YAMAHA TRICITY 300 ABS 車両解説
2013年の東京モーターショーでジャパンプレミアされ、大きな関心を集めた125ccオートマチックコミューター「トリシティ MW125」。翌2014年4月からは、実際にタイ市場で市販が開始され「ショーのためのコンセプトモデルではなかったのか!」と驚かれた方も多かった。そのトリシティ MW125が国内でも発売開始されたのは2014年9月10日で、その時点での販売価格は356,400円。本体価格で33万円というプライスは、話題性、メカニズム、そして所有する満足度などからすると、かなりのお買い得なプライス設定だった。
トリシティ MW125の最大の特徴といえるヤマハ独自の「LMW」(Leaning Multi Wheel)メカニズムは、旋回時にフロント二輪を車体と同調させて傾斜(Leaning)させるもので、軽快でスポーティなバイクのハンドリングに、「より安心感を与える」メカニズムと説明されていた。フロントのロアーフォークブリッジ近くに配置されたハンガー状のアームがリーン機能を実現する2本の“パラレログラムリンク”と呼ばれるもの。そして左右のフロントホイールは、それぞれ片持ち式のテレスコピックサスで独立して懸架されている(フォークは片側2本ずつの計4本)。これらのメカニズムにより、リーンを実現する機能と、サスペンションの機能をそれぞれ独立させ、スムーズな動作と現実的なバンク角、ハンドル切れ角を確保している。
2015年4月にはABSを標準装備したタイプを追加ラインアップ。2015年12月には発売から1年経過ということで気分一新、“エレガント&スマート”をキーワードとした「マットブルーメタリック3(マットブルー)」の新色を追加した。
2016年3月1日には、トリシティ 125/トリシティ 125 ABSに、新たにトップケースとナックルバイザー等を標準装着し実用性と利便性を高めたトリシティ 125“快適セレクション”もリリースされている。LMWの更なる普及を目指してユーザーの実用性と利便性を高めた新たな選択肢を追加した、と発表されていた。
トリシティの利便性を高めるため、余裕の走りを裏付ける155㏄エンジンを搭載した“軽二輪”バージョンが登場するのは2017年1月。高速道路の利用も可能となり、LMWの活躍のフィールドはさらに大幅に広がったといえる。
“軽二輪”バージョンのトリシティ 155 ABSに搭載された「VVA」(Variable Valve Actuation:可変バルブシステム)採用の新型“BLUE CORE”エンジンは、155㏄から11kW(15PS)/8,000rpmの最高出力と、14N・m(1.4kgf・m)/6,000rpmの最大トルクを発生。またフレームもこの“ハイパワー・エンジン”を搭載するにあたって再設計され、剛性バランスの向上や足元スペースの拡大なども行われた。
ちなみにこのトリシティ 155 ABSは、ヤマハの成長戦略のひとつ“広がるモビリティの世界”を推進するLMWの第2弾でもあった。
2019年3月には“原付二種”版のトリシティ 125がカラーチェンジを行ったのに合わせて、“軽二輪”版のトリシティ 155もカラーチェンジ、と同時に従来モデル比でシート高が約15mm低く、フィット感に優れたシートが新たに採用された。
2020年5月には、「ビビッドパープリッシュブルーメタリック1」カラーに換えて、スポーティな印象の「ブルーイッシュグレーソリッド4」を追加。ホイールにブルーのアクセントを配してフロント2輪を強調しつつ、軽快に街中を駆け回るアクティブなイメージのカラーリングとしている。その他の「ホワイトメタリック6」と「マットグレーメタリック3」カラーは継続販売された。
以上がざっくりとしたトリシティシリーズのヒストリーだが、今回発売されるミドルクラス版LMWモデル、トリシティ 300 ABSの登場で、LMWのフラッグシップモデルNIKENとの大きなギャップの一角が埋められたといえる。次なるLMWは、600クラスあたりだろうか。
★ヤマハ ニュースリリースより (2020年8月24日)
新型Leaning Multi Wheel「TRICITY300 ABS」を発売
~スタンディングアシストや新フレームを採用し、安心感と快適性をもたらす都市移動を実現~
ヤマハ発動機株式会社は、水冷・4ストローク・SOHC・単気筒・4バルブ・292cm3“BLUE CORE※1(ブルーコア)”エンジンを搭載するLMW※2の新製品「TRICITY300 ABS」を9月30日に発売します。
「TRICITY300 ABS」は、“The Smartest Commuting Way”をコンセプトに開発しました。旋回時の優れた安定感や自然なハンドリングを生み出すLMWテクノロジー※3やパワフルで環境性能に優れる“BLUE CORE”エンジンなどにより、日常的な通勤・通学や都市の移動に安心感と快適性をもたらします。また、車両の自立をアシストする「スタンディングアシスト」を当社市販モデルで初採用しました。
主な特長は、1)快適な乗り味を支えるステアリング機構“LMWアッカーマン・ジオメトリ※4”、2)停車時や押し歩き時に便利な「スタンディングアシスト」、3)市街地での使用に配慮した“BLUE CORE”エンジン、4)安定感としなやかさをもたらす新フレーム、5)“Y”をモチーフにした進化したブランドアイコン、6)アクティブでスマートなスタイリング、7)制動時の車体挙動を穏やかにするABSとUBS、などです。
※1 BLUE CORE:ヤマハ発動機株式会社は、“走りの楽しさ”と“燃費・環境性能”の両立を高次元で具現化するエンジン設計思想として2014年から“BLUE CORE”を掲げています。この思想は高効率燃焼、高い冷却性、ロス低減の3点にフォーカスして性能実現を図るもので、「TRICITY300 ABS」のエンジンもこの“BLUE CORE”思想に基づき開発しました。商標登録第5676267号。
※2 LMW:Leaning Multi Wheel。モーターサイクルのようにリーン(傾斜)して旋回する3輪以上の車両の総称、商標登録第5646157号。
※3 LMWテクノロジー:平行な上下2本のアームで構成するパラレログラムリンクを用いたサスペンションと操舵機構で軽快感と安定感の両立に貢献する技術。
※4 LMWアッカーマン・ジオメトリ:リーンし、なおかつ内外輪差が生まれるフロント2輪が、常に旋回方向を向く設計を成立させ、同心円を描く滑らかな旋回を可能とするヤマハ独自の構造のこと。
- <名称>
- 「TRICITY300 ABS」
- <発売日>
- 2020年9月30日
- <メーカー希望小売価格>
- 957,000円(本体価格 870,000円/消費税 87,000円)
- ※メーカー希望小売価格(リサイクル費用含む)には、保険料、税金(除く消費税)、登録などに伴う諸費用は含まれない。
- <カラーリング>
- ・ブルーイッシュグレーソリッド4(グレー)
- ・マットグレーメタリック6(マットグレー)
- ・マットダークグレーメタリックA(マットグリーニッシュグレー)
- <販売計画>
- 400台(年間、国内)
- 主な特長
- 1) 快適な乗り味を支えるステアリング機構
“LMW アッカーマン・ジオメトリ” - 大型スポーツタイプのLMW モデル「NIKEN」で実績のある“LMWアッカーマン・ジオメトリ”を新たに専用設計し採用しました。フロントサスペンション周りとのバランスを最適化し、自然なハンドリングと接地感を実現し快適で質感ある乗り心地をもたらします。
- 2)停車時や押し歩き時に便利な「スタンディングアシスト」
- スイッチ操作によりLMW 機構上部のアームに設置したディスクを電動キャリパーでロックし、車両の自立をアシストします。アシスト中もサスペンションの伸縮機能は維持されるので、押し歩き時に小さな段差などを越える時も車体が取り回しやすくなっています。
- 3)市街地での使用に配慮した“BLUE CORE”エンジン
- 欧州向けスポーツスクーター「XMAX300」の“BLUE CORE”エンジンをベースに仕様を最適化し、心地よい加速フィーリングや快適な乗り心地を実現しました。またフューエルインジェクションは、3次元マップをエンジンに合わせ最適にセッティング。燃料噴射量と点火時期を最適に制御し、燃費やトルク特性を向上させています。
- 4)安定感としなやかな乗り心地を両立する新フレーム
- 細径パイプと板材を組み合わせた新設計フレームにより、強度と剛性バランスを最適化しました。ステアリングパイプとフレームの接合部を箱型とすることで高い剛性を確保。また、フレームへのエンジン搭載方法はリンク式を採用し、搭載位置の最適化とともに、走行時にライダーへ伝わる振動を低減することで、安定感としなやかな乗り心地を実現しました。
- 5)“Y”をモチーフにしたブランドアイコンの進化
- “Y” がモチーフの「TRICITY シリーズ」のブランドアイコンに、エアーマネージメント機能を加えました。またLMW 機構やスタンディングアシストを取り込んだボリュームを活かし、TRICITY シリーズの上位機種にふさわしい立体感を表現しました。
- 6)アクティブでスマートなスタイリング
- デザインのコンセプトは“My Right Arm(ビジネスを支えてくれる右腕)”とし信頼できるビジネスパートナーのようなモビリティを目指しました。上質なファッションスタイルと調和する低彩度なボディーカラーをベースとし、足回りにアクセントカラーを配する事で特徴的な機能を強調、洗練した軽快感を演出しました。また、サイドビューから“ハ”の字になるスタンスにより、車体の踏ん張り感を表現しました。
- 7)制動時の車体挙動を穏やかにするABSとUBS
- 3輪のLMWに対応したABS(アンチロックブレーキシステム)とUBS(ユニファイドブレーキシステム)を採用。ABSは3つのブレーキ系統をそれぞれ最適に制御し車輪のロックを低減、UBSは、リアブレーキ操作でフロントブレーキにもバランスよく効力を発生させ制動時の車体挙動に穏やかさをもたらします。
- 「TRICITY300 ABS」のフィーチャー
- ・自立をサポートする「スタンディングアシスト」
- ・大型のフル液晶メーター
- ・軽量LEDヘッドランプ
- ・専用設計のステアリング機構“LMW アッカーマン・ジオメトリ”
- ・専用設計のLMW機構
- ・パウダー下地塗装のキャストホイール(前後)
- ・267mm径フロントディスクブレーキ
- ・ABSおよびUBS
- ・専用開発タイヤ(前後)(ブリヂストン製)
- ・スマートキーシステム
- ・操作性に優れたリアブレーキロック(ラチェットレバー式)
- ・45L大容量シート下トランク(ダンパー、LED 照明付き)
- ・LEDテールランプ
- ・267mm径リアディスクブレーキ
- ・最適設計したトランスミッション
- ・水冷292cm3“BLUE CORE”エンジン
- ・トラクションコントロールシステム
- ・最低地上高130mm
主要諸元
認定型式 | 2BL-SH15J | |
---|---|---|
TRICITY300 | ||
発売日 | 2020年9月30日 | |
全長×全幅×全高(m) | 2.250×0.815×1.470 | |
軸距(m) | 1.595 | |
最低地上高(m) | 0.130 | |
シート高(m) | 0.795 | |
車両重量(kg) | 237 | |
乾燥重量(kg) | – | |
乗車定員(人) | 2 | |
燃費消費率(km/L)※1 | 38.4(国交省届出値 定地燃費値※2 60km/h 2名乗車時) | |
31.5(WMTCモード値 クラス2 サブクラス2-2 1名乗車時)※3 | ||
登坂能力(tanθ) | – | |
最小回転半径(m) | – | |
エンジン型式 | H344E | |
水冷4ストローク単気筒SOHC4バルブ | ||
総排気量(cm3) | 292 | |
内径×行程(mm) | 70.0×75.9 | |
圧縮比 | 10.9 | |
最高出力(kW[PS]/rpm) | 21[29]/7,250 | |
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) | 29[3.0]/5,750 | |
燃料供給装置形式 | フューエルインジェクション | |
始動方式 | セルフ式 | |
点火方式 | TCI(トランジスター式) | |
潤滑油方式 | セミドライサンプ | |
潤滑油容量(L) | 1.7 | |
燃料タンク容量(L) | 13 | |
クラッチ形式 | 乾式、遠心、シュー | |
変速機形式 | Vベルト式無段変速 | |
変速比 | 2.386~0.746 | |
キャスター(度) | 20°00′ | |
トレール(mm) | 68 | |
タイヤサイズ | 前 | 120/70ZR17M/C55P |
後 | 140/70-14M/C62P | |
ブレーキ形式 | 前 | 油圧式ディスクブレーキ |
後 | 油圧式シングルディスクブレーキ | |
懸架方式 | 前 | テレスコピック式 |
後 | ユニットスイング | |
フレーム形式 | バックボーン |
※1:燃料消費率は、定められた試験条件のもとでの値です。使用環境(気象、渋滞等)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります。
※2:定地燃費値は、車速一定で走行した実測の燃料消費率です。
※3:WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます。