ヤマハ新時代の幕開け MTシリーズ
ヤマハの新世代モデル攻勢が始まったのは2013年でした。その頃のヤマハは、実はさしたるヒットモデルがなく、中型モデル以上は、SR400やTMAX530が数少ないヒットモデル、といった状況。ホンダNC700シリーズがよく売れていた頃で、たしかヤマハ車が販売ランキングBEST10にひとつも入っていなかった、そんな時期でした。
けれど当のヤマハは、その頃にひとつの意志転換をしていて「従来のニューモデル開発の方法論を変えよう」と、対ライバルを考えたモデルづくり、既存のクラス分けに沿ったモデル展開をやめようとしていた時期だったのです。
A社のコレが売れている→それに対抗するライバルを作ろう、ではない。
いまウチは1000ccクラスのスーパースポーツが手薄だ→次は1000ccのスーパースポーツを、でもない。
「コレが求められているから」から「コレに自信があるから」というモノづくり。それがヤマハの新しいモデルづくり路線。マーケットインからプロダクトアウトへの変換というやつです。
その突破口となったのが13年秋に発売されたBOLT。私なんか、えー今ごろ900ccの空冷Vツイン? って思ったけれど、これがすごく気持ちのいいクルーザーで、爆発的ではないにせよ、ヤマハ久々のヒットモデルになろうとしていたんです。
そんな頃に発売されたのがMT-09。MT-09は、BOLTが3カ月連続ベストセラーになった頃に登場、すぐにベストセラーとなったものの、BOLTの勢いすら抑え込むことになり、知り合いのYSPのオヤジさんが嘆いていたのを思い出します。
「まったくヤマハは、もっと頑張ってバイク売ってください、って言ってる頃に売るバイクを出さないで、やっとBOLTが売れ始めたと思ったらMTでBOLT負かしちゃうんだもん……。商売、へたくそか!(笑)」
MT-09のすごかったところは、まずBOLTに続いて新設計エンジンを投入したこと。水冷並列3気筒DOHC4バルブなんて、これまで日本車にはなかったエンジン形式だし、900ccって排気量もでっかいことはいいことだ感が少なくていい。いま、オートバイメーカーがエンジンを新規で起こすってこと、すごく大変だってことは知ってるつもりですからね。
そのMT-09のヒットは横に置いといて、本題のMT-07です。07も、09同様に新規エンジン搭載モデルとして、09に遅れること4カ月、国内販売されました。ここでも、09の勢いを削いでしまうタイミングでの発売だったんだけれど、今度は09の勢いを削ぐどころか、相乗効果で07/09連合軍的なヒットモデルになって行ったのでした。
大勢を見てみると、09はパワフルでハンドリングもモタードテイストがあり、07はもっと普通のロードスポーツ、って意見が多いのだと思います。どちらも軽量ハイパワーで思い通りに動かせるハンドリングバイク──。最高出力200ps、トップスピード300km/hってモデルじゃないけれど、現実的なスピード域で、手のうちに入るスポーツバイク、それがMTシリーズの絶対的評価でしょう。
XSRシリーズは、そのMT-09/07をベースとしたネイキッドバージョンで、もっとストリート色を強めた、もっと「普通」のオートバイとして発売されました。MTをベースに、クラシックではなく、もっとオーセンティック=正統派な感じ。それでも、ちょっとクラシックバイクっぽい、ネオレトロデザインと見られてのヒットでもあったはずです。
エンジンもハンドリングも取り回しも軽い!
もちろん、パフォーマンスはMT同様。これから先はMT-07もほぼ同じ内容だと思ってください。
XSRのいちばんのチャームポントは、何と言ってもエンジン。MT-07とXSR700用に新設計されたエンジンは、水冷並列2気筒DOHC4バルブ。このクラスには水冷並列2気筒のNC750やNinja650、水冷Vツインを積んでいるSV650があるけれど、そのどれとも違う、キャラクターの「立った」エンジンです。
まずもって際立つのは、軽やかなこと。これは、エンジンも車体も、ハンドリングも取り回しも軽い。まずまたがると、2気筒ならではのスリムさがあって、600ccかな? いや400ccなの?って体感。数字的にはSR400より少し重いんだけれど、そこは車高や重心、サスペンションの動きも合わせて感じると、SRより軽快に感じることだってあるくらいです。
エンジンをかけて走り出すのも、とにかく軽い。静かなエンジン音、そしてクラッチをつなぐと、するするするする、って感じで動き出します。クラッチは軽く、MT-09/XSR900のドン、という発進トルクがないぶん、ビッグバイクっぽさがないのが特徴ですね。
走り出すと、エンジン反応も軽い。回転の上昇も早くて、ピックアップが鋭い、これがMT-07/XSR700の個性を決定づけている「クロスプレーンクランクシャフト」=270度クランクの恩恵です。
このクロスプレーンクランクっていうのは、まず2つのシリンダーが不等間隔爆発をしていて、隣り合うふたつのピストンが「上死点」と「下死点」に分かれないことも特徴のひとつ。言葉にすると難しいんだけれど、隣のピストンの「動き出し」のフリクション影響を受けないからピックアップが鋭いってこと。並列ツインというイメージのドコドコ感はなく、アクセルに直結したピックアップが味わえるエンジンです。
MotoGPマシンでも言われるクロスプレーンのメリットのもうひとつ「タイヤのトラクションのよさ」は街中を走っている時は理解しなくてもいいです。わざとダートにハマったとき、ウェット路面を走る時、結果としてフラットプレーン(2気筒エンジンの等間隔爆発=360度クランク)よりもタイヤのグリップがいい、とわかればいいんです。
ストリートで走っている分には、エンジン回転は3000~5000回転もあれば充分。トルクがあって、高いギアで低い回転ですいすい走るのが得意なエンジンで、そのまま高回転まで伸びていくキャラクター。こういうエンジンを、フレキシブルとかドライバビリティがいいエンジンって言うのだ。ちなみに私、これまで数100機種の試乗をしているけれど、間違いなくMT-07/XSR700のエンジンの気持ちよさはBEST5には入りますね。トップ6速で100km/hで走るには、エンジン回転は4200回転くらい。静かにコロコロと振動を感じないクルージングの感じ、そのエリアの平和なことといったら!
それに合わせて、ハンドリングの軽快さもMT-07/XSR700の特徴です。軽く細く、軽すぎず細すぎず。フロントタイヤに接地感がいつでも感じられて、バイクを少し寝かせば、その角度やスピードに応じてハンドルが切れて曲がっていく、その手応えが自然なのです。
加速、減速のピッチング(=前後方向のストロークです)も自然で、ここもMT-09/XSR900との大きな違いですね。09の方は、もっとピッチングを大きく使ってアクションをするモタード的なハンドリングで、あれはあれで新鮮かつ面白かったけれど、07のハンドリングは、もっとオーソドックスというか、ヤマハらしい。バンクしてハンドルが切れる、これを舵(=ダ)が入る、という言い方をしますが、軽く、軽すぎないXSRのハンドリングは、私はすぐにSRX600を思い出しましたね。いや、SRX600よりもずっと軽快で手応えがある──こういう動きの良さは時代を越えても不変で、これがヤマハハンドリングといわれるものだと考えています。
MTとXSRの700と900は、今までのバイクづくりを大きく変えてくれました。大馬力、強いフレームで、タイヤのエッジグリップを使ってこわごわと曲がって行くより、小さなバンク角で気持ちよく、怖さを感じることなくコーナーをクリアすること。新しい、手の中に納まるスポーツバイクです。
願わくば、フレームとタンク、エンジンのフィニッシュを、もう少しスマートにしてもらえたらなぁ。MT-07では気にならない機能パーツの組み合わせも、オーセンティックを標榜するXSRでは、どうしたって気になるもの。
きれいなティアドロップタンク、丸ヘッドライトに美しいダブルシートのXSR700なんて──想像するだけでたまらない!
(試乗・文:中村浩史)
●全長×全幅×全高:2,075×820×1,130mm ホイールベース:1,405mm、シート高:835mm、●エンジン種類:水冷4ストローク直列2気筒DOHC4バルブ、排気量:688cm3、ボア×ストローク:80.0×68.5mm、最高出力:54kW(73PS)/9,000rpm、最大トルク:68N・m(6.9kgf-m)/6,500rpm、燃料供給装置:フューエルインジェクション、燃費消費率:38.4km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、23.9km/L(WMTCモード値 クラス3、サブクラス3-2 1名乗車時)、燃料タンク容量:13リットル、変速機形式:常時噛合式6段リターン、タイヤ:前120/70ZR17M/C 58V、後180/55ZR17M/C 73V●メーカー希望小売価格:916,300円。
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