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試乗・解説

Ducati STREETFIGHTER V4 見出し カジュアル、ビジュアル? いいえ、FIGHT FORMULA
パニガーレ V4をベースとしたその名もストリートファイター V4。カウルを外してアップハンつけたやつ。手短に言ってしまえばそうなのだが、乗ると驚愕。まさに大発見の数々。ドゥカティは今、明らかに新しいフェイズに入っているのだった。
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:赤松 孝 ■協力:Ducati Japanhttps://www.ducati.com/jp/ja/home




ドゥカティ流・直球はそのまま。

 ドゥカティの歴史にストリートファイターというモデルが加わったのは2009年。まだスーパーバイクにパニガーレの名を冠する前のこと。そもそも、ドゥカティには、ネイキッドスポーツ、モンスターそのものが「ストリートファイター系」として認識されていたから、モンスターのバリエーションでスーパーバイク系のエンジンを搭載したS4RSなど、まさに本当の辛口ストリートファイターとして君臨していた。

 そこに登場したその名もストリートファイターは、まさにスーパーバイク1098からフェアリングを取り去り、アッパーフォークブラケットの上にハンドルバーを装着したものだった。市中のカスタムトレンドをメーカーがやってのけたような出で立ちは、良い意味で手に負えない感をライダーに抱かせるキャラクターだった。

 後に弟分としてテスタストレッタ11ディグリーエンジンを搭載する848系もラインナップされ、名実ともにこのセグメントに根を下ろした。その後、モンスターシリーズの人気と兼ね合いからだろうか、しばらく「ストリートファイター」ポジションを再びモンスターに預け、この名を付けたモデルは影を潜めることになった。

 そして2020年。ストリートファイターの名が復活した。あのときと同様、スーパーバイクネイキッドとして、だ。
希代のスーパーバイク、パニガーレV4をベースに仕立てた新型は、V4エンジンと、2020年代、間違い無くトレンドになる空力ウイングを左右4枚も装備する外観を美意識満載でまとめ上げて登場した。何より、スペックから察する性能は初代同様。走りをダイレクトにイメージさせる。それは、ストリートという名を使っていながら、初代同様、サーキットが恋しくなる猛烈系なのではないのか。そんな予感のまま試乗の日を迎えた。
 

 

エンジンはハイスペック。

 走り出す前にこのバイクをお復習いしてみる。搭載されるエンジンは排気量1103cc、デスモセディッチ・ストラダーレと呼ばれる90 度V型4気筒エンジンだ。その特徴は、14.0:1という高圧縮比とφ52mmの大口径なオーバル形状スロットルボアにして、各インテークに2本のインジェクター備える。12,750rpmで、怒濤の153kW(208ps!)を生み出し、最大トルク値も123N.m/11,500rpmという途方もない力量の持ち主だ。

 この辛み成分とともに、4000rpmで最大トルクの70%(と言われてもあまり実感がないが、この数値、モンスター821の最大トルク、86N.mを超す。)を生み出すという甘党がホッとする材料も持ち合わせている。

 このエンジン、MotoGPマシンと同様のいわゆる不等間隔爆発のファイアリングオーダーを取る。シリンダー角90度のLツインを少しクランクシャフトをねじって貼り合わせたようなものなのだ。
 また、クランク軸の回転を前後タイヤの回転方向と反対にした逆回転クランクを採用するのもパニガーレV4同様。立ち上がり加速でウイリー抑制などの効果をもたらしている。結果的に中速域から高速域までスムーズなトルクデリバリーだという。

 これにはエンジンマップの作り込みも丁寧に行われた様子で、回転に応じてトルクを控え、スロットルを操るライダーの直感を優先したという。つまり、1速、2速、3速、4速まで必要以上にトルクを生み出さないようなだらかなトルクカーブを描いているそうだ。
 

ネイキッドチューンのシャーシ。

 車体周りは一言でいえばストリートからサーキットまでカウルを取り外したパニガーレV4を乗りやすく調教することがテーマだった。まずライディングポジションは、バーハンドルによってアップライトになり、それに併せるようにステップ位置もパニガーレV4と比較して大幅に低い位置に移動されている。また、シートは60mm肉厚なものになり快適性を上げると同時に、シート高は845mmとなる。その分、ライダーとパッセンジャーのギャップもパニガーレV4より25mm少ないという。今回のテスト車はオプションパーツのタンデムシートカバーが装着されているので、その違いは解りにくいが、これもストリートチューンの一つ。また、市街地での嬉しい装備といえば、水温70度以上、停止時、ニュートラル、もしくはギアが入っている場合はクラッチを握っている状態でアイドリング中、リアバンクのシリンダーの爆発を休止する。これにより、ライダーに伝わる熱は大きく減衰される。

 市街地で乗りやすく、サーキットでも期待を裏切らない走りをするため、シャーシではスイングアームを15mm延長。フレーム本体は共通とのことだが、ステアリングヘッドを偏心回転させるように前進させ、ステム位置を進行方向に2mm前進させている。
 また二次減速比(ファイナルレシオ)はパニガーレV4の2.562から2.800へとショート化。加速重視、タンデム時の扱いやすさ重視という方向に振られている。
 

 

1速、発進して口を突いた「う、嘘だろ!」

 ストリートファイターV4を前にすると、スキのないデザインに見とれてしまう。息を呑むビジュアルなのだ。
 デザイナーは、スーパーバイクのようにハードに攻めることができ、ネイキッドのように日常使いが楽しい。これを「邪悪さ」と「楽しさ」として二つを表現するにあたり映画「ジョーカー」からインスピレーションを得たという。アグレッシブさとエレガントのバランスを探求したスタイルだという。

 それはライトカウルを上部から見ると、邪悪なデビルに見える。また、シートカウル、タンク、そしてライト周りへと直線的につながる前下がりの直線もストリートファイターとして意識した部分だという。

 なにより、ラジエター周り、アルミを使ったロアフェアリング風にも見えるサイドパネルの部分、そしてバイプレインと表現されるウイング、さらにラジエターの熱を吸い出すサイドパネルの部分にF1マシンから得たインスピレーションで造形されたという。ハイエンドな空力デザイン等、見所が多い。

 個人的にはライダー目線から見えるメーター周りなど、確かにネイキッドなのだが、まるでパニガーレV4のそれをのぞき込むような気持ちになれることだ。奥深い。

 そしてエンジンを始動すると、その音はなるほどドゥカティだ。V4サウンドがLツインのドゥカティサウンドにしか聞こえない。もちろん、それよりは粒の一つ一つは細やかで滑らかにも関わらず、心の耳は間違い無くドゥカティだと叫ぶ。そして、1速にシフトして走り出す。その動き出しの瞬間、思わず声が出た。おおお!!

 ハイスペックだし同じ1103ccのパニガーレV4の初期モデルに乗ったとき感じた、Lツインとは異質の低速トルクの細さを覚悟したのだが、全く違う。スルリと動き出し、2,000rpm程度でもりもり加速する。市街地から楽しい。スペックから想像した辛い感じはなく見事なスイートさ。交差点一つ目を曲がってすでに感心した。

 流れのなかで50km/hから6速でスムーズに加速をする。これはドゥカティ初の体験だ。しかも、前後に電子制御セミアクティブサスを備えたこのSタイプ、乗り心地まで良い。肉厚のシートの効果もあるだろうが、ビロードの上を歩くような、という使い古された表現がぴったり。ストローク初期の入り口だけが滑らかなのではなく、ちゃんとストロークして受け止めている。
 

高速道路も盛り上がる。

 すぐ近くの都市高速の入り口から入るのを止め、遠回りして御殿場の待ち合わせ場所に向かった。もう少しドゥカティにとって中途半端と思われる速度域を体験したかったからだ。あれ、雨までぱらついてきた。最悪!

 正直、そんな気分と裏腹に乗り易さで満たすストリートファイターV4。すでに走るのが楽しい。シフトアップもいい。アップ、ダウンとも受け付けるDQS EVO2(ドゥカティ・クイック・シフトEVO2)が滑らかにシフトを受け付ける。これが市街地速度、アクセル開度の少ない領域、パーシャルからわずかにアクセルを引いた程度でもスパン、スパンとシフトチェンジが決まる。明確な加速、明確な減速(アクセルオフ)が原則だったこれまでより、明らかに許容範囲が広い。

 そして、信号待ちの多い市街地を行けばこの時期ドゥカティはエンジン熱がライダーをあぶる。が、まず、お尻の下が暑くない。これが気筒休止の効果かと納得する。走り出すとエンジン、ラジエター周りにこもった熱が市街地速度だときれいに吸い出されず、足などにまとわりつくことも想像したが、例のF1風アウトレットとウイングがもたらす空力効果で、きれいに吸い出されているようだ。

 東名高速の横浜町田ICに着く頃、雨は上がったが路面は軽くウエット状況のなか西に向かう。まるでクルーザーじゃないか。快適だ。カウルがないから速度が上がれば風圧もそれなりだが、適度な前傾姿勢がそれを巧くバランスさせている。クルマの流れで走るのが全く苦にならない。6速80km/hからでもその気になれば見事な加速を示す。

 そのレスポンスに迷いがないので、ライディングモードはSTREETのまま。アクセル小開度エリアのダルさがないのだ。しばし巡航を楽しみ、御殿場手前の峠区間に入る。寝かす時、バイクを起こす時、左右に切り返す時、ストリートファイターV4は軽量級の車重ながらしっかりと手応えがある。重いというものではなく軽すぎない、ライダーとして欲しい手応えだ。速度が増すごとにその傾向があるから、これがいわゆるウイングの効果なのかもしれない。市街地での軽快さに安心感を着けたしたようなもの。

 ただし、である。300km/hで前輪接地点に34㎏のダウンフォースを与えるウイングは、50km/hでは2㎏、100km/hで4㎏、150km/hで9㎏、200km/hで14㎏、250km/hで24㎏と、二次曲線的に威力を生むから、100km/hで4㎏、2リッターペットボトル2本分(の水)の重さと考えたら、それぐらいの重みかもしれない。アリ、ナシで比較をしていないので、正直解らないが、濡れた路面がいやだな、と思わせない安心感に包まれながら走れたのは事実。空力効果かどうかは別にしてこれは大きなファクターだ。

 前述したように、ストリートファイターV4は、兎に角不安なく気持ち良く走り続けている。それが高速道路で感じた最大のメリットだ。
 

峠期待度MAX。

 木陰が涼しいワインディングに向かうと、そこでストリートファイターV4はいよいよ本領発揮、とばかりにシャープでアスリートのような走りを見せたのだ。荒れた路面の道を跳ねずに走る。この所作は見事。旋回した先に段差、ブレーキングからターンインする場所に小石と砂、さらにクリップに付きたいエリアにギャップがある等々、雨上がりのトラップの多いワインディングでラインを組み立てながら走るのが楽しい。

 旋回中に軽々とラインを変える、というよりアプローチを少し変えてタイヤ1本分ややこしい路面を外す走りがしやすい。ライディングモードをSPORTにしてもレスポンスが過敏になったり、サスの減衰圧がハードになり過ぎない。しなやかさがあるから、こうした走りに没頭できる。そう、おっかなびっくりではないのだ。

 また、攻めた気分をしっかりキャッチアップしてくれるライディングポジションもバイクとのコンタクトを容易にしてくれる。この日感じたのは一般道を走るコト全てに完成度が高いことだ。
 

 

ナイショだけど、LOWが素晴らしかった件

 ライディングモードの話題だ。帰路、STREETモードをカスタマイズしてみた。デフォルトでは基本フルパワーであるエンジンパワーデリバリーでLOWを選択。208psのエンジンが115psまでに抑えられる。高速道路のパーキングで変更し、走り出す。すでに乗りやすさを多角的に確認したストリートファイターV4だが、そのモードで走り出すと、まるでムルティストラーダ950かVストローム650か、という究極の乗りやすさだ。嬉しいのは全くダルさが無いこと。本当に可変排気量エンジンか! というほどエンジン特性LOWは、これはこれで完成している、と思わせた。

 逆に言えば、ワインディングで、アクセルを開けたいけど開けられないジレンマがあるほどハイパワーマシンだ。遠慮無くこのモードを使って右手の開度優先で走りを楽しめるようにすれば、ストリートファイターV4のうま味をさらに享受出来るかもしれない。

 1日、ストリートファイターV4と過ごし、どう考えても、強烈なエンジンなハズなのに、ホスピタリティーが素晴らしく、車体の特性もガチガチどころか、しっとりした印象。もちろん、不満とあればTFTモニターからサスペンションもエンジン特性もカスタマイズできる。それでいて「あとはそちらでやってね。」という自主性尊重に見せた仕事放棄ではない。しっかり練り込んだ特性マップを作り、あたかも美味しい料理が並ぶテーブルに、必要と思ったときにお使い下さいと塩、こしょうが綺麗な瓶に入れて飾りもののように置いてある感じなのだ。
 結論をいえば、ストリートファイターV4は、あらゆる面でドゥカティの全く新しいフェイズを見せてくれたのである。
<試乗・文:松井 勉>
 

 

ライダーの身長は183cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

LEDのヘッドライト、ランニングライトが印象的なフロント周り。くさび形のライト周りのボリューム感と、左右に生える2枚のウイングのサイズ感がよく分かる。このライトカウル、真上から見ると、デビル風な顔付きに見えるのが特徴。
テールまわりの造形はパニガーレV4と同様のもの。ライダー側から空気が抜けるトンネルがあり、その周りをテールランプが囲うデザイン。写真の車両はオプションのシングルシートカウルを取り付けた状態。

 

レッドゾーン表記までの回転領域の広さが印象的。それでいて市街地では4,000rpmでも悠々と走るトルクバンドの広さを持つ。低い回転領域を使っでも満足感があり、気にして走った訳ではないが、撮影地までの燃費は20.4km/lとでている。回転計は針だけではなく盤面が帯状に色がつくなど、速度計や回転計中心にあるギアポジション表記も直感的にとても見やすい。
ライディングモードの設定変更を含め情報、操作をシンプルな中に集約したスイッチ周り。オーナーなら直感的に使いこなすことが可能だ。

 

リアシートの下まで燃料タンクが入っていることもパニガーレV4と同様。見た目の燃料タンクの前半部分の下にはエアクリーナーボックスなどエンジン性能に重要なパーツが収まっている。
スペック的にシート高はあるが、シート先端部分のフレーム、タンクがキュっと絞られているので、足を真下に伸ばせる印象で足着き感は上々だった。装着される赤ステッチのシートはオプション装備のもの。

 

ステップ周りの造形や製法にもしっかりとドゥカティの思いが集約されている。ステップ位置はパニガーレV4よりも低く前方となっている。市街地も充分許容できるポジションが取れる。装着されているDQS EVO2と呼ばれるクイックシフターは、本文で触れた通り、スムーズなシフト操作感が印象的。
今回試乗したV4Sに標準装備されるオーリンズ製電子制御サスペンション。初期作動のスムーズさは印象的。

 

パワフルさとアップライトなポジションをとりながらも高い旋回性と安定感をもたらすためパニガーレV4よりも延長されたスイングアームを装着する。
200/60ZR17というワイドで肉厚なタイヤを履く。片持ちスイングアームだからこそ見せられるドゥカティらしいスタイルだ。リアブレーキ周りも市街地での使用をしっかり考慮した制動性の高いものを採用している。

 

メカニズムがみっちりと詰まったサイドビュー。かろうじてリアのシリンダー、ケース周りが見えるV4エンジン。ラジエター後方からスムーズに熱を抜くアウトレット形状、さらにサイドパネルと呼ばれる縦に走るアルミのパーツがクールにサイドを引き締める。もちろん、2枚のウイングも忘れるわけにはいかない。

 

強靱かつ軽量なマルケジーニ製鍛造アルミホイール、ハイスペックなブレンボキャリパー、そして電子制御を備えるオーリンズフォーク。ドゥカティのSモデルにはお馴染みのメニューだが、走行フィーリングにもたらすグレードの高さ、ブレーキレバーを握る質感まで醸し出すパーツ群。価格相応(イヤ、それ以上の)世界を見せてくれるシャーシ周り。
縦2連装のウイングを装備。コーナーでの安定感をもたらす。パニガーレV4RやS、スーパーレッジェーラV4とは異なる専用デザインを採用する。

 
●STREETFIGHTER V4 主要諸元
■エンジン:デスモセディチ・ストラダーレ90°V4、カウンター・ローテーティング・クランクシャフト、4デスモドロミック・タイミング、4バルブ、水冷 ■排気量:1,103cc ■ボア×ストローク:81×53.5mm ■圧縮比:14.01 ■最大出力:153kW(208ps)/12,750rpm ■最高トルク:123Nm(12.5kg/m)/117,500rpm ■ミッション:6速 ■車両重量:201kg ■シート高:845mm ■ホイールベース:1,488mm ■キャスター角:24.5°■トレール:100mm 燃料譚容量:16リットル タイヤ:前120/70 ZR17 ピレリ製ディアブロ・ロッソ・コルサ2、後200/60 ZR17 ピレリ製ディアブロ・ロッソ・コルサ2 ■メーカー希望小売価格:2,435,000円
 

■DUCATI JAPAN http://www.ducati.co.jp/





2020/08/10掲載