです。そこで現状のままきっぱり終了することを決めてファイナルエディションとなりました。」

愛されてきたことを感謝する色。

 多くの人に愛されてきたセローが、ある日突然カタログから消えるというのではなく、ファイナルエディションというカタチで、終わることを知ってもらいたいという思い。「欲しかったのに、気がついたらもう新車がない」という人が出てこないように。最後が初代セローをオマージュしたカラーになったのも、認めてくれた人たちへの恩返しの意味があるという。

橋本:「この最終カラーグラフィックのデザイン企画を担当した太田(晴美)は30周年記念モデルもやりました。彼女が大切にしたのは時代感です。その時代のトレンドやニーズを考慮したカラーリング。30周年の時は、アウトドアブームがあって、登山やボルダリングなどの道具にオレンジ色のアルマイトがかかっていたりしたので、そこからオレンジ色を使うことを決めました。この最後であり35周年記念となるセローにも今の時代にあった企画を考えていたんですが、販売をする営業サイドからこれまでのご愛顧に感謝をするため、最後だというのを象徴するために初期型をイメージさせる色というリクエストがあった。でも単純に原点回帰した復刻版ではなく、今まで通り時代感を考慮したものを入れました。」
 

ヤマハは“バイクレンタル”にも積極的だが、テントや寝袋などキャンプ用品一式を貸し出す“ツーリングキャンプセット”も用意している。セローをレンタルするライダーにも好評だという。

 
 それが後ろからきたラインが燃料タンクのところで盛り上がり、またフロントフェンダーに向けて流れ、車両のプロポーションである山型のフローラインに合わせたグラフィック。グリーンは落ち着きのある色のコンビネーション、レッドは、差し色として青を入れ今風のアレンジとなっている。そして最後で特別だということを表すために、“FINAL EDITION”の立体エンブレムを燃料タンク中央に入れた。単純に、それまでブラックだったフレームに色をつけたと思われるかもしれないが、これも一筋縄ではいかなかった。250になってフレームが新しくなり、作る場所も変わり、工程も変わり、品質も厳しくなった。その中でカラーフレームを復活されるのはチャレンジングなことだったと説明した。

橋本:「燃料タンクなどと違いフレームに塗れる色の種類には限界があります。最近のヤマハ発動機の鉄フレームはすべて黒でして、他の色にすることがない。落ち着いた緑フレームは、狙いというより、正直言ってこの緑しか選べなかったんです。今は初期型の緑を再現できない。だから燃料タンクとフレームの緑は同じ色じゃない。赤は同じです。だからといって、初期型を連想させる赤はあるけど、緑はないというのは納得できないですからね。ヘッドライト下のスタックバーとグラブバー(ヤマハではハンドルスタンディングと呼ぶ)はセローのアイコンですから、ここもきっちり同色に仕上げています。」

「タンデムステップフレームとサイドスタンドも赤で塗っちゃえ、と言ったら、『あなたはデザインをまるで分かっちゃいない』と言われました。」と橋本氏は笑った。

 250になって15年続き、このパッケージでは確実に最後となる。ヤマハのシンボルのひとつになっているセローだから、明言はなかったが、将来的に新型が出てこないなんてないと思われるが、いつ出てくるかは分からない。そして、その時は間違いなく大きめの変化になるだろう。空冷エンジンを搭載したシンプルで乗りやすい現行セロー250を気に入っているならば、このファイナルエディションが文字通り新車を手に入れる最後のチャンスとなる。
 
(インタビュー・文:濱矢文夫)
 

このホワイト/レッドとホワイト/グリーンは初期型をオマージュしたニューカラー。これまでブラックかシルバーしかなかったセロー250は最後ではじめてカラーフレームを採用した。モトクロッサーやエンデューロレーサーのような尖った部分がなく、角の丸い造形はひと目でセロー250と分かる特徴的なスタイリング。9.3L容量の燃料タンクがシート座面から高くなっているのもセローらしさである。

 

空冷4ストロークSOHC2バルブ単気筒エンジンは、平成28年排出ガス規制に適合させ2018年に復活したもの。クランクケース左側のフレームには蒸発したガソリンを外に出さずにキャッチするキャニスターが装着された。規制対応によって失った出力フィールを、圧縮比を上げるなどして失わないようにした。結果的に以前より最大出力で2PS、最大トルクで0.2kgf・mアップしている。

 

赤フレームのバージョンは、シートがオールブラックの表皮で、赤いピンストライプが入る。緑フレームのバージョンは、サプライヤーに緑色のピンストライプがなかったことから、従来のものを踏襲したシルバーとブラックのツートーンである。
オフロードモデルらしくシフトペダルの先は可倒式で、靴裏に泥などが付着しても滑らないようギザギザの山がある。左右ペダル、サイドスタンド、タンデムステップフレームは艶をおさえたブラック。

 

フロント21インチ外径のホイール。タイヤはオフだけでなくオンロードでの走りも考慮した2.75-21 45PサイズのブリヂストンTW301を履く。くちばし的なフォーク前部に伸びたフェンダーと、それより下側に取り付けられた後部をカバーするフェンダーとのセパレートになっているのもセロー250の特徴。キャスターは 26°40′ 、トレールは 105mm。
フロントはチューブ入りだが、リアはチューブレス。パンクした時などチューブ入りと違い一気に空気が抜けにくく、チューブ交換等の手間がかからない。1997年に発売されたセロー225WE(4JG6)からセローのリアはチューブレスになっている。これもひとつの伝統。ご覧のようにチェーンアジャスターはホイールシャフトを緩めるだけで簡単に調節できるスネイルカム式。リアサスペンションはボトムリンク式。最低地上高は285mm。

 

今となっては珍しいガラスレンズを採用した小さく丸いヘッドライトが灯火規格に適合しなくなることが最終モデルとなる要因のひとつ。ヘッドライト下に装着しているスタックバーもフレームに合わせたカラーを採用。
グリーンのバックライトを使ったモノクロ液晶のメーター。スピードメーター、時計、ツイントリップ機能付で多くのトレールモデル同様にタコ表示はない。小さなフロントバイザーに収まるコンパクトなもの。ハンドルは左右それぞれ51°と大きく切れる。これは初代のコンセプト段階から重要視されてきた部分。狭い場所での操作性も抜群。

 

2018年に復活したモデルから、今はカタログ落ちしたXT250Xが採用していたLEDテールランプになった。左右にあるグラブバー(ハンドルスタンディング)もフレームカラーと同色。
燃料タンクには、最後のモデルということを主張するファイナルエディションだけのソフトパッドタイプのエンブレムが付けられた。

 

ファイナルエディションでは、これまで通り、アドベンチャースクリーン、ハンドルガード、アドベンチャーリアキャリア、エンジンとフレームを守るアルミエンジンガードを装着したアクセサリーパッケージ、ツーリングセローも選べる。

 

ツーリングセローのアドベンチャースクリーンとハンドルガード。
ツーリングセローのアドベンチャーリアキャリア。
ツーリングセローのアルミエンジンガード。

 
●SEROW FINAL EDITION(2BK-DG31J) 主要諸元
 
■全長×全幅×全高:2100×805×1160mm、ホイールベース:1360mm、シート高:830mm■エンジン:G3J9E 水冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ、ボア×ストローク:74.0×58.0mm、最高出力:14kW〔20ps〕/7,500rpm、最大トルク:20N・m〔2.1kg-m〕/6,000rpm 、燃料消費率:国土交通省届出値、定地燃費48.4km/L(60㎞/h)(2名乗車時)、WMTCモード値38.7km/L(クラス2、サブクラス2-1)(1名乗車時)■タイヤ(前×後):2.75-21 45P × 120/80-18M/C 62P、車両重量:133㎏、燃料タンク容量:9.3L
■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):558,500円(本体価格535,000円) 


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2019/12/27掲載