(株式会社川崎重工業モーターサイクル&エンジンカンパニー 技術本部第一設計部第三課 )
これまでFI化したW800などを担当。直近では現行モデルのNinja250のエンジン開発を手がけている。このモデルで初めて開発リーダーを任された。
「開発リーダーということでプレッシャーは感じましたが、それよりも現在他がやっていない250cc4気筒エンジンというカワサキらしい新しいことにたずさわれるワクワク感が上回ったというのが正直な気持ちです」
(株式会社川崎重工業モーターサイクル&エンジンカンパニー 技術本部第一設計部第三課)
2気筒エンジンのZ400、Z650の車体設計を担当し、このZX-25Rではハンドリングの性能向上にこだわりをもって挑んだと話す。
「担当になったときは期待感しかなかったです。この排気量ではカワサキにとって久々の4気筒エンジンですから、まず自分が乗りたいと思える車両にすることを目標に開発をやりました」
(株式会社ケイテック ケイテック実験部製品評価課)
2010年からZX-10Rにたずさわり、シングルエンジンスポーツのNinja250SL、Z650などの車体を担当してきた。
「僕はこれまで250cc4気筒には乗ったことがありませんでした。だから二輪専門誌などで得た乗り味の情報しか持っていませんでした。それでもとにかくいいバイクにしてやろうと、最初に走れるようになった試作モデルに乗ったときからすごく面白くて、エンジン性能が高かったのを覚えています。だからこれに見合うよう車体も良いものにしないといけないと気合がはいりましたね」
4気筒クォーター誕生の経緯を開発リーダーの山本さんは「2008年に販売を開始したNinja250Rが好評となり、その後にモデルチェンジをしたNinja250も多くの方に受け入れられました。特に東南アジアではラグジュアリースポーツとしての地位を築くことができました。そんな中で、2気筒の次は4気筒というアップグレードを求められるお客様の声も出てきていたのです。そのようなお客様の声と、かつてあった250cc4気筒エンジンモデルの胸のすくようなフィーリングを今のお客様にも感じていただきたいとの思いもあり開発となりました」と語った。アップグレードの声が多く出たのは、成長著しいインドネシア市場だった。
カワサキの250cc4気筒といえば、1989年に発売された、当時はレーサーレプリカというジャンルのZXR250と、その後にZXR250のエンジンをベースにして開発されたネイキッドモデルのバリオスがあった。ZXR250はネイキッドブームに押され1995年に販売が終了しているので、250cc4気筒のフルカウルスポーツとしては25年ぶりの復活である。ZX-25Rの水冷エンジンは、サイドカムチェーンの採用などZXR250とレイアウト的に似たところがあるけれど、すべて新規に作られたもの。しかし過去のZXR250やバリオスのエンジンをまったく意識せずに開発されたものではない。
Chapter 1 水冷DOHC4バルブ直列4気筒エンジンについて
山本:「エンジン性能にはかなりこだわりまして高回転まで気持ちよく回りながら、日常の使い勝手に必要な低中回転域もちゃんとトルクが出るように、ZXR250の高回転域性能とバリオスの低中回転域の両立を目指して開発をしました。具体的にはZXR250を上回ることを念頭にしていましたので、ZXR250の諸元や、吸気の損失をおさえるためにバルブのステムを細くしているなど参考にした部分はあります。ZXR250のボアは49mmですが、可能な限り大きな吸気バルブになるようZX-25Rではボアを50mmにしました。さらに性能を出すということで、吸気ポートを立てた形状にして、それに合わせて吸気バルブも立てて配置し吸気の効率を上げています。高回転域はこれで狙いまして、低中回転域はエキゾーストパイプの連結や集合のさせ方やカムタイミングのチューニングなどで性能を向上させています」
ZX-10R と同様に吸気ポートの出口を 2 段階に加工。1 段目はバルブシート に沿って、2 段目はポート傾斜角度に沿っている。これで燃焼室に入る混合気の流れを直線化。吸気の流れの損失を減らすことができる。この2段階構造と幅広なポート設計が空気を増量し、流れをスムーズにしてエンジンパフォーマンスを向上させた。吸気ポートと排気ポートはポリッシュ仕上げとなりエンジン出力の向上に一役買っている。バルブのはさみ角は28°と狭角で、コンパクトなヘッド周りを実現した。カムシャフトは軽量な鍛造で高回転域の目標達成に貢献。シリンダー内壁はZX-10R、ZX-6Rと同様のメッキを施している。
山本:「250ccなので寸法が小さいというのもありまして、できるだけばらつきがないように燃焼室は機械加工で精密な仕上げになっています」
気筒あたり4バルブの吸気バルブはZXR250より大きなφ18.9mm。排気バルブはφ15.9mm。なんと排気バルブの素材には、ZX-10Rにも採用されている、耐熱性が高く、腐蝕しにくく、高温に長時間晒されても高い強度を維持する優れた特性を持っているが、加工が難しくコストのかかるインコネルを使っている。高回転域での追従性も高い3段レートのバルブスプリングを採用。ピストンは軽量で強いアルミ鍛造。
野崎:「乗って感じたのは回転フィールがきれいだということです。振動がなくトルクがつながっている感じ。1000ccにくらべて4分の1の(大きさの)部品が回っているので精密なフィールがあります。過去の250cc4気筒エンジンは、高回転でのいい音のわりにけーへん(来ない)、速さはそれほどでもないというイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれませんが、これは違います。オートポリスのフルコースでも楽しみながら堪能できますから」
クラス最高の出力を数値目標にかかげ、並列4気筒らしいスムーズで伸びやかで上質なエンジンフィールにしたという。低中回転域について、「具体的な数値は言えませんが、これまでの2気筒エンジン同等の加速力をめざしました」と開発リーダーの山本さん。これで分かるようにオイルパンに冷却フィンを設けている。
冷却の要であるラジエターは30段のもので、その背面に装着されている冷却ファンのカバーは熱気を下に逃しカウル側面のダクトから排出。ライダーに直接当たらないだけでなく、燃料タンクやフレームなどライダーが接触する部品の温度を下げている。
山本:「2気筒エンジンのNinja250でも採用しているヒートマネージメントをしている冷却ファンのカバーを、この4気筒でも同様の性能が得られるように装着したものです。そしてサイドエアダクトを設けることで、エンジンの冷却を高めるようにしました」
マスの集中化、低重心化に貢献しているショートマフラー。
山本:「4気筒らしいエンジン特性にするだけでなく、4気筒らしい高揚感のあるエンジンサウンドもかなり作り込みました。マフラーに関しては大容量のチャンバー室を設けて4.5Lという非常に大きなマフラー容積にしています。ショートマフラーは非常にレーシーなものに見えるというデザイン的なものもあります」
野崎:「排気サウンドは乗っているとやる気の出る音ですよ。これは、このバイクにおけるひとつの真骨頂だと思っています。音を作り込む部署がいい音にしてくれました」
注目するところはたくさんあるけれど、その中のひとつが250ccクラス初となるKQS(カワサキクイックシフター)を装備したことだ(SEモデルには標準装備でSTDモデルはオプション)。シフトアップだけでなく、シフトダウンも可能だ。非接触タイプ。
山本:「クイックシフターはZX-10Rで使われているものと
システムとしては同じものです。シフトダウン時のオートブリッパーも入って、加速だけでなく減速も楽しめるものになっています。私が乗っても非常にスムーズなものになりました。特にシフトダウン時はブリッパーが効いて、自分の運転がうまくなったように感じられ、良くできたと思っています。苦労したかいがありました」
野崎:「ZX-25Rはサーキットでの使用も前提にありますので、クイックシフターを付けようという話は最初からありました。でも御存知のとおり、頻繁にシフトチェンジをするシチュエーションは市街地なんですね。そこで、ちゃんと使えるものじゃなきゃだめだろうと。若い担当ライダーがかなり深いところまで詰めてやってくれたので、現時点でのベストの仕上がりです。シフトアップ、ダウンでクラッチレバーを使わない快適さを味わってもらいたいです。無駄にシフトチェンジしたくなるものになったと思っています」
250ccクラス初装備としてはKTRC(カワサキトラクションコントロール)もある。いろんな路面コンディションで誰もが安定した走行ができるだけでなく、スポーツライディングをするときにも役立つもの。介入具合は3つのモードからライダーの好みで選択できる。これはトップモデルのスーパースポーツで使われている車体の動きを瞬時に把握しるIMU(イナーシャル・メジャーメント・ユニット)を使わずに、前輪と後輪の回転差を検知して制御するものだが、開発メンバーはその出来栄えに自信を持っている。
野崎:「トラコンは[1]、[2]、[3]とモードがありまして、[3]がものすごく介入する、結構パワーを落とす設定で、濡れた土の上や草の上などでも安心できるもの。路面をかかないようにしてくれる。[2]が一般的な使い方にあった推奨モードです。雨の日のマンホールとか、いざというとき効いてくれ安心できるレベルです。[1]は正直かなり攻めたものになっています。オートポリスをガンガン攻めて、スロットルを積極的に開けていくような走りをすると、少し介入する。だからそれが分かる人はかなりのペースで走っているということです。そういう走りをしないと分からないと思います。ぜひサーキットでためしてみてください」
さらにスロットルに物理的なワイヤーを使わずに、操作をセンサリングして、ECUがインジェクターとスロットルバルブをコントロールする電子制御スロットルバルブだ。
山東:「ワイヤーはまったく使っていませんが、スロットルの摩擦調整をして、開けたときの自然な抵抗感みたいなものを出しました」
これによりフルパワーモードとローパワーモードの2種類から選択できるパワーモードを実現した。雨天など路面グリップが悪いシチュエーションで重宝するローパワーモードは、エンジン回転数、スロットルポジション、ギアポジションに応じて、出力とスロットルレスポンスの両方を引き下げる。他にもZXシリーズの特徴であり、Ninja H2からのフィードバックをもとに設計されたカウル中央に配置されたセンターラムエアシステム。アシスト&スリッパークラッチなども採用されている。
Chapter 2 フレーム、足周り、そしてハンドリング。
フレームはレーサーレプリカ時代のZXR250に使われたアルミツインスパーではなく、新設計の高張力鋼製軽量トレリスフレームで、スイングアームも高張力鋼を使ったガルアームタイプ。ホイールベースは1,380mm。キャスター角は24.2°、トレールは99mm。SEの車両重量は184kg(スタンダードは183kg)。
山東:「Ninja250はどちらかというとツーリングなどの快適性を求めた車体をしています。このZX-25Rはサーキット走行も狙ったZX-10Rの設計思想を取り込んでハンドリングの性能をよりクイックで曲がりやすいものにしながら高速の安定性を求めました。そこでNinja250と設計思想が違います。具体的に言いますと、重心位置をロール軸より結構上に持ってきているんです。前後の荷重も前側を強めて1次旋回のスピードを速く出せるような重量配分にしたりなど旋回しやすいディメンジョンにして、高速安定性を出さなければいけないので、スイングアームの長さとかホイールベースとかを変えたり試行錯誤しました。重心を高くするとモーメントの距離が長くなり、タイヤをちゃんと潰してちゃんとグリップをさせながら曲がれるところを狙いました」
一方でロール軸に対して重心位置が高いとタイトな切り返しなど不利なイメージもあるが……。
野崎:「昔の車両は確かに重心位置が低かったんです。それと比べると低速時によっこらしょという感じがあるのですが、高速になるほど遠心力がかかってくるので、パタッと寝るんです。ZX-10Rもそういう方向で作りこんでいます。パタっと早く倒れたあとに、もういっぺんフォースと言うか、タイヤをしっかり押しつぶす力が出るので、有利だと思っています」
重心位置を高くするためにクランクシャフトの位置を極力上げて配置。でもそうするとタンク側のスペースのからみがでてくるので、ハーネスや電子部品のレイアウトを工夫。フレーム剛性はNinja250より高く、並列4気筒ということで2気筒よりエンジンが幅広いけれどフレームの寸法拡大を極力おさえた。車体の幅やニーグリップエリアを現行250ccモデルと変わらないものにしようと考えたという。4気筒が初めてのユーザーでも違和感を感じないように。フレームをアルミにするという選択肢はなかったのだろうか。
野崎:「アルミフレームの方が剛性は勝り断然高速安定性が高くなりますが、ライダーによっては、それが違和感になる部分なので、いわゆる“しなり”が有効的に使えると判断しました。わかりやすく言うと限界領域でのフィードバックがアルミだと違うんです。アルミフレームのZX-10Rとかになると、レーシングライダーが乗れば限界域がわかりやすくなっているんですけど、一般道で普通のライダーが普通の乗り方だと間違いなくその領域まで使わない。だからもっと一般の人でも十分に感じ取れて分かりやすいものにしました。転ぶと嫌なので、そこらへんでわかりやすい良いフレームになったと思います」
燃料タンク容量は15L。スポーツライディングでの操作性を考えたライディングポジション。Ninja250より前傾姿勢になるが、スパルタン過ぎない程良い前傾姿勢だ。
山本:「スポーツ性能にこだわりながら、高すぎないシートを目標にするなど、オールラウンドに使えるようにしています。ポジションはよりスポーティーにしていますが、前傾姿勢がきついと思うまではしていません。肩肘張らずにスポーツ走行ができるライディングポジションを狙いました。オールラウンドではあるんですが、2気筒モデルとの棲み分けもあり、サーキットやワインディングを考慮した作り込みをしています」
野崎:「僕としては、バイクはスポーツライディングしてこそだと思っています。以前担当したZ650はビギナーからそれを味わえるようにして、走る楽しさのとっかかりになってもらえればと思いながらやりました。今回のZX-25Rはそこから一歩進んだものになっています。だからと言ってとっかかりにくいのも嫌だったので、間口はZ650と同じくらいだけど、それよりもっと上の走りができるのを目指しました。今回一緒に仕事をしたスタッフがかなり良いので、かなり作り込めましたから、その走りに期待してください」
フロントサスペンションにはSHOWA製のSFF-BP(セパレート ファンクションフロントフォーク- ビッグピストン)を採用。インナーチューブ径はφ37mm。今のところSHOWAがこのフォークを250ccに提供するのは初めて。フロントのホイールトラベルは120mm。ステアリングの切れ角は左右35°ずつ。フロントブレーキは310mmセミフローティングタイプのシングルディスクで。キャリパーはラジアルマウントしたモノブロックの対向異型(φ32mm、φ30mm)4ピストン。
野崎:「実は最初はダブルディスクにしてくれって言ったんです。しかし途中でキャリパーをグレードアップしてもらいましたので、その分コストが上がりましたが、これまでのシングルにない制動性能になりました。納得できる効きが実現できたので、ハンドリングに有利だと思いシングルで落ち着きました。先輩の中にシングルは効かへんと言っていた人がいましたが(笑)、これはその先輩も満足できるものになったと思います」
ホリゾンタルバックリンクリアサスペンションはショックユニットをエキゾーストマフラーの熱の影響を受けにくいスイングアームより高く位置。ZX-10Rと同様のもので250cc初採用。ショックはプリロード変更可能。リアのホイールトラベルは116mm。インドネシア仕様と違うのは吸排気とドリブンスプロケット。この国内仕様は50丁で、インドネシア仕様は48丁。
山東:「ZX-10Rゆずりのホリゾンタルリアサスペンションのところでは、フレームの中央でショックをマウントしている部分の周辺において、リアショックを受け止めるに必要な強度と、ハンドリングに影響がでるしなやかさの両立に大変苦労しました」
野崎:「シートはスポーツライディングができるしっかりとしたクッションにしたんですけど、ただ硬いものだと長時間乗っているとお尻が痛くなるというのがありまして、それで体圧が分散できるように、若手のスタッフが盛っては削ってを繰り返してやり込んだものです」
SE(スペシャルエディション)はKQS(カワサキクイックシフター)、USB 電源ソケット、ウインドシールド(スモーク)、フレームスライダー、ホイールリムテープを標準装備。
発売予定日は2020年9月10日。SEモデルのメーカー希望小売価格=913,000円(本体価格830,000円、消費税83,000円)、スタンダードモデル=825,000円(本体価格750,000円、消費税75,000円)。ここまでの装備でこの価格。スポーツ性能にこだわったハンドリングを体験できる日が待ちどうしい。
Ninja250Rでフルカウルスポーツを復権して先導してきたカワサキが、ZX-25Rでまた他より先に新しい領域に踏み込んだ。
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